俳句庵

4月『花冷』全応募作品

(敬称略)

岡山県     名木田 純子
花冷の吉野の底を上がり来る
花冷や土手行く影の寄り添ひぬ
東京都     紫蕾
花冷えや コートの襟が ピンと立つ
花冷えや 泪冷たき 目のかゆみ
東京都     安西 信之
花冷えの巡るカラオケマイクかな
花冷えのよいしょと言ひて上げる腰
花冷えの翁媼に迷子札
花冷にトイレを借りる梅屋敷
神奈川県     佐々木 僥祉
花冷えや妻の知らざる約やある
花冷えや角の八百屋も店終い
花冷えや才女の通いし白砂道
花冷えや直に触れたる庵治石墓
花冷えや手先の硬き舞扇
兵庫県     山崎ぐずみ
花冷や散り逝く先を悼むごと
蓬莱を絵筆でなぞり花の冷
花冷を踏みしめて撞く寺の鐘
花冷に露店の親爺と食ふうどん
花冷やマドンナ鼻をさらに立て
三重県     後藤 允孝
花冷えや飲み薬またひとつ増え
花冷えや歯科検診の鈍き音
本堂の四隅に暗き花の冷え
花冷えの渡り廊下は黒光り
ギター弾くその指先は花の冷え
新潟県     ―
春が来た 思った翌日 雪が降る
春物を 出すタイミング 分からない
東京都     鈴木 眞由美
花冷や一度は溶けたチョコレート
手の甲の火傷の痕や花の冷え
騙されてゐると知りつつ花冷えり
神奈川県     高島 武雄
花冷えや閉じた雨戸の主いずこ
神奈川県     成田 あつこ
花冷やとぎれとぎれの子のピアノ
花冷や光の硬きガレの玻璃
東京都     直木 葉子
書きだしは花冷の候案内状
結末のどんでん返し花の冷。
北海道     飯沼 勇一
花冷や今宵屋台は閑古鳥
ドア開けば花冷の風無人駅
湯上りの身体拭く間に花の冷
花冷や場所どり社員の抱え膝
見上げれば空より降りくる花の冷え
三重県     平谷 富之
球場の 熱気で花冷 気にならぬ
花冷も ドーム球場 寄せ付けず
花冷や 天から喝の 巨人軍
神奈川県     中村 光男
花の冷え阿吽の像の動かざる
花冷えやローカル線のひとり旅
花冷えや暇もてあます力車引き
花冷えや膝掛け赤き人力車
花冷えや烏賊の煮物と冷酒と
東京都     石見 光夫
花冷やテラスにひとりエスプレッソ
花冷や緋毛氈敷きお茶の会
東京都     蘭丸
花冷の夜風に逢ひし木遣歌
花冷や彼の日銀座の使ひ物
福島県     いらくさ
恋文は昭和の日付花の冷え
花の冷え太郎独りになりました
花冷やごんさい豆の硬き食む
通院の予定の横に花冷と
花冷の待合室に飛ぶメール
東京都     岩川 容子
家出猫さがす貼り紙花の冷
花冷や診察待ちの室の黙
古城址静けさ誘う花の冷
散るを待つ花冷の夜のしづごころ
埼玉県     哲庵
花冷やまたもパンダの偽妊娠
花冷や間口の狭き差入屋
花冷の京都一条戻橋
花冷や黄泉平坂往還す
花冷やお膳代わりの旅鞄
埼玉県     守田 修治
花冷や集まり悪き書道塾
花冷や銭湯の富士立ちあがる
花冷のシャンソン酒場ぽつんと灯
移り住み馴染めぬ町の花の冷え
花冷や保育園児の縄電車
栃木県     空見屋旅子
花冷の大音響や路上展
俳号と本名同帰花の冷
花冷の国境線のパスティーシュ
兵庫県     山地 美智子
花冷えや天気予報の美人アナ
神奈川県     相模太郎
悔しくてホームの端に花の冷え
火の神の祠の裏や花の冷え
花冷や胃の腑をつつく内視鏡
神奈川県     泉水
花冷えに夜半の風の声猛し
花冷えに花は如何にと耐えるやら
花冷えに塩地の甍泣くごとく
花冷えに我が手かざして呼気投じ
花冷えや大地からかう天の使者
大阪府     太田 紀子
花冷や日暮れの早き山の村
花冷や加湿器の湯気やわらかき
花冷や手足の白き裸婦の像
千葉県     藤原 純夫
花冷や縁の座布団引き込まれ
花冷やあと一夜だけ命ごい
東京都     まどん
ジャズライブ今宵青山花の冷
智恵子抄読む花冷の女学生
花冷やインコの足に鎖金
東京都     中田ちこう
花冷や蛹の影が蠢きぬ
千葉県     横井 隆和
花冷えに霞む墨絵の滝桜
花の冷歩道に蹴散らし園児行く
花冷えはさて置き愛でよ滝桜
冊子敷くベンチの昼餉や花の冷
花冷えの小雨に揺れて木々の枝
岡山県     渡辺牛二
花冷や京へ十里の道しるべ
花冷の句稿進まぬ夜の机
花冷や故郷過疎の村となり
石川県     坂 利美
五重塔遠海原に花の冷え
神奈川県     矢神 輝昭
花冷や切り抜かれたる朝刊紙
太秦や花冷えに待つエキストラ
花冷や母は如何にと身を抓ます 
引っ越しの牛車の荷台さくら冷え
花冷に腕くみ煙草買ひ走る
愛知県     新美 達夫
花冷や紐の少なき男物
花冷や石垣高き上野城
花冷や喪主を務めし娘婿
街の灯を川縫ひゆくや花の冷
栃木県     長浜 良
花冷や子の手のいつも温かき
花冷や土石探るも考古学
岡山県     土屋 徹三
花冷や風の音舞ふ石舞台
花冷の枯野に杉の影長し
花冷や錫杖響き犬吠える
花冷や夫見送る岬山
花冷の窓から響く鎮魂歌
東京都     静夏
花冷えやひとり場所取り友を待つ
東京都     豊島屋
花冷えや終バスを待つ会社前
花冷えの酒が誘ひしくしゃみかな
岡山県     岸野 洋介
花冷えの手を握り合うクラス会
花冷えや建て付け悪しき木賃宿
花冷えにかこつけ煽るコップ酒
味うすきコンビニおでん花の冷え
花冷えや戻りて羽織るカーデガン
神奈川県     龍野 ひろし
尊顔の剥げし金箔花の冷え
花の冷え朝勤行の修行僧
花の冷え少し離るる夫婦石
轟音の響く地下鉄花の冷え
花の冷え鴬張りの廊下鳴る
神奈川県     白松 妙子
花冷や桜並木の見馴れぬ人
花冷や戦知らぬ手花に触れ
いかほども素描進まぬ花冷に
母の年指折り数え花冷かな
提灯揺れ花冷の道歩きけり
千葉県     隼人
踊る輪に風舞てゐる花の冷
花冷や片手ポッケにテイグリーン
東京都     右田 俊郎
撫で牛をなでる手にある花の冷
花冷や夕餉のあとの皿洗ひ
花冷や戻りたくとももどれぬ地
花冷やいまなほ更地のまま放置
ともる灯はぽつりぽつりと花の冷
大阪府     津田 明美
花冷の大和三山糸の月
花冷の水際を長き葬の列
野辺送り終え花冷の人となる
花冷や遠山崩ること知らず
一筆箋指の先より花の冷え
福岡県     髙橋 美穂
金糸雀やカフェの小窓に花冷えて
花冷えや連山遠く河近く
花冷えの宰府の里や観世音
花冷えの海峡過ぎる貨物船
糠雨の古墳の里や花冷えて
東京都     石井 昌男
花冷に仏の目蓋濃く御座す
花冷に嬉しかりけり影法師
花冷に彼のポケツト五指絡め
兵庫県     岸野 孝彦
花冷えや高遠城址武田菱
花冷えや命の標風に舞う
花冷えや錆びし廓の鉄格子
花冷えの鎌倉昏れて段葛
花冷えの街を巣立ちて還りこむ
神奈川県     佐々木 裕雄
花冷の市松の頬淡く見ゆ
花冷の独居の電話鳴り響く
花冷やそつと湯のみで頬撫でる
花冷や抱える膝で飲んでゐる
埼玉県     櫻井 玄次郎
花冷やかけ蕎麦すすり外廻り
東京都     水野 二三夫
花冷の夜風たのしき播磨坂
花冷や古き木口のよき館
東京都     三浦 靖男
花冷や温もり求め地下酒場
花冷や演歌しみじみ地下酒場
弟は小雨花冷え黄泉へ去る
花冷の町に牡蠣小屋赤々と
濡れそぶる花冷えの道暮れはじむ
神奈川県     塚本 治彦
花冷やもう使はれぬ父の鍬
花冷に病院食を残しけり
花冷や納屋に貼られし農暦
花冷や後期高齢者と呼ばれ
花冷や隠れ呑む酒咎められ
神奈川県     守安 雄介
花冷えや露座の大仏青白し
花冷えや人肌恋し逃避行
花冷えや曇りガラスの好きの文字
花冷えや肩寄せ紙のこっぷ酒
花冷えや篝火の熱恨めしい
東京都     田中 永
花冷や駅弁ひらく膝の上
花冷や等間隔の街路灯
千葉県     あゆみ
交差点の青き点滅花の冷
花冷えや真珠のピアスつけて逢う
フルートの軽き息継ぎ花冷ゆる
東京都     岩崎 美範
地震の地の声なき声や花の冷
妣の掌のぬくもり偲ぶ花の冷
花冷の診察室に告知受く
盛塩の白さまばゆき花の冷
白湯すする人魚の国の花の冷
富山県     岡野 満
花冷えに心きりりと門出かな
花冷えや還暦祝う旅の宿
花冷えや目標高く新年度
愛知県     清水 陽子
花冷や冷酒の切れも軽やかに
花びらのゆつくり落つる花の冷え
花冷や湯冷めせし肌蒼白く
寒いねと言える人ある花の冷え
花冷や寒さの底の深海魚
埼玉県     柏木 晃
車座の尻の下より花の冷え
出不精の父重くなる花の冷え
残り湯の底に溜まりし花の冷え
花冷や大袈裟になく赤ん坊
帰宅して花冷にある安堵感
山口県     山縣 敏夫
反り橋を渡り終えるや花の冷え
花冷えや雪洞どこか寂しそう
花冷えに朝の散歩を止めにけり
花冷えをものともしない宴かな
諍いのあとに覚える花の冷え
宮城県     林田 正光
花冷の友との別れ一里塚
花冷の身を引き締める再検査
花冷や起床時間が少し伸び
花冷や隣の部屋もそうだろか
不意に来て不意に立ち去る花の冷え
神奈川県     井手浩堂
花冷の家路急ぐや夜勤明け
花冷や大仏の肌青み帯び
花冷や整理のつかぬ本の嵩
花冷の大桟橋に見送れり
引揚船着きし埠頭や花の冷え
山口県     ひろ子
花冷えや団子屋早い店じまい
花冷えやひざ掛けの行く車いす
滋賀県     村田 紀子
花冷えに響く声あり友来る
花冷えの山門を掃く修行僧
黒猫が走り寄りたる花の冷え
笛の音強弱あって花の冷え
背を伸ばし遠く見つめる花の冷え
愛媛県     アリマノミコ
花冷えや黄色い帽子ピョコピョコと
花冷えや紅さし指もためらって
東京都     笹木 弘
花冷や城の狭間に火縄銃
花冷の鏡に映る泣き黒子
花冷や独り暮らしの米の粒
花冷の砂場に光る砂金かな
花冷の真ん中に置く生一本
香川県     ―
花冷に母の遺品を整えし
花冷に君への手紙したためし
花冷や割烹着姿の母丸し
花冷や天空の城澄みわたり
花冷や蹲の水やわらかし
神奈川県     石鎚優
花冷や戦ふ理由(わけ)のありしこと
花冷や家とり壊す水しぶき
花冷や微笑む夫婦道祖神
花冷や電柱一本父に似て
「死んでしまう系のぼくら」花の冷え
東京都     石井 まゆみ
花冷に関取もどきの己が影
花冷に客がメガネくもりをり
花冷に君がポケツト手をつなぐ
花冷にのの字でふたり上野杜
花冷の酒席にころりウコンかな
岐阜県     ときめき人
五年目の遺品ありけり花冷えぞ
岐阜県     辻 雅宏
花冷やけふどうしても東京へ
花冷や上ル下ルの京の町
花冷や御所公開に人の列
花冷の身を温める朝湯かな 
花冷や熱めに淹れるカプチーノ
千葉県     高松 久夫
花冷えて 手は驚きの ドアのノブ
行く道を 花冷えにあい 引き戻り
散り際は 花冷えに耐え 季節伸び
花冷えの なお満開の はな白く
暖をとり 窓より眺め 花の冷え
東京都     鴨志田 和子
花冷やくつ下厚く駅ホーム
花冷やキーンと背中の静まりて
花冷やカチューシャ直し重ね着し
無口なる日曜の昼花冷ゆる
花冷や車窓に見ゆる峰遠く
静岡県     平野 宏
花冷や分水嶺の水明かり
末吉を結ぶ枝先花冷ゆる
鶺鴒に地上の温み花冷ゆる
久闊のどうもどうもや花冷ゆる
「おれだけど」どこの俺やら花冷ゆる
熊本県     貝田 ひでを
ラーメンに薄き焼豚花の冷え
花冷えの京都の町を下ル入ル
花冷えや不漁の舟の早や戻る
駄句の千秀句の一つ花の冷え
みそ汁に吾が目が映り花の冷え
千葉県     柊二
花冷の途カーナビの独言
長野県     木原 登
花冷の空うつくしくありにけり
呷れども酒の効かざる桜冷え
花冷を蹠に伝ふ仏間かな
みちのくの旅情を深む花の冷
花冷やシラノの恋はとこしなへ
広島県     有馬 未知
花冷や尾道を行く一人旅
神奈川県     川島 欣也
花冷えの団子に刺さる日の矢かな
花冷えや把手に走る静電気
花の冷え篭りて開く漫画本
花冷えの百花繚乱天井絵
雨見舞う二片みひら花の冷
神奈川県     佐藤 博一
花冷えの闇美しき二月堂
大仏殿四隅にありし花の冷え
花の冷え三日待つ間の日和かな
花冷えや終ひし衣また出せる
地球儀に国のひしめく花の冷え
茨城県     大洋太郎
追い越してゆく花冷えの影ばかり
花冷えの仔猫ころげて影抱き
花冷えのマネキン鼻梁カギ印
花冷えの大音量のジャズバンド
花冷えの波呑み込んで離岸流
宮城県     石川 初子
花冷や紅の色また濃くなりて
大阪府     松木 元
天守なき城に登りて花の冷
花冷やきつねうどんの汁すうて
また一つ我慢の増えて花の冷
花冷の五百羅漢の無表情
通勤の行きも帰りも花の冷
大阪府     金成 愛
武蔵野や俤に似て花の冷
東京都     内藤羊皐
花冷の石の羅漢の眸の細き
花冷や音楽室の肖像画
花冷や翳を重ねる鯨幕
花冷の厨に残る茹卵
花冷の見世物小屋に灯の揺るる
愛知県     岩田 勇
花冷えや旧街道の一里塚
花冷えの晩翠草堂寂として
花冷えや何かしずもるクラス会
花冷えや見合いの席のひそとして
口重き術後の妻に花の冷え
岐阜県     金子加行
花冷や誰とも会はぬ美術館
花冷や附箋幾枚重き辞書
花冷や歯痛の男ベンチ座す
花冷や完治近しと医師の告ぐ
花冷や一円探すレジの列
京都府     田端 敏弘
花冷や寄り道するか南禅寺
花冷やあと千本は次の折
混み合わず散らさず今日の花の冷
新潟県     近藤 博
花冷やのんど温もる熱きお茶
花冷や重ね着すれどそぞろ寒
またの夜やはやばや寝に就く花の冷え
花冷や奈落の底にちぢこまる
花冷にまたぞろ目覚む夜半の床
兵庫県     岸下 庄二
花冷や天守に続く櫓門
花冷や外湯に並ぶ宿の下駄
花冷の造幣局の通り抜け
花冷やちょっと立ち寄る縄のれん
花冷の風に戸惑ふ風見鶏
ブラジル     林 とみ代
花冷の園に建ちたる移民の碑
花冷の園を築きし人偲ぶ
熱き茶や花冷の身を癒さるる
花冷の館に競ふ俳句かな
風流な花冷の里訪ひけり
佐賀県     戸田万里
花冷の言葉をひとつ呑みこみぬ
かじかんだ指を絡める花の冷
花冷や昨日は昨日すんだこと
花冷やスレンダーなる君の腰
花冷のえくぼ収むるケータイに
京都府     中村 万年青
幼な子も花の三井寺這ひ登り
花冷えのコートにほろほろ桜の夜
花冷えの清水坂や人の波
花冷えの万朶の桜を友と見つ
花冷えの神護寺の庭僧一人
神奈川県     髙梨 裕
花冷やひとの湯つかり帰る場所
花冷や薄い背中の手に残る
花冷やぼんぼりの灯の恋しがる
花冷の草津や君の足湯なり
花冷の五百羅漢や薄日差す
北海道     武田 悟
花冷やうどんの薬味やや辛く
花冷や禁煙の意思試さるる