俳句庵

季題 5月「清水」

  • 山清水妻の墓石にかけにけり
  • 岡山県     岸野 洋介 様
  • 国境に雲の湧きゐる清水かな
  • 兵庫県     山崎ぐずみ 様
  • 被災地に清水届ける人や人
  • 滋賀県     村田 紀子 様
  • 膝つきて両手に掬ふ石清水
  • 三重県     後藤 允孝 様
選者詠
  • 一掬の清水やわれも旅人なる (2014年 伊賀上野)
  • 安立 公彦

安立公先生コメント

俳句の表現は作る人により十人十色です。更に俳句という短詩には、作意を表わす言葉数の不足という問題があります。適切な切字を用いることや、季語がその句に適応しているか、或いは季語にふさわしい表現となっているか充分に見極めましょう。
 優秀賞の岸野さんの句。この「山清水」は、生前の奥さんと訪れた所と思われます。某日、その山路に清水を尋ね、奥さんの墓石に捧げようと持ち帰った作者。今その山清水を静かに墓に注いでいるのです。その思いはきっと奥さんに通じることでしょう。
 山崎さんの句。海外詠です。「国境」という言葉が中七を抱いて、雄大な叙景句となっています。中七の「をり」は「ゐる」。
 村田さんの句。この被災地は熊本でしょうか。被災地に向うボランティアの人の中に、ペットボトルに入れた清水を持参する人たち。多分被災者の中に、山登りの仲間が居るのかも知れません。心暖まる句です。下五の「人と人」は「人や人」としました。
 後藤さんの句。山路を来てようやく辿りついた石清水。「膝つきて」がその思いを良く表わしています。「両手に掬ふ」は自然な動きなのでしょう。清水という清冽な小流れの景が、作者の動作とともによく表現されています。中七の「は」は「に」とします。
 今回もいい句が多いでした。〈山里の名もなき寺や清水湧く 岩川容子〉。上五の「山麓に」は「山里の」としましょう。「名もなき寺」がよく効いています。〈掌に受けて零るるままに山清水 瀬尾柳匠〉。「零るるままに」に思いが籠っています。〈飲ませたき二十歳の兄に汲む清水 椋本望生〉。先の戦争で逝かれたお兄さんでしょうか。「二十歳の兄に」が痛ましいです。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。