俳句庵

季題 12月「古暦」

  • 教室に残る一枚古暦
  • 北海道     藤林 正則 様
  • 納屋棚の農事記録や古暦
  • 神奈川県     川島 欣也 様
  • 亡き夫の予定書きある古暦
  • 大阪府     太田 紀子 様
  • 古暦横眼で眺め眉を引く
  • 滋賀県     村田 紀子 様
選者詠
  • 古暦空の青さに焚きにけり
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 今月の題は「古暦」。辞書には「使い古した暦」と書いてあります。文字の解釈はその通りですが、季語としての古暦には、家庭であれ、会社であれ、一年を共に過ごしたという思いがあります。現在の暦は以前の日めくりでなく、月ごとの曜日や祝祭日を記した、カレンダーが大方です。月ごとの予定を記す時の期待や、人によってはその予定にときめきを覚えることもありましょう。そういう暦の一年の終りが古暦です。再び帰ることのない一年の事実と、それに伴うさまざまな情緒のこもる季語です。
 優秀賞の藤林さんの句。多分小学校の教室でしょう。冬休みに入り、がらんとした教室に一枚の古暦が掛かっています。それを作者は「残る一枚」と記しています。この中七がみごとな表現となって、「教室」を良くまとめている句です。
 川島さんの句。農家の納屋でしょう。その納屋の棚に「古暦」が掛かり、そこに季節を追うように、農事のさまざまな記録が記されているのです。この句も「農事記録」が古暦を支えて、よく一句をまとめています。
 太田さんの句。古暦に記されているのは、「亡き夫」の書いた予定です。それに見入る作者の思いが、淡々とした表現の中に深い思いをもって読む人に伝わって来ます。この句「書かれし」を「書きある」としました。
 村田さんの句。「横目で眺め眉を引く」は、日常の中でよく見られる景です。それが古暦を得て独特な表現の句となっています。
今月の佳句。〈平凡の続きし幸や古暦 塚本治彦〉。平凡を幸とする思いはいいですね。同感です。「古暦」にもほのぼのとした余情を感じます。〈母の手の温もり残る古暦 村田紀子〉。「母の手の温もり」は作者の思いです。いつも暦を掛けていたのは「母」だったのでしょう。懐旧の中に温かみを感じる句です。〈五十年異国に暮し古暦 富岡絹子〉。原句「半世紀」は「五十年」としました。ブラジルにお住いです。古暦に託す思郷の思いがよく伝って来ます。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。