俳句庵

季題 1月「初春」

  • この国に老いて悔いなし今朝の春
  • ブラジル     広田 ユキ 様
  • 偕に老いともに寿ぐ明の春
  • 新潟県     近藤 博 様
  • 初春の光あまねし千曲川
  • 神奈川県     井手 浩堂 様
  • 初春の水やはらかき厨かな
  • 大阪府     津田 明美 様
選者詠
  • 初春の宵や蘇軾の書をひらく
  • 安立 公彦
※「蘇軾(そしょく)」は北宋の詩人

安立 公彦 先生 コメント

 日本の一年は申すまでもなく、春夏秋冬の四季から成り立っています。しかし俳句歳時記はこの他に新年の部を入れています。私たちの先人が、如何に「新年」を大事に考えていたかということがよく分かります。今月の題「初春」は、新年という季語が、例えば慣習的な表現であるとすると、生活の中に溶け込んだ季語と言っても宜しいでしょう。傍題として、明の春、今朝の春、千代の春ほかがあります。季語の読みは「はつはる」です。春の部の「初春・しよしゆん」とは異なります。
優秀賞の広田さんの句。作者は現在ブラジルにお住まいです。ブラジルが生国か第二の故郷かは分かりませんが、「この国に老いて悔いなし」には、ブラジルを終の住処とする思いが決然とした姿勢で述べられています。見事な内容であり表現です。
近藤さんの句。この「偕」は「ともに」の意味です。偕老同穴の言葉があります。「偕に老いともに寿ぐ」は、まさに偕老同穴の言葉そのものであり、後期高齢を迎えた夫婦の切なる願いでもありましょう。「明の春」が良く一句を支えています。
 井手さんの句。一読視界が開かれたような、豊かな思いがこみ上げて来るような句です。「光あまねし千曲川」は、信州小諸の懐古園から眺めた千曲川を見るようです。この句も「初春」の季語が充分に活かされています。
 津田さんの句。一転、日常の生活の中に感じる詩情を、よく表現した句です。「初春の水やはらかき」が、ほのぼのとした新鮮さを感じさせます。水をやはらかに、と捉えた感性はみごとです。「厨かな」もよく一句をまとめています。
今月の佳句。〈初春や西行も見し相模灘 石鎚 優〉。中七、西行をは西行もとしました。史実を感じさせる句です。〈初春の声のびやかに鳩時計 木原 登〉。「声のびやかに」が「鳩時計」を良く表わしています。〈書を売つて居間の広さよ今朝の春 守田修治〉。いつの間にか溜まるのが本です。「居間の広さ」の反面一抹の寂しさも感じさせる句です。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。