俳句庵

6月『短夜』全応募作品

(敬称略)

新潟県      近藤博
短夜や残んの月は弓張りに
寝苦しく熟寝(うまい)せぬまま明早し
短夜や豊旗雲の紅薄く
短夜や庭に早々明け烏
寝苦しや浅き眠りに明早し
神奈川県      佐藤博一
早々と夕餉をすます短き夜
思ひ出しまた忘れゆく短夜かな
一言に二言返す短夜かな
短夜や寸暇を惜しみ針仕事
眠ろうとすれば眠れぬ短夜かな
千葉県      柊二
短夜や沼の木道闇を這ふ
愛知県      遊泉(ゆうせん)
まづくくと鳩の鳴き声明易し
難問の堂々巡り明易し
明け易の源流近き木曽泊り
短夜の直ぐ暗闇に峡の村
明易し鼻毛耳毛のまた伸びる
宮城県      福田良光
寝過ぎたと慌てふためく明早し
バイク来て朝刊届く明易し
破障子幽かに浮かび明易し
短夜や不気味に座る縫いぐるみ
短夜やぼんやり壁にごっつんこ
岐阜県      金子加行
短夜や人にさよなら言ひ易き
短夜や昼の続きし酒の利く
短夜や男独りの泣き足らず
短夜や客人のなほ続く家
短夜や人生決まる試験来し
愛媛県      加島一善
短夜や一夜で消せぬ君の声
短夜や清盛招く音戸の陽
短夜や欠伸うつりて大笑い
短夜の夜更けに星を探しけり
短夜や歩き参りの御寺増え
神奈川県      入江雅子
念ずれば灯明に母短夜か
赤いベベ兵児帯ふわり短夜か
短夜にキャッキャッと童は夢の中
短夜か笑顔と眠気親も子も
ぼんやりと灯明揺らり短夜か
東京都      佐藤博重
テレビよりラヂオが好けれ明易き
短夜のイヤホーン外す深夜便
短夜やカーテン白む鳥のこゑ
大阪府      金成愛
短夜や開きしままの弁証法
東京都      鈴木良子
夫野球妻は相撲やみじかい夜
マンションの車出払ひ明け易し
世界地図広げしままや明け易し
短夜や早番勤め日も遠し
締切日迫る句案や明けやすし
千葉県      新津さとい
短夜や消しかす残るダイニング
短夜や切子のグラスに残る水
兵庫県      噂野アンドゥー
短夜や 朝まで呑んだ 三時間
不眠症 あっという間に 朝が来る
プラネタリウム 君の知らない 物語
短夜や 歩けよ乙女 恋の味
as the moon, so beauti
埼玉県      岸保宏
短夜や早くも白む揺れた朝
短夜や法事の母屋深として
短夜や休む暇なし車椅子
東京都      内藤羊皐
短夜や産湯の如く湯浴みせり
短夜の空き缶路に響きたり
明易や水の匂へる海鼠壁
短夜の張り子の犬の影の濃き
蔵町の灯の消え返へて明易し
埼玉県      飯塚璋
短夜や高速道路混みあへり
神奈川県      白銀
短夜では 今宵の愛を 時代思う
短夜から 月欠けの日 軌道する
新月の 短夜で道し るべの里
短夜いわく 天寿を祝う 舞踏会
短夜にて 君をまとうに ドレス服
神奈川県      伊藤欣次
明易しアフターテニスの宴張れば
短夜や夢路を阻む小用立ち
短夜のBBQ盛(さか)るメルボルン
短夜にタブレで一句ひねりだそ
短夜や想ひの竹の伸び騒ぎ
東京都      岩崎美範
短夜や濃いめに淹れるモカマタリ
明易の鶏に目覚むる鄙の宿
水槽の亀に餌やる短夜かな
厨からくさやの匂ひ明易し
ぼてふりの声する路地や明易き
岡山県      岸野洋介
短夜であること忘れ旅の宿
短夜の夢に亡き妻笑みており
短夜を朝日差し込むまで眠り
パソコンに挑む短夜でる欠伸
短夜や街に猪でた話
神奈川県      塚本治彦
短夜や疲れのぬけぬ老教諭
短夜や一晩もたぬ鎮痛剤
短夜や馬立ったまま眠りをり
短夜や介護疲れの浅き夢
短夜や老の眠りの覚めやすき
神奈川県      井手浩堂
短夜の明け方の夢浅きかな
短夜のいたずら電話ベル一度
短夜の雀の声に明けにけり
短夜の遠き嶺より明けにけり
短夜や夫婦で入れと宿の風呂
東京都      たなかちか
短夜や生けつつも花萎れたる
短夜の手帳の黒きページあり
短夜やモヒート作る吾のために
短夜や娘ら集い母のこと
短夜や枕のそばに閉じる本
東京都      坂田誠太郎
短夜や旅の枕の波の音
短夜や床の間にある山水画
短夜や仏の宿に眠りけり
短夜や人皆消えて主のみ
短夜や他家の仏間の薄明かり
兵庫県      さくやこのはな
短夜の起きて惑いし妻の座に
短夜やレモンかじりて読破する
神奈川県      原川泉水
短夜の夢の白馬白き朝
せせらぎや障子にひびき明け急ぐ
短夜や谷川颪か川面風x
短夜の目覚めを誘う湯のかおり
短夜や夢追いつつも朝の風
長野県      木原登
短夜を早やも読経の善光寺
明易の足湯に人のをりにけり
短夜の闇の中より妣の声
海は海かもめはかもめ明易し
アルプスは雲のまほろば明易し
東京都      松丸禎二
公転の いたずら短夜 二人割く
短夜や できない辛さ 朝寝坊
短夜や 経済活性 サマータイム
短夜や 鳥の囀り 早よ起きな
恋仲や 短夜寂し 朝早し
千葉県      伊藤博康
短夜や草の匂ひの濃くなりて
明易の足取り重く出勤す
短夜や足踏みしたるエピローグ
神奈川県      守安雄介
短夜やはや釣り船の岸離る
隣国の首班の決まる短夜かな 
子と飲めばたった二升の短夜かな
短夜かな自転の早さ変わらぬに 
昨日から夫の在宅短夜かな
京都府      欲句歩
思いの丈既読の儘に消す短夜
短夜や生れ変りに出逢うやも
短夜の〆の暖簾の人盛り
奈良県      堀ノ内和夫
短夜の夢にキリンの崖に立つ
短夜や庭にうるさき鳥の待つ
短夜や大きくしゃみに起こさるる
兵庫県      岸野孝彦
短夜と呟く息の深さかな
短夜や海月を濡らす雨の音
メトロから短夜抜けて未来都市
短夜や老いぼれて初恋の夢
短夜や棒道行けば左千夫の碑
東京都      腹胃 壮
短夜の腹筋割るる男女かな
短夜の郵便受けの鳴りにけり
ゴミ出しのホストクラブや明易し
短夜の白き太腿露はなり
短夜の使はぬ枕しまひけり
滋賀県      了庵
短夜の開きしままの文庫本
短夜の書いてまた消す遺言書
短夜の湾に横たふ豪華船
短夜の白紙のごとく明けにけり
短夜を家へ一駅歩きけり
熊本県      貝田ひでを
グランドに朝練の声明易し
コンビニに食品補給車明易し
父すでに畑に動く明易し
東京都      穂坂俊一
朋友ありてやがて独りの暮早し
短日や香りの揺らぐ茶舘かな
暮れ早し夜市屋台の灯りかな
短日や紅いルージュの急ぎ足
短日や小籠包の温かさ
宮城県      林田正光
短夜の浮橋渡り空明ける
短夜をさらに短く長電話
短夜の断捨離ちょうど終了す
短夜に耐えて早朝歯医者さん
短夜や夢も短編小説に
三重県      平谷富之
君といる 更に短夜 感じられ
短夜を クロスワードで 過ごしけり
愛知県      斉藤浩美
豆腐屋の引き売り準備明易し
ゲラ刷りに朱を入れおれば明易し
花鋏使う音して明易し
鴉もう地上歩きて明易し
飯場には飯炊く匂い明易し
山口県      山縣敏夫
冷や汗の染み込む枕明易し
初孫の泣き声響く明早し
明急ぐ候寝不足となりにけり
フルムーン湖畔の宿の明易し
短夜に朝刊配るバイク音
東京都      武藤隆司
短夜の香煙堂を漏れ来る
短夜の女と犬の立つ玻塘
短夜の酒狂の人と擦れ違ふ
短夜の何処ともなく鳥の声
短夜の通夜をもがりとして過ごす
東京都      右田俊郎
看護師の起床告げ行く短き夜
短夜や太平洋をゆく巨船
短夜や推理小説大団円
独房の窓の格子や明け易し
短夜や異国の空へ一番機
神奈川県      北島和弘
短夜の味付け海苔の几帳面
山形県      斎藤博
短夜や我が老いし身を追いつめる
明易しコブラ返りに起き上がる
短夜の眠気抑えて書に耽り
短夜や我が行く末をさ迷いし
短夜の我パソコンににのめり込む
神奈川県      花恋
短夜や光の帯の絡まりて
淋しさも短夜明ければにぎやかに
短夜に泣かぬと決めた君の愛
背の汗に涼しさを待つ短夜かな
短夜に生きる証しを操りて
兵庫県      山地美智子
短夜のどうにもならぬ不整脈
短夜の進まぬものに死仕度
短夜の夫の鼾のつつがなし
短夜の誰にも言えぬ悔い一つ
短夜の祖母を眠らす子守歌
東京都      土田明人
短夜や水平線は縹色
霊峰へ継ぐ苔の道明易し
短夜や杉の指したる白き空
短夜の潮さい匂うふたり宿
短夜や柱状節理光る海
北海道      吉岡 亨徹
短夜や心の病の為ならず
短夜の匂い遠き日呼び戻し
短夜に癇癪起こす泥棒猫
短夜の傍題なのかサマータイム
仕事明け薄紫の夏の朝
群馬県      大澤十八番
短夜や新聞配達来し気配
短夜のラジオ株式市況かな
短夜や階下に長電話の小声
短夜のベンチ背中のきしむ音
短夜の夢階を踏み外す
神奈川県      猪狩千次郎
短夜や廃墟の壁の煤蒼く
短夜や釣糸からむ磯の松
短夜や軒をあらそふ鳥の声
短夜や湯葉汲む箸の長きこと
寺多き旧東海道や明けやすし
奈良県      平松洋子
短夜や露店の電球未だ消えず
短夜や米研ぐことも忘れして
短夜や社交辞令の朝がくる
滋賀県      村田紀子
旧友と話題が尽きぬ短夜かな
短夜の物干しざおに舞う晴着
短夜や遊び疲れた子の寝息
短夜に饂飩をすする道半ば
短夜や貨物列車が夢はこぶ
神奈川県      佐々木 光野(みつや)
短夜や段取りつかず遊び行く
短夜や昨日ははるか前のこと
短夜に句作の案の少なかり
短夜や夢観ることの多かりき
本読むも捗らざりや夜短し
三重県      後藤允孝
明易し起床促す鳥の声
短夜やさざ波遊ぶ船溜まり
短夜や浅き眠りの旅の宿
短夜の思い出せなき夢ひとつ
短夜や祖母の寝息を確かむる
神奈川県      矢神輝昭
短夜や何をあくせく地虫這ふ
短夜や漬物石の深眠り
短夜に時もて余ましメール打つ
短夜や新聞今かと待ちあぐむ
短夜や蠢く音の多かりき
奈良県      一人坊
短夜に 夢、追い走る 親の影
短夜も 目覚めてみるも 明けぬ夜
ブラジル      西山ひろ子
中古車のエンジンの音明易し
短夜の静かな寝息に整いぬ
短夜の夢に日伯行き戻り
短夜の声立て笑う夫の夢
故郷の夢に束の間明易き
滋賀県      正庵
短夜の夜具はねのけて海の宿
鳥の声バイクの音や明易し
徘徊かウオーキングか明易し
明易や阿弥陀堂より正信偈
田廻りの水の匂ひや明易し
神奈川県      龍野ひろし
短夜の汽笛鋭き寄港船
短夜のワインで祝ふ誕生日
埼玉県      よしこ
短夜の転がしてゐる眠りかな
短夜の夢は再び叶はざり
句作りの更に縮まる短夜かな
短夜や眠れることも良しとして
短夜の体内時計狂ひなし
福岡県      たこ
短夜や わずかに動く 栞紐
短夜を 広げて咲きし 花火かな
短夜や 蒼き切子と ビートルズ
短夜の カーテン越しの 流れ星
短夜や ただ一行の 便りかな
岩手県      天晴 鈍ぞ孤
短夜や生まれし時の味がする
短夜や日高見の墓苔生して
短夜や母の目覚めは徘徊
ブラジル      林とみ代
短夜のクルーズ賑はふルーレット
短夜の国に別れを惜しみけり
短夜やオスロの空は白々と
短夜の湖畔を巡る旅の空
短夜や北極近き旅の宿
大阪府      津田明美
短夜に向けて列車の発車ベル
短夜の夢の続きを惜しみをり
短夜や友の愚痴聞きしらしらと
短夜の雨だれ穿つ手水鉢
短夜の朝刊バサと落ちにけり
北海道      飯沼勇一
短夜や羊の数は増え続く
短夜や妻ため息と寝返りと
短夜を貧乏神と明かしたり
格別の短夜老ひを深めける
三重県      遊眠
短夜やそれからのこと語られず
短夜や起承転結ありし夢
短夜や夢書き留むる俳句帳
島根県      湧雲文月
飴玉をゆつくり溶かす短夜かな
短夜に君と別れし余韻無き
デミダスに珈琲を飲む短夜かな
短夜やガムシロップの揺らめきて
明け易しカーテンの隙間に見ゆ陽
東京都      かつこ
短夜や判定負けのボクシング
短夜の目覚めて続く夢を見る
東京都      豊宣光
短夜を惜しむ二人の逢瀬かな
短夜や仕込み早まる豆腐店
短夜を知らぬ読書となりにけり
短夜やカーテンの影白く揺れ
短夜や始発電車の音近し
栃木県      足立純一
短夜の上り電車と家路人
姿見に睡魔が嗤う短夜かな
短夜に月陰るのか後髪
京都府      新井ゆかり
空と海短夜明かすひとり旅
あかねさす君恋う短夜思い染め
短夜や惑う心に朝は来る
愛媛県      渡邊國夫
明早し明日はいづくへ古都泊り
特注の豆腐作りや明急ぐ
短夜の深みにはまる調べもの
単身の島の暮しや明易し
格闘の漢字パズルや明易し
神奈川県      成田あつ子
短夜の叱咤はやさし夢の父
短夜やはや下駄音の旅の宿
短夜の待ち針光る生絹かな
明易し湯殿にはやも桶の音
短夜や栞はさみしミステリィ
神奈川県      石鎚 優
短夜や遺愛の杖の淡き影
短夜や愛(かな)しき寝息ありやなし
短夜や常ならず飛ぶ軍用機
短夜や埴輪の人馬のやさしき目
短夜や末期の笑みのしづかなる
神奈川県      シュリ
雨垂れを数えて旅路の短夜かな
短夜や水簾の音薫き染めて
埼玉県      彩楓(さいふう)
寝そびれて昔語りや明易し
短夜のホテルにて聞く救急車
花稽古終へ短夜のギムレット
短夜や隣家に献ず枕花
短夜の図書返却口へ葉擦れ
東京都      早川高典
みじかよやアボリジニーのホームレス
かれおもふ短き夜や寝苦しき
短夜や酔いつぶれてる父笑顔
愛知県      新美達夫
朝刊の四、五分遅れ明易
突堤に急ぐ釣り人明易
短夜のうすうす夢と知つて酔ふ
東京都      住澤義英
短夜に吉夢で起きる旅の宿
短夜や焦る心に明けの鐘
青き日の淡い恋夢みじか夜に
短夜や怖さに目覚め川下り
短夜や羊数えし100飛ばす
千葉県      隼人
明易や露天湯に入る旅の朝
明易や眠気を醒ます道の駅
短夜や朝餉ののちのひと眠り
岐阜県      蛙田 環
短夜やページをめくる音静か
短夜や職場で欠伸夜学生
短夜や昭和の歌をくちずさみ
短夜やお囃子のない落語会
石川県      ―(荒野欣子)
短夜に遅寝早起き身が持たぬ
短夜や朝餉の支度目をこすり
福岡県      西山勝男
嫁ぐ子と話尽きなし夜短し
短夜や竹馬の友は疾うに逝き
船宿の釣果の夢や夜短し
推敲の弔句は遅々と夜短し
ブラジル      広田ユキ
久闊の友との一夜明易し
短夜の夢や故郷に母は亡く
短夜や時計の鳩がまた鳴きし
短夜や潮騒高き海の荘
短夜の夢の続きはまた明日に
東京都      武蔵野次郎
短夜や代萩茂る帰り道
東京都      重兵衛
明易し大草原に白き包(パオ)
地の果てといわれる岬明易し
終着の銀河鉄道明易し
明易や父の作りし握り飯
明易や声掛け集ふ部活の子
大阪府      椋本望生
短夜の亀に有らねど喉仏
短夜の紙縒で触るる猫の髭
母さんの待る厠や明易き
短夜とマウスとルーペ小宇宙
短夜にあさきゆめみしゑひもせす
東京都      岩川容子
明易し規則正しい靴の音
短夜に別れ惜しみて終電車
短夜や先にすすまぬ哲学書
短夜や墓地買う話まとまらず
埼玉県      守田修治
明易しいまみずうみは鏡なす
病む妻に北窓明けて明易し
短夜や影絵のような針仕事
応えあう星の会話の明易し
短夜や遅ればせなる水滸伝
東京都      伊藤はな
産声の耳を離さじ短夜かな
一病を得てなお短夜楽しめり
短夜や針目もあらく布巾縫ふ
短夜の刻を捉まへ本の旅
短夜を音をおさへて流行歌
大阪府      永田
短夜や仏語活用呪文めき
短夜や九九の「五」の段覚えたて
千葉県      横井隆和
・短夜も長夜も永久に乞う平和
・明早し湯に入り向う阿蘇五岳
・短夜の栞もままに愛読書
・明走る潮引くがごとビルの影
ブラジル      玉田千代美
短夜に口説き電話やいらだちぬ
短夜や他人の世まで考えて
短夜に洋人形に和服着せ
短夜に手のひらに書く明日のメモ
神奈川県      海野優
短夜や語りつくせぬ望みごと
短夜の九九諳んじて寝もやらず
短夜に眠りもやらぬ旅の宿
岐阜県      ときめき人
サーカスの眠れぬ小象短夜ぞ
神奈川県      川島妄児
短夜の駅灯おとす終列車
短夜や点滴刻むICU
眼鏡して母針仕事明け易し
明易し朝刊配る郵便屋
短夜や夢の続きの繋がらず
大阪府      太田紀子
短夜や断捨離終へし部屋の中
短夜や抜け毛の色は真白なり
短夜や亡夫の写真の薄埃
高知県      河野佑芽
短夜のピアスバスタブに沈む
短夜や昔好きだったよと溢す
東京都      碩真由美
短夜や西へ西へと寝台車
東京都      中田ちこう
明けはやし陽は十五度のウォーキング
明けいそぐ藍鼠の波鵜の頭
東京都      紫帳
短夜や 解決策の 出ず終(じま)い
短夜や しじまの澱む 暇もなし
短夜や 数える羊 七掛けで
東京都      紫闇
短夜や てるてる坊主 吊り直す
短夜もう 朝刊配る バイク音
短夜や 相談事の 切り出せず
東京都      宵紫
短夜や 手持ち無沙汰な 休肝日
短夜や 数独難問 解けぬまま
短夜は 清酒一升 持て余す
福岡県      田中由美子
短夜に旅の枕はおさまらず
短夜の旅は天使をみちづれに
短夜をつないで奥の細道へ
短夜の夫の寝言に詫びてみる
神奈川県      パラレル
短夜に別れ話を済ませをり
短夜に母の怒りはおさまらず
兵庫県      山崎衣玖
短夜や隣の夜具へ吾子の足
短夜やネバーランドの星探し
短夜やオセロの勝ちを譲りけり
白湯含みまた短夜の添寝へと
短夜を裂く様に泣く嬰児かな
千葉県      悠理
短夜や靴底薄くなりて駅
宿坊の低き異国語明易し
短夜の耳の奥なる水の音
埼玉県      哲庵
明易や恋文五度も書き直し
短夜や校正三度初句集
短夜や締め切り過ぎし稿の嵩
短夜や遺書の代筆頼まれて
短夜や葬儀の仕方決めかねて
千葉県      みやこまる
短夜やあさきゆめみし旅まくら
短夜の忍び入りたる無双窓
旅先の朝餉の匂ひ明易し
兵庫県      ぐずみ
短夜や酒もたばこもそれなりに
短夜に雨音のして暁烏
短夜を〆て最終電車ゆく
短夜の夢は沙翁にまかせたり
短夜をダウと外貨の解説書
福島県      いらくさ
短夜や手紙でそこのセリフ言う
過去形の短編小説明易し
新聞の音聞こえたり夜のつまり
悩むこと短くて良し短夜の
明急ぐカップボードの透過光
神奈川県      髙梨裕
短夜やランタンの灯の恋しかり
短夜や山の駅舎の灯のひとつ
短夜の明けの真水に目覚めけり
短夜の怒るがごとく泣く子かな
短夜のまだ覚めやらぬ二本足
京都府      中村 万年青
みじか夜や雀のさえずり美しく
短夜や深夜ラジオの終り告げ
短夜の新聞受けの音高し