俳句庵

7月『空蝉』全応募作品

(敬称略)

東京都      安西信之
空蝉の崩るるを待つばかりかな
岐阜県      金子加行
空蝉の命に風の通り道
空蝉と並びベンチに吾れ独り
空蝉を踏まず里山遊歩道
空蝉や表札の文字増やしたり
空蝉の拝む姿勢のまま吹かる
埼玉県      飯塚璋
空蝉や風に吹かれて用水路
新潟県      近藤博
蝉の殻そちこち落ちし枯山水
わくらばに縋り哀れや蝉の殻
空蝉や枝に縋れる六肢もて
空蝉や殻と言えどもはかなさよ
皮脱げど命あるがに蝉の殻
千葉県      柊二
うすものをつくらふ糸や空蝉の
広島県      永野昌人
空蝉の風に吹かるる軽さかな
空蝉の貌生き様か死に様か
空蝉に苦悶のかたちありにけり
蟬鳴くや昨夜の空蝉ありし辺に
生垣に小さき空蝉五つほど
岐阜県      ときめき人
空襲のサイレン響く空蝉ぞ
愛知県      岩田遊泉
空蝉の身の幸せを想いけり
空蝉の累々として古戦場
空蝉の乾坤一擲勝負せり
空蝉を避けて通らむ万歩道
空蝉のへばりついたる掲揚塔
宮城県      福田良光
成虫の合唱を聴く蝉の殻
空蝉を残し鳴きたる一週間
空蝉や生きた証しの固き殻
空蝉の標本並ぶ整然と
広島や空蝉絡む木々数多
大阪府      藤田康子
空蝉に何の未練も蝉に無し
空蝉をあはれと見るは人のみぞ
神奈川県      佐藤博一
言い残すことのあるかに蝉の殻
風来れば飛び立つ構え蝉の殻
空蝉の風に吹かるるいのちかな
空蝉の天を仰ぎて吹かれけり
空蝉を宝のやうに子が拾ふ
東京都      内藤羊皐
竹取の翁空蝉拾ふかな
空蝉やあさましかりし恋のせる
空蝉は月の光を蒐めをり
空蝉の千尋の空の底撃てり
空蝉の稽古始まる地下通路
兵庫県      紫 桔梗
空蝉をしっぽり濡らす小糠雨
魂のなき空蝉の目に力
空蝉の背の裂け目の痛々し
空蝉の抱く朱塗りの大鳥居
其処此処に空蝉宿す楠大樹
岐阜県      長谷都代
まだ恋し狭庭に残る蝉の殻
空蝉となれず葉裏の跡哀し
絵本持て空蝉説く娘母となり 
空蝉や地蔵の膝に抱かれをる
空蝉を見つけ怖がる三歳児
兵庫県      噂野アンドゥー
都会では ミンミンゼミが 聞こえない
空を飛ぶ セミの抜け殻 土還る
路に敷く 蝉の死骸や 夏終わる
空蝉や 命儚い 恋の唄
夏休み 騒音被害 蝉の聲
京都府      欲句歩
空蝉や爆心囲う樹は育つ
空蝉や爆心と有るモニュメント
空蝉や筆其々の心と教
千葉県      伊藤博康
児が採りし空蝉そっと母に見せ
成り立ての空蝉風に揺らぎけり
空蝉や大木の在る通り道
篭の中空蝉ばかり集めけり
白壁に空蝉二つ並びをり
大阪府      金成愛
空蝉や憤怒に在す飛鳥仏
島根県      湧雲文月
空蝉を叩き安堵に終はる雨
空蝉やしがみつきたき君の腕
空蝉や主の声は知らぬまま
空蝉や主は先に身罷りて
空蝉や内耳へ響くほどの雨
神奈川県      守安雄介
空蝉やセーラー服を脱ぎすてぬ
空蝉に残る気管や内外皮
空蝉や人は現身 抜けられず
空蝉やお前は何処で如何してる
空蝉やこの木疱瘡患える
岡山県      岸野洋介
空蝉のバッジ得意げ四つの子
空蝉の梢見上げて動かざる
軒下の空蝉の数二つ増え
空蝉も里の土産ともち帰る
妻の墓空蝉そっと草むらに
滋賀県      了庵
空蝉の背に深傷のありにけり
空蝉や妻はいつから認知症
空蝉を胸にすがらせ下校の子
空蝉の塵に混じりて掃かれけり
空蝉の鋼のごとき六肢かな
神奈川県      石鎚 優
空蝉を子の拾ひけり墓参り
空蝉を珈琲カップの横に置く
丈たかく揺るる花あり蝉の殻
空蝉や「線路はつづくよ どこまでも」
捨てられし野のマネキンや蝉の殻
埼玉県      岸保宏
空蝉や回り灯篭不乱なり
空蝉や絵日記の中主かな
空蝉や風のなすまま従へり
神奈川県      原川泉水
空蝉が語る土中の永き営(えい)
難産の証とどめる蝉の殻
空蝉やあとは風雨にゆだね逝く
空蝉や樹林に記す健闘史
蝉殻を一顧もせずに大空へ
宮城県      林田正光
空蝉の前世を偲ぶ人のあり
空蝉や一つひとつに個性あり
空蝉の対極にある甲かな
空蝉を真綿に包み抽斗に
手のひらの空蝉風に動きけり
愛媛県      加島一善
風吹きて樹皮に縋るや蝉の殻
母の忌の空蝉跨ぐ墓地の道
樹に登り蝉の抜殻空掴む
空蝉や何を問うても無言かな
蝉の殻転がり溜まる社殿裏
三重県      治もがり笛
決めポーズ歌舞伎役者か空蝉は
忍者道空蝉楯に技磨き
東京都      腹胃壮
空蝉を踏めぬ命の軽さかな
野良猫と遊んでをりぬ蝉の殻
空蝉の掴まる幹やはぐれ雲
空蝉の掴まる傷の残りけり
空蝉の翔べぬ容に残りけり
東京都      岩崎美範
空蝉に念仏唱ふ老婆かな
ままごとの夕餉の菜は蝉の殻
空蝉に残る眼の哀れかな
空蝉や花に埋もれし母の骸
この夏をどこで鳴くやら蝉の殻
山口県      山縣敏夫
動乱の世に空蝉が騒ぎをり
空蝉に言っておきたい事多し
空蝉が日々懸命に生きてをり
空蝉に家路を急かす犬がおり
静かなる空蝉たちの集うとこ
長野県      木原登
空蝉は胸章なりし少年期
空蝉やわれら喜寿なる同期生
空蝉を拾うて枝に戻しけり
おのが身の最後を見むと空蝉は
空蝉になほもかがやく命あり
ブラジル      西山ひろ子
触角をきれいに残し蝉の殻
どの蝉の種類分からず蝉の殻
泥少しつけて分身蝉の殻
下の葉に 固まって付き蝉の殻
空蝉の軽き重さを手の平に
長崎県      内野 悠
土深く空蝉の子や育ちをり
空蝉や五人の子には母ひとり
空蝉の時を食べたる軽さかな
空蝉や百歳の死もこのやうに
一匹を出し空蝉となりにけり
神奈川県      井手浩堂
空蝉の風に吹かるるまま孤高
あづかりし空蝉や手にもてあます
空蝉の爪の食ひ込む桜の木
空蝉の生あるごとき眼の光
空蝉とミニカー並ぶ子の机
東京都      勢田清
空蝉をそっと手に取り日に透かす
空蝉や宴の日々も夢のごと
空蝉のあまりに軽し掌
空蝉やべっこう色の宇宙服
空蝉の巨樹登りたる勇姿かな
三重県      遊眠
手のひらの空蝉にある温さかな
かなしみは空蝉の背の飴の色
空蝉の主はいまごろいづこにや
山口県      ひろ子
空蝉を集めて少年気勢揚げ
空蝉や脱皮の瞬間見て居りぬ
空蝉のはかなさ憂う訃報かな
兵庫県      山地美智子
空蝉や叔父叔母さえもなき故郷
空蝉の意志ある如く縋りつく
空蝉や子供に尽きぬ好奇心
飛び立ちしばかりと見ゆる蝉の殻
空蝉や逝けば戻らぬ者ばかり
神奈川県      塚本治彦
空蝉や女は過去にこだはらず
空蝉に夜の匂の残りけり
空蝉やウルトラマンの背にチャック
空蝉の生あるごとき琥珀色
空蝉の鼈甲色や朝の月
静岡県      城内幸江
空蝉や母やはらかく庭を掃く
花壇には花咲き乱れ蝉の殻
大阪府      津田明美
空蝉の裂けて現世朽ちにけり
空蝉の軽き執着掌に
空蝉の離れがたくて親なる樹
空蝉となりても祈る親ごころ
空蝉の移し世眺む虚ろの眼
東京都      穂坂俊一
空蝉の衣脱ぎすて旅立ちぬ
空蝉の雨に打たれし骸かな
空蝉の裾に縋れし野の仏
空蝉や高みに遺す夢の跡
空蝉の七年七日の生きの様
奈良県      平松洋子
山風の吹きて散らばる空蝉や
空蝉や僧侶の手の中遊び出す
空蝉を軽く吹いては児の玩具
東京都      佐藤博重
空蟬を縋り付かせてランドセル
空蟬を園児らどつと取り囲む
神奈川県      白銀
空蝉が 恋しくなるに 夏の夢
空蝉に 感動するに 我が想い
俳句にて 空蝉調べ もう一句
ひぐらしの 空蝉はまた やわらかい
空蝉が 脱皮する初夏 蝉羽化する
福岡県      たこ
空蝉を 見せる童の 笑顔かな
梵鐘に 空蝉ゆれる 遍路道
空蝉が 風に舞い落つ 関ヶ原
空蝉や 千年杉に しがみつく
東京都      伊藤はな
空蝉の風に転がる軽さかな
空蝉や全ての役を終へてをり
空蝉の背には子宮の割れてをり
ビニールの紐絡まりし蝉の殻
ブラウスをしかと掴むや蝉の殻
神奈川県      矢神輝昭
空蝉の手に取り上げて末思ふ
空蝉や沈思はたまた深眠り
空蝉や遺恨残して前の爪
空蝉を籠に集めて得たり顔
空蝉の黙の修行や三年目
神奈川県      龍野ひろし
空蝉や生きる形をそのままに
神奈川県      川島欣也
空蝉やすべて捨て去る潔さ
空蝉や煩悩すてる禅の道
泥ひとつつけず空蝉生まれけり
空蝉やかわれる前の姿見せ
空蝉の足の食い込む大欅
大阪府      森村冨美子
空蝉の透きくる軽さ掌に受けし
空蝉の乾きて風を纏ゐたる
枝先に空蝉そつと戻しけり
蝉の殻枝に残して幹で鳴く
空蝉に優しさ纏ふ風のあり
栃木県      長浜 良
空蝉を匹と数ふるせつなさよ
空蝉を腕に乗せやり旅の空
兵庫県      岸野孝彦
空蝉やそれぞれの生そして死
空蝉や茶色い戦争ありまして
空蝉や粉々にして母を待つ
空蝉や命の重さ幾何ぞ
空蝉や善根宿の道遠し
愛知県      西谷寿
空蝉の主消えてなお心打つ
空蝉に心奪われ時忘れ
夜店にて空蝉色の浴衣着る
空蝉と遊んだ昔薄れゆく
空蝉を見つけて娘涙する
熊本県      貝田ひでを
空蝉の憂鬱の眼の左右かな
手に乗せて風の軽さや蝉の殻
命とはまことに軽き蝉の殻
空蝉の土の匂ひのまま枯るる
大阪府      永田
空蝉を内に抱ふるひとを恋ふ
千葉県      隼人
空蝉や元彼待ちて銀の鈴
空蝉や校舎の脇に尊徳像
頑陋といふ空蝉脱ぎにけり
東京都      右田俊郎
空蝉や思い出したくない記憶
空蝉の背なの割れ目や罪と罰
恐々と蝉の抜け殻触れて見む
魂の抜け出た跡や蝉の殻
空蝉や生きた証を残す意思
東京都      かつこ
空蝉の琥珀の色に幸もらふ
愛媛県      アリマノミコ
空蝉の声きくパリの自爆テロ
空蝉や第3帖をひもとけば
神奈川県      重兵衛
蝉の殻背のジッパーはもう閉めぬ
空蝉のしがみつきたる流人の碑
石仏の群ある洞や蝉の殻
空蝉の並ぶやここも順位あり
点線のグラフをなして蝉の殻
三重県      後藤允孝
空蝉や世の変貌を嘆きけり
気がつけば空蝉そつと旅立ちぬ
空蝉の眼は少年を見てゐたり
空蝉や嫁ぐ娘を案じをり
空しさも歓びもあり蝉の殻
ブラジル      広田ユキ
抓まれて空蝉しかと爪立てし
空蝉や茂吉の墓の一位の木
蝉の鳴くほどに空蝉見つからず
空蝉の放さじと抱く椰子の幹
古里の産土の森蝉の殻
神奈川県      海野優
読経聴く少年空蝉もてあそぶ
空蝉や悪書とならぶ哲学書
埼玉県      よしこ
空蝉に遠く聞ゆる子らの声
空蝉の青空仰ぐブロック塀
飛ばされさう飛ばぬ空蝉草の上
空蝉にやはらかさうな夜明かな
空蝉の鳥居に縋る日暮かな
東京都      住澤義英
空蝉や命短し世の無常
空蝉や飛ばされまいぞ今日の日も
蝉の殻難産あとの割れ姿
空蝉や今が落ちなんそよ風と
空蝉や生きているやら今いずこ
東京都      中田ちこう
にらみるや空蝉の空深き星
北海道      飯沼勇一
空蝉の十はをりたり蝉時雨
空蝉に寄り添う如く蝉留まる
空蝉や少年野球観戦中
空蝉の背を丸め雨跳ね返す
空蝉の睨みつけたる蟻の列
宮城県      北村さとみ
空蝉を集めて競う夏休み
東京都      早川高典
蝉の殻いだきし松や親ごころ
空蝉や菓子喜ばぬ子の背中
空蝉やけふもきのふのくりかへし
物言わず空蝉裂くやまごむすめ
大阪府      太田紀子
空蝉にたまる雨水の光をり
空蝉のゐる生家今空家なり
空蝉にすがりし蝉のまだ白し
千葉県      山田香津子
あえかなる源氏空蝉夜の秋
空蝉やうつしよの愛聞くもがな
並びゐし蝉の脱け殻牛舎跡
神奈川県      成田あつ子
箒目に風より軽し蝉の殻
渾身の力で脱ぐや空蝉は
殻抜けて空蝉蒼き空を見む
かさかさと空蝉音を零したり
穴の数子は空蝉を探しをり
ブラジル      林とみ代
古の王の別荘蝉の殻
空蝉の身となる余生虚しかな
出稼ぎの多き僻村蝉の殻
宿題の一つとなりぬ蝉の殻
蝉の殻脱ぎて第二の人生へ
大阪府      椋本望生
空蝉にならねばならぬ寂しさよ
園児らの紙飛行機と空蝉と
空蝉の国かと思ふ垣隣
空蝉よそろそろちから抜けないか
恋しらにこころ赦すや蝉のから
千葉県      横井隆和
・万象に一直線有り蝉の殻
・空蝉を砕く戦時やカルシュウム
・空蝉の去年へ今年の一尾添い
・卒塔婆より空蝉コロリ激し雨
滋賀県      村田紀子
葉に揺れる空蝉に見る祖父の家
父思う枝に隠れた空蝉に
そよ風に揺れる空蝉十代の我
空蝉を数え母待つ線路際
埼玉県      小玉拙郎
空蝉や虫一匹の解脱跡
ひと朝の命の名残り蝉の殻
空蝉や七年の刑を務め上げ
空蝉や帰らぬ旅の置きみやげ
東京都      岩川容子
空蝉や巣立ちていきし子等の部屋
空蝉を捨てると知りて拾いくる
鳴くために耐えた長き日蝉の殻
松林ぬければ海や蝉の殻
東京都      遠山比々き
空蝉の白く塗られて瓶にあり
踏まれたる空蝉の腹天を向く
空蝉の脚を掴んで風の幹
空蝉の集まつてゐる排水溝
工作や空蝉白く塗られをり
東京都      野島正則
空蝉の集合住宅ある葉裏
空蝉に色塗り自由工作に
一つ葉に重なる空蝉三つ巴
空蝉や柳生の里の一等石
空蝉の取り合ふ枝のありにけり
埼玉県      彩楓
空蝉のからっぽといふ重さかな
居酒屋の酒器棚へ二個蝉の殻
マー君の宝の箱に蝉の殻
空蝉の葉先より垂れ大揺れに
空蝉や登る形にのけぞりぬ
愛知県      石川順一
人の詩がメロディーとなり蝉のから
足で踏みその空蝉の重大さ
信心が起こる空蝉幾つもに
空蝉に群がる子等を走り過ぎ
空蝉や道路に出てはならぬ時
兵庫県      山崎衣玖
レストラン横の空蝉こぼるる木
空蝉の開き代はりを求めけり
空蝉や茶畑の一枝にあり
翡翠色なる羽生みぬ空蝉は
空蝉やゆつくり開けし玉手箱
埼玉県      守田修治
空蝉を皇居散策記念とす
空蝉の黙して見入るかくれんぼ
空蝉や木々を従え古寺の庭
空蝉を五匹集めてまた明日
空蝉やそこは兄貴の墓だけど
東京都      まどん
空蝉や継母なれど母は母
夕風に空蝉揺るる御苑かな
神奈川県      佐々木 僥祉
空蝉の掴む楠宮の朝
空蝉を琥珀の如く見る子の目
空蝉に潮風通る松林
空蝉の額突く巌苔深し
空蝉の掴む木造廃校舎
千葉県      下総真里
空蝉の爪のひとつは風を掻く
空蝉の背より夜明の始まりぬ
一匹はもう空蝉になれぬ色
神奈川県      髙梨裕
空蝉のしかと取り付く葉の光り
空蝉の過ぎたる命風と消え
空蝉や巣立ちし部屋はからっぽに
空蝉や母亡き母の白絣
摘みたる空蝉指の弾くかな
京都府      中村 万年青
空蝉を十指に付けた幼き日
うつせみの目玉光りて青葉風
空蝉や背中丸めて土に向く