俳句庵

季題 10月「紅葉」

  • ふるさとに名残惜しむや紅葉狩
  • ブラジル     林 とみ代 様
  • 新しき紅葉一葉苔の上
  • 兵庫県     山地美 智子 様
  • 老いらくの恋を彩る紅葉かな
  • 神奈川県     矢神 輝昭 様
  • 廃業の湯屋の煙突つた紅葉
  • 岡山県     岸野 洋介 様
選者詠
  • 正午てふ真青き刻を散る紅葉
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 「紅葉(もみじ)」には、周知の通り紅葉と黄葉があります。葉の色の違いです。「紅葉」は楓、櫨など、「黄葉」は銀杏、欅などが良く見られる木です。それにしても晩秋になると木の葉が色付くということは、自然現象とは言え、何と素晴しいことでしょうか。この「紅葉」が俳句に与えた影響は大きいです。今月も皆さんの佳句が、紅葉を存分に表現していました。鑑賞しましょう。
 優秀賞の林とみ代さんの句。作中、惜しみては、惜しむやとしました。「紅葉狩」は、紅葉の美しさを訪ねゆくこと。その対象が「ふるさと」、しかも故国のふるさととあれば、中七の思いも充分に納得されます。まさに一会の思いの籠められている句です。
 山地さんの句。一枚は一葉としました。名勝の地でしょうか。ふと苔の上に、一葉の紅葉の落ちているのに気付いた作者。まだ散紅葉には早い時期です。緑なす苔の色と、一葉の紅葉の対応がことに鮮明です。「新しき」がその鮮明さを引き立てています。
 矢神さんの句。老ゆは老い。「老いらくの恋」は、久しぶりに見る語句ですが、句の中にあると生命力を感じます。それはまた、「彩る」という修辞とも呼応しています。ともに紅葉を仰ぐ二人の姿、見上げる空には、一本の楓が満ち足りた紅葉を翳しています。
 岸野さんの句。街の銭湯の減少は以前から聞くところです。この湯屋もその一つかと思います。銭湯の看板とも言える煙突は今は煙もなく、紅葉した蔦が纏っているのみです。何れその湯屋も幾つかの住宅に生まれ変わるのでしょう。物語のある句です。
 今月の佳句。〈湧き水の辺り色濃きもみぢかな 福田良光〉。〈切通し抜けて眩しき照紅葉 井手浩堂〉。〈密やかに尼寺覆ふ紅葉かな 月野木若菜〉。〈前を行くあなたの肩に舞う紅葉 新井ゆかり〉。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。