俳句庵

季題 12月「寒灯」

  • 寒灯や土器修復の学芸員
  • 神奈川県     塚本 治彦 様
  • 寒灯や母屋は既に寝静まり
  • 東京都     勢田 清 様
  • 寒灯下残業の子を待ちゐたり
  • 宮城県     石川 初子 様
  • 寒灯の朝まで点る道普請
  • 神奈川県     井手 浩堂 様
選者詠
  • 寒灯や使はぬ筆の先ほそり
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 四季の灯火の中でも、春灯や秋灯には、それぞれの季節のゆかしさや静けさが感じられます。寒灯の場合はどうでしょう。厳しい寒気を背景に、作品の中にも自ずと凛としたものが伝わってくる思いがします。歳時記により、寒灯を主季語とし、冬の灯、冬灯(ともし)を傍題としているのや、冬の灯の中に寒灯を含めている歳時記もあります。寒灯に比べ、冬の灯には広がりが感じられます。
 優秀賞の塚本治彦さんの句。「学芸員」は資格を要する職員です。「土器修復」は、出土した縄文土器や弥生土器のかけらを修復しているのでしょう。出現土器と若い学芸員のひた向きな姿を、寒灯が厳しくまた優しく包み込んでいます。善い風景です。
 勢田清さんの句。「母屋」が一句を統べています。由緒ある旧家でしょうか。寒い冬の夜もいつしか更けて来て、ふと気付くと、すでに母屋は寝静まっています。そういう夜のひとときの思いを、上五の「寒灯や」がよくまとめています。
 石川初子さんの句。上五は「寒灯下」とし、結句は「ゐたり」としました。夜も更けて来ましたが、ご子息は残業でしょうか、まだ帰って来ません。「寒灯下」、独りその帰りを待つ思いが良く出ています。如何にも「寒灯」の句です。
 井手浩堂さんの句。この「寒灯」は文字通り寒風荒ぶ野外の灯火です。道路の補修工事でしょうか。時間に制約のある道路工事です。街の灯を遠く望み、作業の皆さんの真剣な顔が浮かびます。そういう人達を、幾つかの「寒灯」が夜を通し照らしているのです。
 今月の佳句。〈寒灯や遺影の妻は今日も笑み 岸野洋介〉。〈寒灯下夫の遺せし杖二本 林とみ代〉。〈冬灯人を待つ間の古本屋 岩川容子〉。それぞれ方向を異にする句ですが、善くまとまった作品です。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。