俳句庵

季題 3月「水温む」

  • 復興の未完のままに水温む
  • 東京都     石川 昇 様
  • 魚さばく妻の指先水温む
  • 愛知県     岩田 遊泉 様
  • 分校に女先生水温む
  • 栃木県     長浜 良 様
  • 小康の検査結果や水温む
  • 大阪府     津田 明美 様
選者詠
  • 水温むふるさと遠く離れ来て
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 現在の歳時記は、新年春夏秋冬の各季節を、時候、天文、地理、生活、行事、動物、植物の七項目に分けています。「水温む」は、その中の「地理」に掲載されています。元より皆さん良くご存じのことです。地理に含まれる季語は七項目の中で数は最も少ないですが、季節の感覚を良く備えています。「水温む」などまさに文字も語感も、「春」到来の思いを味わう基本季語と言えましょう。
 優秀賞の石川昇さんの句。この「復興」は七年前の東日本大震災を指すものでしょう。一部を除き、広範囲に亘る未完の地域は、今更のように震災の厳しさを見せています。自然はしかし、そういう地にも、春を告げる「水温む」をもたらすのです。
 岩田遊泉さんの句。「水温む」は語意としては、寒さがゆるみ、川や池などの水が温んで来たという意味です。それと共に、普段家庭で使っている水道の水も温んで来る、という連想は誰しも感じることです。この句、「妻の指先」がよく効いています。
 長浜良さんの句。春は学校の教師の異動期です。この学校は「分校」。市中と違って辺地の学校です。そこに新しく女性の先生が赴任して来るのです。この句、「女先生」が、その先生を待つ皆さんの喜びを良く表わしています。まさに「水温む」季節です。
 津田明美さんの句。かねて健康上の問題で、検査を受けることも何回かあったのです。それが「小康」、即ち病状が少し良くなりかけた、という結果を得ました。これに勝る喜びはありません。然り気ない表現の中に、「水温む」が大きな安らぎを与えています。
 今月の佳句。〈さざなみは湖の鼓動や水温む 木原登〉。〈水温む午後の散歩や車椅子 伊藤はな〉。〈小流れの音も清かに水温む 西山勝男〉。季節の到来の一つ「水温む」の季感をそれぞれ的確に捉えている作品です。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。