俳句庵

4月『蝶』全応募作品

(敬称略)

宮城県      石川初子
蝶々やグランド今日はサッカー部
蝶々の会釈してゆく警備かな
大阪府      金成愛
嫁ぐ子やうまれたときは蝶だった
キミの背にてふてふ生るる昼下がり
岐阜県      金子加行
磨崖仏崩れて舞ふや木の葉蝶
先頭に蝶の祝すや嫁の列
起重機の組む鉄骨に蝶の乗る
折紙の展がり蝶の命あり
舞扇蝶の如くと教へらる
神奈川県      白銀
躑躅の蜜 ストローのように なめらかに
ルリタテハ 木の葉乱舞 蝶の舞
幼虫が  殻から抜け 大空へ
蝶と蜜 エール交換 ハーモニー
アゲハチョウ ひらひらと舞う 花の様
神奈川県      鴨野箸
高尾山ボサノヴァで聴く蝶の歌
大阪府      藤田康子
冬の蝶あの時を又見失ふ
黒揚羽半分当たる占い本
新潟県      近藤博
ドア開きて客は蝶々無人駅
花に舞ひ風にあらがふ蝶のゐて
ひらひらと蝶の舞ひくる書斎かな
翅の色なんと美しきや蝶の舞ふ
すれすれに蝶の飛び去る池の面
京都府      田端敏弘
見逃して飛び交う蝶や妻の畑
語り部に聞入る肩に蝶の影
野晒しの鍬に母の字蝶休む
井戸の水供えし湯飲み揚羽来る
神奈川県      佐藤博一
蝶の来て動き出したる花時計
かはびらこかわわたりきりねむりけり
初蝶や何か伝言ある如く
初蝶の小さき花を選びけり
初蝶の花にも触れず吹かれけり
滋賀県      東野了
縺れ合ひ蝶の墜ちゆくダム湖かな
番犬の大欠伸して蝶の昼
蝶の翅つまみ幼子もどり来し
ひらひらと幣舞ひ上がる蝶の昼
蝶舞ふや今年限りの耕作地
東京都      千味幸太郎
停まりたるバスより蝶の吐き出され
初蝶の飛ぶなか柩出てゆきぬ
迷い入る蝶乗せ走る路線バス
一陣の風に散らされ蜆蝶
蝶々のふと来てとまる握り飯
東京都      石川昇
定まらぬ風に戸惑う黄蝶かな
陽光の影も優しく春の蝶
兵庫県      岸下庄二
初蝶のまだぎこちなき飛翔かな
秒針に黄蝶の止まる花時計
高階の病室窓に白蝶来
舞ふ蝶の幾何もなき命かな
亡き母の化身と思ふ紋黄蝶
愛知県      遊泉(ゆうせん)
蝶々の巡る古戦場(いくさば)暮れなずむ
蝶舞ふや終日庭の無音界
白日に消ゆる白蝶阿弥陀堂
洋蘭に遊ぶ黄蝶の紛れけり
猫パンチかわし白蝶舞ひ上がる
福岡県      紙田幻草
初蝶の庭を隈なく見て回る
蝶々のくちづけヒマラヤ雪の下
初蝶の太陽の色纏ひ来る
公園を斜めに急ぐ胡蝶かな
ひらひらと蝶のつき来る散歩道
愛媛県      渡邊國夫
三つ紋の白蝶つがひ碧空へ
蝶々のおさまる記念写真かな
遠き日に掛けづりし里蝶の舞ふ
初蝶の葷酒許さぬ門に入る
てふてふと共に一服磴長き
山口県      ひろ子
菜園にひねもす蝶と語りけり
いずこより蝶の舞ひきてささやけり
長野県      木原登
朝の日へ光を返す羽化の蝶
初蝶へ空の真青のかぎりなし
初蝶に会ひしとしるす日記かな
川越えし落花一群蝶放つ
行人をふつと消したる蝶の昼
東京都      岩崎美範
蝶よ蝶被災地へ翔べみんな翔べ
蝶を追ふ姉妹に同じ泣きぼくろ
子授けの水天宮に胡蝶舞ふ
母と追ふだんだら蝶の疾きこと
老骨のこの指とまれ蝶よ蝶
岐阜県      凡句楽
てふてふや明日は曇りのち雨に
紋白蝶ひとさし舞うて去りにけり
岐阜蝶や信長公の居館跡
野仏にじやれあう二頭蝶の昼
纏ひつく蝶々母の化身かな
東京都      五島洸
胸襟を開けど蝶の近寄らず
黄揚羽の踏切渡る速さかな
初蝶に妻はしゃぎしは去年のこと
蝶を追う網うつくしく靡かせて
静かなる蝶の急所にピンを刺す
山口県      山縣敏夫
白蝶の群れを児童が追っ掛ける
園児等の帽子に蝶が舞いにけり
里山の棚田の畦を蝶が舞う
校庭の子等の頭上を蝶が舞う
白蝶の止まるベンチに老夫婦
兵庫県      山地美智子
来るはずの先輩を待つ蝶の昼
双蝶や老いに出かける先もなし
庭に来て日差し喜ぶ蝶々かな
ひらひらと蝶の来て去るバス乗り場
配達の花舗の車の中に蝶
奈良県      平松洋子
玄関に飾る菜の花蝶が抱く
リビングは出入り自由と蝶の舞ふ
花嫁のブーケ欲しがる白き蝶
千葉県      伊藤博康
するすると魔法のごとき蝶の口
じゃれ合うて上へ下へと紋白蝶
あくまでも低く低くとしじみ蝶
ふはふはがひらひらとなる揚羽蝶
川を越へ蝶の向ふは何処なり
神奈川県      守安雄介
桜より菜の花が好き紋黄蝶
風吹いて泡立つ畠や紋白蝶
飯給駅(いたぶえき)菜の花化して蝶となる
リオの蝶大きな胸を持余す
羽足の四つの蝶やカーニバル
神奈川県      原川泉水
蜜求むたおやな蝶の身のこなし
吾が責と千里の海を渡る蝶
二羽の蝶今ぞ我が世と陽の中を
窓際の蝶ひらひらと空恋て
陽にぬくむ蝶の悦び荘子知る
東京都      内藤羊皐
能面を更に翳らす蝶の影
蝶翔つや石産女棄てし座敷牢
盗癖の妻の経血蝶の昼
夜のほむら上りて残る蝶の影
妊娠酒や空を狭める蝶の墜つ
東京都      伊藤はな
初蝶や真白の雲のひとかけら
物干しに紋白蝶のもつれをり
蝶々の黄色ゆらゆら日の匂ひ
初蝶の影を追ひたる猫の耳
蝶と行く五百羅漢の碑の小路
東京都      石井真由美
初蝶や右往左往の川の幅
奈良県      一人坊
何色に蝶迷う色々の花
蝶と往く振り返る度独り言
暮れる畦ただ蝶だけとすれ違い
茨城県      山縣歩
蝶の影 ひらひらと猫 落ち着かず
蝶が蝶 追って梢を 離れけり
初蝶や 安達太良山の 空の青
翅ひろげ 畳んで蝶の 息しずか
しじみ蝶 音無く日暮れ 始まりぬ
神奈川県      河野肇
初蝶や棚の埴輪の淡き影
初蝶や紙飛行機が落ちてゐる
初蝶やむかし卑弥呼と舞ひしてふ
書道展を出て初蝶に迎へられ
よぎりゆくヘリコプターや蝶の空
神奈川県      ぐ
鹿児島の太古の森や蝶を吐く
青空を擦りつけて蝶とびゆけり
半音のあがるや昼のピアノと蝶
昼のてふ商店街の匂いたつ
てふてふや夜を求めて迷う昼
神奈川県      井手浩堂
ポストまでいつもの道を蝶の昼
一対の紋白蝶の行方かな
黄の蝶を見上ぐる空の青さかな
初蝶に合はせてをりぬ息づかひ
風誘ひ蝶を誘ひて蔓ひとつ
兵庫県      岸野孝彦
越後獅子逆立ちすれば揚羽蝶
薄墨でてふてふと書く里は雨
ネオン街刺青に蝶のあの昭和
大雪の薄羽黄蝶や風そろり
黒揚羽捕えし父の網速し
三重県      後藤允孝
蝶舞ふや静かな刻の流れゆく
初蝶の久留倍の里に生まれけり
春の蝶舞ふタイミング計りをり
初蝶のよろよろよろと右ひだり
一休みする鍬の柄の春の蝶
神奈川県      塚本治彦
蝶々のために咲かせし学級園
分校の児童数より多き蝶
白蝶を黄蝶に変へる手品かな
手品師の手から黄蝶の飛び立ちぬ
蝶添へて学級園を引継ぎぬ
神奈川県      矢神輝昭
蝶が来て風やわらかし摩天楼
蝶蝶や子らの騒ぎて列乱る
本伏せて蝶追ふ先にエピローグ
蝶蝶や店頭の本叩き掛け
江の島へウインドサーフィン初蝶来
兵庫県      はなちる
波の音舳先に舞うや春の蝶
葉音して黒髪ふわり蝶ふわり
焔立ち蝶の溶けゆくアスファルト
沈黙の真白き空に春の蝶
指の先麟分悲し紋白蝶
兵庫県      噂野アンドゥー
コムラサキ オオムラサキの 子どもかな
蝶が飛ぶ 鱗粉まいて 時過ぎる
菜の花の 風に吹かれて モンキチョウ
さなぎから 生まれた蝶の 美しさ
てふてふが けふもひらひら とんでいる
京都府      中蔵みづほ
紋白蝶花街の夜の石畳
赤門をくぐりて空よ蝶まぶし
初蝶や十二センチの靴の歩に
花園を移りゆく蝶ソミファソミ
周産期入院の窓初蝶来
神奈川県      猪狩 千次郎
境内をよぎる列車や蝶の昼
恋の句の詠めなくなつてしじみ蝶
打ち寄する波濤を超えて胡蝶かな
蝶生るる羊あまねくうつむいて
初蝶来ギリシャの神と酔ひしれて
大阪府      津田明美
この先はバス停あらず蝶の昼
折り返すバス停の闇蝶の昼
蝶に道尋ねてこんな遠くまで
触覚は異界に残し揚羽蝶
双蝶の大きく曲がり角三軒
新潟県      じゃすみん
鉄棒のでんぐり返し蝶の昼
草むらにひかひか蝶の翅光る
屋上の真白きシーツ蝶の昼
初蝶や口に紅置く納棺師
福岡県      西山勝男
まだ尖る風にまぎれて初蝶来
初蝶の切り開きゆく札所かな
置き忘る鍬にとどまる孤蝶かな
蝶々や次の札所へ導とし
蒼天へ即かず離れず番蝶
富山県      岡野満
そよ風に抗う蝶の白さかな
初蝶とダンスを踊る仔猫かな
翅閉じて蝶々しばらく昼寝かな
ブラジル      広田ユキ
大西洋向けて流るる蝶吹雪
花時計コトリと動き蝶翔ちぬ
蝶吹雪過ぎて零れし蝶の数
初蝶や光あまねき野の起伏
北伯の旅に出会ひし蝶吹雪
徳島県      白井百合子
初蝶や寄り道しては舞い戻る
青空と蝶も見初めるブーケかな
大空の音なかりけり蝶あまた
蝶の昼逆様で吸う蜜の味
白い蝶そっと手の中薄き羽
宮城県      林田正光
初蝶や湖畔の宿の朝ぼらけ
ちょうちょうをてふてふというグランママ
蝶止まるあのフクシマの地図の上
受粉終えおいでおいでと呼ぶ胡蝶
幼稚園紋白蝶の似合ふ場所
東京都      勢田清
ちちははの魂か墓前に黄蝶舞う
揚羽蝶せわしく花を揺らしけり
蝶二つ縺れつつ行く空の果て
散水に空から蝶の影来たり
ひらひらとキャベツ畑に蝶多し
岡山県      岸野洋介
妻の忌や化身のごとき蝶の舞う
テフと書き蝶と読みし日ふと思う
蝶とまるふわり一舞見せしあと
さっきまで蝶が来ていた雨の庭
子ら去りし街の広場に蝶のくる
神奈川県      皆空眞而
吹かれつつまゝとはならぬ蝶の意気
陽だまりに蝶の止まれば風もなし
菜園に八分音符の蝶遊ぶ
女生徒の吹奏楽や蝶の昼
埼玉県      よしこ
白蝶のひらひらひらと畠の中
初蝶や恋にも似たりときめきぬ
初蝶や白き幻立ちすくむ
野の蝶をとぎれとぎれに目で追うて
蝶追うて赤信号の下校の子
埼玉県      櫻井俊治
蝶々のよぎりて近し桃源郷
うたた寝の瞼映りし蝶の舞い
東京都      右田俊郎
移り気を咎めるなかれ吾は蝶
捕えんとよちよち歩き蝶を追ふ
上になり下になりして番の蝶
遊ぶとも遊ばれるとも紋白蝶
ジグザグを野のカンバスに描く蝶
東京都      三吉野而今
慌つことなく初蝶の煽ぎ発つ
小諸にも似しふるさとの蝶が好き
蝶放ち思ひもよらぬ指のラメ
仰角に児の届かざる黒揚羽
空耳や否やいまのは蝶の羽
愛媛県      加島一善
蝶掴み月下に光る手話の指
古池に胡蝶の羽根の破れたる
母の忌に「君は誰か」と蝶に問う
まどろみの妊婦を起こす蝶の影
念仏の谷より湧くや千の蝶
ブラジル      西山ひろ子
湧き出でて森に眩しきモルホ蝶
てふてふの白は描けぬと孫の泣く
アマゾンの大河ゆったり渡る蝶
国境を難なく往くさ来る蝶蝶
ふはり来てサンバのリズム蝶の昼
神奈川県      万季
風に舞うひらりと初蝶花になる
音もなく蝶々乗り込むローカル線
蝶が舞う舞台は小さな家の庭
イヤリング落ちて可愛い蝶になる
歩数計蝶に誘われ数増やす
栃木県      大森則子
てふてふを追ふて子猫の右左
草原へ蝶を誘ふ日の光
オーガンジーのブラウスに蝶とまる
草陰に夭折の蝶風蒼し
右肩に憩ふブローチ紋黄蝶
東京都      田中礼子
まちまちの貨物車の両初蝶来
おしゃべりは永遠なりて昼の蝶
建て売りの窓とりどりや蝶々来る
ラッピング都電過ぎ行く紋黄蝶
蝶々の連舞来たりテラス席
三重県      西井治男
初蝶よ先祖に勇姿ひらひらり
蝶の数昨年よりも少なけり
モハメッド蝶の舞いも伝説に
愛知県      斉藤浩美
本籍は名もなき野原蝶生まる
空一枚使ひこなして蝶育つ
少年の攩網を躱して蝶高し
青年のコンビニ弁当蝶の昼
まだ風をよめぬ小さき蝶なりし
東京都      中田ちこう
ちさき手のひかる鱗片てふの影
神奈川県      龍野ひろし
初蝶の一瞬光放ちけり
温室を飛び出す勇気蝶よもて
鱗粉の散らす光や初蝶来
白壁をついとよぎるや蝶の影
初蝶はどの花に恋語りしか
大阪府      太田紀子
蝶の影芝生を過り仰ぎ見る
蝶々と吾のみ乗りゆく路線バス
複々線初蝶無事に渡り終へ
東京都      住澤義英
はぐれ蝶孫の頭でひと休み
散歩道角をまがれば春の蝶
神奈川県      月野木潤子
そのかみの山城跡や蝶生まる
儀式めく三つ紋付きの蝶白し
山頭火句碑やてふてふひらひらと
花蜜を吸ふ力見せ春の蝶
もつれ合ひからまり合うて蜆蝶
栃木県      長浜 良
白日の蝶や高きに消え上る
野仏や蝶を飾りてやはらかき
埼玉県      守田修治
転校生初蝶連れて登場す
園児らの朝礼の列に蝶が来る
蝶々の乱舞している映画ロケ
蝶々の誰もみてないバレリーナ
初蝶と乗り合わせたる村のバス
埼玉県      哲庵
連れ立ちてガマに消えゆく双蝶
ブラキストンライン越え行く蝶の群
鎌倉や虚子の黄蝶に逢ひに行く
初蝶の翅憩めたる百度石
てふてふのささやき聴こゆ化粧坂
北海道      飯沼勇一
棟越へし蝶の目に入る花畑
初蝶や音楽室は息ひそむ
初蝶よ介護の窓を賑はせよ
除染まだ続きし村や蝶が翔ぶ
モンキチョウ従へ車椅子を押す
神奈川県      伊原文夫
初蝶や名前つけたし影も無し
初蝶や翅の向こうに子らの顔
初蝶や生国問いたし影も無し
初蝶や子らの笑顔に翅を振る
岐阜県      ときめき人
初蝶や薄きひかりの中にあり
愛知県      中井啓子
畑歩く前に後ろに黄蝶かな
神奈川県      片桐栞志
「ただいま」の子の声指に蝶とまり
さり気なく来て初蝶のもう何処
蝶の翅いくつもの角曲がりけり
神奈川県      成田あつ子
風と来て風の連れ去る蝶々かな
初蝶や子のバイエルは二十番
歩き初む子の靴ピンク蝶の昼
みどり児の声ある欠伸蝶生まる
蝶の翅透きゐてガレの玻璃の壺
ブラジル      林とみ代
密林に湧き出るごとく蝶の群
紋白蝶追いし里山偲びけり
野仏の周りひらひら蝶遊ぶ
草花に紛れ込みたる胡蝶かな
信号を無視して蝶のよぎりけり
ブラジル      玉田千代美
開いてはたたみつ恋す蝶々かな
塀越しに話弾みて蝶の群
黑蝶に心乱さる暮しかな
蝶々のごとく一度は過ごしたし
蝶々の飛び行く姿美しき
大阪府      椋本望生
夢覚めて九十九の蝶となれにけり
孵化の蝶空の広さをさ迷へり
蝶が舞ひやつと農夫となりにけり
蝶々の逃げ切る速さ追ふ速さ
神奈川県      石川昇
初蝶やひらひら俳句携へて
舞う蝶や芋虫の時忘れまじ
喜びのメロディーに乗り蝶が来る
揚羽蝶若年寄の墓を舞う
この蝶は山の裏から来たのかな
千葉県      横井隆和
・漆黒の盆に降りたか瑠璃小灰蝶
・野は蝶のひとり舞台ぞ雨上がり
・鋭角に空の青斬るせせり蝶
神奈川県      川島欣也
地図持たず三千キロを渡る蝶
蝶をおふ幼足元見失ふ
折紙や束ねし羽を開く蝶
紋白蝶白内障の眼に痛し
一族の紋章まとふ蝶の旅
東京都      岩川容子
花の香に吸い寄せられし蝶の昼
初蝶に未だ見ぬ空の広がりぬ
姉偲ぶ蝶と遊びし幼き日
花びらと見紛う蝶の乱舞かな
千葉県      入部和夫
蝶々と戯れ遊ぶ園児かな
初蝶の目に青空の眩しくて
初蝶にしばし足止む遊歩道
東京都      遠山比々き
二千キロ渡れる蝶の皮下脂肪
東京都      紫̪翅
初蝶を 追えば長閑き ラビリンス
花疲れ 癒すや蝶の舞い踊り
初蝶や 一方通行 逆走す
東京都      紫翔
初蝶を 追うオノマトペ 定まらぬ
風の向き 読み初蝶の 後を追う
初蝶の 舞いて野山を 目覚めさせ
東京都      てふのみくす
白壁に 紛れて休む モンシロチョウ
初蝶や 電話を切って 追いかける
おのまとぺ ホバーリングの 蝶の下
埼玉県      小玉拙郎
川風にまだ抗えぬ今日の蝶
見る人の無きモンシロチョウの白さかな
初蝶や無欠の羽根と飛び姿
福岡県      川尻綾子
沐浴の嬰の手ほとび初蝶来
福岡県      多事
ふらつける蝶追ひ来れば酒の蔵
娘のベールあげて初蝶溢れけり
吾子抜きて縺れ縺れり二羽の蝶
鼻抜くるアテの塩味や紋白蝶
娘の部屋の教科書の束紋白蝶
埼玉県      彩楓(さいふう)
初蝶の行方目で追ひ三歩行く
白壁に黄色の蝶の影揺れて
初蝶のくるぶしあたり過ぎにけり
ブロンズの少女像より蝶翔てり
釣り人の並ぶ海岸蝶の昼
滋賀県      村田紀子
窓越しの蝶に手を振る赤子かな
蝶を追う黄色い声と白いシャツ
田舎道二匹の蝶と祖母の家
神奈川県      三好康子
初蝶来真昼のかげを縫ふごとく
初蝶や折り目新し巫女袴
自在なる蝶を羨しと思ひけり
蝶の翅指やはらかく抓みけり
翅毟られ石に置かれし死蝶かな
京都府      新井ゆかり
50年胡蝶の夢は覚めやらぬ
神奈川県      月野木 若菜
初蝶の人懐つこく絡みたり
好きなだけ軌道逸らして蝶自由
埋骨の墓前礼拝蝶過る
蝶蝶や事件は迷宮入りとなり
その翅をたたみて蝶のまどろみぬ
岐阜県      村瀬佐智子
初蝶の寄りて分かれてまた寄りて
蝶の蜜吸う音ほどの孤独かな
黙の闇去れ蝶次々生まれよ
軽やかに世を渡りゆく胡蝶かな
隣家よりフルートの音蝶来たる
兵庫県      ぐずみ
完売のピーナツバター蝶の翅
ランドセル匂ふ帰校子蝶の道
蝶止まるジャングルジムの最上階
双蝶のよぎるや綱渡りの猿
哀しきはピエロの顔や蝶肩に
千葉県      堀河真里
蝶あまた飛び交う庭や心電図
演説の志士を真青き蝶よぎる
東京都      内山岱鵬
南から贈り物かな紋黄蝶
蝶追うや小僧裸足で日が暮れて
初蝶や女子学生の下校路
ガラス戸やぶつかり蝶の見て笑ひ
霧雨や軒端を借りて蝶潜み
神奈川県      髙梨 裕
豚鳴くや蝶の影さす畜霊碑
生まれたとしあわせの空紋黄蝶
飛び飛びに飛ぶ紋白や眠る犬
我に来て去りし黄蝶や塀の外
杜からは重ね別れし春の蝶
京都府      中村万年青
なのはなの変化かてふの舞ひ遊び
妖精と蝶競ひ合ふげんげ畑
うららかや胡蝶の渡る昼の海