俳句庵
季題 6月「夏野」

- 草の声風の声聞く大夏野
- 大阪府 津田 明美 様

- 反芻の牛ゆつたりと夏野かな
- 栃木県 鹿沼 湖 様
- 遠山に白き雲浮く夏野かな
- 神奈川県 井手 浩堂 様
- 故郷の誰にも会はぬ夏野かな
- 兵庫県 山地美智子 様
選者詠
- ひとすぢの瀬音に憩ふ夏野かな
- 安立 公彦
安立 公彦 先生 コメント
今月の題は「夏野」。如何にも大自然の趣を持つ季語です。夏野と聞くとまず思い出すのは、広々とした野原、真っ青な空、そして湧き立つ積乱雲の白さでしょう。その夏野はまた人里に通う大地でもあり、人々の生活に結びつく場でもあります。今月の皆さんの句を拝見しますと、「夏野」の受け取り方に、それぞれの人生が浮かんで来るようです。作品に「かな」止めの句が多いのも、その一つの現れでしょう。
優秀賞の津田明美さんの句。この夏野はまさに活気付いています。「草の声」は、吹く風になびく夏草のそよぎ、「風の声」は、夏野を吹き渡る風の生気です。それを作者はしっかりと聞いています。一句の表現を支える「大夏野」が効果的です。
鹿沼湖さんの句。放牧の牛でしょう。牛舎の牛と異なり、放し飼いの牛の動きがよく出ています。「反芻」という牛の動作も、「ゆつたり」という中七の言葉によく支えられています。
井手浩堂さんの句。こういう景は良く見ます。夏野は集落に続き、そのはるか先には、白い夏雲の立ち登る山並が続いています。大自然の姿を写生していますが、そこに住む人々の生活も見えて来る句です。
山地美智子さんの句。この句は現代の世相を表わしています。かつては夏野を通り抜ける道には、人々の生活の賑わいがあったのが、いま見る故郷の夏野には人影も無い。「誰にも会はぬ」が深く息づいています。
今月の佳句。〈母乗せて車椅子押す夏野かな 岩崎美範〉。〈風立ちて歩幅大きくなる夏野 塚本治彦〉。〈吾子抱いて帰るふる里夏野かな 加藤正子〉。〈大いなる阿蘇をそびらの夏野かな 西山勝男〉。「夏野」の季語の持つ奥深さが、人々の生活とよく結びついている作品です。
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