俳句庵

10月『夜長』全応募作品

(敬称略)

宮城県      石川初子
寝るでなく語るでなくて夜長かな
岐阜県      金子加行
パソコンを切りて夜長をオフとする
家計簿に減る速さある夜長かな
母介護言葉戻りし夜長かな
読めぬ書の多し夜長に積み直す
古文書の一字が読めぬ夜長かな
栃木県      垣内孝雄
蝋燭の炎かすれる長き夜
アナログの音に聞き入る夜長かな
雨音の静かに過ぐる夜長かな
長き夜やスーツ姿の梯子酒
寝室に耽くる読書や妻夜長
愛知県      遊泉(ゆうせん)
「砂の器」佳境に進む夜長かな
妻とみる家族写真の夜長かな
昭和史の夜長いよいよ佳境なる
眠られぬ夜長激しき救急音
秋の夜の愈々長き能登泊り
愛媛県      砂山恵子
棚の奥に古きカルテや夜長の灯
長き夜や急患ひとり送りゐて
本人に余命を告げて夜長かな
長き夜やまだ急患の知らせなく
思ふより重き石蹴る夜長かな
千葉県      柊二
袖長き作家犇めく夜長かな
大阪府      藤田康子
余生にさらにおまけのやうな夜長
気のせいか手足の伸びし夜長かな
新潟県      近藤博
夜の長し寝ぬを惜しみて俳誌読む
一句二句ひねる俳句や夜の長く
妻と吾趣味はそれぞれ夜の長く
隣家とて窓の灯明く長き夜
妻寝ねど推敲重ぬ長き夜
島根県      GONZA
ジャムパンを手に張込みの夜長かな
献杯やバーボンの封切る夜長
長き夜の畑に居やるごんぎつね
義士死んで劇の終わりぬ夜長かな
カラマーゾフ読む少年の知る夜長
長野県      木原登
逝いて十年なほ友おもふ夜長かな
砂時計いくたび返す夜長かな
窓開けて湖の星見る夜長かな
羊が一匹未が二匹夜長し
ゆく川の音の聞こゆる夜長かな
兵庫県      噂野アンドゥー
夜長く 昼短しや 老い求め
締切日 夜長徹して 一句詠む
寝る前の あそびあそばせ 夜長かな
ペガサスや 夜長の翼 夢を見て
朝が来る までが長いよ 今日の夜
神奈川県      月のうさぎ
チャルメラの絶滅危惧す夜長かな
兵庫県      岸下庄二
長き夜や振り子時計の螺子を巻く
全集をまた読み直す夜長かな
長き夜や枕の合はぬ坊泊り
糶に出す子牛撫で遣る夜長かな
長き夜や昨夜と同じ夢を見る
香川県      紅緒
君を待つドボルザークと長き夜
夜の長しペンが進まぬ方程式
退屈をもてあましてゐる夜長かな
将棋指す無口な父の夜長かな
漱石の本の乱れや長き夜
東京都      五十嵐顕人
長き夜をギターに聞くやローレライ
神奈川県      吉良水里
まなこ閉じ靴音を追う夜長かな
終活の一つをしたり長き夜
長き夜の背骨辺りの棲み心地
千葉県      伊藤博康
夜長なり声出してみる独り言
読み疲れ本を閉じたる夜長かな
簡単に悩みの解けぬ夜長かな
嫌なこと先送りなる夜長かな
長き夜や話し相手の不在なり
東京都      笹木弘
鉛筆に句帳一つの夜長かな
コーヒーをもう一杯飲む夜長かな
パソコンに遊ばれてゐる夜長かな
一人には独りの夜の長さかな
縁側で爪切る音の夜長かな
山口県      山縣敏夫
夜長し尽きせぬ祖父の武勇伝
過ぎし日の名画を語る長き夜
青春を語れば尽きぬ長き夜
推敲に時を忘れる夜長かな
この地球(ほし)の行く末想う夜長かな
東京都      石井昌男
フロワーのチークへ変わる夜長かな
大三元刻子か槓子夜長かな
自転車と自販機響く夜長かな
国士無双頭待たれし夜長かな
自販機のゴロリと一つ夜長かな
広島県      永野昌人
長き夜のホテルの棚に聖書など
スタンドを消しては点ける夜長かな
後朝と言いし昔や夜は長き
モルダウを聴く長き夜のヘッドフォン
遠き日の日記など読む夜長かな
大阪府      木山満
長き夜を虫尽くしせむ我一人
拡大鏡外し夜長の闇覘き
体調の悪しき告げ得ぬ夜長かな
長き夜を虫すだくのみ草の海
独り居に慣れても長き夜長かな
東京都      石川昇
長き夜や鉱石ラジオに耳澄ます
大活字の本に親しむ夜長かな
神奈川県      佐藤博一
これからが私の時間夜の長し
犯人の目星付かざる夜長かな
一つずつ消して一つを夜長の灯
食卓は妻の文机夜長の灯
一灯を妻と分け合ふ夜長かな
愛媛県      渡邊國夫
持て余す一人に長き夜のしづか
近況を祖先に報ず夜長かな
飲み比ぶ地酒三種や夜の長し
長き夜を風の騒ぎし山の宿
夜長し干物つまみの独り酒
山口県      ひろ子
深夜便ラジオ添い寝の夜の長し
長き夜や据え膳ととのふ旅の宿
兵庫県      髙見 正樹
二度寝して寝過ごしている夜長かな
長き夜やソフトで作る住所録
ミステリーつい読み進む夜長かな
兵庫県      はなちる
気づいたら好きになってた夜長かな
湯上りに夜風ささやく夜長かな
手習いの縫い目大きく夜長かな
子守唄眠りいざなう夜長かな
湾岸線唸るバイクの長き夜
東京都      岩崎美範
通夜終へて真の夜長の始まりぬ
からくり時計タンゴを踊る夜長かな
妻と子のおしやべり続く夜長かな
長き夜や漢字ドリルの帰国子女
初孫の産声を待つ夜長かな
兵庫県      山地美智子
長き夜や死支度てふ話題あり
クロスワード一人楽しむ夜長かな
クッキーにまた手が伸びる夜長かな
CMの長き夜長のテレビかな
籠り居て独りに灯す夜長の灯
ブラジル      西山ひろ子
長き夜を週に何度か長電話
仏壇を閉めて夜長の灯を消しぬ
長き夜を病む人胸に睡りかな
割烹着脱ぎて夜長の灯を点さむ
煎餅の旨き音出し夜長妻
神奈川県      夏陽
良きことを忘れむとする夜長かな
良きことを忘るまじとす夜長かな
奈良県      堀ノ内和夫
川の字に縄文の世の長き夜
遠国のスポーツを見る夜長かな
愛知県      寺尾当卯
贋作の上手く仕上がる夜長かな
心音のシンコペーション夜の長き
長き夜や校閲室の窓灯
長き夜や消費期限にまだ三分
長き夜や混信したる周波数
徳島県      白井百合子
思い出も形見分けする夜長かな
絵手紙の色迷うほど夜長なり
膝痛み摩りながらの夜長かな
帰り来ぬ人を待つ身の夜長かな
ラインする俳句回しの夜長かな
神奈川県      亀山水
足先の冷えて夜長の虫封じ
表紙から繰りて夜長の写真集
村里は大宴会の虫夜長
手酌酒テレビ相手の今日夜長
熟睡の顏羨まし夜長かな
静岡県      城内幸江
猫の尾の伸びきっている夜長かな
プレゼントりぼん解けぬ夜長かな
艶やかに髪を梳かして夜長かな
栞からインクの匂ふ夜長かな
神奈川県      井手浩堂
グラス置き夜長の読書はじめけり
ひとり居の五木の『他力』読む夜長
ゆつくりと二度寝あじはふ夜長かな
神奈川県      後藤真子
人恋し汽笛の耳につく夜長
星辰や夜長の聖書深く沁む
長き夜や過去と未来の夢を見し
長き夜のふたりふた猫ひざにのせ
層雲峡滝の音澄む夜長かな
東京都      勢田清
雨音にじっと聞き入る夜長かな
母の作る鍋焼き饂飩食う夜長
灯り消し夜長に想うこと多し
参考書寄せて夜長の饂飩食う
勉強の区切りつきたる夜長かな
東京都      ―
長き夜やグラス傾け動く喉
長き夜や煙草くゆらすビルの風
路地裏に酒と肴の夜長かな
豆電球ページをめくる夜長かな
長き夜や待合室に祈る声
神奈川県      萩原照代
老眼鏡 かけてスマホの 夜長かな
いで湯より のぞむ漁火 夜長かな
岐阜県      ときめき人
夜長かな明治奏する蓄音機
兵庫県      岸野孝彦
蝋燭の人魚は哀し夜長かな
文庫本夜長に開く栞紐
父母ともに写真になりし夜長かな
無人駅遍路は眠る夜長かな
早よ寝なと梅おむすびの夜長かな
東京都      伊藤はな
一冊の中に棲みつく夜長かな
母の生家探す古地図の夜長かな
長き夜のあるじ無き椅子父の影
長き夜を縫ひつぎて又縫ひつぎて
有り余る時と折れ合ふ夜長かな
奈良県      平松洋子
夜長にて母の話の終わらぬに
童謡に童話たっぷり夜長かな
一杯の茶に癒されし夜長かな
青森県      竹浪誠也
長き夜や縁の欠けたる判を押す
独り居の居間に居座る夜長かな
長き夜の相槌多き会話かな
読みさしを開き夜長のプロローグ
校了の雨の夜長となりにけり
神奈川県      原川泉水
めいそうに苛立つ夜長持て余し
学術書睡魔に抗す夜長かな
吉祥夢厠さえぎる夜長かな
夢の中仔犬とじゃれる夜長かな
管制の夜長煌煌責勤むいらだつ
大阪府      津田明美
夫待てば夜長のラジオ終わりしを
長き夜の君を待ちいる一人膳
双輪に夜長かき分け終列車
逝く人に夜長の終わりなかりけり
旅宿の波音高き夜長かな
神奈川県      塚本治彦
印度洋航く船旅の夜長かな
刺網を張りたるあとの夜長かな
船旅の夜長赤道越えにけり
眠剤の増やす一錠夜長かな
新宿の漫画喫茶にゐる夜長
富山県      岡野満
行間に思いを馳せる夜長かな
読書する夜長を睡魔弄ぶ
コーヒーのお代わりをして夜長かな
東京都      内藤羊皐
パソコンに映画席得る夜長妻
離乳食煮こめるまでの夜長かな
検索の窓の重なる夜長かな
クロスワードパズル夜長の母の問ひ数多
鉄色の鳥居夜長の灯りとす
東京都      豊宣光
長き夜の夢を楽しむ早寝かな
新刊の読書はかどる夜長かな
独り身は夜長の時間持て余し
部屋明かり夜長の闇のやわらかし
長き夜や盃進む独り酒
埼玉県      まんたろう
長き夜や一句作つてなほ余り
着信音メールの返事夜長かな
長き夜やふと目覚むれば屋台の音
長き夜や折りし朝刊また開く
テレビ消し又消してゐる夜長かな
三重県      後藤允孝
パソコンに向かひすなわち夜長かな
震災の大停電となる夜長
古文書を読み解きほぐす夜長かな
晩酌を息子と交わす夜長かな
酔へばまた自慢話となる夜長
神奈川県      矢神輝昭
父危篤おろおろ夜長始発待つ
漏れる灯に母のまろし背夜長かな
大宇宙広がる絵巻夜長駈け
明日は発つ娘を思ふ夜長かな
真犯人夜長に囲ひ追い詰めん
福岡県      紙田幻草
五十にして資格試験の夜長妻
テレビ見るだけの夜長を持て余し
深夜便てふラヂオ放送夜の長し
東京都      かつこ
若者の居る明るき夜長かな
介護する孤独を愛す夜長かな
神奈川県      松風子
懐旧のパイプを吹かす夜長かな
長き夜の不寝の打ち分け噺かな
知慧の輪を脳がまさぐる夜長かな
目醒めても続きある夢夜長し
諍ひに目覚まし時計鳴る夜長
神奈川県      月野木潤子
秋の夜のクンパルシータ―久に聴く
鉛筆でなぞる古典や夜の長し
入院の夫の手さする夜長かな
長き夜の水仕の音と人影と
長き夜の電話一本ひたに待つ
神奈川県      龍野博史
秒針の規則正しき夜長かな
アイドルの目鼻を評す夜長かな
長き夜のいまだに解けぬミステリー
神奈川県      守安雄介
題詠の迷路にもがく夜長かな
パソコンの写真俳句を観る夜長
婚活の検索迷う夜長かな
バスタブにどっかと浸る夜長かな
大鼾叱れば鎮む夜長かな
福岡県      西山勝男
想を練る一句に執す夜長かな
夜長の灯分けて妻との写経かな
吉報に自祝一盞夜長酒
長き日や法話聴き染む坊泊り
栃木県      鹿沼 湖
静けさにただただ浸り夜長かな
雨音の中にひとりの夜長かな
飼ひ猫の膝に丸まり夜長かな
膝上の猫の寝息の夜長かな
岡山県      名木田純子
町屋筋軒の低きに夜長の灯
子の寝顔厭きず見てゐる夜長かな
宮城県      林田正光
病棟の夕餉終わればはや夜長
パソコンのフリーズ溶けぬ長き夜
長き夜にここ十年の断捨離す
千葉県      桑島幹
長き夜や今は動かぬ大時計
コンビニの立読の増え夜長かな
明日の診断結果待ち夜長かな
ボジョレーの空き瓶となり夜長かな
会議室吸殻の増え夜長かな
神奈川県      川島欣也
大時計なる夜や長し峡の宿
オペ終わる病床の日々夜や長し
続く地震インフラ止まる夜や長し
天井の鼠ごそごそ夜長かな
遠近の夜長を走る救急車
千葉県      山田香津子
大安に書く招待状夜の長し
チバニアンの模型画夫の夜長かな
大活字の更級日記夜長かな
神奈川県      河野肇
主なき部屋の土偶も夜長かな
夜長かな昔男のオッペケペ
月面に土偶一体置き夜長
長き夜川面で歌ふオフィーリア
長き夜やもう眠り給へハムレット
東京都      右田俊郎
夜長とてひとりパイプを燻らせる
夜長とてメールの会話佳境なり
傍らに本を積み上げ夜長かな
夜長ゆへ愉しきことの多かりき
敗着をAIに問ふ夜長かな
神奈川県      猪狩 千次郎
眠られぬ患者隣す夜長かな
行く末のすぐそこにある夜長かな
線香の煙横這ふ夜長かな
ちやん付けでいまも呼ばるる夜長かな
長き夜やそつと帰宅の猫の脚
神奈川県      成田あつ子
逝く日近き犬の息聴く夜長かな
句作りに夫と分かつ灯夜の長し
帰国してまた地図開く夜長かな
クルーズの湾の灯遠く夜の長し
時差疲れ眠りの浅し夜の長し
新潟県      じゃすみん
赤色燈囲む野次馬夜長かな
長き夜や老眼鏡を三個持つ
広辞苑の栞三本夜長かな
愛知県      新美達夫
山車組の会所に集ふ夜長かな
春樹派も周平党も夜長かな
ありさうな都市伝説や夜長し
原案の異議無く通る夜長かな
愛媛県      加島一善
テレビ見る夫婦無言の夜長かな
庭先に猫の目光る夜長かな
天井の木目の化ける夜長かな
星の数千まで数ふ夜長かな
駆け込みの女二人来夜長かな
神奈川県      三好康子
点鬼簿のほつれ繕ふ夜長かな
地図広げ指で旅する夜長かな
ねもころに夫の耳掻く夜長かな
仮名書和紙前に墨磨る夜長かな
小半(こなから)の酒酌み交はす夜長かな
東京都      佐藤博重
子のメール羽田より来し夜長かな
長き夜や帰国せしとの子のメール
長き夜のテニス選手の朱き靴
大言海の父の書き込み読む夜長
帰国デッキよりメール着く夜長かな
東京都      中田ちこう
地震暴れ灯火戻らぬ夜長かな
埼玉県      岸保宏
塾の子のなお賑やかな夜長かな
薪積む犬の遠吠へ夜長かな
守衛所の灯り濃くなる夜長かな
北海道      飯沼勇一
夜長し夜長しかな夜長し
夜長し本閉じてまた本開く
避難所のブラックアウトの長き夜
母危篤夜行列車の長き夜
後悔の海へ漕ぎだす夜長かな
大阪府      山岡和子
夜の長し10年先を考えて
考えのどうどうめぐりして夜長
寝るは惜し俳句読まねばこの夜長
読書して夜長の夫婦向き合わず
東京都      山宮有為子
長き夜や 古いアルバム 出涸らし茶
長き夜や 障子に伸びる 桟の影
長き夜や 泣き寝する子の 髪なでて
岡山県      岸野洋介
ああ夜長同じニュースを三度見る
妻逝きて吾に夜長のはじまれり
若者が酒肆を梯子の夜長かな
夜長とて家族それぞれ部屋籠り
水害の故郷思う夜長かな
千葉県      横井隆和
・長き夜の母のハミングミシンの音
・精読や夜長も速し茜窓
埼玉県      小玉拙郎
念入りに芯を尖らす夜長かな
酒やめて夜長を夜長と満喫す
長き夜を黒々と行く夜汽車かな
昭和史の付箋の数や長き夜
東京都      岩川容子
茶を淹れて読書三昧長き夜
失いし時を憶えり長き夜
長き夜無口な夫をもてあます
長き夜や電話の横に椅子ひとつ
京都府      山辺木綿子
レコードの針新調す夜長かな
夜長なり筆先遊ぶ和紙の透け
妹の失恋ばなし夜長かな
ブラジル      林とみ代
ファドを聞く島の夜長を楽しめり
先駆者の功績称ふ夜長の灯
旅立ちの準備急かさる夜長かな
点滴を数ふ夜長の疎しけり
母と娘の旅の夜長を惜しみなく
千葉県      入部和夫
心地よく寝ぬ晩歳の夜長かな
神奈川県      皆空眞而
長き夜を愛の行き交うスマホかな
音遠し夜長の貨車が時刻む
墨薫る半紙五枚の夜長かな
活字浮き踊る夜長の冒険譚
千葉県      四葩
街の灯は遠し夜長の句に遊び
厨事仕舞ひてよりの夜長かな
漱石も太宰も遥か夜の長し
長き夜の夫婦異なる愛読書
手仕事のための夜長と思ひけり
埼玉県      櫻井俊治
書きて消す父母への手紙夜長の灯
三重県      平谷富之
介護士と苦楽を共にする夜長
ヘルパーとクロスワードする夜長
神奈川県      白銀
夜長思い 月見の席で 寄席木細工
月夜なら  哀愁漂う 夜長かな
失墜の わが振り見ぬ 夜長なり
夜長にて 臆面一途な ススキの風
夜長で 中月の盆に 踊れ闇夜
神奈川県      ぐ
長き夜やMS-DOSのゲーム音
右は歯ぎしり左いびきの夜長かな
長き夜を片付け始め片付かず
地球儀の戦地をなぞる夜長かな
アルバムをめくる匂ひの夜長かな
三重県      西井治男
眼が醒める夜長の一分一時間
足音も消えずに響く夜長かな
埼玉県      哲庵
長き夜や始末書何度も書き直し
車中泊雨の音聞く夜長かな
雨漏りの音絶え間なき夜長かな
読み聞かす絵本五冊目夜長し
通販の声甲高き夜長かな
東京都      遠山比々き
エンディングノート見直す夜長かな
埼玉県      守田修治
印刷所音のこだまの夜長かな
先斗町奥の深さの夜長かな
天上の知人数える夜長かな
風呂道具さびしき音の夜長かな
煮詰まってジャム唄出す夜長かな
大阪府      椋本望生
長き夜のオペ行く末を待ち焦がれ
凹の字の字画を数ふ夜長かな
ティッシュペーパーくつついて出る夜長
天井の沁みをなぞりて描く夜長
墓のことまたも持ち出す夜長かな
福岡県      多事
飲みたきは電気ぶどう酒夜長し
黒猫のやたら寄り来る夜長かな
貨物車の鼓動微少へ長き夜
ランタンの小さき照顧や夜長し
ゲシュタルト崩るるペン字長き夜
神奈川県      月野木 若菜
続編も夜長の椅子の傍らに
ひとりでは持て余したる夜長かな
けふのことけふ伝えたき夜長かな
思い立ちミルクジャム練る夜長かな
歳時記の季語から季語へ飛ぶ夜長
千葉県      みやこまる
窓ひらく月の色した夜長かな
兵庫県      ぐずみ
さきのことおもふてみたる夜長かな
危な絵を秘蔵の閨や夜長の灯
長き夜や歯磨き終えて金平糖
平成の起伏を辿る夜や長し
語り部の背中にケロイド夜の長し
千葉県      堀川真里
ようやくに生家閉じ終え夜長かな
麺麭種を寝かせ無為なる夜長かな
長き夜の眼鏡の螺子の緩みけり
埼玉県      彩楓(さいふう)
それぞれの部屋に籠れる夜長かな
探偵の崖に謎解く夜長かな
離れ住む友に手紙を書く夜長
東京都      豊島 仁
友帰りマーラーを聴く夜長かな
天に地に阿鼻叫喚の夜長かな
黒鯛のあたり遠のく夜長かな
茶柱に仲人受ける夜長かな
ポワロさん謎は深まる夜長かな
京都府      中村 万年青
街灯の仄かに灯る夜長かな
長き夜の庭の楽隊宴たけ
古里の友垣恋ふる夜長かな
東京都      飯田 哲司
世直しや夜長を楯に江戸壊す
今何時聞いて驚ろく夜長かな
七つだち夜明け目覚めぬ夜長かな
神奈川県      髙梨 裕
長き夜の居間のエプロン無言なり
長き労酒と語るる夜長かな
ひつそりと暮らす母いる夜長かな
夜長ならシナトラでいいマイウェイ
長き夜の静寂に写経する時間