俳句庵

12月『年の市』全応募作品

(敬称略)

岐阜県     金子加行
人ごみを好みて向ふ年の市
潰されぬやうに母連れ年の市
裏通り知りて素早く年の市
人ごみに会話途切れし年の市
旅の人邪魔な歩きや年の市
長崎県     塩谷人秀
独身の膂力が迷子年の市
郊外が鯔背なるほど年の市
千葉県     唯我独善
年の市行き着く先は街の黙
年の市売っていますか父の影
年の市買いにきました父の影
年の市父の匂いはかの匂い
居並ぶは金歯の売り子年の市
神奈川県     守安雄介
気がつけば諸手の袋年の市
買わでがも人につられる年の市
髪結うて下駄で立ってる年の市
断捨離を忘れておりし年の市 
シャッターの救う暮らしの年の市
千葉県     柊二
妻のあとカートを引いて年の市
東京都     勢田清
法被着て店員若し年の市
人混みに流され行くも年の市
駅前に屋台並びて年の市
年の市ほそき裏道通り抜け
妻と来てはぐれそうなり年の市
新潟県     近藤博
年の市行き交ふ人の手ぶらなく
妻のメモ渡され出掛く年の市
あれやこれ買ふにまごつく年の市
年の市ところ狭しと並ぶ店
買ひ過ぎや財布の軽し年の市
兵庫県     岸下庄二
手造りの夫婦箸買ふ年の市
嵩のある物は後にす年の市
余所見して妻と逸れる年の市
年の市抜け道もまた人の波
冷やかしの客も数多や年の市
大阪府     藤田康子
二人でずっと生きて来し年の市
黒門の賑はひ見たさに年の市
神奈川県     月のうさぎ
片隅の傷痍軍人年の市
埼玉県     飯塚璋
ポケットに入る熊手を年の市
年の市屋台の幕間猫通る
年の市何買ふでなく一回り
愛媛県     砂山恵子
皿底に昨日の雨や年の市
銀紙の星拾ひをり年の市
雨降れば閉店の札年の市
年の市余りたるもの前に置き
蛸の無きたこ焼きのあり年の市
東京都     柳井裕一
年の市穏やかな雑踏の音
熊本県     貝田ひでを
年の市冷凍食品まとめ買ひ
年の市並ぶガラポン最後尾
混雑も時には楽し年の市
年の市妻のお伴の荷物持ち
愛媛県     渡邊國夫
スーパーの軒下借りて年の市
ちら見して過ぐ押し合ひの年の市
年の市女子学生のアルバイト
確かむる買物メモや年の市
限界集落暮の市なる車来る
島根県     GONZA
居ながらにネットで済ます年の市
デパ地下の産地直売年の市
山里に移動販売年の市
混み合えるサービスエリア年の市
年の市乾物屋まで遠回り
ブラジル     西山溥子
忙しげに聞ゆる響き年の市
温度計三十五度や年の市
掛声のシャツ一枚の年の市
熱帯の果物山積み年の市
青空に雲立ち昇る年の市
奈良県     堀ノ内和夫
年の市思はぬ人と出逢ひけり
売り声のただ懐かしき年の市
掛け声の風突き抜くる年の市
東京都     新保徳泰
ひやかしに覗いてみたる年の市
おがくづに海老の跳ねたる年の市
年の市要らぬものまで買ふはめに
糶り声に気圧されてゐる年の市
寅さんのやうな口上年の市
栃木県     仲川光風
年の市チョコばななは孫へかな
赤べこも起き上がり小法師も買ふ年の市
年の市たこ焼食べる子の笑顔
神奈川県     佐藤博一
メモ帳を確かめながら年の市
日めくりを最後に買ひて年の市
通り過ぎまた戻り来る年の市
売り上手買ひ上手いる年の市
ポチ袋いくつか求めとしのいち
愛知県     遊泉(ゆうせん)
ひやかしも客も絡げて年の市
値切られてやぶれかぶれの年の市
乾物を山盛りにして年の市
参道に野良猫ふえて年の市
あちこちと議員の走る年の市
長野県     木原登
アメ横の雑踏泳ぐ年の市
妻の父へ盆栽を買ふ年の市
年の市買ひしは醤油差一つ
亡き母の指図なつかし年の市
来し方は昭和平成年の市
神奈川県     金剛
金髪の男衆のいる年の市
来年もあなたと生きる年の市
買い物のメモどこへやら暮の市
暮の市はや酒盛りの小屋の裏
暮の市さいごに供花買うてゆく
神奈川県     川島欣也
人込みに連れ見失う年の市
平成の最後みとるや年の市
喧騒のなか身を浸す年の市
裏道の裸電球年の市
年の市財布小銭を残しけり
宮城県     武田悟
男とは買い物下手や年の市
勢いにまたも散財年の市
青森県     竹浪誠也
呉服屋は閉店セール歳の市
店先に野菜せり出す年の市
人混みの心地ほどよき年の市
昼酒の許し請ひたる年の市
混むほどに独りも楽し年の市
東京都     岩崎美範
さりげなく粧せし妻の年の市
あやにくの雨となりけり年の市
壊れゆく母の手を引く年の市
激動の昭和がここに年の市
浅草に人かきわけて年の市
大阪府     金成愛
年の市嫁は姑を恃みつつ
兵庫県     はなちる
年の市大黒さまに父の背や
人絶えて満天の星年の市
看板に墨新しき年の市
頭上からダルマ睨むや年の市
年の市人波避けてカップ酒
愛知県     木下澄枝
年の市思ひおもひの品並べ
呼び込みに買ふもの忘れ年の市
年の市どの路地ゆくも人の波
年の市門をはみ出す店あまた
托鉢僧なども出てゐて年の市
東京都     内藤羊皐
年の市同じ帽子の人ばかり
唄ふごと三本締や年の市
年の市同級生も爺となり
母の背を見失ひたり年の市
昼酒にからだ軽しや年の市
山口県     山縣敏夫
連れ合いと仲むつまじく年の市
年の市ハトが飛び立つ浅草寺
行列のできる店内年の市
あな嬉し孫と一緒に年の市
古希過ぎてどこか愛しい年の市
愛知県     当卯
人と荷に押されて押して年の市
レジ袋の持ち手食ひ込む年の市
年の市軋む発泡スチロール
物売の風に嗄れ年の市
埼玉県     まんたろう
冷かしも顔に出にけり年の市
賑はひの方へ方へと年の市
あれこれと目移りばかり年の市
ぶら下がる裸電球年の市
人集り爪立つ後ろ年の市
広島県     永野昌人
年の市酢章魚は赤く染められて
雑踏に妻と逸れて年の市
屠蘇散も忘れずふや年の市
ゴム紐で吊るす銭籠年の市
大将の塩辛声や年の市
静岡県     城内幸江
鐘の音に早足となり年の市
人混みを覗き込みたる年の市
無造作にお釣り渡され年の市
東京都     石川昇
正月に孫来る知らせ年の市
暮の市思えば災害多き年
兵庫県     岸野孝彦
年の市終わり知らせる鐘の音
借景はスカイツリーや年の市
父母の手の温もり偲ぶ年の市
年の市美登利駆け行く夕べかな
年の市翠の堀の城下かな
宮城県     林田正光
楽しげに袖振り合ひて年の市
人波に逆らひて行く年の市
売る声の天まで届く年の市
年の市掘出物に目が止まる
忙しなき寺社境内は年の市
神奈川県     井手浩堂
来客の数年頭に年の市
妻のあとつきゆくばかり年の市
姉さんと気安くよばれ年の市
呼び声の渦の中行く年の市
幾度もメモを確認年の市
兵庫県     髙見 正樹
灯が入り絢爛競う年の市
年の市まずは下見と通り抜け
三重県     後藤允孝
平成のこれが見納め年の市
臥す父のパジャマ求むる年の市
声高に店主呼び込む年の市
年の市人の流れに逆らゐて
何を買ふことも決めずに年の市
徳島県     白井百合子
決心し備前手に取る年の市
年の市家路を急ぐ松阪牛
年の市最後の勝ちに叩き売り
待ち惚け一人黙って年の市
満員の駅三つ過ぎ年の市
神奈川県     塚本治彦
境内の句碑を隠しぬ年の市
物々の交換もあり年の市
現金でなければ売らず年の市
場所割りの禰宜の指図や年の市
売り買ひの喧嘩腰なる年の市
岐阜県     ときめき人
年の市ひょいと現る寅次郎
栃木県     垣内孝雄
年の市手提げにあまるもの買ひぬ
年の市買ふをためらふものばかり
年の市頼まれものをまず買ひぬ
年の市けふもあしたも混みさうな
年の市あれやこれやと目を遣りぬ
神奈川県     矢神輝昭
年の市貯金箱割り駆けださん
年の市吟行気分で物見遊山
年の市買物さらけ店の裏
大当たり鉦よく響く年の市
年の市家族の下着買うており
千葉県     伊藤博康
外人の口上や良し年の市
年の市知らぬ子供の手を引けり
田舎にはいなかの作法年の市
山の人海の人来る年の市
メモ帳のチェック確かむ年の市
神奈川県     萩原照代
青い目の 少女に出会う 年の市
年の市 しめ縄抱え 人ごみへ
千葉県     長谷川ぺぐ
年の市売り勘定の大雑把
投げ売りのこゑ高々に年の市
値切らずに買ふ縁起もの年の市
年の市踏んで踏まれて睨まれて
年の市押され揉まれてままならず
東京都     佐藤博重
下駄履きて少し背の伸び年の市
年の市白き鼻緒の桐の下駄
下駄履いて背伸びしてみる年の市
仲見世をからんころんと年の市
神奈川県     松風子
買ふでなく見るを楽しむ年の市
押されあふこと今はなき年の市
胴間声の馴染みの顔や年の市
マネキンの外を見てゐる年の市
懐かしき匂ひ漂ふ年の市
千葉県     四葩
取り皿は有田と決めて年の市
小さき町の小さき賑ひ年の市
母の後歩けば楽し年の市
駅前の俄か八百屋や年の市
神奈川県     猪狩 千次郎
裏道の仄暮れ急ぐ年の市
年の市三日の月と帰りけり
夕映の塔見上げつつ年の市
おほらかに小銭散らすや年の市
老僧の下ろし金買ふ年の市
東京都     右田俊郎
賑わいに触れたくて行く年の市
雑踏の中に身を置く年の市
年の市挨拶かわす顔なじみ
年の市売り手買い手のべらんめえ
ふるさとの訛り飛び交ふ年の市
奈良県     平松 洋子
呼び込みも楽しみながら年の市
補助券を集め福引き年の市
来年の福を探しに年の市
年の市寂しくて買ふ花ひと束
兵庫県     山地美智子
深刻な話をしつつ年の市
年の市独り暮らしの友も行く
姑の指示に従う年の市
年の市老父の力頼りにす
買い忘れ夫に頼みし年の市
大阪府     津田明美
年の市馴染みの香具師の赤ら顔
メモになき物も幾つか年の市
平成の最後賑わし年の市
人いきれ酔いて出直す年の市
年の市どこからこうも人人人
東京都     伊藤はな
若き日や夫とはぐれた年の市
年の市むしろ囲ひの裏の闇
抽選の鐘にこをどり年の市
観音のてのひらにゐる年の市
こまごまとメモを片手に年の市
東京都     伊藤之忠
昨夜からの雨も晴れ晴れ年の市
あおあおと飾りの匂ふ年の市
年の市やんややんやと買はで過ぐ
鉢巻の声に足止む年の市
さんざめく加勢の手締め年の市
神奈川県     龍野博史
年の市お国言葉の飛び交へり
年の市身を乗り出して値切りをり
岡山県     岸野洋介
年の市街の四つ辻社会鍋
古本屋ここだけ静か年の市
赤札をまた差し替える年の市
年の市青しめ縄の匂いたつ
搗き立ての餅売る姥や年の市
神奈川県     酔宇
歳々に飽かず見て来し年の市
買わず行く人の流れや年の市
引退の親父が座る年の市
和尚出で笑うて終わる年の市
年の市帰りの道は飲みに寄り
埼玉県     水夢
年の市ビルの真上に昼の月
年の市大判焼きをふたつ買ふ
夫の背を小走りに追う年の市
年の市近道探すふたりかな
うなぎ屋の看板古び年の市
三重県     西井治男
年の市人里離れ座禅組む
足早に右往左往の年の市
埼玉県     櫻井俊治
山積みの注連縄選るや年の市
参道にはや小屋掛けの年の市
愛知県     斉藤浩美
トロ箱の崩れてきたる年の市
レポーターも試食してをり年の市
年の市景気を問へばぼちぼちと
トロ箱を逃げ出す蛸や年の市
一本締めあちらこちらに年の市
千葉県     横井隆和
・傾く眼に肩で泣く子や歳の市
・歳の市外れて路地の月明かり
富山県     岡野満
狭い道なお狭くして年の市
定番の臼杵並べ年の市
足早に横目でチラリ年の市
山形県     齋藤碩志
年の市杖突き老人紛れ込み
通販と競り合う今年の歳の市
メモを片手に賑いの年の市
病み上り顔強張りし年の市
余所見してぶつかり合いの年の市
鳥取県     風紋
年の瀬や何に追わるる訳でなく 
東京都     かつら
路地裏の いつもの店へ 年の市
外っ国の 嫁と買い出し 年の市
空港へ 見送りがてら 年の市
クラクション 野良着脱ぎ捨て 年の市 
年の市 赤子誕生 ラインあり
三重県     倉田 伊都子
年の市 忘れ物あり また覘く
品により 行列なりし 年の市
東京都     ねぎみそ
懐郷の風吹き抜ける年の市
奈良県     一人坊
ぬかるみも早足の嫁年の市
寒空や売り買い急ぐ年の市
大根葉生き生きと立つ年の市
神奈川県     白銀
夕方に ひっそりと行く 年の市
年の市 新年会に 達磨市
年の市 念願の思い 煩うに
昔を思う 年の市あれば 下調べ
年の市 冬の空気で 薫る花
大阪府     永田
家族増え彼方此方と年の市
滋賀県     船岡房公
年の市藁の香青し注連飾り
年の瀬の気配薄れし年の市
機嫌よき妻と連れ立つ年の市
ガラポンは白玉ばかり年の市
弘法も終ひとなりぬ年の市
大阪府     椋本望生
試飲などしなきやよかつた年の市
赤札をせしめて重き年の市
狛犬のよく啼く朝ぞ年の市
波に酔ひ風にも酔うて年の市
エンジンを侍らせ年の市らしき
神奈川県     皆空眞而
空き箱を山と積上ぐ年の市
年の市法被姿の鯔背かな
書付を手に年の市巡りたる
東京都     中田ちこう
ガサ市や松の香残る闇となる
青森県     飯沼勇一
あれやこれ買うて独居の年の市
スーパーの一角賑わふ年の市
あと何度買ひに来れるや年の市
渾身の売り手の声や年の市
年の市空気だけ買ひ戻りけり
栃木県     鹿沼 湖
ぶつからぬやうに歩くや年の市
伝言の二三のありき年の市
見慣れたる癖字のメモや年の市
愛媛県     加島一善
呼び込みの声無き寺の年の市
暮市や抱える桶の檜の香
大黒と恵比須顔売る年の市
福を売る恵比須顔いる年の市
空っぽの財布を拾う年の市
神奈川県     ぐ
年の市耳にも背にも眼あり
年の市耳鳴りひとつ買つて帰路
年の市離婚届けを出す往路
店裏の闇に目がいく年の市
神奈川県     志保川有
おざなりに子を叱る母年の市
切身鮭紅の輝年の市
前掛の売声かする年の市
ポケットは小銭とレシート年の市
年の市ガザ地区の死者二百人
大阪府     太田紀子
年の市缶コーヒーの温かし
年の市かがみて小銭拾いひをり
帰り道背の荷の重し年の市
滋賀県     村田紀子
読みかけの本を片手に年の市
掛け合いに参加してみる年の市
霧深き日々吹き飛ばす年の市
古希過ぎて活気求めて年の市
青物を求め彷徨う年の市
福岡県     西山勝男
片隅に易者も在す年の市
垂れ幕に人の流れや年の市
闇市の跡とは床し年の市
はやばやと神棚買ふも年の市
注連を売る戸板一枚年の市
神奈川県     海野優
年の市身振り手振りの異国客
年の市軽四輪を店がはり
年の市青い眼をした主かな
今日のもの買ふてからゆく年の市
商ひも世間話に年の市
ブラジル     玉田千代美
年の市有り金しぼり買ひ漁り
年の市長い列にて疲れ果て
年の市若い人等の楽しみに
年の市我も我もと急ぎ居り
ブラジル     林とみ代
売る方も買ふも必死や年の市
人波を掻き分け漁る年の市
ボーナスの配分如何に年の市
孫にだけ財布の緩む年の市
老の身に余所事なるや年の市
東京都     石井まゆみ
ふるさとの鉄路辿るや年の市
海からの上るけあらし年の市
お知らせは広報カーなり年の市
年の市人の流れに流されて
築地には門跡通り年の市
神奈川県     梶満理子
あてもなく人に押されて年の市
年の市この日ばかりは太っ腹
東京都     岩川容子
威勢よき手打ちの音や年の市
人の出に押されるままに年の市
年の市物見遊山の人の波
山口県     ひろ子
園芸店割引並ぶ年の市
店数の減り町さみし年の市
つつがなくそぞろ歩きや年の市
神奈川県     成田あつ子
昼間より燈の明るき年の市
呼び声に勢いで入る年の市
人だかり多きを先ず見年の市
買ふ店をいつも決めゐる年の市
行き行きて又戻り来る年の市
茨城県     菊池風峰
掛け声の飛び交う街や年の市
焼きいかの香りの誘ふ年の市
母の手を離さぬままの年の市
注連縄を立てて歩きし年の市
ガス灯の香り懐かし年の市
新潟県     加藤正子
人混みに母の背小さき年の市
泣き笑ひ籠に詰めゆく年の市
年の市呼び込みの声豊かなり
埼玉県     哲庵
町会の補導係や年の市
羽子板のかんざし揺るる年の市
笠売りの爺は何処に年の市
大根をおまけに付ける年の市
初孫の羽子板買ふや年の市
東京都     笹木弘
年の市干支の箸置探し買ふ
庖丁を研師に頼む年の市
篝火の爆ぜし火の粉や年の市
薬研堀の七味を買ひし年の市
狛犬に灯の及びたる年の市
埼玉県     守田修治
楽しみの無法地帯か年の市
あみだくじ当たってうれし年の市
一葉も下駄突っ掛けて年の市
年の市応挙のトラの売りと買い
人ごみに寅さんがいる年の市
福岡県     多事
あの声はなかなか成らぬ年の市
モヒカンもカシミアもゐて年の市
摩利支天黙つてをらる年の市
東京都     遠山比々き
鍛へたる聲立ちならぶ年の市
神奈川県     後藤真子
白髪のきみ生き生きと年の市
電飾にも雪つもりし暮の市
暮市の人みな幸を求めおり
キリスト者なれど楽しき年の市
腕まくりよ熱き声よ年の市
埼玉県     彩楓(さいふう)
素見して異国の屋台年の市  素見して(ひやかして
年の市出汁の試飲のかつぶし屋
海の幸山盛りにして年の市
嗄れ声のねじり鉢巻き年の市
売り声に逸る心地や年の市
神奈川県     三好康子
歳の市筵に並ぶ縁起物
母の忌の供花を買ひ来し年の市
せはしなき母の忌となる年の市
年の市香具師の寅さん探しをり
特別の勢ひと人出年の市
長野県     土屋竜一
年の市みな温もりを買うてゆく
懐に暖忍ばせて年の市
年の市母そつくりなひとがゐる
先代はお元気ですか年の市
年の市幸せさうな客ばかり
千葉県     みやこまる
年の市飛行機雲をしたがえて
禍福とは生きることなり年の市
それぞれの腕に抱きし年の市
悪しきこと良きことも連れ年の市
左手(ゆんで)にも右手(めて)にも幸や年の市
千葉県     堀川真里
母の字に謎の品名年の市
売り声の波濤はるかに年の市
釣銭の湿っておりぬ年の市
京都府     山辺木綿子
年の市赤くかがやく偽りんご
颯爽と歩きゆく巴里年の市
うどん屋の長き行列年の市
年の市平成の世の移りゆく
神奈川県     佐々木 僥祉
父好む肴購う年の市
川岸に一息つくや年の市
山海のめぐみ呼び寄せ年の市
持つ指の冷たくなりぬ年の市
灯の下に茹で立て売るや年の市
東京都     飯田 哲司
歳の市孫にこれだと杵や臼
ぼろ市や下町しのぐ歳の市
歳の市裸電球あたたかく
伝統を背負って続く歳の市
土地々々の歴史感じる歳の市
東京都     綾部 捷子
雑踏に揉まれもまれし年の市
東京都     五十嵐 顕人
年の市先づモンブランより選りぬ
大津には花登の本や年の市
信楽の箸置き求む年の市
神奈川県     髙梨 裕
空店舗飾りて年の市となり
木焚いて景気話も年の市
松作る女庭師や年の市
雨上がり灯りて華やぐ年の市
御飾りもつましくなりし年の市
東京都     豊島 仁
年の市一年ぶりの友に会う
目が合いて福助買うや歳の市
新婚の二人が歩く歳の市
昨日今日明日も平和に歳の市
江戸の風吹けば手締めの歳の市
京都府     中村 万年青
大手筋はソーラー天井年の市
注連縄を路地で商ふ年の市
錦市場のごった返すや暮の市