俳句庵
季題 1月「初空」

- おめでとう初空仰ぎ亡き妻へ
- 岡山県 岸野 洋介 様

- 桜島噴くふるさとの初御空
- 神奈川県 井手 浩堂 様
- 初空に余生の夢を描きけり
- ブラジル 林 とみ代 様
- 初御空朽ちる母屋は美しく
- 神奈川県 亀山 酔田 様
- 面影に立つ友垣や初御空
- 安立 公彦
安立 公彦 先生 コメント
一月の題は「初空(初御空)」。いかにも新年に相応しい題です。辞書にも、「元日の大空。その年初めて明けた空を賞でていう」とあります。歴史の古い季語です。その初空を如何に詠むか。正に十人十色。対象も思いも異なる作品でした。しかしそれぞれの句に、皆さんの感性が良く表現されています。それでは応募作品の中から選出した作品について、鑑賞して参りましょう。
優秀賞の岸野洋介さんの句。この句の「初空」は、単なる天空ではなく、「亡き妻」の御霊の在(ま)す大空です。その初空に「おめでとう」と声を掛ける作者。今にもその空の一方に、「亡き妻」の姿が見えるような思いがします。愛情の深い作品です。
井手浩堂さんの句。「桜島」は鹿児島湾の大隅半島と陸続きの活火山です。洋上に坐すその姿は心の拠り所と言えましょう。久しぶりに帰省の作者に、そのかすかな噴煙は印象的だったことでしょう。飾らない表現に、「ふるさと」が良く活きています。
林とみ代さんの句。人には誰しも「余生」があります。但し余生という言葉は老人寄りです。作者は今、元朝の空を仰ぎ、しかしその思いは「余生の夢」です。その余生の夢を「描く」思いは瑞々しさに満ちています。前向きな姿勢がみごとです。
亀山酔田さんの句。広い敷地に今も残る母屋。その里の旧家なのでしょう。古くなった母屋は時代には勝てず、今は朽ちて来ました。しかし伝統あるその母屋は、朽ちながらも美しい。初空の許、旧家の母屋の景が良く描写されている句です。
今月の佳句。〈しばらくは鷹に任すや初御空 佐藤博一〉。〈初空を千木高々と貫けり 塚本治彦〉。〈嬰児の開きし眼初御空 菊池風峰〉。〈初空や水美しき星に棲み 西山勝男〉。初空との対応が立派です。
◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。