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俳句庵
3月『帰雁』全応募作品
(敬称略)
- 愛媛県 砂山恵子
- かりがねの行きし港に里程標
- さはさはと空鳴る音や雁帰る
- 隠岐島は後鳥羽の島よ雁帰る
- 帰る雁良性でしたと医師のこゑ
- この地から離れぬ脚や帰る雁
- 兵庫県 岸下庄二
- 先発の雁の一団今朝帰る
- 雁帰る岬灯台遠ざかる
- 山城を遥に高く雁帰る
- 一斉に湖面を走り雁帰る
- 連れ立ちて鉤の編隊雁帰る
- 大阪府 藤田康子
- 空と海青のあはひに帰雁かな
- 新潟県 近藤博
- 雁帰るコンパスなきに北に向け
- 物憂げに鳴きつ雲井に雁帰る
- 再会を期して手を振る帰雁かな
- 隊列のやうに整然雁帰る
- 仰ぎ見る一糸乱れぬ帰雁かな
- 千葉県 唯我独善
- 妻の手の眼鏡に映る帰雁かな
- 四島の一括返還帰雁の日
- 雁帰る晩のおかずを買い足さん
- ガンマンは南に向かひ夕帰雁
- 雁帰る寅次郎の旅の空
- 神奈川県 M雪ノ下
- 雁帰る口紅の色替へをれば
- 看板に日射しやはらか雁帰る
- 神奈川県 月のうさぎ
- 子らの声帰雁のV字大飛行
- 雁の名残異国の人が横にをり
- 神奈川県 川島欣也
- 雁帰る諳んじている道標
- 雁帰る山小屋の薪積み終わる
- 雁帰る静寂戻る過疎の村
- 雁帰る地球儀覆う航路網
- 落暉映ゆアルプス越える雁の棹
- 東京都 伊藤はな
- 雁の別れあかねの空の旅にをり
- 一点を向きし千の眼去ぬる雁
- 雁渡るはぐれぬやうに我もまた
- 遺伝子の支配を受けて帰雁かな
- 雁帰る空へ鉛筆走らせて
- 東京都 伊藤之忠
- 去ぬる雁我羨望の故郷に
- かりがねの帰るこだまや茜空
- にぎにぎし帰雁の後の寂かな
- 行く雁や木彫り未だに仕上がらず
- 汽笛鳴る水平線に雁渡る
- 千葉県 柊二
- 湯の宿の雪見の空や春の雁
- 奈良県 堀ノ内和夫
- 帰雁ならむ鳥影映る山の宿
- 神奈川県 立野音思古
- 空高く何処へ帰る雁の群れ
- 雁帰る友に伝えよ我が心
- ただ一羽帰らぬ雁に人惑う
- あかつきの雲間に消えて雁帰る
- 一筋に赤富士向かう帰雁かな
- 島根県 GONZA
- 年々と山は宅地に帰る雁
- 沼の魔法消えて飛び立つ帰雁かな
- 先駆ける帰雁の声や潔し
- 保育所は迎えの時間帰る雁
- 雁帰る北の山塊九十九折
- 東京都 五十嵐顕人
- おんぼらと日を過りけり帰る雁
- 榛名湖をろうろう讃え雁帰る
- ニルスてふ妖精乗せて雁帰る
- 妖精のニルスを語る帰雁かな
- 愛知県 西谷寿
- 帰雁する日は近し親子風見る
- さびしくも帰雁する日は笑顔見せ
- 帰雁する日は良好と急ぐ群れ
- 本能に放浪するか帰雁の日
- ひたすらに帰雁する群れ無事祈る
- 栃木県 鹿沼 湖
- 鈍色の空へ飛び立つ帰雁かな
- 棹となり鉤となり行く帰雁かな
- 北方へ群れてこゑなき帰雁かな
- 東京都 勢田清
- ひたすらに高く飛び行く帰雁かな
- 草野球見上げる空を雁帰る
- 朝空に帰雁の列の限りなく
- 雁帰る別れし人のことばかり
- 手を振りて別れし人や雁帰る
- 東京都 安西信之
- 青空てふ大いなる画布雁帰る
- ブラジル 林とみ代
- 帰る雁に心の悩み託しけり
- しんがりを行くは老いたる雁帰る
- 行く雁や幾何学模様描きつつ
- 行く先は何処の果てや帰る雁
- 雁帰るダムの決壊悲しとも
- 三重県 平谷富之
- 日本の善し悪しを知り帰雁かな
- 買物の我を見届け雁帰る
- 神奈川県 佐藤博一
- 地球儀のどこも正面雁帰る
- 亡き母へ一筆託し雁帰る
- 北からの風に誘はれ雁帰る
- 逢いたきは亡き人ばかり雁帰る
- 雁帰るノアの洪水来る如く
- 神奈川県 金剛
- 雁帰る古傷うずく夕べかな
- 廃校の朽ちし肋木帰る雁
- 子らの声消えて薄闇雁帰る
- 行く雁や若かりし日の父と母
- ふるさとの癒えぬ荒野や雁帰る
- 愛知県 遊泉(ゆうせん)
- 雁帰る余呉の湖深閑たり
- 陸奥の友の如何にや雁帰る
- 雁行くや天女降り来る余呉の湖
- 雁行くや山より海の哀しけれ
- 雁帰る山の彼方は遠江
- ブラジル 西山ひろ子
- 帰雁かな今日は娘の誕生日
- 雁帰る空一面の水墨画
- 家族増える幸せ思ふ帰雁かな
- 細やかな雲間に消えて帰雁かな
- 迎へ待っ国ある幸や雁帰る
- 大阪府 津田明美
- 蒼穹の天に一声雁帰る
- 同胞の眠る地の果て雁帰る
- さやけしは帰雁の声の残す湖
- 静岡県 城内幸江
- 立ち仕事一日長し帰雁かな
- 山々の影は重なり雁帰る
- 雁帰る母は小声で父を呼ぶ
- 雁行きて湿つた空になりにけり
- 長野県 木原登
- 明日帰る雁のあつまる余呉の湖
- 天に地に声ひびかせつ雁帰る
- 行く雁の空に水尾引く竜飛崎
- 湖蹴つて翔ちゆく雁の別れかな
- 外ヶ浜羽搏き渡る帰雁かな
- 岐阜県 金子加行
- 病室に母や帰雁を見しと言ふ
- 決意ある顔のあるかに雁帰る
- 惜別にききたる声や雁帰る
- 眼うらに荒れし山河や雁帰る
- 帰る雁鳴くや夜深の露天の湯
- 兵庫県 髙見 正樹
- 雁帰る取り残されし川景色
- 埼玉県 岸保宏
- いつもより声高になり帰雁かな
- 今日だけは賑やか棚田雁帰る
- 山裾に影こしらえて雁帰る
- 千葉県 伊藤博康
- 真直ぐに振りかへもせず帰雁かな
- 帰雁なり土産話をほどほどに
- また来てね手を振る先の帰雁かな
- 帰雁とやこの山川を忘れずに
- 明日の宿定めぬままの帰雁かな
- 愛知県 当卯
- 雁帰る空弁当のかんからかん
- 雁帰る土産の迷ふ八重洲口
- 雁帰る空弁当のカンカラカン
- 厳しきもありし老師や雁帰る
- 栃木県 長浜 良
- どっと発ち哀しき列の帰雁かな
- 近隣の山低くして雁帰る
- 雁帰る産土神の空飛びて
- 雁行きて昭和短くなりにけり
- 滋賀県 船岡房公
- ミレー絵の少女見上ぐる帰雁かな
- V字にて空も濁さず帰る雁
- 東京都 内藤羊皐
- 貝塚の空昏々と雁帰る
- 抱き合ふ遺児の残せる帰雁かな
- 星辰の疵なき空を帰る雁
- 晩眺の湖を臨んで雁帰る
- 雁ゆきて初弦月の月を残しけり
- 大阪府 木山満
- 耳研ぎて帰雁の声の憐れ聞く
- 夕日負い帰雁北へと去りにけり
- 佇みて暫し見送る帰雁かな
- 雁帰る雲の切れ間を飛び飛びに
- 竿になり鍵になりして雁帰る
- 滋賀県 了庵
- 葬列のしんがりにわれ雁帰る
- 雁帰る月の光をしるべとし
- 雁帰る北に恋人待つごとく
- 入相の湖傾けて雁帰る
- 帰る雁見えますと鍵渡さるる
- 山口県 山縣敏夫
- 沖合に名残の雁や基地の街
- 初孫の泣き叫ぶ声雁帰る
- 雁行くやサイレンの音追うが如
- カメラ手に雁の別れを惜しむ人
- 往く雁を仰ぐ児童の登下校
- 東京都 岩崎美範
- 長旅の無事を念じて雁送る
- 雁帰る吾子の名つけし一羽ゐて
- 被災地の空旋回し雁帰る
- 湖の子の手を振る中を雁帰る
- 明日からはひとりぼつちや雁帰る
- 東京都 笹木弘
- 万華鏡の奥を抜けたる帰雁かな
- スカイツリーを小さくして雁帰る
- 雁帰る前も後ろも空の中
- 雁首を北斗に向けて帰りけり
- 懐にパスポート秘め帰雁かな
- 宮城県 林田正光
- 雨上がり夕陽の中へ雁帰る
- 雁行くや鎮守の杜を経由して
- 雁帰る火の見櫓のその上を
- 雁帰る空行く声の微かなり
- 海に出で一路北へと帰雁かな
- 徳島県 白井百合子
- 列をなしまた遠くなり帰る雁
- 雁帰る瀬戸大橋も揺れるなり
- シベリアへ誰が待つのか帰る雁
- 竹林の真上を帰る雁の帯
- モルヒネを首に吊るすや雁帰る
- 神奈川県 猪狩 千次郎
- 行く雁や吾が琴線をとよもせて
- 沈香を空に焚き染め雁帰す
- 行く雁や汽笛までもがぼおと鳴り
- 一羽二羽振り向く雁の名残りかな
- 行く雁や勝つてさみしも口喧嘩
- 岐阜県 ときめき人
- 魔術師の視線のゆくえ雁帰る
- 長野県 秀林
- 北の島 羨望の目で 帰雁かな
- 神奈川県 塚本治彦
- 病床の窓に見上ぐる帰雁かな
- 杜氏去りしあとの酒蔵帰雁かな
- 去ぬ雁や焼場の煙見てをれば
- 縦長の日本列島帰雁かな
- 車椅子止めて帰雁を見送りぬ
- 兵庫県 はなちる
- 待ち合わせビルの谷間の帰雁かな
- 一服の絵画の如く雁帰る
- 懐かしき大気を目指し雁帰る
- 雁帰群湖面にわかに波泡立ちて
- 夜半過ぎ微かな気配帰雁かな
- 千葉県 伊藤順女
- ジョギングの頭上はるかに雁帰る
- 幼子の手を振っている帰雁かな
- 東京都 石井真由美
- 雁ゆきて寝ぐらひつそり湖沼かな
- 山襞を後にしてをり雁帰る
- がぁーがぁーと家族の絆帰雁かな
- ローカルの午前三本帰雁かな
- 大空の画布に飛び込む帰雁かな
- 東京都 かつこ
- 車中で補聴器offに目借時
- 鳩をみてうさが晴れるや目借時
- 神奈川県 守安雄介
- 潮光る宗谷海峡雁帰る
- 病む雁に一鳴き残し帰りけり
- 雁帰る若鳥連れて戻り来よ
- 残さるる雁を囲いて烏群る
- 人の世の汚れを捨てにに雁帰る
- 山口県 ひろ子
- 再来を誓いて遠く帰雁かな
- 向かい風閉じるまなこや雁帰る
- 神奈川県 皆空眞而
- 囲われて帰雁の頃は「かう」と鳴く
- ただ一羽帰雁の空よ主都東京
- 三日ほど経てば帰雁の田はただ田
- 雁帰る少年未だ魚釣り
- 東京都 佐藤博重
- ふるさとの空をめざして雁帰る
- 岡山県 岸野洋介
- 雁帰る岡山いまはビルの街
- 広き野に煙たなびき雁帰る
- 空仰ぎ帰雁の無事をただ祈る
- 吉井川帰雁の空の下にあり
- 妻の墓帰雁の群れの通り過ぎ
- 青森県 竹浪誠也
- 雁ゆくや龍飛岬は風ばかり
- 騒がしき声や名残の雁なれど
- 北方の領土混沌雁帰る
- 雁ゆくや津軽の三味の乱れ弾き
- 岩木嶺に雲しなだれる帰雁かな
- 大阪府 太田紀子
- 二時間に一回のバス雁帰る
- 母危篤急ぐ車窓に帰雁かな
- 雁帰る能登半島に寄する波
- 三重県 後藤允孝
- 雁去りし池は静寂を持て余す
- 越冬のあかし消し去り雁帰る
- この辺りかつて花街雁帰る
- への字なり帰雁の声のいと侘し
- 雁去りて愛惜深む池の黙
- 埼玉県 いまいやすのり
- 望郷の上野の空や雁帰る
- 夕暮れの空を斜めに雁帰る
- 雁帰る下総辺り点となり
- 帰る雁少年の日の山河かな
- 連れ添うて老医の医院去ぬる雁
- 茨城県 風峰
- 一すじの水尾残して雁帰る
- 池の面のありしものなき雁帰る
- 見えてまた消えてまた飛び雁帰る
- 雁帰る池の面渡る風一陣
- 雁帰る筑波の嶺の上の上
- 神奈川県 松風子
- 翼々と淋しき街を帰る雁
- 旅終えて心平か帰る雁
- 何がしか胸に残して帰る雁
- 心急く羽音をなして雁帰る
- 乱れては列正しつつ帰る雁
- 愛媛県 加島一善
- 雁帰る残せし黒き羽根ひとつ
- 雁去るや月の光を背に受けて
- 雁帰る見送る母の丸き背中
- 雁行くや羽音の弱き一羽をり
- 落日の幕引き終り雁帰る
- 神奈川県 矢神輝昭
- 雁帰るひと航海は長いぞな
- 決めた事振り返らざる帰雁かな
- 雁帰る傷心の吾知らいでか
- 雁帰る鉤や竿型気を揃え
- 吾が母の里へ一瞥帰雁せよ
- 奈良県 平松 洋子
- 雁帰るそして寂しき水辺かな
- 大空へ仲間睦みて帰雁の日
- 渡り鳥宿命背負ふ帰雁かな
- 愛媛県 渡邊國夫
- 雁帰る水軍城に波寄する
- 健やかを羨む日々や雁帰る
- 雁帰る我につきあふ癌のあり
- 朽ちかけのワープロ愛用雁帰る
- 春巻の色よく揚がり雁帰る
- 兵庫県 岸野孝彦
- 北帰行海峡渡る帰雁かな
- 国境も言葉も越える帰雁かな
- 群青の世界に還る帰雁かな
- 空仰ぐ指先遥か雁帰る
- 月を背に雁帰りけり朝茜
- 神奈川県 後藤真子
- 破れども空に帰雁のケセラセラ
- ゆく雁の列や十二使徒のごとく
- 雁ゆきて横浜の海なお碧し
- 雁帰るテニスコートの遥か上
- 行く雁や亡父も北のふるさとへ
- 埼玉県 櫻井俊治
- 夕暮れを渡る川舟雁帰る
- 夕闇に群れを紛らせ雁帰る
- 神奈川県 井手浩堂
- 帰雁いま五重塔へ棹の先
- 真つ平ら帰雁の後の湖の面
- 鎌倉の山は要塞雁帰る
- ブラジル 玉田千代美
- 空高く群乱れずに雁帰る
- 果てしなき深き空あり雁帰る
- 白雲の流れ静かに雁帰る
- 雁帰るミサの鐘鳴る空よぎる
- 大阪府 今野夏珠子
- 薄れゆく雪引き連れて帰雁かな
- 連山の雪を伴にし帰雁かな
- 東京都 石川昇
- 本能とあれど試練の帰雁かな
- 東京都 右田俊郎
- 何ゆえにこの地を捨てて雁帰る
- 住みやすき地に背を向けて帰る雁
- 帰りゆく雁に唱へるお題目
- 新任の地にて帰雁を目撃す
- 着任と帰雁交はる北の町
- 埼玉県 水夢
- 雁行くやラケット重き女学生
- 雁帰る茜に染まるスカイツリー
- 雁帰る疲れの滲む旅かばん
- 双眼鏡はみ出すほどの帰雁かな
- 気がつけば帰雁の空となりにけり
- 千葉県 長谷川ぺぐ
- 一竿の帰る雁かなボール投げ
- 行く雁や運動場の暮れかかる
- 雁帰るふろ屋の煙突がひとつ
- 雁帰る一羽遅れて列を追ひ
- 雁帰る列の一羽の列乱し
- 千葉県 四葩
- 名優の悔いなく逝きて雁帰る
- 速やかに列の整ふ帰雁かな
- 荼毘に付す小高き丘を雁帰る
- 神奈川県 亀山酔田
- 内腿のむちっと張って帰鴈かな
- 帰る雁北の地吹雪やんだのか
- 幾列も残月を蹴る帰鴈哉
- 見届けはあの山越える帰鴈哉
- 一啼きは月の高さよ雁帰る
- 埼玉県 哲庵
- 残業の窓より仰ぐ帰雁かな
- 深川に遊べば帰雁曇かな
- 一人乗る矢切の渡し雁帰る
- 野天風呂浸かり見送る帰雁かな
- 錆朽ちしキューポラかすめ雁帰る
- 神奈川県 海野優
- 雁帰る出発ロビーの慌ただし
- 背に重きいつもの鞄雁帰る
- 北へゆく飛行機の上帰雁かな
- ふるさとは近くて遠し帰雁かな
- 神奈川県 龍野博史
- 小袋をリボンで結ぶ雛あられ
- 雛あられピンクの好きな男の子
- どの色にしよう君への雛あられ
- 大空の果てをめざして雁帰る
- 寂しさを残し帰雁の空に消ゆ
- 大阪府 椋本望生
- 煙突の低き煙や雁帰る
- 波風を鎮めて別る帰雁かな
- 雁帰る沼に水尾を残しつつ
- 一羽飛び二羽飛びどつと雁帰る
- 帰雁西風沼も濁世の一つかな
- 東京都 中田ちこう
- 雁帰る終列車待つ無人駅
- 福岡県 西山勝男
- 雁行の湖北の空に翳りなし
- 惜別の声こぼしつつ雁帰る
- 行く雁の棹をととのふ空深し
- 雁引くや防人の碑へ声を引き
- 雁帰る湖北の空へ旅愁ふと
- 神奈川県 原川篤子
- 星々よ燦然とあれ雁帰る
- わが胸におおき洞あり雁帰る
- 雁帰る今や鳥居はビル狭間
- 雲一朶富士に残れり雁帰る
- 憂ひ一つわれに残して帰雁かな
- 神奈川県 志保川有
- 雁帰るカンパネルラの星空を
- 痛む腰反らせし先の帰雁かな
- 殿の名残のひと声雁帰る
- 雁帰る石狩川の寡黙なり
- ホームレス歌人の矜持雁帰る
- 東京都 岩川容子
- ときどきは列を乱して帰る雁
- 北へ行く夜汽車の汽笛雁帰る
- 北めざすその一徹の帰雁かな
- 雁帰る浜食堂の店仕舞い
- 愛知県 新美達夫
- 来し方を顧みはせじ雁帰る
- 国境は仮の決め事雁帰る
- 祖たちの北へ北へと雁帰る
- 生きてある輩糾め雁帰る
- 神奈川県 ぐ
- 洗濯に帰雁の空の広きこと
- 夕映えを影数多なる帰雁かな
- 雁帰る別れの文を描きつつ
- 大富士や雁帰る先晴れ渡る
- 葬列や帰雁の声の近かりき
- 神奈川県 三好康子
- はろけしやこゑ落とし行く雁の棹
- オホーツクの海傾けて雁帰る
- 行く雁のはろけきこゑを愛しめり
- 遥かなるV字の影や雁帰る
- 行く雁や繰り返し読む子の手紙
- 千葉県 みやこまる
- もう一つの姓を辿るや帰る雁
- 雁帰る己が出生地の記憶
- 雁帰る雲の名ひとつ覚えけり
- 百五十年会津魂雁帰る
- 伯父卒寿小さき窓より帰る雁
- 千葉県 横井隆和
- ・隊形でマタネッと残し帰る雁
- ・終活す灯下に帰雁の声を聞く
- ・終活の灯下に届く雁音かな
- 愛知県 斉藤浩美
- 雁去りて沼は退屈してゐたり
- 雁帰る廃炉の町を眼下にし
- みちのくは復興半ば雁去りぬ
- 宙(そら)の色数限りなく雁帰る
- 列なして校歌の空を帰る雁
- 埼玉県 小玉拙郎
- 汽水湖はさざ波ばかり雁帰る
- 山並みを西北へ越え帰る雁
- 羽根音は遥か雲居や雁帰る
- 望郷を力に千里雁帰る
- 東京都 豊宣光
- 夕空に帰雁の列や鳰の海
- 雁帰る平成終わる夕空を
- 水はねて旅立ちのとき帰雁かな
- 空高く雁行くころの愁いかな
- 帰雁の図掛けて和風の部屋となり
- 熊本県 貝田ひでを
- 雁帰る空にも路があるやうに
- 雁帰る空を見上げるホームレス
- 「バイバイ」と児らも手を振る帰雁かな
- 三重県 西井治男
- 水温み帰還準備の帰雁かな
- ふたつあるふるさと目指し帰雁群
- 埼玉県 守田修治
- ポケットにランボー詩集雁帰る
- 雁行くや口に含みし酔い醒まし
- 帰る雁朝の御神籤吉とあり
- 空はいま祝いのひかり雁帰る
- 海境を無心に目指す雁一家
- 東京都 岱鵬
- もう行くか夕陽に染まる帰る雁
- 帰る雁ひこうき雲の交差点
- 水墨の一条煌めく雁帰る
- 先達に続きて湖面や雁帰る
- 再会を祈りて帰雁カーテン引く
- 東京都 遠山比々き
- 帰る雁発たせて夜の沼ひかる
- 埼玉県 彩楓(さいふう)
- 煙突に日の出湯とある帰雁かな
- 故郷の星空恋し帰る雁
- 行く雁や特攻基地の青き空
- 両の手に買い物袋帰る雁
- 神田川江戸城外を雁帰る
- 千葉県 堀川真里
- 暴力のニュースさまざま雁帰る
- 雨樋を雨こぼれたる帰雁かな
- 雁帰る逢魔時の風の色
- 兵庫県 ぐずみ
- 「俊寛」の舞台胸うつ帰雁かな
- 前書 備中吹屋 弁柄の屋根に影する帰雁
- 大屋根に猫のあえぎや月に雁
- 筑波嶺に那須に奥州雁帰る
- 義経の神話ひも解く帰雁かな
- 福岡県 多事
- タケさんと太宰の座像雁帰る
- 山の端へ帳ひきゆく帰雁かな
- 雁帰る蔵より出し羅針盤
- 薄月へ自転車漕ぐや雁帰る
- 雁帰るキャンプ場しか火は焚けぬ
- 神奈川県 髙梨 裕
- 行く雁や村残る子の逞しき
- 巣立つ子の後ろ姿や雁帰る
- 待つ人のいてこその家雁帰る
- 青空を帰る雁あり背広脱ぐ
- 神奈川県 髙梨 裕
- 雁帰る夕餉のお茶の温かき
- 東京都 豊島 仁
- いつか見た切手に在りし帰雁かな
- 明けやらぬ空は帰雁の声ばかり
- ガヤガヤとボスの命待つ帰雁かな
- 一直線旅路はるかな帰雁なり
- 旅の宿帰雁帰雁と起こされし
- 京都府 中村 万年青
- 雁帰る先頭行くは誰かしら
- 迷はずに古里めざし帰雁かな
- 近江には未だ二三羽の春の雁