俳句庵

6月『父の日』全応募作品

(敬称略)

長崎県     福嶋義則
父の日の妻は赤米混ぜて研ぐ
父の日や視線反らして猫を呼ぶ
奈良県     堀ノ内和夫
父の日や代はり番こに背を流す
父の日や手製の机捨てられず
愛媛県     砂山恵子
さりげなく内定通知父の日に
父の日を否と言ふ子もをりにけり
父の日の二十三時の電話かな
父の日や大海原を見てをりぬ
父の日と暦に父の癖字かな
神奈川県     松野勉
父の日や籠鳥を買ひ放鳥す
父の日や虎家喜といふ菓子を買ふ
千葉県     ワカシ君1年生
父の日や助演男優賞に漏れ
父の日の正解率や20%(パー)
「父の日ね、ゆっくりしてねお父さん」
千葉県     ワカシ君一年生
父の日のなかった家の子も父に
父の日や六月第三日曜日
父の日や「憎まれ役」の目に涙
父の日は名ばかり何とかみたいな日
父の日の謂れを語る子に髭が
千葉県     柊二
ジーパンへ通す父の日白き脚
愛知県     遊泉(ゆうせん)
父の日やしみじみ想ふ子煩悩
父の日や昔贈った帽被る
父の日や少なくなりし明治人(めいじびと)
父の日や父の遺影の笑ひさう
父の日や娘ばかりの祝ひくれ
島根県     GONZA
父の日に禁煙禁酒誓わされ
父の日に屋号の付いた家に寄る
父の日に父である為筋トレす
父の日の父に見せたき海のあり
父の日や父が何処にも見当たらず
岐阜県     金子加行
父の日の出勤だれも見送らず
父の日の父を泣かせて子の拍手
父の日に酒注ぐまでに子の育つ
父の日に母のなき子の揃ひたる
父の日に音痴自慢を歌はせる
新潟県     近藤博
父の日や鬼籍の考(ちち)を想ひ出づ
父の日や我が昭和史の軍事便
父の日や長寿を寿ぐ電話あり
父の日にプレゼント受け気の付けり
母ならぬ忘れ勝ちなる父の日は
静岡県     平太
父の日や耳鳴りがする何時からか
父の日や母の向こうに日の当たる
神奈川県     佐藤博一
父の日の父の残せし作務衣かな
父の日の孫が継ぎ足すビールかな
父の日や更けてより来る子の電話
父の日や父の遺影に吟醸酒
父の日や原色のシャツ着せられて
東京都     笹木弘
父の日に父の工場見学す
父の日や競馬新聞に赤い丸
父の日に父より釣れる子供かな
父の日の机に置かる父の顔
父の日に単身赴任の父帰る
神奈川県     神田央子
父の日の地震のニュースや父の里
東京都     石川昇
父の日も知らず畑へと向かう父
父の日や納屋に形見の杖と鍬
山口県     ひろ子
父の日や寡黙な日々の遠くなり
父の日もスマホ相手の子の多し
父の日やかぼそき文字の古日記
父の日の遠き記憶や腕相撲
栃木県     鹿沼 湖
父の日や眉太く描く童の手
父の日やポロシャツ選ぶ百貨店
父の日の父の顔描く参観日
父の日のおまけのやうな三時間
父の日や紙いつぱいの文字と顔
東京都     五十嵐顕人
父の日や兄の求めし若狭箸
父の日や逐えば齢の近づきぬ
父の日や大恩なれば供花せし
父の日や母と揃いの輪島箸
父の日や求むさかずき益子焼
大阪府     森村冨美子
父の日や遺愛を子らに渡すなり
父の日や遺影と語る子等のいて
父の日に遺影と子等は酌み交わす
千葉県     伊藤博康
父に日に大皿に盛るサラダかな
父の日や顔綻びる猪口一杯
父の日や老老介護の身になれば
父の日に過労死をふと思ひけり
父の日に遅き帰りの父を待つ
ブラジル     林とみ代
父の日や親子で交す祝ひ酒
父の日や赤ひげドクターなりし父
父の日を祝はれ照れる顔可笑し
父の日も知らずに逝きし父偲ぶ
七人の敵と闘ふ父の日よ
長野県     木原登
子の小さき日のこと父の日に思ふ
父の日に為すこと何もなかりけり
父の日を帰る夕日の日本海
父の日の贅は昼湯にひたること
燦々と日は高空に父の日来
大阪府     永田
父の日や父に我が名の謂れ聞く
父の日や父の所望のいなりずし
父の日や鬼平全巻贈ろうか
宮城県     石川初子
父の日や父のない子になりにけり
愛媛県     渡邊國夫
父の日や戦に散りし父のこと
父の日の母の説教くどくどし
畝づくりして父の日の暮れにけり
父の日や門跡の説く八正道
父の日や図書館脇の長ベンチ
兵庫県     はなちる
メール無くため息父の日暮れゆく
父の日や髭剃りあとの清々し
父の日のトロピカルジュース一気飲み
父の日や母も参加のサプライズ
父の日や寡黙の背なの暖かき
愛知県     西谷寿
父の日に孫に祝われ年を知る
父の日が来るとうれしく騒ぎ出す
父の日に背広を着せて涙出る
父の日に痴呆進んだ悲しさよ
いつからか父の日俺の祝う日に
大阪府     藤田康子
父の日や笑顔の父を留めおく
父の日や明治生まれの鍛冶屋の子
父の日や独り死なせしこと想ふ
静岡県     城内幸江
父の日やリボンを解くごつい指
父の日に敢えてどこにも行かぬ父
父の日や孤独な時間物足りぬ
父の日や椿油の香る部屋
父の日の湯呑にありがとうの文字
茨城県     風峰
父の日といふ男らのノスタルジー
父の日の花はやっぱりコルチカム
父の日や自慢話も何処へやら
父の日や白黒写真の中笑顔
父の日やもう六十年も経ちました
兵庫県     髙見正樹
父の日や子よりも孫と長電話
東京都     安西信之
父の歳越へて父の日迎へけり
東京都     内藤羊皐
父の日の朝陽に嘔吐く少女かな
銭湯に赤子抱きて父の日よ
筮竹の端を父の日暮れにけり
父の日に肩甲骨の又尖る
父の日の千の般若の眼かな
神奈川県     ―
父の日や子の似顔絵の太き眉
ふたりめの父の日の父背のまろし
父の日ね姉は箸止めつぶやきぬ
父の日はせめて晩酌大吟醸
父の日はいつもと同じ日曜日
千葉県     渡邉竹庵
父の日と子よりカードの旅行券
父の日や道具箱には鑿鉋
酌み交わすこと吾子ありて父の日よ
父の日やすんなり開く桐箪笥
似たような鏡の額父の日か
東京都     勢田清
父の日や誇り得ること何も無し
父の日の観音経を父聞くや
父の日や洒落た帽子を子に貰い
父の日や父の残せし将棋盤
父の日に父の俳句を読み返す
埼玉県     飯塚璋
父の日や父の歳まであと五年
串団子供えて父の日を思ふ
東京都     岩崎美範
父の日や雷親父いまいづこ
父の日の父と肩組む古写真
父の日は尻こそばいと父言へり
父の日や父の愛せし鼻眼鏡
似顔絵と孫の手届く父の日よ
岐阜県     ときめき人
父の日や白髪刈りて凛とせり
徳島県     白井百合子
父の日に遺愛の釣具子に持たせ
父の日や三ヶ月後の一周忌
父の日や無口な夫が待つ彼の世
父の日や亡夫の留守電の声
父の日や銘菓ふたつと供花を買う
愛知県     木下澄枝
父の日や父といちにち車椅子
父の日や時報違はぬ古時計
父の日やこのごろとみに母のこと
真顔なる父の日の父腕相撲
父の日や碁敵を待ち落ちつかず
大阪府     津田明美
父の日の母のひと言ありがとう
父の日の雑踏それぞれの父の背
父の日や言葉はいつも空回り
父の日の昔語りや肩車
父の日や父知らぬ子も父の顔
ブラジル     西山ひろ子
父の日や何時もの席に夫の笑み
父の日の子等の合作ケーキかな
父の日や思ひ出何も無き姉妹
父の日や享年若き父を恋ふ
父の日や今朝の遺影の笑みたもふ
兵庫県     岸下庄二
父の日や庭訓開き父偲ぶ
父の日や父の写真のセピア色
父の日や父の拳骨懐かしむ
父の日や仏間の遺影若かりし
父の日のあってなかりし我が家かな
神奈川県     井手浩堂
初産の子に初めての父の日よ
父の日の何やら二番煎じめき
父の日や初子生まれしとき想ひ
山口県     山縣敏夫
父の日が令和のあとを追ってくる
父の日は刺身のつまに似合いけり
父の日に焼酎届く娘より
父の日は何もできずに悔いにけり
父の日に孫よりメール爺が好き
奈良県     平松洋子
力瘤見せて頑張れ父の日に
父の日や父より超えし歳月来
欲しがらず仕事着一つ父の日よ
三重県     平谷富之
父の日や好きなゴルフを天国で
父の日やプレイボーイは父ゆずり
三重県     後藤允孝
父の日の駄洒落は耳を通り過ぐ
父の日や遺愛の中の腕時計
父の日と云えど分からぬ父の顔
父の日や写真から見る頑固さが
父の日や昭和を語るジャズ喫茶
神奈川県     塚本治彦
父の日や父の介護に明け暮れて
父の日の父デイケアへ送り出し
父の日や昭和の父の強かりき
父の日の父へオレオレ詐欺電話
父の日の父返納す免許証
ブラジル     玉田千代美
父の日や渡伯を嫌ひあの世逝く
父の日や孝行もせずに胸痛む
大阪府     宮田一代
父の日や滑りの悪き算盤珠
父の日や固き竜頭を回す音
東京都     佐藤博重
父の日や子の執筆の新刊書
父の日やシャンパンの泡鼻につけ
父の日やケーキ肴に酒を酌み
父の日やショートケーキと朱のネクタイ
埼玉県     いまいやすのり
父の日に四人姉妹の祝膳
父の日や子の手料理に笑みこぼれ
父の日や背ナに残るる戦影
父の日に送るメールの照れくささ
父の日や雷おやぢ鎮まれり
神奈川県     矢神輝昭
父の日や赤ら顔して口八丁
母父と比べて父の日の軽し
掛かって来い父の日の父笑顔かな
父の日や懺悔の日日の巡るたび
過ぎ去りし父の日思ふ腕相撲
滋賀県     了庵
父の日や紙に大きく父の顔
父の日の男ばかりの喫茶店
父の日や両手て撫でる杉の幹
何事もなく父の日の過ぎにけり
父の日や田を一回りして帰る
千葉県     伊藤順女
父の日や父も遊びし宮の杜
肩車の難民父の日の行進
青森県     竹浪誠也
父の日のたつぷりもらふ自由かな
父の日や父になり切れなくて老ゆ
父の日や古樹ことごとく捻れをり
父の日を棚の修理に使い切る
父の日や父より母へ感謝の辞
岡山県     岸野洋介
亡き妻の話ばかりや父の日も
父の日やカラオケ喫茶ドア狭し
妻なくし父の日孫子みな集い
父の日を鶴首して待つ老い鰥夫
父の日や子らと亡き妻偲ぶのみ
宮城県     林田正光
父の日の広告見てる父を見る
父の日を知ってか知らず父不在
本年も過去完了の父の日に
父の日や父の背中をしみじみと
父の日の存在感の軽き日や
千葉県     四葩
父の日やぶたれしことの一度だけ
父の日や少し若やぐ服選び
父の日や酒を飲まずに過ごす父
神奈川県     龍野博史
父の日や何もいらぬと言ひつつも
満面の笑み父の日の吟醸酒
父の日や一言添へて吟醸酒
大阪府     椋本望生
棋譜並べ父の日らしくたばこ吸ふ
父の日や一人娘の酒の香に
父の日と言へど尿意の多きこと
父の日のふんと言ふ父嬉しさう
父の日のミットを弾く孫の球
神奈川県     皆空眞而
父の日を父を演じし兄に謝す
父の日を子の齢だけ重ね老ゆ
父の日や倅の嫁の義理堅き
神奈川県     重兵衛
父の日や五百羅漢に父の顔
父の日とメールで知るや旅の夜
なんとなく父の日らしき夕餉かな
父の日の父の帽子の凹みかな
神奈川県     亀山 酔田
父の日の焦げ目の深き目刺しかな
父の日や鞄へ仕舞う宝くじ
イタリアのリキュール苦し父の日よ
父の日や古い切子が売りに出て
父の日は日本酒のよき孫の来て
広島県     永野昌人
父の日に父の大きな下駄ありき
父の日やともに無口でありし日よ
東京都     一心父乱
父の日の 母は紅差し 妻となり
父の日の 親爺は何故か 余所余所し
父の日や 朝一番は 父床屋
東京都     永久父変
父の日や 飼い猫父の 膝の上
父の日は 家族全員 揃い踏み
父の日や ツーフィンガーの ハイボール
東京都     父朽父滅
父の日や 還暦過ぎて 酒旨し
父の日や ケーキも食うし 酒も呑む
父の日は リフレインする ボブ・ディラン
東京都     右田俊郎
髪うすき父の日の父影うすし
父の日に父の癖字の日記帳
父の日や父の遺愛のモンブラン
父の日は単なる母の日のおまけ
父の日は無縁シングルマザーの子
東京都     かつこ
父の日は新茶の香り仏壇に
父の日は妣の淋しさ酒に暮れ
父の日や上野の森の刀剣展
東京都     中田ちこう
かたたたき珈琲飲めぬ父の日か
埼玉県     櫻井俊治
父の日の娘の手紙胸に沁む
神奈川県     原川篤子
父の日や妹何時も胡座のなか
父の日や途切れしままの漢詩帳
子ら描く父の日の髭濃かりけり
父の日や叱咤優しき夢の父
父の日の母と選りたるプレゼント
東京都     豊宣光
父の日や笑顔で受けるプレゼント
父の日に子らが集まる平和かな
父権なきわれは父の日忘れられ
父の日や父なき子らの悲しみは
父の日や遺影の父に灯をともす
愛媛県     加島一善
留守電の父の声聞く父の日は
父の日や父の歳超し生きてをリ
父の日や我も米寿の歳となり
父の日や万年筆の艶戻る
何事もなくて安堵す父の日は
神奈川県     志保川有
父の日や子のそこここに在る親父
父の日や野の花を活く妻のおり
父の日や父の使ひし鎌を研ぐ
父の日やかつて抗せし父となる
父の日に孫に持たせしオールドパー
大阪府     木山満
父の日や世は移ろへど恩永久(とわ)に
父の日の無き世に逝きし墓に酒
父の日や同じ齢となりにけり
あの世にて共に乾杯父の日に
父の日や烏賊刺身(いかさし)恋し父恋し
東京都     伊藤はな
平かに父の日過ごす一日かな
父の日の雲は大きな鯨雲
父の日も家長の椅子は待ちをりぬ
父の日も家長の椅子は待ってをり
神棚へ父の日届く封書置く
東京都     伊藤之忠
父の日を社会参加出来る幸
ジーンズを父の日の正装となし
父の日の注しつ注されつ夫婦膳
父の日の猫ながながと横たはる
父の日も後期高齢集合す
岐阜県     雅風
父の日の我は一日関白に
父の日や婿より届く大吟醸
父の日とばかりによいしよされにけり
我儘を父の日ゆえに許されよ
父の日や書斎に遺るロレックス
神奈川県     守安雄介
父の日や真実知るは母ばかり
父の日の茶髪に黙す父哀れ
父の日の父の父役果たしけり
父の日の濁声聞きに帰りけり
父の日の悲しさ二倍誕生日 
千葉県     小泉芝雲
父の日や嫁より酒の送りくる
父の日や帰らぬ父に一献す
父の日や遺影に向かひ偲び酒
父の日や二人の子らも子の父に
父の日や歌舞伎座切符プレゼント
大阪府     太田紀子
父の日や亡夫の写真に薄埃
父の日や父の聖書に夕日あり
後姿の父に似し人父の日や
愛知県     斉藤浩美
父の日のためリクエストはがき書く
父の日やギャンブル好きの父なれど
父の日や今日も畑で鍬を振る
昼酒はすぐに酔うもの父の日に
父の日や携帯電話持たぬまま
三重県     西井治男
「ありがとう」魔法の言葉父の日に
父の日か母との格差留まらず
北海道     飯沼勇一
父の日や父は早起きしてをりぬ
父の日の父残しみな出掛けをり
父の日や父は気づかず一日過ぐ
父の日や縮む背の父施設より
父の日や障子に父の影薄く
千葉県     長谷川ぺぐ
父の日や大好物を供へけり
父の日や一家揃ひて水入らず
デイ休み父の日皆で労れり
父の日や何回目かと問はれけり
父の日の父の苦労話かな
愛知県     新美達夫
父の日に呉れし帽子と思ひけり
父の日を忘れをりしと嘯きぬ
父の日や考に聞きたきこと一つ
父の日や日に日に父の貌となり
父の日や嫌ひし父に吾を見て
神奈川県     海野優
父の日の銚子一本増えてをり
父の日や今日もて煙草絶つ決意
父の日の句点を一つ打ちにけり
父の日や抽斗の奥肥後守
包丁を研いで父の日暮れにけり
神奈川県     川島欣也
親離れ父の日とうに忘れられ
父の日や小遣いもらふ孫を連れ
父の日の遺品の時計時刻み
茶柱の立つ父の日の湯呑みかな
父の日や子を持ち知るや親心
東京都     岩川容子
父の日に子の名で届く宅急便
父の日に昭和を熱く語りけり
父の日を祝う子供も父となり
埼玉県     守田修治
父の日の猫より軽き欠伸かな
父の日や床屋に映す老いた顔
父の日を独り楽しむ焼鳥屋
父の日も母の饒舌父寡黙
父の日の仕事終わらず町工場
栃木県     垣内孝雄
父の日やバケツにかかる荒雑巾
父の日や猫のすり寄る昼下がり
父の日やVISAより届く明細表
父の日にラーメンすする厨かな
父の日を忘れてゐたる古希まじか
埼玉県     哲庵
父の日や肩たたき券今年もや
父の日は独り吟行楽しまむ
父の日や生前贈与の話など
父の日や墓のカタログ届きたり
父の日や千ベロ酒場にて独り
山梨県     森下博史
父の日の次の日に来るおめでとう
落花生手のひらで割る父の日
父の日に天に向かって乾杯す
幸せと服に無関心な父の日
父の日に80円の砂の器
東京都     遠山比々き
父の日のブルマンにほふ仏間かな
父の日の初孫を抱く息子かな
東京都     石井真由美
父の日やまとめて祝ふバースデー
父の日や花から酒のぐい呑と
父の日や黄色のあふる花屋かな
滋賀県     船岡房公
父の日やベルトの古りし腕時計
父の日や形見分けなる腕時計
埼玉県     小玉拙郎
父の日や墓参までとは言わぬはず
父の日や残る文箱の肥後之守
父の日や湯屋で手足を伸ばしきり
父の日やキャッチボールを日暮れまで
千葉県     入部和夫
父の日や長子娶りて思案なし
父の日や婿に来りし父の墓
父の日のあるを知らざる吾子二人
父の日や本の余白に父のメモ
父の日や父の十八番の木曽踊り
埼玉県     吉野静
父の日の父さん役も母の役
父の日があるから寂し父もいる
父の日の家族招待父の役
父の日に何事もなく過ぎし父
父の日や頑固の父も素直なり
埼玉県     水夢
父の日や遺影の前に碁盤かな
父の日や碁盤に父の筆の跡
父の日や病院までの長き坂
父の日や形見となったロレックス
髭そりは薄刃と決めた父の日よ
福岡県     多事
父の日や水飲んだかと責めらるる
父の日やカレー四皿あけし父
父の日の日がな蛸突く日となりぬ
父の日や開高健の釣り談義
父の日の指にこそばき濱の砂
福岡県     西山勝男
父の日や父の遺影へ盃重ぬ
余生なほ土と向き合ふ父の日よ
父の日は仏にわびる事多し
父の日の母の日よりも寂しけれ
父の日や父の齢を疾うに越ゆ
福岡県     紅さやか
父の日や病床日記古りたる
父の日や陳列棚の孔雀石
神奈川県     三好康子
父の日や祝ぎ言のみの子のメール
父の日のネット用語のメッセージ
父の日や生涯寡黙でありし父
父の日や「老ひ」は「生ひ」とて励まされ
父の日や妻より贈る端渓硯
千葉県     みやこまる
脛かじり尽くして父の日の墓前
父の日に母へ孝行してをりぬ
父の日と知る仏壇のかやく飯
父の日や来世も父と決めてをり
東京都     田中史子
父の日やコーヒーミルの軽き音
神奈川県     佐々木重夫
父の日の鰺のたたきに猪口三つ
父の日の父が語りし遠き父
父の日や花壇に等間隔の苗
雨降る父の日黴臭き書斎
父の日の父あい変はらず囲碁打てり
東京都     飯田 哲司
父の日や昭和の御代をひたすらに
父の日や昔たどれば戰あり
父の日や母に及ばぬ花の色
父の日やしぶく元気に残り旅
京都府     中村 万年青
父の日や過ぎにし頃に思ひ出し
亡き父にありがとうとも言へなくて
いつからか父権弱まりああ昭和
神奈川県     髙梨 裕
誰にでも父いて父の日父なき子
父の日の父の健啖傘寿翁
父の日や十年前の置き時計
父の日をホームの父と子に戻り
父の日や働き詰めの父がいた
東京都     豊島 仁
父の日や遠方の富士何願う
父の日や父の日いつか父知らず
父の日や今年も言えぬ有難う
父の日や世辞なき猫の深情
父の日やレミーマルタンそっと開け