俳句庵

9月『灯火親し』全応募作品

(敬称略)

宮城県     西條光観
一つ部屋燈火親しや子も親も
燈火親し倉庫に眠る子の机
独り言つ燈火親しや寡婦の家
燈火親しスマートフォンの純文学
思うまま燈火親しむ退職後
ブラジル     西山ひろ子
マージャンに灯下親しき仲間かな
灯下親し孫ゐて子等や夫もゐてし
仕舞湯の灯下親しむ五体かな
灯下又親しく見たり特選句
灯下親しレモンの香る紅茶かな
新潟県     近藤博
積ん読を灯火親しみひもとけり
灯火親し電燈なれどそれなりに
灯火親しひねる句あまた夜半なるも
灯火親し推敲重ぬ夜のくだち
妻寝ねど灯火親しみ書に耽る
愛媛県     砂山恵子
灯火の秋見慣れし癖の文字のルビ
灯火親しや隣家の鍵の閉まる音
図書館に母校の鞄灯火の秋
灯火の秋古アルバムに知らぬ顔
仮通夜に賜ひし自伝灯火親し
長野県     木原登
灯火親し千夜一夜を今日も読む
水飲み鳥かたへに灯火親しめり
父子階をたがへて灯火親しめる
灯火親し円坐で歌ふ山の歌
深山に友と親しむ灯火かな
千葉県     柊二
天井に繰るる頁や燈下親し
兵庫県     岸下庄二
灯火親し父の形見の日記読む
それぞれに灯火親しむ吾と妻
灯火親し老人と海読み始む
灯火親し老眼鏡を買ひ替へる
灯火親し自選の五句を投稿す
大阪府     藤田康子
灯火親し古本市の「山月記」
灯火親しハングルブーム静まりて
神奈川県     松野勉
旅宿の書室の風や灯火親し
嫁と子の重なる寝息灯火の秋
東京都     勢田清
灯火親し時間は豊か思いきり
灯火親し図書館の本積み上げて
灯火親しブラッドベリの聖少女
灯火親し父の書き込み有る句集
灯火親しゲーテ詩集の手に馴染
神奈川県     佐藤博一
食卓は妻の文机灯火親し
声出して灯火親しむ杜甫李白
珈琲を灯火親しむ友として
これからが私の時間灯火親し
介護士の灯火親しき身のこなし
千葉県     いなだ君二年生
会話なき妻と灯火親しめり
還暦や灯火親しく妻疎く
終活の雑誌に灯火なほ親し
兵庫県     村山祥江
孫スマホ 灯火親しむ 指一本
灯火親し 数独のペン 転がして
灯火親し 子らの寝息は BGM
灯火親し 三日坊主の 語学かな
老眼鏡 上げ下げ 灯火親しみて
埼玉県     飯塚璋
一人身や灯火親しむ夜の雨
灯火親しハズキルーペを脇に置き
灯火親しむ言葉要らずの友とゐて
大阪府     木山満
灯火親し吾子に語りぬ亡母(はは)の事
八十路超えしみじみ灯火親しめり
惚れ惚れと自作の句集灯火親しむ
灯火親しルーペ片手に老いを読む
灯火親し今生の幸死後の幸
島根県     GONZA
灯火親し親子二人のダイニング
灯火親し長坂橋に大音声
灯火親し父の注釈金釘流
灯火親し時々サクマドロップス
笈降ろし灯火親しむ旅衣
東京都     内藤羊皐
灯火親し妻の不在のカップ麺
糸解る辞書引き灯火親しめり
灯火親し天地違へて絵本の子
灯火親し居間を列なるプレオール
灯火親し初孫賜ふ書信など
千葉県     峰崎成規
灯下親し万の生活に万の窓
灯下親しルビが引き寄す天眼鏡
灯下親し記憶を繋ぐ栞紐
灯下親し句作の指に電子辞書
灯下親し今も達者な肥後守
東京都     笹木弘
灯火親し「奥の細道」読み返す
灯火親し数字に弱き男かな
灯火親し一人で地酒飲みにけり
灯火親しルーペで追ひぬ細き文字
灯火親し写経で心清めけり
愛媛県     渡邊國夫
一族の家系繙く秋ともし
灯火親し上戸ばかりの同期会
晩学の郷土史受講秋灯下
秋ともし墨書楽しむ留守居かな
秋の燈や子らに伝ふる考のこと
静岡県     城内幸江
灯火親し病室には相田みつを
灯火親し父の遺品の腕時計
消しゴムのついた鉛筆灯火親し
歳時記は母のお下がり灯火親し
愛知県     遊泉
透かし観る刃紋に燈火親しまむ
灯火親し般若心経朗誦す
でいといふ部屋なり燈火親しまむ
灯火親し亡き師の添削句帳かな
灯火親し砂の器の佳境なる
千葉県     伊藤博康
灯火親し埴谷雄高はもう読めぬ
卓袱台に灯火親しむ場所有りて
腰かけて灯火親しむ林檎箱
灯火親し頁折れたるところより
灯火親し手元に寄せる天眼鏡
栃木県     鹿沼 湖
灯火親し英和辞典をめくる指
灯火親したつぷり注ぐミルクティー
灯火親し白雪姫をもう一度
灯火親しむやはらかき静寂にひとり
灯火親し旅の写真の父と母
京都府     村田稔子
灯火親し 父の愛書の 龍之介
灯火親し 光源氏が 御座すころ
灯火親し ページをめくる 指の跡
千葉県     三好弘國
灯火親し母の遺稿を仏前に
灯火親し母の遺影に虚子の句碑
灯火親し母の全集捨て難し
灯火親し脇にうるさき鼾かな
灯火親しラスト一巻朝ぼらけ
愛知県     木下澄枝
灯火親し手書きの文をしたためて
食卓は文机に灯火親しむ
灯火親し寂聴訳の源氏本
灯火親しアルバム多き新刊書
灯火親しむ平積みの記念号
奈良県     堀ノ内和夫
灯火親し優先の大活字本
灯火親し積み上ぐる時代小説
青森県     竹浪誠也
燈火親し机まはりをととのへて
燈火親し隣も燈火親しかや
老いてなほ太宰や燈火親しまむ
ブランデー注ぎて燈火親しめり
推敲の画面を落とし灯の親し
兵庫県     髙見 正樹
灯火親しネットゲームをやっており
神奈川県     立野 音思
友語る灯火親しむ旅の宿
灯火親し繰り返し読む手紙かな
灯火親し文机に置きし歴史本
灯火親し父の遺せし写経本
笛を吹く悪魔も灯火親しめり
岐阜県     金子加行
灯火親し明治の古書の紙魚の穴
灯火親し亡父の蔵書夥し
灯火親しLEDと新眼鏡
灯火親し千切れし辞書を繙きて
孫よりのルーペに灯火親しめり
神奈川県     川島欣也
露天湯の裸電球灯火親し
病床のスポットライト灯火親し
灯火親し大歳時記を前に置き
灯火親し消えし会社の年史かな
灯火親し左手のルーペ離さず
東京都     岩崎美範
灯火親し小腹すきたる午前二時
灯火親し老眼鏡を新調す
灯火親し繰り返し読む母の文
灯火親し卓袱台に読む三鬼の句
卓袱台は夫婦の書斎灯火親し
神奈川県     野川喜一郎
灯火親し声聞こえねど笑顔見ゆ
故郷で灯火親しく座を囲む
灯火親し姿は読書目は虚ろ
灯火親し絵筆手指に馴染まずに
灯火親し尽きせぬ話題子の成長
神奈川県     杉山太郎
灯火親し犬の思ひ出語りつつ
食事後の灯火親しむ黙もよし
京都府     村田高久
灯火親し駒盤上に棋譜を読む
パリの日々灯火親しむアルバムと
灯火親し爺爺婆婆を味わっており
神奈川県     塚本治彦
灯火親し母の残せし仮名の文
灯火親し自叙伝といふ懺悔録
燈火親し細き眉引く人形師
灯火親し貰ひ手のなき自費句集
燈火親し共に古りたる文机
東京都     佐藤博重
坂下る灯火親しき古書街へ
灯火親しき候」そこで筆をおく
大阪府     津田明美
クッション二つ並べ灯火を親しめり
残業の夫待つ灯火親しみつ
しとど雨灯火親しむ源氏訳
灯火親し三者三様源氏訳
可惜夜や灯火親しむ老眼鏡
三重県     後藤允孝
木工の技に親しむ灯火かな
くずし字を読み解き灯火親しめり
灯火親し指滑らかに轆轤挽く
絵手紙に一筆添ふる灯火親し
灯火親し祖母の口癖まねる孫
埼玉県     いまいやすのり
灯火親し繰るるページに居眠りす
膳下げて灯火親しむ句会かな
灯火親し老眼鏡を二つ置く
図書館に寄り道灯火親しめり
展ぐるる灯火親しむ山の地図
宮城県     林田正光
灯火親し形而上学ふと過る
灯火親し小説よりも伝記もの
寝付く子のようやく灯火親しめり
灯火親し旧約聖書読み返す
灯火親し輪読会の始まりぬ
神奈川県     矢神輝昭
灯火親しむ小屋の親爺の山話し
足投げて燈火親しむマンガかな
俳句会燈火の庵親しめり
燈火親し父待つ母の一途なる
卓袱台の燈火親しむ影長し
茨城県     風峰
灯火親し開く全集古栞
気がつけば灯火親む乙夜かな
灯火親し太宰治となりし夜
灯火親し「奥の細道」踏み惑う
灯火親しハイネリルケの旅に出る
兵庫県     はなちる
読み聞かせ寝息の洩れて灯火親し
青色のインク試して灯火親し
灯火親しラジオ聞き入る老夫婦
ひらがなの多き老いの字灯火親し
虫図鑑鳴き声遠く灯火親し
東京都     かつこ
灯火親しブラック珈琲長話
補聴器外して灯火親しみし
東京都     石井真由美
灯火親し句読点なきたけくらべ
灯火親し姑知らず嫁取りの
神奈川県     金剛
薄きもの灯火親しむ母の背へ
古文書の墨痕灯火親しけれ
寝台車揺れて灯火を親しめり
灯火親し君推す詩集読みをへり
バーボンに耀ふ灯火親しめり
東京都     皆川里枝
灯火親し父の秘蔵のバランタイン
灯火親しライカの手入れ余念なし
灯火親しハリーポッター一気読み
灯火親し母の形見の万年筆
灯火親し旅のあれこれ尽きもせず
東京都     楠田伸彦
故郷の灯火親しむ夜汽車かな
灯火親しかすかに揺らす雨模様
灯下親し紐解く恋の物語
大阪府     室谷早霞
灯火親し愛句を百句書き出して
旅に出て灯火親しむ句会かな
灯火また親しみミシンを踏みつつ
灯火親し婿と笑へる娘の写真
灯火親しむ絲印のさまざまよ
大阪府     永田
大活字本届きて燈火親しめり
千葉県     玉井令子
灯火親し試験勉強熱入る
灯火親し原稿用紙向かう夜
灯火親し受験ガイドに付箋貼る
灯火親し鉛筆削りやる気出す
灯火親し向かいの窓の受験生
東京都     中田ちこう
灯火親しクモは光におぼれてる
格子戸に沿う影灯火親しめり
兵庫県     季凛
灯火親し時間通りにバス過ぎる
灯火親し明太フランス買ひに行き
灯火親し野球の負けも身に沁みて
灯火親し風通る夜の深き夢
灯火親し犬の声にも太さあり
千葉県     長谷川ぺぐ
今日すべて穏やかなりて灯火親し
灯火親し猫おとなしく膝のうへ
揺り椅子と本のひと時灯火親し
まつたりと啜る珈琲灯火親し
東京都     右田俊郎
灯火親し珈琲淹れて香を愛でる
句集繰る灯火親しむころなれば
灯火親し好きなビデオを借り出して
灯火親しページ繰りつつ茶をすする
灯火親し積ん読すこし減らせるか
奈良県     平松洋子
灯火親し本繰る指の音優し
灯火親し裸電球ありし頃
灯火親しスナック菓子を左手に
岐阜県     ときめき人
灯火親し書物にひそむ神の影
東京都     豊宣光
時忘れ灯火親しむ独り酒
灯火親しペン持つ影の広がりぬ
空襲下灯火親しむことあらず
灯火親し孫に絵本を読み聞かせ
灯火親し頭上気になる羽音かな
神奈川県     志保川有
剣菱のかほりに噎せて灯火親し
灯火親しわかれし人の死の知らせ
奥深き闇もどりきて灯火親し
灯火親しカントの「永久平和論」
灯火親し喉ころげゆくオールドパー
神奈川県     守安雄介
秋灯消し空に親しむ星の町 
老々の介護静まる秋灯下
暗くして燈火親しむ秘本かな
読む前に傘となりたる秋灯下 
昼間でも燈火親しむ飾り鳥
神奈川県     原川篤子
一灯を夫と分け合ふ灯下親し
夫は読み吾は衣縫ふ灯下親し
マンションの五百の灯の燈下親し
灯下親し漢詩帳より父の声
おしまひは歳時記繰るや灯下親し
神奈川県     亀山酔田
挵り合う灯火親しと牛の脛
折りきれぬ折紙灯火親しみて
篆刻や灯火親しむ手遊びと
卓上は灯火親しむ魚図鑑
灯火親し電子図書から推薦書
神奈川県     井手浩堂
灯火親しむ芭蕉師の句をたどり
乳飲み子を寝かせて灯火親しめり
灯火親しむ客人を送り出し
三重県     西井治男
人生を友と語り灯下親し
福岡県     紙田幻草
明日投句灯火親しく句を探す
はりきって灯火親しく選句する
神奈川県     龍野博史
灯火親し古書の匂ひの神保町
千葉県     伊藤順女
灯火親し我利勉だった頃もあり
灯火親し古き手紙を眺めをり
図書館の仄暗き書庫秋灯下
古書店の主黙して秋灯下
灯火親し先ずは机上を片付けて
東京都     岩川容子
灯火親し長編半ば眠り落つ
灯火親し欠礼詫びる文書きぬ
枕辺に読みさしの本灯火親し
灯火親し終活ノート書き始む
福岡県     深町明
地球儀を旅して灯火親しめり
灯火親し徒然草は古書の色
灯火親しオンザロックのとくる音
灯火親し汽車は夜空を駆けめぐる
厭ふ世も灯火親しむ心かな
東京都     長岡馨子
ふと見れば26時や灯火親し
灯火親しもう一針とこぎん刺す
ページ繰る手とめられず灯火親し
愛知県     斉藤浩美
灯火親しふれて冷たき猫の耳
灯火親しみて朗読劇の声
句の欠片拾いて灯火親しけれ
原稿用紙埋めて灯火親しまむ
灯火親し明日の句会の案を練る
徳島県     白井百合子
灯火親し寝息聞こえる深夜かな
灯火親し枕のそばのアニメかな
病室のあかりひとつや灯火親し
本を手に詩を書くことも灯火親し
居眠りの時間もありて灯火親し
福岡県     西山勝男
白秋の遺愛の机灯籠火親し
巡礼に灯火親しき出合ひかな
灯火親し妻との写経向かひ合ひ
灯火親し日々の勤行抜かりなし
師友誌す一書読みつぐ灯火親し
愛知県     新美達夫
文豪の当て字灯火に親しめる
灯火親し若き頃より司馬遼派
君もいま灯火親しむ頃なるか
漱石に見え灯火に親しめる
大阪府     太田紀子
灯火親し一人の煮炊きわずかなり
灯火親し補聴器外し音もなく
夫と吾とそれぞれ灯火親しめり
兵庫県     岸野孝彦
山小屋の雨音や灯火親しむ
灯火親し借りたままのヘッセ読む
車窓より灯火親しむ家流るる
防人も灯火親しむ便りかな
拝啓灯火親しむの候と妻
福岡県     多事
灯火親しいつ切り出すか転職話
燈火親しブラックホールに赤き傘
灯火親し放つてあげる鬱の夫
灯火親しまりや四十年を聴く
灯火親し嵌まる横山「三国志」
埼玉県     哲庵
灯火親し友の遺せし初句集
幼子に叱られながら灯火親しむ
灯火親し岩波文庫★一つ
灯火親し電子書籍を繰りながら
ライト付き拡大鏡や灯火親し
ブラジル     玉田千代美
灯火親し病の癒えてペンを取る
日々老いて里を恋ふなり秋灯下
秋灯や文字を忘れて辞書を引く
ブラジル     林とみ代
親睦の踊り楽しむ灯火親し
灯火親し旅の計画あれこれと
秋灯や母の手紙に涙して
後継の孫と卓球灯火親し
灯火親しスマホに綴る便りかな
千葉県     入部和夫
しみじみと灯火親しむ余生かな
枕頭に愛読書灯火親しめり
宇宙船灯火親しむ地球かな
角灯や灯火親しむ秘境の湯
灯火親し村に縁の尊徳碑
愛媛県     加島一善
灯火親しネツトを駆使し俳句詠む
灯火親し拡大鏡を使ひ合ひ
燈火親し源氏の君に焦がれけり
燈火親し針糸通し子に頼み
灯火親し赤子も泣いて加はれり
埼玉県     水夢
灯火親し歳時記めくる旅なかば
灯火親し伽藍に響く読経かな
灯火親し紅茶に落とすブランディ
灯火親し指差し遊ぶ絵本かな
夜間飛行ひとり親しむ灯火かな
栃木県     垣内孝雄
灯火親し学習塾の談話室
ジャズの音に灯火親しむ喫茶店
灯火親し妻の厨に長居せる
灯火親し考妣をふと思ひをり
灯火親し机に輩の句文集
東京都     安西信之
推敲に灯下親しいむ一行詩
灯下親しい一言添えて案内状
遠き日の灯下親しいむ父の膝
読む為の眼鏡灯下親しめり
宮城県     下僕
窓ちょっと開けつつ灯火親しめり
ご長寿の川柳灯火親しめり
灯火親しこれよりひとりの数独
灯火親し昼間に買ったファッション誌
東京都     隣安
灯火親しレコード針の旅聴けば
捨てられぬ絵本と灯火親しみぬ
灯火親しスマホ派とガラケー派ゐて
灯火親し何も話さぬ父母と
灯火親しゆつくり溶けるロシアンティー
神奈川県     神田央子
再読す灯火親しく祖母の文
灯火親し地図上に行く我が生地
山口県     ひろ子
読み聞かす絵本になじむ灯火かな
積読の灯火親しむサスペンス
埼玉県     吉野静
灯火親し脳トレパズル解けぬ宵
灯火親し未来のはなし子と語る
灯火親し隣りにいつも電子辞書
灯火親し幽かに車はしる音
灯火親し脳の癒しにぬり絵する
大阪府     椋本望生
歳時記を捲りて灯火これ親し
各々に灯火親しきしじまかな
別々の趣味もて灯火親しけれ
灯火親し帙を繙く四畳半
灯火親し次の予告もまた親し
埼玉県     守田修治
ひざの猫ぼんやり灯火親しめり
灯火親し回覧配る高齢者
灯火親し無口の犬のすれちがう
灯火親し露地に夕餉の食器音
灯火親し濹東綺譚を開きけり
千葉県     横井隆和
本は閉じ灯火親しむアリアかな
電球の灯下親しむ店の古書
破調の詩灯火親しむ山頭火
眼も老けて灯火親しむ漫画の本
千葉県     山田香津子
晩学の英語文法灯火親し
棕櫚の葉で編む虫六つ灯火親し
富山県     加能雅臣
灯火親し木枠の窓の細き桟
頁繰る隣も灯火親しめり
遅咲きの人や灯火に親しめり
灯火親し板チョコに似た木枠窓
神奈川県     海野優
幾度か灯火親しく行を読む
灯火親しふと気のをけぬ友の顔
東京都     田中史子
灯火親しむいま犯人のモノローグ
灯火親しむ煎餅割る音噛める音
灯火親しむ栞ひらりと落ちにけり
神奈川県     三好康子
灯火の秋不思議の国に迷ひ込む
灯火親しむ女難の源氏業に泣く
古稀過ぎし姉妹や灯火親しめり
忘れても懲りず灯火に親しめり
灯火親しむ頭注恃む湖月抄 (源氏物語の研究書)
千葉県     みやこまる
灯火親し速報は浅間の噴火
灯火親し介護ベッドの軋みけり
前略のあとの空白灯火親し
灯火親し万年筆のインク壺
東京都     豊島 仁
うたた寝の書斎に秋の灯ぞ落ちて
言葉なき灯火親しむ夜もありて
うたた寝を猫に起こさる秋の灯ぞ
秋の灯や出す宛なきの手紙書く
マーラーも終りし秋の夜も更けて
京都府     中村 万年青
燈火親し忘れかけたる草紙本
図書館へ行けぬ不自由三四年
秋灯下電車で本読む人も無し
神奈川県     髙梨 裕
燈火親し老人と海漕ぎ出せり
燈火親し習い始めの水墨画
燈火親し二十年目の歎異抄
燈火親し書斎に星の光入れ
組み立てる燈火親しむ堅穴住居