俳句庵

季題 10月「秋祭」

  • ふるさとの山河変はらず秋祭
  • 神奈川県     井手 浩堂 様
  • 山国の星美しき秋祭
  • 長野県     木原 登 様
  • 秋祭父は役員席にをり
  • 静岡県     城内 幸江 様
  • 少年に戻りし夫や秋祭
  • 東京都     伊藤 訓子 様
選者詠
  • 下総に残る城址や秋祭
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 今月の題は「秋祭」。豊穣を神に感謝し、その神が山に帰るのを送る祭と言われています。「里祭」、「村祭」、「在祭」などの傍題があります。皆さんの句を拝見して、祭の有り様が、それぞれの地域に拘わらず共通していると思いました。正にまつりです。今月の入選句は、その「祭」の中で、詞藻を異にする句を選びました。それぞれの「秋祭」を鑑賞しましょう。
 優秀賞の井手浩堂さんの句。「ふるさと」とあります。郷里の山河です。久し振りに帰郷した「山河」は、昔と変っていないと思いつつ、眼前の「秋祭」を見つめる作者です。帰郷者の思いが良く出ています。もとより、個々の生活は変っているでしょう。しかし、大きな意味では変っていないと思う作者を、「秋祭」の賑わいが大らかに包んでいます。
 木原登さんの句。作者の郷里の「秋祭」でしょう。四囲に連なる山並、まさに「山国」です。「美しき」という形容詞が一句に馴染み、浮き立っていません。それは、「山国の星」という上五の景があるからです。更に、「秋祭」が、その星あかりの下に、山国らしい祭を催しているのです。
 城内幸江さんの句。「役員席」が良く効いています。小学校の運動会では、この役員席が一段と注目されます。「秋祭」にもそういう役員席があるのでしょう。作者は一緒に祭を見に来た人たちと連れ立って歩きながら、そっと役員席の「父」の姿を見るのです。気恥かしさの中に、満足感の漂う句です。
 伊藤訓子さんの句。作者の夫君はまつりが好きなのでしょう。「秋祭」が近付く頃には、その地域の役員の一人として、祭をリードする役に励んでいるのです。作者はそういう夫君に「まるで少年に戻ったみたい」と冗談を言いつつも、満ち足りた気持で夫君を見るのです。これも「秋祭」の一つの景です。
 今月の佳句。〈祝儀袋に古き店の名秋祭 砂山恵子〉、〈神饌は自慢の大根村祭 長岡馨子〉、〈秋祭果てて一村眠り落つ 岩川容子〉、〈秋祭三代揃ひの半被かな 三好康子〉。「秋祭」の夫々の景が良く出ています。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。