俳句庵

3月『三月』全応募作品

(敬称略)

愛媛県     砂山恵子
三月の四十五度のお辞儀かな
さよならと書く三月の黒板に
三月の岬の果ての龍神社
三月の呼吸のごとき波光かな
三月か何も変はらぬ駅なのに
神奈川県     守安ゆうすけ
三月や二万の霊の十回忌
三月やのれそれを食う土佐の旅
三月や十に十一忘れまじ
三月の月の淀むや白内障 
三月や命日同じ墓二万
兵庫県     岸下庄二
三月で切れる通学定期券
三月の風に応へる風見鶏
三月の転校決まり泣く子かな
三月の十一日に合掌す
三月の十一日を忘れまじ
奈良県     堀ノ内和夫
三月の庭雉鳩の鳴き合うて
三月の母の死に顔凛として
岐阜県     ときめき人
三月の新しき風生まれけり
千葉県     柊二
三月の川面の眼羽虫追ふ
埼玉県     飯塚璋
三月の雨にほころぶ雑木山
三月や利根大堰の水ゆたか
三月や宝生池の笹濁り
東京都     勢田清
三月の風樫森を揺すりけり
三月や橋のなかばで日が上る
三月や地震津波を忘れ得ず
闇匂う三月の坂登るとき
三月の故郷の梅は雪の枝
新潟県     近藤博
ひと衣脱ぎ久々散歩三月来
三月や庭の楓の芽吹き初む
三月や凍て土解けて草木萌ゆ
三月や狭庭にはやも草の萌ゆ
待ちゐれば草木萌え出づ三月来
千葉県     いなだはまち
三月の唇は桃風ひうひう
襟足は清々三月の鋏
三月のお辞儀や道路工事中
三月やあれは雪女の渡り
三月の惰性あまやか卒業子
千葉県     渡邉竹庵
三月の細き流れを跳ぶ子かな
三月や舌状台地なだらなり
沈下橋渡り終へれば三月来
三月の天蚕糸いつまで中弛み
神奈川県     松野勉
フルートの息遣ひ三月の空
三月の日曜日学校前のバス停
京都府     田端敏弘
三月の総集会の多数決
三月や農機具小屋の戸の軋み
三月や癖強きもの食卓に
起きぬ子に三月の窓全開す
三月のひとの視線を追う視線
岐阜県     金子加行
面接に三月の風強き街
三月の背を幾度見し別れかな
三月や道決めずして子が一人
三月の生きる節目やカメラ押す
三月や医療費多き申告書
大阪府     藤田康子
三月の雪に鴉の声混じる
三月やすることのなきライオン吠ゆ
兵庫県     北村檀
髪の毛を長めに切って風三月
六甲の霧三月に覗かれて
三月の1日ごとに身の解れ
三月の土の匂いの生温く
大地賛頌ハモる三月三年生
長野県     木原登
三月三日三月十日、十一日
桜前線届け三月地震の地へ
三月の雪あたたかく降りにけり
面影を連れていきいき三月来
大いなる空の三月海光る
東京都     岩崎美範
三月の空漫遊の飛行船
三月やギロチンを売る蚤の市
三月や「らぶ」といふ名の猫駅長
三月の大地踏みしめけんけんぱ
三月や鋤鍬洗ふ園芸部
愛媛県     佐藤めぐみ
三月や故郷出し兄妹
外つ国へ面舵切りし三月
三月や船出見送る海鴎
三月や鼻孔くすぐる小さき花
三月の風つかまへて鳥遊ぶ
千葉県     伊藤博康
三月や追ふて届かぬ夢ばかり
目標は三月中に終へる筈
気がつけば早三月の声したり
三月やピンからキリの紳士服
三月や追はれ続けてなほ走る
大阪府     杉本義雄
三月や手庇余る光差す
三月やほろ酔い千鳥の独り言
三月や孤独が居眠り終電車
三月や鏡に背伸びランドセル
三月や子等皆巣立ち核家族
兵庫県     檀凛凪
スキップの揃ふ三月さしすせそ
三月を持ち上げること軽きかな
三月の「さ」の字に残る淡き恋
三月やえいやで飛べるところまで
宮城県     光観
三月や出羽三山の歪む峯
三月や恋も終わりの見える頃
三月や今日の日差しの柔らかき
三月の風に踏ん張る持久走
三月やくすむ校舎は十年目
大阪府     ながた
三月や人事係の緘口令
栃木県     鹿沼 湖
三月の光やはらかサクソフォン
三月や在校生は十五人
三月の光の中のエメラルド
三月の回覧板をわたしをり
三月の水るるるると流れけり
大阪府     津田明美
三月の行方知らずの雲一つ
三月や方程式の第二項
三月の土の匂ひに迷ひ込む
雲が雲呑んで三月白くする
三月のパレットに足す空の白
三重県     平谷富之
三月や 別れ出会ひの 交差点
三月や 学び舎思ふ 頃となり
三月三日 男家系は 耳の日よ
愛知県     木下澄枝
手をあてて三月の土やはらかし
三月のひかり走れる雑木山
三月やさざ波寄する船着場
三月の光の中を吾子帰る
三月や歩幅大きく踏み出せり
東京都     内藤羊皐
三月のボールプールに声あがる
三月の音楽室の音漏れる
三月の風頬へ受く童女かな
三月のゴールキーパー咆哮す
三月の産土杜に陽の疾る
千葉県     玉井令子
やわらかな弥生の空の陽射しかな
鼻の穴ムズムズ痒し三月は
三月や翔び立つ吾子の晴れ姿
三月や鼻炎予防の薬飲む
ウトウトとまぶた重たし弥生かな
島根県     寺津豪佐
三月のその内止まる大時計
三月の短き橋に日の当たり
三月や翼の生えた手紙書く
水槽の稚魚三月に増えにけり
三月やトムとハックの川下り
埼玉県     いまいやすのり
三月来ぬ奥へ奥へと雑木山
三月の声のありなん河川敷
いきいきと三月の畑ゆるみけり
ペタル踏む三月の風やはらかし
三月の小雨の中を駆けて駅
兵庫県     髙見正樹
三月の街の騒音底ごもる
宮城県     林田正光
肩書の変わる三月年度末
三月の紙一枚の異動かな
三月や首長くして便り待つ
三月や別れと出会い交差して
三月忌東日本大震災
東京都     石川昇
三月の夜行列車の別れかな
三月や畑を朱色のトラクター
愛知県     岩田勇
三月の街の動くや西東
三月の水掛け不動やさしさう
三月のつま先立ちの役所かな
遙かなる三月の山みな虚ろ
三月の生けるものみなやさしけり
東京都     石井真由美
いきいきと弥生の空や土いじり
断捨離の歯切れの悪し三月尽
いきいきと児童園児は空の下
抽斗(ひきだし)の三つ四つ空いて三月尽
三月や鍋物終へて葉物ふへ
静岡県     城内幸江
三月の海揚々と旅をする
三月や雨にとろみがつく真昼
三月にピント合わせている眼鏡
三月や娘の紅を借りにけり
かき卵三月色になりにけり
東京都     伊藤訓花
三月を待てば便りも吉ならむ
満開や三月尽の誕生日
三月の別れも近し風の末
三月の神の祝福満開に
三月の大地を攫ふ讃岐風
三重県     北村英子
結ひ上げて三月の香の髪飾り
三月の空に英語を歌ひをり
日めくりは一に戻りて三月に
三月は輪廻転生誕生日
三月の夕日明日会へない人と
茨城県     風峰
三月やさみしき猫とすれちがふ
三月は生々流転刻の皺
七十五歳てふ三月の余白
三月の羊水泳ぐ子ら二人
三月の波はのたりと折りたたむ
神奈川県     矢神輝昭
三月や友と別れのリコーダー
風の色問ふ三月の舟下り
三月や友の安否の旅ごころ
三月の風の調べや山便り
三月の天から降りて勝訴かな
兵庫県     はなちる
三月のカーテン揺れしティータイム
嬰児の睫毛に憩う三月陽
三月や阿弥陀如来の笑みを得る
鞄中三月背負い通学路
青臭き葉の土こぼれ三月尽
神奈川県     知草
三月の先をゆきたるファッション誌
三月の空跨ぎたる水溜り
履歴書に三月の顔貼り付けし
三月の顔撮したる免許証
三月の富士磨きたる硝子窓
愛知県     正木羽後子
外套を脱ぎし就職列車かな
就職の列車の屋根に斑雪
六年生己の証書の紙漉きぬ
上京の列車追ひけり名残雪
桜咲く上野に着くは明日の朝
徳島県     深山 紫
三月や目に入るものは皆やさし
さよならの言葉は重き三月尽
美しき母の忌日や三月尽
巡礼の頭の青き三月尽
三月の名の変わり行く学び舎よ
徳島県     白井百合子
三月や恋の花咲く老人会
三月に履歴書二枚ポスト入る
二人ゆく三月の旅途中下車
三月の道後温泉神隠し
三月やカフェのランチにお洒落して
千葉県     四葩
三月の旅装に加ふ花の色
神奈川県     川島欣也
三月や南国へ発つ子の一家
三月の雲なき空や逆さ富士
種まきの爺三月の山登る
三月や野山生気を取り戻す
唄にのせ三月の教室を去る
大阪府     森 佳月
スープに浸す三月のパンふくらんで
三月や引きこもりたる部屋を出で
秘めしこと日記に書けず三月も
バックネット三月の空に伸びてをり
三月やきこきことこぐ三輪車
東京都     笹木弘
三月のオホーツク見る老漁師
三月の海は語らず黙しけり
三月の閉店セール込み合へり
三月の足元を行く影法師
三月の手相に大器晩成か
山口県     山縣敏夫
三月に想い起こすは都落ち
三月は蛍の光聞こえ来る
三月は気忙しくなる引っ越し屋
三月は悲喜交々の掲示板
三月になればコロナは飛んで行く
三重県     後藤允孝
三月や土に命の鍬さばき
三月や開けつ放しの空と海
三月の恋路が浜に逢ひに来し
三月の光となりし芝生かな
三月や背中合わせの駅の椅子
千葉県     峰崎成規
三月の五百羅漢は話好き
三月の窓ことごとく上機嫌
三月の峡に時差あり陰日向
ハグにハグしつかり返し三月尽
三月の絵馬結願に嘶きぬ
神奈川県     井手浩堂
三月の風や傾ぎて池の浮子
三月の雲や流れに遅速あり
葦の隙より三月の水の音
奈良県     平松洋子
三月や未だ腕の中に猫
三月や拍手溢るる校門前
三月のお喋り果てぬプラットホーム
神奈川県     塚本治彦
三月の歩幅大きくなりにけり
三月や異動の噂気になりて
初恋の告げずに終はる三月よ
三月やハローワークに長き列
三月や人事がらみの立ち話
岐阜県     雅風
三月の忙しき税理士事務所かな
三月の悲喜こもごもの知らせかな
三月の電車にやつとゆとりかな
納税を済ます三月十五日
三月や浪花に大挙大男
山口県     ひろ子
陶びなと語らふ昔無人駅
篠笛の音色の届く弥生かな
篠笛をふけばひいなの笑みこぼる
神奈川県     龍野ひろし
三月や光膨らむ波頭
三月場所果て巡業に明荷発つ
福岡県     深町明
ロックフィルダム三月の水吐きぬ
三月を脈打つてゐるメコン川
三陸の水平線に三月来
三月の去る日を思ひ語りけり
三月のサンクチュアリの珊瑚かな
神奈川県     海野優
三月のカーテン揺らすモアレかな
残しをく三月尽の日の温み
三月のうたた寝盗む陽射しかな
三月の笑ひ涙の駅の前
東京都     よしだ悠
三月の八日の長子さづかりぬ
三月のハマグリ閉じるひまもなし
三月はサヨナラの月さみしい月
三月の海へと急ぐ雪解水
三月のあれからずつと海鼠噛む
ブラジル     林とみ代
三月尽卒寿越したる友祝ふ
三月の鉄塔青き空を突く
三月の隣国訪ふ旅支度
三月や女の強き国に住む
三月のコロナウイルス世の憂ひ
三重県     西井治男
三月の鈴鹿おろしを我好む
福岡県     紙田幻草
三月の遠き昔を話し込む
帰郷せし孫と三月の話など
福岡県     西山勝男
三月や父の忌と我が誕生日
ひねもすや土と向き合う三月来
三月の農の暮らしを生き甲斐に
三月やダイヤモンド婚はたと過ぎ
みちのくに思ひひたぶる三月来
大阪府     大西佳代
独り立ち母は涙の三月かな
肩すくめ握るラケット三月過ぎ
ベランダの黄色の小花三月待つ
山裾に雲の広がる三月よ
三月の風の向こうにコロナかな
兵庫県     岸野孝彦
三月の雪と見送る巣立ちかな
三月や別れ重ねて至る今
三月や三日月照らす笠と杖
三月や光一筋古本屋
三月や弁当箱も役目終え
埼玉県     すいむ
三月の枝から枝へ雀二羽
三月の明るき雨や時計台
三月の風は移り気坂東太郎
三月の海を眺むる烏かな
三月や優秀賞の知らせくる
埼玉県     哲庵
三月のお礼参りとグルメ旅
三月の山おはようの声響く
三月のライオン吼える千駄ヶ谷
喪心や三月の火と水と土
喪に服す三月十日十一日
千葉県     伊藤順女
三月のとある銀座のちんどん屋
灰色の空の重さやパリ三月
愛媛県     加島一善
かぐわしき三月の雨降り止まず
匂やかな新芽あふるる三月は
三月のひかりを散らすマルチシート
しばらくは三月のままいてほしい
三月の鴉畑を耕せり
大阪府     太田紀子
三月やチェロを背中に駅の道
三月の三角の空高架下
三月の茨の棘の赤きこと
東京都     土田明人
三月の梢に鳩の重みかな
三月の声に慄く朝礼台
滋賀県     船岡房公
三月や漕艇の川耀へり
三月や雑貨売り場の親娘連れ
三月の光りを掬ふ手水鉢
三月や朝ドラクライマックスに
三月や別れの言葉満つライン
岡山県     岸野洋介
縄跳びの児ら三月の風回す
三月の光り斜めに降り注ぐ
三月の郷はいかにと墓参り
三月や合否は知らず絵馬の鳴る
三月や一昔前妻送る
神奈川県     重兵衛
三月や母子確かむ通学路
静岡県     大澤定男
三月や古新聞の固結び
三月やベッドを少し窓際へ
三月やモナリザの目は謎のまま
三月やきれいな下駄を陽の中に
三月やあぶらとりなど買う孫ら
ブラジル     玉田千代美
三月の老の楽しみ孫誕生
三月は忘れもしない結婚日
生かされて今は幸せ三月に
三月や心に浮かぶ逝きし夫
三月にガラスの雛が出来るとか
神奈川県     立野音思
大向こう三月狂言一呼吸
足早に過ぎる三月旋風
三月や眠りを破る鳥の声
着ぶくれの皺の手摘むや三月菜
三月や明日に向いて旅立てり
千葉県     入部和夫
三月の家郷を訪へば吾のそこに
三月や出世夢見て国出でし
三月のかの日ふるさと後にして
三月の岬に立てば国遠し
三月三日妻の誕生日なり
埼玉県     守田修治
三月や晴れ晴れ富士の独り言
三月や活字離れの大学生
三月や廃校寂し鉄棒も
三月や書棚に漢和中辞典
三月や樹々の会話を聴く散歩
千葉県     長谷川ぺぐ
スタートに向け三月の五体かな
神奈川県     志保川有
雑草のワルプルギスの夜三月
はや三月断捨離の腰あげるべし
三月や一城消へし跡に草
三月や風情ましたる朝の雨
三月や今日は便通ありさうな
東京都     長岡良恵
海苔運ぶ  桜海老ちらし 六文もの
マドンナや  ブーツに袴 梅華散り
桜車寄 子連狼 童園
梅チーズ 塩分の計算す 初サンド
春や昔  我人に空似と 帽子とる
東京都     中田ちこう
地をゆすり駆ける三月野は黄色
神奈川県     原川篤子
池の面に映るそら色三月来
曙杉糸雨にけむりて三月来
三月の布は水色ミシン踏む
子のバックの刺繍の花や三月来
三月の満月淡く富士を統ぶ
東京都     岩川容子
三月や鼻こそばゆき風吹けり
三月や野草図鑑を持って野に
三月の亀の親子の甲羅干し
東京都     長岡馨子
三月や18歳のひとり旅
三月やイクラ多めのちらし寿司
東京都     安西信之
三月は出かける用事ばかりなり
千葉県     風泉
癒されぬ永久の三月原発忌
五ミリほど身の丈戻る弥生かな
愛知県     新美達夫
三月の十一日の海青し    
三月やこの地に骨を埋めるべく
住み慣れし社宅を払ひ三月尽
神奈川県     亀山酔田
三月の足裏に在る地震かな
三月や反逆すると出歩いて
三月や野面の親子ちと音痴
三月十一日より砂防ダム決壊中
やじろべえ三月の指先落ちた
埼玉県     彩楓(さいふう)
三月の空のみずいろ飛行雲
三月や穴へアリスの白うさぎ
三月の雀ひかりへ一斉に
神奈川県     三好康子
三月や窓辺明るし日の温み
三月や掌にころころと金平糖
三月や頬杖つけば眠くなり
三月や賢さうなる盲導犬
亀の手食ふ隠岐三月の朝の膳
福岡県     多事
三月や湾より碧き桜島
三月の樹皮の手触り冷たき火
三月の息に眼鏡曇りをり
三月の白き湿りや蔵の町
三月の家電屋さんや兵馬俑
富山県     加能雅臣
三月の手足うらごしされてゆく
東京都     飯田哲司
逃すまいしだれ連なる花のれん
桜舞う九段の坂を杖すがり
三月や希望輝く旅立ちを
三月や信濃山々めざめたり
信濃路や野山晴着の三月よ
東京都     豊島仁
三月の月ぞ激しく悩ましく
三月や今朝の散歩は川を越え
三月の風にゆだねしなにもかも
三月の海にとどめの碧さかな
三月の月赤門の夜明前
京都府     中村万年青
三月の一喜一憂春の雪
三月や歩めよあゆめ川辺まで
両膝のくの字に縮み竿高し
神奈川県     髙梨裕
三月や座ることなき椅子残る
三月の暮れて車窓に消える日々
三月の日を乗せ光る水面かな
三月や子の七才のランドセル
三月や旅立ちのパンアメリカン