俳句庵
季題 4月「「桜」・「花」」

- 夜桜の息づく闇の白さかな
- 大阪府 津田 明美 様

- 山間の桜を愛でつ野辺送り
- 山口県 山縣 敏夫 様
- 眼科医の指の白さや若桜
- 栃木県 鹿沼 湖 様
- この国に生まれて嬉し桜咲く
- 奈良県 平松 洋子 様
- 明日散ると月に囁く桜かな
- 安立 公彦
安立 公彦 先生 コメント
四月の季題は「桜」・「花」です。今年の桜は善く咲きました。それは折柄の疫病、新型コロナウイルスを、ひと時忘れるような美しさでした。皆さんご承知の通り、俳句で単純に「花」と言えば「桜」を指します。桜は芭蕉の昔から、優れた句を生んでいます。和歌も同じです。皆さんの句にも佳句が多いでした。その中の秀句十句の中から、四句を選びました。
優秀賞の津田明美さんの句。夜咲いている桜を「夜桜」と呼びます。「息づく」が恰も生き物のように感じられて来ます。夜の闇の中に、ほのかに浮かぶ桜の花。それは辺りの闇に、まるで桜の花が「息づく」ような感じで、ほの白く咲いているのです。「夜の桜」は「夜桜の」としました。
山縣敏夫さんの句。「山間」は「やまあい」と読みます。作者は山間の路を葬儀のために歩いています。ふと見上げる山路に、折から桜が咲いています。葬送の人は皆、死者を弔う言葉なき思いでいます。その時誰かが、「桜」と小声で叫び、皆の顔がその桜を仰ぎ、その後は、こころ解れる思いの野辺送りです。哀しみの中にも句心は湧きます。
鹿沼湖さんの句。「若桜」は、若木の桜。この句の対象は「眼科医」であり、その医師の「指の白さ」です。一句を見ていると、指の白さに注目が及びます。下五を、例えば「朝桜」とせず、「若桜」としたのは、眼科医の年齢の若さを示唆したと解釈されます。一編の文章の挿絵のような佳句です。
平松洋子さんの句。純粋な句です。その純粋さには、国を思う想いが溢れています。「桜」は日本の国花です。「この国に生まれて嬉し」は、作者のこころからの思いでしょう。下五の「桜咲く」に、この句を見る人も、深く頷くと思います。
今月の佳句。〈対岸のさくら母校の桜なる 井手浩堂〉。〈ふるさとの桜を胸に門出かな 岡野みつる〉。〈手庇に桜見上ぐる車椅子 岸下庄二〉。〈病室の母と見上ぐる桜かな 佳代〉。「桜」が善く見えて来ます。
◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。