俳句庵

5月『初夏』全応募作品

(敬称略)

神奈川県     髙梨裕
初夏の風入れてウォルナットの家
新皇居黒髪香る初夏の御座
青き野を駆ける当歳初夏の牧
ライオンのたてがみなびく初夏の風
ファスナーのその背眩しき初夏の浜
東京都     豊島 仁
今朝の釜単衣が多し夏は来ぬ
大空や投網遙かな初夏の富士
初夏の風波濤を渡る石廊崎
招かざる客いすわりて初夏となり
東京都     安西信之
初夏や白く大きなカレー皿
初夏の水の匂へる河童巻
初夏の風によろこぶ街の木々
初夏の飛沫に笑ふイルカショー
襟硬き紺の道着や夏初
東京都     伊藤はな
ウイルスや新婚の如初夏の膳
木漏れ日に腕を預けて初夏の風
初夏や体重計の微調整
街角に人影は無き夏始
はつ夏の風にサックス空の青
千葉県     伊藤順女
初夏の緑の風や木のベンチ
ペダル踏むシャツ膨らます初夏の風
第二ボタン外して初夏の風を受く
ポニーテール揺れて銀座に初夏の風
初夏やジャケット肩にハミングす
千葉県     伊藤博康
初夏や土手に鞄を置きて川
初夏の外野ノックの眩しけれ
初夏や波打ち際を裸足にて
初夏や線路の先の山青く
初夏に優しさ残る風のあり
神奈川県     井手浩堂
初夏の風吹きわたる源氏池
初夏の風心地よき太極拳
見送りのホームへ急ぐ初夏の雨
初夏の空に枝張り大欅
江ノ電に海展けたり初夏の旅
徳島県     井内胡桃
キオスクのアルプスの水夏始
ヤッホーの声の重なり初夏の風
真っ白のシャツにジーンズ初夏の町
初夏の風入れて厨のヨガポーズ
歳時記にブルーの付箋夏始
東京都     右田俊郎
初夏や履き心地良き桐の下駄
初夏の夕暮れ富士のシルエット
ロッキングチェアーに初夏を寛げり
初夏や路地に夕餉のカレーの香
砂利舟の喫水深し夏はじめ
神奈川県     志保川有
古民家ゆもれくる提琴夏はじめ
柳染若草山葵夏初
初夏の野山みどりの展示場
初夏をコロナに舐尽さる地球
床あげやもろ手に初夏の気を抱く
千葉県     風泉
・陽に風に二の腕白し初夏の駅
・はつ夏の空張るシーツや帆掛け船
・葭原をうねる大蛇や初夏の風
・はつ夏の田に白鷺の映える水面や
富山県     岡野 満寿
初夏の風浴びる裸体や露天風呂
似て非なる百の緑や初夏の森
風わたる芭蕉の句碑や初夏の旅
愛媛県     加島一善
何事も無きかのように初夏の空
鮒跳ねて明日は夏の初めかな
みずうみの光が跳ねて夏始
少しだけ青色足して初夏の海
頬なでる風が重たき夏始
神奈川県     海野優
少年のふえし面皰や夏初め
初夏や浜辺に拾ふ貝ひとつ
高声に港の初夏を鴎かな
夏初め馴れぬヒールの高さかな
兵庫県     岸下庄二
雲水と行き交うふ古都の夏始
校庭の百葉箱に初夏の風
初夏の窓開け放つ理髪屋
初夏の海鳥漁場に群れ立ちぬ
墨染の雲水初夏の街に立つ
兵庫県     岸野孝彦
暮れなずむ棚田は紅初夏の里
遠き日の部活は眠き初夏の朝
人出無き古刹凛たり初夏薫る
初夏来る今年は行けぬ王ヶ頭
ふるさとの雨戸を開けて初夏入れる
東京都     岩崎美範
地下街を出れば陽光まさに初夏
十字路に白き人波揺れて初夏
初夏やタバスコ垂らすオムライス
路地裏に子供溢るる夏はじめ
初夏の原爆ドームに飲むコーラ
東京都     岩川容子
靴を手に波とたわむる初夏の海
初夏の風あまた香りをはこび来る
つきだしに硝子の器初夏の卓
知床に番屋の灯り夏はじむ
愛知県     岩田遊泉
チェンソーの音響き来る初夏の山
下り来て眼下輝く初夏の湖(うみ)
ドライブに気分一新初夏の風
翩翻とはためく校旗初夏の風
この初夏の何とも憂鬱街景色
神奈川県     亀山酔田
夏始シャッターの錆浮き上がる
君のいる海の眩しさ夏始
初夏や歩荷の小屋の見え隠れ
初夏や風玩ぶ風見鶏
トレモロにシャッター街を初夏の風
茨城県     風峰
ゆるらかに波色畳む初夏の海
朝練の少女駆け行く初夏の朝
風色を空に投げ込む初夏の山
羽田への離陸体勢初夏の空
十二兆細胞きしむ初夏来る
埼玉県     いまいやすのり
初夏や太平洋を見渡せり
風は初夏山頂までも心地良く
初夏のさゆらぐ樹々の風少し
ホースより初夏のしぶきの光かな
初夏の午後ゆつくり落つる砂時計
岐阜県     ときめき人
初夏や大樹の幹の輝きぞ
東京都     よしだ悠
初夏の空へ消えたり一行詩
シャガールの宙翔ぶ馬や初夏の恋
老獅子の白きたてがみ初夏の風
初夏の風恐ろしやNEWコロナ
初夏の山ひとゐろにうすみどり
神奈川県     立野音思
地平から駆け来る雲よ夏はじめ
高原に初夏の香りや八ヶ岳
初夏や窓開け放つ学びの舎
初夏や緑を駆ける山列車
きらきらと光る波際初夏の浜
千葉県     玉井令子
夏きざす父の傘寿の誕生日
帆船の白際立つや初夏の空
釣り人のバケツの中は初夏の海
米を研ぐ初夏の川辺のキャンプ場
渓谷の初夏の空気や深呼吸
ブラジル     玉田千代美
初夏なれど異国は淋し気も失せて
初夏なれど国中騒ぐパンデミック
新潟県     近藤博
たたなづく山々棚引く初夏の雲
波寄せる砂浜素足で初夏なれば
庭の木々なべて季に沿ひ夏初め
夏初め日にけに芽生ゆ庭の木々
すがすがし初夏の風背に遊歩せし
岐阜県     金子加行
たゆまずに励む万歩や初夏の風
ふはふはのパン屋に列や初夏の風
初夏の旅へ帽子とスニーカー
待つ便り届く音あり初夏の風
昼酒に少々酔ふや初夏の風
神奈川県     原川篤子
初夏や白き卓布の朝の膳
ブーケトス舞ふ初夏の空青き
カンバスに描き足したし初夏の風
雨やみてはつなつの樹々勢たつ
はつなつの樹々に聴こゆる息遣ひ
埼玉県     吉野 静
ウイルスに右往左往の初夏の昼
初夏や止まつたままの宇宙船
過ぎて知る普通の暮らし初夏の空
ワンピースふわりと揺らす初夏の風
そつと出てそつと戻るや初夏の昼
三重県     後藤允孝
初夏の風苔石段に立子句碑
初夏の岸壁せばむ豪華船
初夏の海へ抜け道切通し
初夏の槍頂点空を突き上げる
初夏の樹樹さみどり色に光浴ぶ
兵庫県     高市敦之
初夏の浜波の織りなす恵みあり
初夏まぶしかざす手のひら老いを知る
初夏の朝階段のぼる遍路杖
初夏の風昼寝の猫の髭揺らす
愛媛県     佐藤めぐみ
真新しデニムのシャツや初夏の風
初夏の旅小さき港に猫二匹
初夏や二輪で風切る父子連れ
ぎやまんの花瓶に白き初夏の花
初夏やいざ出でんとす漁船団
岡山県     佐藤邦夫
てまき海苔新型コロナ夏日かな
自宅や新型コロナ海苔弁当
河川敷夏風ちよつと海苔チヤーハン
なんだろな海苔がしつかりハイキング
海苔弁と家族総出の夏田んぼ
愛媛県     砂山恵子
初夏の小道に光る自噴水
初夏といふ新しき眼鏡かな
初夏やカーテン開けて窓開けて
初夏やハーバー横の空気入れ
初夏にけふはつなつとルビを打つ
兵庫県     はなちる
初夏の低く唸るやエンジン音
作業着の石灰はたき初夏の風
胎動のグネグネポコッと初夏匂ふ
初夏の波が呼んでる電波かな
東京都     勢田清
クラスにも漸く慣れし初夏の道
自転車をひらりと降りて初夏の人
京の町掃き清められ初夏の朝
初夏の風白いスカート陽の光
初夏の町来る自転車の颯爽と
東京都     笹木弘
青竹の器の匂ふ初夏の風
初夏の光を返す凸面鏡
摩周湖の島に浮かびし初夏の雲
羽衣の天使の松に初夏の風
旗の立つお子様ランチ初夏の風
神奈川県     三好康子
はつなつの藍染め木綿割烹着
歓迎の皿鉢料理や朱夏の土佐
弓形に続く遠浅朱夏の浜
はつなつのあまねき空を分かち合ひ
雨上がり風のふくらむ夏はじめ
東京都     山本 左利
親子して 大きめのシャツ 夏はじめ
逆光の 睫毛まぶしい 初夏の朝
初夏や 濡れた髪解く 体育館
バス待ちの ポニーテールに 初夏の風
ブルペンで 出番待つ君 夏はじめ
山口県     山縣敏夫
初夏の朝庭に満つるや瑞々し
物干しに薄物目立つ夏初め
初夏の朝みなを起こすか孫の声
朝起きて初夏の畑にご挨拶
登下校子等の声する夏初め
島根県     GONZA
北国の初夏の便りや旅心
山か海か初夏の会議の収まらず
タラップを歓声駆ける初夏の国
少女来て初夏の化身と思ひけり
白鳳の仏へ続く初夏の道
神奈川県     守安雄介
モンローの天井に笑む初夏の寺
のれそれの初夏をぬるりと胃に落とす 
木漏れ日の緑に染まる初夏の森
雪抉る渓の流れや里は初夏
水切りや初夏の川面に輪を連ぬ
埼玉県     守田修治
初夏や西郷像に俄雨
初夏や棟上げ急ぐ槌の音
文面は節酒うながす初夏便り
夏きざす風呂屋帰りの肩車
夏はじめ佐渡までつづく紺の海
神奈川県     岳
外つ国の声も聞ゆる初夏の杜
モノクロのルパンの太宰夏に入る
囚われの河馬の屈託夏に入る
三屯の河馬の屈託夏に入る
十屯の象の放屁や夏に入る
東京都     松小庵小僧
レース越し 夏めく風に 透ける肌
膝小僧 並んで弾む 初夏の坂
白い腕 袖からのぞく 夏初め
夏きざす 朝刊追い超す 日の出時
初夏の風 川辺から乗る 子の歓声
神奈川県     松野勉
力いっぱい漕ぐ光る水の初夏へ
初夏や口笛の歌口遊む
奈良県     上田秋霜
初夏の 港になびく 大漁旗
初夏の サンタモニカに 来てをりぬ
初夏や 今年も行かむ 槍穂高
初夏の 湖の向かうに 近江富士
水軍の 島の山頂 初夏の風
静岡県     城内幸江
初夏をホースで散す洗車かな
初夏や光あつめて山頂へ
初夏や窓全開の教習車
初夏を蹴って三段跳び急ぐ
愛知県     新美達夫
ゆつたりと回る風車に初夏の風
手を振れば岸も手を振る夏はじめ
長き水脈引ける艀に初夏の風
何やかや老いも忙しき夏初め
大阪府     森 佳月
老眼鏡作り直して初夏の町
初夏や釣り竿友の形見分け
初夏の空ブルーシートは外れかけ
初夏や膝の継ぎあて懐かしく
初夏のジーパンの穴反抗期
福岡県     明
大いなる帆船来る夏はじめ
溌剌と留め跳ね払ひ夏はじめ
つつましく起臥寝食と思ふ初夏
初夏の手作りマスク楽しめり
ゆるる風ふるる風あり初夏の朝
神奈川県     十二番
歯磨きは青い蛇口の夏はじめ
借景は銀箔なりや初夏の海
夏兆すリュックの二人無人駅
初夏の来客ありや鳶殿
泣き虫が補助輪外す夏はじめ
東京都     一塁手
初夏や鉢の菜葉に俄雨
ベランダに園児の合羽夏きざす
夕闇の冷めた粉茶に夏きざす
初夏の一番星や健気かな
満席の物干し台に夏きざす
愛知県     正木羽後子
初夏や出窓の鉢に水差しぬ
朝な朝な出窓のひかる初夏となり
夏兆すやうやくなれし仕事かな
三重県     西井治男
初夏の雨草木も人も息をつく
福岡県     西山勝男
大阿蘇の坐りいつくし初夏の景
初夏の釣果を夢に蜑の宿
土寄せの匂ひあまねし初夏の雨
初夏の風は清しと農日記
初夏のグラスボートに旅をつぐ
埼玉県     水夢
はつなつや軒下に置く植木鉢
夏初めゼンリンの地図拡げをり
貝塚へつづく小路や初夏の風
禅寺の竹林ゆらす初夏の風
初夏や豚まん買ひし港町
宮城県     zazi
白壁が初夏の夕暮れ朱に染まる
初夏や高速道のバイク連
初夏や園児午睡の時長し
還暦を迎えし初夏の清々し
初夏のチャイム流るるグラウンド
愛知県     斉藤浩美
首まわし再起をはかる夏初め
初夏のかたちキリンの首交差
千年の樟の呼吸や夏初め
満タンにしておくバイク夏初め
屋外のカラン上向き夏初め
千葉県     いなだはまち
初夏やサドルは尻を受け入れて
初夏や田んぼの水は甘からん
初夏のソーラーパネル面あぐる
初夏と飛び出す絵本抱える子
初夏の漱げる水は歯切れよく
東京都     石井真由美
浜辺用の白椅子庭に初夏の午後
ちよい寝を誘ふ縁側初夏の風
ご自愛と書いて投函初夏の旅
ご自愛と書いてぽとりと初夏の旅
ちよい寝を誘ふ縁側初夏の風
東京都     石川昇
初夏の空自由が欲しいアドバルーン
初夏やカレー屋多き古書の街
埼玉県     彩楓(さいふう)
初夏や山羊鶏の纏ひ付く
初夏の硝子工房きらきらす
もてなしは湧き出る甘き初夏の水
耳鳴りといふはむずむず夏はじめ
初夏の乗り換え駅の肥後訛
神奈川県     川島欣也
初夏の水平線や過ぎる船
木漏れ日や鳥みな騒ぐ初夏の森
放たれる駒駈巡る初夏の牧
初夏の海渚に弾む子らの声
初夏の富士を遮る雲見えず
大阪府     太田紀子
初夏や靴を手に持ち丸木橋
初夏の風紺の暖簾の翻る
断髪にせるグレイヘア夏初め
東京都     大津武彦
うちなーや吾子がはしゃぎし初夏の碧
ムロアジや天日に開く初夏の花
リフレイン初夏の葉山に「Destiny」
初夏の夜に黙し貪るムール貝
静岡県     大澤定男
初夏や稀なる郵便配達夫
初夏や隠し通せる胸の傷
初夏や夢に義経檀ノ浦
初夏や酒とか嘘は泡で割る
初夏や輝く者と帰る者
奈良県     平松洋子
大広間寝転ぶ畳初夏の風
初夏に母の匂ひの風よ吹け
骨折の肩を癒すか初夏の風
埼玉県     哲庵
初夏の風吹き抜ける閻魔堂
初夏や雲湧き上がる比叡山
初夏の知念岬で愛を叫ぶ
初夏の光あふるる駿河湾
初夏や砲術訓練ありし丘
京都府     中村万年青
電気代かからぬ初夏の肌寒し
ごつごつの梯梧の幹に花まつか
命みな寒さに耐えて萌え出る
神奈川県     重兵衛
初夏やのたうつホース水走る
初夏や乳房揺らしてジョガー過ぐ
初夏や隣家いよいよ上棟す
初夏や上腕筋のむずむずと
東京都     中田ちこう
縁側の父の鮎竿夏はじめ
徳島県     白井百合子
助手席の妻の句帳や夏始め
軒下のブラウス白し初夏の風
吟行のノートに書いた初夏の文字
初夏の雨野の花寄せた植木鉢
初夏や少し塩香の浜の風
神奈川県     猪狩 仙次郎
夕月のもうあがりたる立夏かな
川沿ひの道真つ白く夏はじめ
ひらひらと見返る柳初夏の人
はつ夏の雀かしげる小嘴かな
寄する波くるぶし洗ふ夏に入る
東京都     長岡馨子
初夏や心機一転十勝へと
茨城県     守屋重伍
暑いか寒いか 窓外 初夏の朝
ゴミ出しを はだしサンダル 夏兆し
窓外が じょじょにあおあお 夏兆す
ラッシュアワー OL薫る 初夏の風
のんべい横丁の臭う 夏はじめ
千葉県     長谷川ぺぐ
朝市に靡く眩しき初夏の旗
ハーレーの轟き初夏の風さやか
ハーレーの轟き初夏の風清し
初夏や海へ山へと掻き立てり
大阪府     津田明美
吊橋を渡り終ㇸたる初夏の風
樵る音一山響き初夏来たる
一条の光は初夏の魁と
登廊初夏の風浴び拝殿へ
送迎のペダルも軽く初夏を漕ぐ
神奈川県     塚本治彦
初夏や少年釣師立つ河原
翻る白衣学生街の初夏
初夏やサラダ定食よく売るる
初夏やミニスカートの長き脚
初夏や庭いっぱいに描く線路
岐阜県     雅風
水玉のネクタイに知る夏初め
竹の葉の音さやさやと初夏の風
炭酸の口に広ごる初夏の味
初夏や緑いやます苔の庭
初夏の風切り疾るオープンカー
滋賀県     坪田正温
校舎より「乙女の祈り」初夏の風
義仲寺にママチャリとめる初夏の旅
岬まで行ってみやうか初夏の浜
洗車する水の飛び来る初夏の路
船酔ひの漁師見習ひ初夏の波
福岡県     多事
初夏の陽の調停室のパイプ椅子
烏賊の仔に見つめられをり夏兆す
慣れはじむる社会的距離夏はじめ
首夏光を捩じりだしたりサキソフォン
初夏や散切り多き定演会
京都府     田端敏弘
トラクター気散じな母待たす初夏
初夏のガツンと中る肘叩き
風呂のいす引き連れ初夏の畑仕事
初夏の朝日に合わす無限大
二階から入る山荘夏始め
千葉県     四葩
初夏のクラリネットの響く窓
初夏の少年と犬駈け行けり
千葉県     渡邉竹庵
初夏の白き襟足細き指
奥四万の湖は紺青キラリ初夏
日時計の影短くて夏はじめ
安曇野の初夏に休めば道祖神
初夏の疎水うごめく取水口
大阪府     藤田康子
本棚の観音開き初夏の風
畑にて母を偲びぬ初夏の雲
東京都     内藤羊皐
産褥の嫂眠りゐる立夏かな
夏立つや古書街を匂ふ人の影
理髪師の研ぎる剃刀夏に入る
倦みたる手遊び唄や夏来る
隧道に鉄の錆滲み夏に入る
千葉県     入部和夫
離陸の爆音や首夏の滑走路
初夏の角の梢のベーカリー
初夏の空にはためく万国旗
天に星地の花匂ふ夏初め
初夏の波をよちよちおむつの子
埼玉県     飯塚璋
お揃いのシャツ着て歩む初夏の尾瀬
初夏の渚に匂ふ藻屑かな
筑波嶺の展望千里初夏の風
東京都     尾田 一郎
竹刀振る窓開け放ち初夏の風
はなみづき花に大小初夏の風
初夏やシャツの白さよ抜ける風
花ちらす雨の上がりて初夏の風
木刀の一人稽古や初夏の汗
千葉県     柊二
やはらかき径鎌倉の初夏の風
群馬県     武藤洋一
鼻ばかり聡き老農初夏の風
初夏の旅海苔弁匂ふ三等車
初夏や駆け出し記者のよく走る
初夏の湖怪魚伝説説く女将
初夏や漁火遠く尾根の小屋
三重県     平谷富之
初夏の風 あびて買物 心地よく
初夏なのに 球音聞こへぬ 寂しさよ
千葉県     峰崎成規
初夏の風は素通りみなマスク
真つ先にTシャツ応ふ初夏の風
初夏や貝敷く路地の先は海
初夏の光はしやいでささら波
はつなつの風は木漏れ日育めり
神奈川県     芳賀順一
はつなつや陽水ユーミン影法師
鬼平や羽二重団子で冷酒飲み
短夜や清少納言筆休み
キリンの目眩しげにして夏来る
「ひまわり」の地平線まで女ゆく
兵庫県     檀凛凪
初夏に馴染む制服角曲がる
初夏や不意に目玉のあるところ
初夏や目玉の奥の透きとおる
初夏のめくれば柔き海の色
初夏の後ろ姿に降る拍手
三重県     北村英子
大笑ひさせる動画や夏初め
生き延びるためのあれこれ孟夏かな
疫病と戦ふ地球夏初め
妖怪の護符を描きて夏初め
初夏の悩みは生きるためのこと
奈良県     堀ノ内和夫
初夏の風畦より畔の散歩径
岡山県     名木田純子
地図帳のページを急かす初夏の風
鳥獣の声にふくらむ初夏の森
木洩日の川に弾める初夏の音
愛知県     木下澄枝
山頂へ木霊の返る夏はじめ
湖へ繰り出す白帆夏はじめ
藍染の白の際立つ夏はじめ
寄り添へる牧の子牛や夏はじめ
白樺の幹の林立夏はじめ
長野県     木原登
靴脱いで渚を歩く夏はじめ
走り来る子らの二の腕夏きざす
はつ夏の空は薄荷のにほひかな
白樺発はつなつの風野に山に
初夏の影添ふ碁石打ちにけり
大阪府     木山満
コロナ菌薔薇の館を見そびれし
初夏の風ここちゃんの髪掬い上げ
窓全開初夏の風聴く一日かな
マニキュアの赤に零れる初夏の光(こう)
純白のカーテン潜る初夏の風
神奈川県     矢神輝昭
声吸わる課外活動初夏の空
初夏へ「猫ふんじゃった」出来ちゃった
読書など後回しぞと初夏の風
バンジーの飛び立つ人へ初夏の風
ホコ天の銀座でカリー初夏の風 
山口県     ひろ子
一服の抹茶に添える柏餅
早々と準備ととのう袋掛け
制服のいかす長身衣更え
神奈川県     龍野ひろし
舞妓らが鳴らすぽつくり夏始
ボサノバのリズムのごとき初夏の風
丸刈りの襟足撫づる初夏の風
ブラジル     林とみ代
初夏の波足裏こそぎ謎めける
色彩の豊かとなりぬ初夏モード
湯上りのうなじ撫でゆく初夏の風
初夏の街入墨の肌あらはなる
惜しきかな中止となりぬ初夏の旅
奈良県     一人坊
初夏の海ハンドル握り涙ぐみ
初夏の色思いつかずに肩すくめ
やっと来た窓開け初夏の四万十は
初夏の月ビールの泡や気休めに
宮城県     林田正光
初夏や雲生き生きと流れをり
初夏朝餉海苔と納豆卵かな
無人駅下車する客は初夏の風
初夏や初恋の味甦る
内海に波打ち寄せて初夏来たる
兵庫県     髙見 正樹
苔を食む魚のきらめき初夏の川