俳句庵

7月『炎昼』全応募作品

(敬称略)

奈良県     平松洋子
炎昼もあの角曲れば風と合ふ
炎昼や車窓から見る大極殿
炎昼や一人茶漬けの白御飯
東京都     飯田哲司
炎昼や天地災い打ちよせる
炎昼や路面燃え立つ火災かな
炎昼や山小屋染めるあかね空
神奈川県     髙梨裕
炎昼や魚の臭いトタン屋根
炎昼や昼一本の路線バス
炎昼や水の広場のカレー店
炎昼や目抜き通りの昼タイム
炎昼や白線歪む高速道
東京都     豊島 仁
炎昼や庭の大石動かざる
炎昼にとどめはいらぬ消防車
炎昼にじっと耐えてるポストかな
炎昼や故郷いかに午後の二時
炎昼や花生け客を待つ主人
京都府     中村万年青
炎昼や建て替え急ぐ駅のビル
炎昼や陽炎ゆれる畑道
炎昼や脳くらくらと街を行き
富山県     姫野篤弘
炎昼や再開発のクレーン立つ
新築のドリルの響き夏の昼
炎昼や観光放水黒部ダム
認知症妻と語るや夏の昼
炎昼や悔し涙のP・K戦
東京都     安西信之
炎昼や垂るる校旗と大会旗
炎昼や帷下りたる舫船
東京都     大江深夜
炎昼や光の闇に引き込まれ
炎昼や帽子の鍔に塩の綾
東京都     伊藤訓花
炎昼に影奪はれて夫立ちぬ
老いぬれば炎昼の我動かざる
炎昼に動かざる者囲碁の夫
岩占拠亀亀亀の夏の昼
炎昼のゆらりと揺れる地平線
千葉県     伊藤順女
竹林へ来て炎昼の遠ざかり
炎昼や古き農家の暗き土間
千葉県     伊藤博康
炎昼も防風林のたじろがず
炎昼に檀家を廻る和尚かな
鉄棒の炎昼最中佇めり
炎昼や読経微かに起伏あり
千葉県     伊藤博康
炎昼にノツクが生みし砂煙
神奈川県     井手浩堂
炎昼やつきくる影のくつきりと
炎昼の街を駆け抜け救急車
地下道を出て炎昼のど真ん中
かほ起こし吠えず炎昼の番犬
徳島県     井内胡桃
コトリとも音なき館夏の昼
炎昼の公園に猫伸びきって
炎昼の飯屋の列の真中辺
カピバラの髭のほほんと夏の昼
炎昼の馬車の蹄のリズミカル
東京都     右田俊郎
炎昼や扉を閉ざす焔魔堂
炎昼やシャッター街に人気なし
炎昼のムラノ島にてガラス吹く
炎昼や職人の吹くガラス玉
炎昼や硝子工場の溶鉱炉
愛媛県     アリマノミコ
炎昼やキューピーさんと吾子添い寝
炎昼やカミュのムルソー現れる
炎昼や猫も土間にて昼寝覚
神奈川県     志保川有
炎昼や外壁(かべ)むきだしの無言館
炎昼や風ひと掃けに千金を
黒人の命の廉さ夏真昼
炎昼やジェルソミーナはもういない――映画「道」
炎昼や千差万別改憲論
千葉県     風泉
・三密もいとわず地下の夏まひる
・朝ひらき炎昼にとじ蒼い花
・大欅鳴き止む境内夏まひる
東京都     岡本英太郎
汗ぬぐい炎昼でござるとボケてみる
あわれなり炎昼高らかに鳴き通す
炎昼暗き浄土か寺の内
炎昼に人なき世界かいまみる
炎昼にこだわる思いも消え去りぬ
富山県     岡野 みつる
炎昼や水を大地が奪い合う
地中から蚯蚓のたうつ暑さかな
炎昼の木陰に集う噂かな
愛媛県     加島一善
炎昼や夫婦無言の午後三時
炎昼や駆ける球児の顔黒し
炎昼やアスファルト敷く人ふらり
炎昼の東京の街すべて焼け
カニ族の降り立つ駅や夏真昼
愛知県     みねこ
校舎ごと包んで工事炎昼に
炎昼や球児の声とラリラリラ
炎昼をやりすごしてやのそのそと
富山県     加能雅臣
炎昼の鉄路の美しき錆のいろ
炎昼の十指に白き爪の月
炎昼やバスのなかなか近づかぬ
神奈川県     海野優
身動きもせぬ炎昼の風見鶏
炎昼の考へる人みじろがず
炎昼の幾度確かむ案内図
炎昼のくららと眩むモアレかな
兵庫県     岸下庄二
炎昼や木陰に休む乳母車
炎昼や保線工夫の揺らぎ見ゆ
炎昼や寝相の悪き家の猫
炎昼や気怠く回る花時計
炎昼や己が真下に己が影
埼玉県     岸保宏
炎昼や多くなりたる忘れ物
通院の背に炎昼たたみかけ
炎昼や蛇口も火照る児童園
兵庫県     岸野孝彦
炎昼や別れし人と旅枕
炎昼や友の訃報に辛き酒
炎昼や赤きマスクの女高生
炎昼や比島戦死の忠魂碑
炎昼や父母亡き里の風は無き
東京都     岩崎美範
さんざめく自粛解除の夏の昼
町筋の無音貫く夏の昼
炎昼の坂のろのろと霊柩車
炎昼の影なき吾の恐ろしき
のつそりと炎昼の河流れけり
東京都     岩川容子
炎昼やどこかで皿の割れる音
座る人なき炎昼のベンチかな
炎昼や地蔵の赤きよだれかけ
炎昼に塩飴ふふみ外出す
愛知県     岩田遊泉
炎昼の不思議な時の息吹かな
炎昼の水煙かすむ興福寺
羅漢像みな口開くる夏の昼
炎昼の動く影無き石畳
炎昼や無音の街のビルの影
神奈川県     亀山酔田
貝殻に貝の一生夏の昼
炎昼の来る人皆眠そうで
甲羅干す亀の白泥炎昼下
名物のカレー売り切れ夏真昼
炎昼やおやじ一人の喫茶店
茨城県     風峰
チェーンソーが炎昼の空なぎ倒す
炎昼やバイク押し行く郵便夫
時計さえ記憶固執の炎昼かな
老犬の歩み炎昼また一歩
炎昼や溶接棒に白き花
埼玉県     いまいやすのり
炎昼や猫も通らぬバス通り
炎昼や一駅なれど地下鉄へ
炎昼や角を曲がつて又曲がる
ちぐはぐなハモニカ聞こゆ夏の昼
炎昼や誰れも居ない路線バス
岐阜県     ときめき人
炎昼の原爆ドーム継ぐ祈り
東京都     よしだ悠
陰舐めてわれ炎昼の犬かなし
炎昼の枕ならべてふたり老ゆ
炎昼の木の葉となりぬ蝶二頭
炎昼のくんづほぐれつ蟻二匹
炎昼の墓石千基みな孤独
神奈川県     立野音思
炎昼の厨揺らすや中華鍋
炎昼や運命の舞うコイントス
炎昼や飛び込む暖簾甘味處
炎昼や硝子の向こう喫茶店
炎昼に揺らぐ木立や絵画館
東京都     吉澤恭香
炎昼と言えども路線バス待てり
炎昼や日陰欲りしとハーレーに
探すなりわずかな陰を炎昼に
炎昼に子ども守りて吾の陰に
炎昼と言えど二人子抱きける
千葉県     玉井令子
炎昼や日陰を選び街歩き
炎昼や進行止まぬ温暖化
炎昼や木陰で休むドライバー
炎昼の株式市場乱高下
炎昼の照り返し浴ぶオフィス街
新潟県     近藤博
コロナ禍に重ね家居や夏の昼
半袖の腕に灼熱夏の昼
炎昼やシャワーを浴ぶに及くはなし
炎昼や草木もげんなり緑失せ
炎昼や帽子欠かせぬ禿げ頭
岐阜県     金子加行
炎昼にミリを測りて鉄を組む
炎昼の約す時刻を守りたる
炎昼に紳士崩さぬ衣を保ち
炎昼に迷ふや重き旅鞄
炎昼にアスファルト焚く道普請
神奈川県     原川篤子
犬呼べど耳だけ動く夏真昼
炎昼やするめのごとく犬は寝て
コロナ禍に籠るほかなし夏真昼
炎昼の遺跡の石に翳もなし
炎昼に往くか戻るか距離計る
埼玉県     吉野 静
炎昼にたつた一人の路線バス
炎昼の寝息たかなる嬰児かな
炎昼にかすかに匂ふ焼きむすび
炎昼に干物の如く猿が寝る
炎昼に消毒液を運ぶ風
福岡県     戸澤孝一
炎昼や光も揺れるアスファルト
炎昼に帽子忘れて地獄道
炎天下水ぞ命の山登り
三重県     後藤允孝
炎昼や昼寝する子もしない子も
炎昼や手配写真は色褪せて
炎昼や土塁跡には石ひとつ
炎昼の入口あれば出口あり
道半ば動悸激しき夏の昼
兵庫県     高市敦之
炎昼や麦藁帽子の振り向かぬ
炎昼や親の影踏み子ステップ
炎昼や鉄柱の先鴉鳴く
炎昼や挨拶交わす遍路笠
首塚や炎昼の空澄み渡る
秋田県     笹弓
炎昼の身を解き放つ喫茶店
炎昼の街を馳せ来る救急車
炎昼や河童伝説ある川辺
炎昼を越えて山中たどり着く
湧水を汲むため並ぶ炎昼に
愛媛県     佐藤めぐみ
炎昼に上げる拳や幾百万
炎昼や夫に手渡すハーブティー
炎昼のいつもと同じ海女の小屋
愛媛県     砂山恵子
高々と上がるクレーン夏真昼
熱しより痛しと感ず夏真昼
炎昼のウィンドウ越しのルノワール
炎昼のまつすぐ進む滑走路
炎昼のいまだ赤なる信号機
兵庫県     はなちる
炎昼の吾子の重さに立ち止まる
差出人不明の手紙炎昼かな
炎昼の樹木の影に風の音
寺の鐘熱を集めて炎昼かな
炎昼や五臓六腑を休めをり
東京都     勢田清
炎昼のグランドの土乾ききり
炎昼の浜辺は波の音ばかり
炎昼の騎馬武者の列焼けて行く
川釣りに炎昼のこと忘れおり
炎昼の人影絶えし白き街
東京都     三隅昌人
コロナ禍やまだ炎昼の憤り
炎昼にすまし顔で待つ向日葵や
炎昼に猫もたまらず一直線
炎昼へ吐き出されたる降車駅
炎昼に曲がらぬ老い木勁さかな
神奈川県     三好康子
炎昼の基地に不気味やオスプレイ
炎昼の舗道にみみず干からびて
炎昼を来て物言はず会釈のみ
炎昼の渋谷に激辛カレー食ぶ
炎昼やギロチン窓の落つる音
千葉県     山田香津子
炎昼や屋根職員の頼もしく
炎昼の自販機の音弾みたり
炎昼や身構え駅へ十五分
神奈川県     山田知明
炎昼の舗装工事の臭ひ立つ
炎昼の太陽弾くビルの窓
炎昼のしづまり返る保育園
炎昼の水平線のしづかなり
炎昼のしづまり返る遊具かな
埼玉県     山田典子
炎昼の喉過ぐ水の速さかな
東京都     山本左利
炎昼の樹々より叫ぶ吾ここに
パステルの瓶炎昼に鈴が鳴る
七度目の炎昼に見る浮世なり
炎昼や喉ごし楽し妻は留守
吾子二人蹴合う肌掛け炎昼夢
山口県     山縣敏夫
下校する子等の歓声夏の昼
炎昼や吊り広告の様寂し
炎昼に傘とマスクの群れ動く
炎昼に人も疎らな交差点
2メートル離れて会話夏の昼
福岡県     紙田幻草
炎昼のキラキラとしてキラキラと
炎昼の山へ鳥居をくぐりけり
炎昼の光の中の石の神
炎昼や二人の訃報並びたる
真っ黒な子供が一人夏の昼
大阪府     児玉硝子
炎昼や二足歩行をひたすらに
炎昼の体力時間限りあり
炎昼のやわらかい笹かたい笹
炎昼や鉄溶かしたり叩いたり
炎昼へ消えてゆく人二、三人
島根県     寺津豪佐
炎昼に呆けた声や鳩時計
炎昼や鬼が拗ねてるかくれんぼ
二時間の断水のある夏の昼
炎昼や運河に並ぶ醤油蔵
炎昼の心許なき禊川
神奈川県     守安雄介
炎昼やサンダル奪うアスファルト 
コロナ禍の炎昼和むオーデコロン
炎昼やアベノマスクの肩呼吸
炎昼の化粧売り場に退避せり 
炎昼の化粧売場の花盛り
埼玉県     守田修治
炎昼や庭の井戸水いい気持ち
炎昼や裏道をいく根津谷中
炎昼や昭和長屋はぐるりビル
炎昼や昨日を越えた温度計
炎昼やビル解体の午後三時
埼玉県     小玉拙郎
鉄棒の黒い沈黙夏真昼
炎昼や鉄橋にあまる貨物車両
炎昼の仏間客間のへだてなく
炎昼や音無きホールの譜面台
茨城県     小松崎孝志
炎昼や風の欲しさに早歩き
炎昼や小さ過ぎたる我の影
炎昼やきんきん冷えて大ジョッキ
炎昼や野球の子らの熱い声
炎昼や砂と涙とユニフォーム
神奈川県     岳
炎昼のポンポン船の犬と人
炎昼やトランペットの破裂音
ドアマンの白き制服夏の昼
炎昼の人影絶えし無人駅
大盛りのソースかつ丼夏の昼
北海道     小林真由美
炎昼や中央線の歪みたり
炎昼や火葬炉の戸の鈍し音
炎昼や旧家の甍黒光る
園児らの影踏み遊び夏の昼
炎昼や喘ぐごとくにモアイ立つ
東京都     松小庵小僧
炎昼やペタリほつれ毛富士額
炎昼や晩酌待ちの冷やっこ
炎昼や焼くは素肌とバーベキュー
炎昼や縁側座って冷やし飴
炎昼やお日さま高くすぐ昼寝
神奈川県     松野勉
炎昼や身重の妻の写メ拝む
炎昼やラーメン二郎に並ぶ俺
北海道     風花美絵
仏塔へ影なき路を炎昼に
炎昼に白線またぐ足早に
炎昼に位牌のみ識る玉音を
静岡県     城内幸江
炎昼や影を伝つて帰る家
白球を追わぬ少年夏の昼
炭酸は口から溢れ夏の昼
炎昼や尻焼けさうなすべり台
炎昼や束子で洗ふワニの顔
愛知県     新美達夫
炎昼の蛇口の一つ横向ける
道斫る音炎昼に軋めきぬ
炎昼や待機クレーンの半ブーム
大阪府     森佳月
炎昼の洗濯ばさみタオル咬む
炎昼やバスから降りる客ひとり
炎昼に仏花の水も腐りけり
炎昼を頭掻きかき耕助来
炎昼やジャングルジムは立ち尽くす
福岡県     深町明
炎昼の街人間の坩堝なり
炎昼や白き積木のなす都心
炎昼を潜り漢書の一間かな
炎昼や人ひとりゐぬ甲子園
コンクリに寝入るライオン夏の昼
神奈川県     拾弐番
背から降り炎昼よそに軒の吾子
炎昼や影の黒さに脚を留め
炎昼や托鉢僧の白き袈裟
炎昼の荷車影を引き摺りて
炎昼や墓参昨日か一昨日か
東京都     一塁手
良し悪しもなく炎昼やもの忘れ
炎昼の日傘の陰に烏二羽
炎昼や聖母マリアの頬に滴
炎昼に負けんと子らの手に柄杓
ほの白き香立つ炎昼の洗い張り
大阪府     杉本義雄
炎昼や幟はためく分譲地
炎昼や言葉で詫びつつ墓洗う
炎昼や父に負ぶさる児の寝顔
炎昼や信号待ちのもどかしさ
炎昼やクレーンの向きが又変わる
三重県     西井治男
炎昼の過ごし方今昼寝かな
福岡県     すがりとおる
炎昼の次の間に伏す雇女かな
炎昼のきはみを配る郵便夫
炎昼に女の口笛地下の街
炎昼の地下に緑愁ある世界
炎昼の運河に艀溜かな
埼玉県     水夢
水彩の絵の具溶けゆく夏の昼
炎昼や烏の止まるキロポスト
炎昼や竜神橋の深ねむり
炎昼やペンギン揺らす水の底
炎昼やペンキ絵の猿踊りだす
宮城県     zazi
炎昼やデイサービスの送迎車
炎昼や工事現場の静寂かな
炎昼や烟る草木に海の風
炎昼や中間テストの停留所
炎昼や鉄筋工の午睡かな
愛知県     斉藤浩美
炎昼へ炎昼へと理髪灯
炎昼のひとりのためにバス停まる
炎昼や打者も走者も動き出す
炎昼や赤から青へ信号機
炎昼やビジネスマンは麺啜る
千葉県     いなだはまち
炎昼や握りしめてる整理券
炎昼のソーラーホース巡る水
炎昼や時がじりじり進む音
衛兵の交代式や夏真昼
炎昼の投函口へラブレター
大阪府     石原由女
炎昼や犬猫人も蒸発す
炎昼に地球の自転ゆるみをり
炎昼に前頭葉は休止せり
東京都     石川昇
炎昼や触れてはならぬボンネット
炎昼のあえて辛めのカップ麺
滋賀県     船岡房公
炎昼に響くアザーンや砂の街
炎昼や小銃光る砂漠兵
炎昼や中村哲氏逝き給ふ
三重県     倉田 伊都子
炎昼の グラスの氷 白き滝
炎昼の 暗き御堂の 水たまり
炎昼や 不精を起こし 睡りをり
大阪府     太田紀子
炎昼の上る坂道果てしなく
炎昼や舌だす犬のよろけゆく
炎昼の一車線なる峠道
東京都     太田圭
炎昼の夢かち割と共に解け
波しぶきキラリ炎昼艶ビキニ
パラソルの下炎昼のラムコーク
炎昼や犬鳴く家の瓶ビール
ほっかむり炎昼恨めし美白かな
栃木県     鹿沼湖
炎昼や工事現場のヘルメット
大阪府     佳代
炎昼や一休みして又一歩
遊歩道息整えて炎昼へ
炎昼にほっと一息松の陰
炎昼に陰を探して青もみじ
青もみじ見上げ一服炎昼へ
神奈川県     真琴
炎昼の国道脇の供花かな
静岡県     大澤定男
炎昼や雨女なる妻の老い
炎昼やその時はその時とする
炎昼や測量技師の青いシャツ
炎昼や影無く高き忠魂碑
炎昼や休み休みの花時計
埼玉県     哲庵
炎昼やサイレンの音遠近に
炎昼を路面電車の軋り行く
炎昼や声を嗄らして選挙カー
炎昼や疫病の死者山と成す
炎昼や背に翼持つ美少年
神奈川県     竹見 かぐや
炎昼やタール臭濃き町工場
炎昼や道のり長き母の墓
千枚田影一つなき夏真昼
炎昼に一本返す本塁打
炎昼や我が影溶ける地獄門
神奈川県     重兵衛
道端にズックの片割夏真昼
炎昼や恐竜化石のある公園
炎昼やヘリ飛ぶ音の迫りくる
コンビニの幟皆垂る夏真昼
東京都     中田ちこう
炎昼へ石つぎつぎに水を切る
徳島県     白井百合子
炎昼や手術跡あり猫の腹
炎昼や木陰探してひらひらと
炎昼や猫の開きと手術あと
炎昼やこんな日だった三回忌
炎昼やにわかに出来る水たまり
神奈川県     猪狩 仙次郎
炎昼や古寺の木陰に僧ひとり
炎昼や野天湯そよりともせずに
炎昼や鴟尾の八方鳥鳴かず
炎昼の潮満々と荒磯哉
炎昼や動かざるもの僧と鴟尾
千葉県     長岡ルリ子
炎昼の大樹に語る二人かな
炎昼のインターホンに知らぬ顔
炎昼の千住大橋浮きあがり
炎昼や大黒さんもひと休み
炎昼や遅延のバスに苛立ちぬ
東京都     長岡馨子
炎昼の配達員の太き腕
茨城県     守屋重伍
炎昼をデンと構えし亡きおやじ
登窯炎昼怒号荒行事
炎昼や涼しきミサを歌う子ら
やせっぽち炎昼のなか田を見張る
炎昼や我は畳の染みとなり
千葉県     長谷川ぺぐ
ボサノバで寛ぐソファー夏真昼
炎昼の道路突貫工夫に湯気
炎昼の烏ぱつたり鳴り潜め
炎昼を逃れデパート物産展
炎昼に奪はれさうな骨の髄
大阪府     津田明美
炎昼や幽体離脱の影歩く
炎昼や木彫りの熊の熱を持つ
炎昼やものみな白く黙す街
炎昼や魂を無くせし彷徨子
炎昼や魂置き去りに運ぶ足
神奈川県     塚本治彦
炎昼や地面の下の地下鉄線
炎昼や道路工事の暗き穴
炎昼や熟寝の底の漁師町
炎昼や下水工事のマンホール
炎昼や海女の逃げゆく海の底
岐阜県     雅風
炎昼を避けて地下街歩きけり
炎昼やさらに眼を剥く仁王像 
炎昼や乾きの早き犬のしと
炎昼や焦げんばかりの両の腕
炎昼をものともせずに沖仲仕 
福岡県     多事
子ら挙りミスト浴びをり夏まひる
人にみなモアイの翳り夏真昼
鸚鵡貝浮きつ沈みつ夏真昼
炎昼にシシュポスのよな影を曳き
炎昼の道にチョークの魔法円
東京都     土橋みゆき
炎昼やテナント募集取れぬ窓
炎昼の看板垂れてドーナツ屋
炎昼や商店街の奥の駅
炎昼や持ち手を変えるレジ袋
遮断機の音炎昼にゆがみ鳴る
大阪府     藤田康子
炎昼や裏を猫さへ通らない
炎昼や姉の見舞いに行けなくて
東京都     内藤羊皐
炎昼やオルガンを踏む老教師
炎昼の瓢箪池を魚の背
炎昼の山懐を墓域かな
炎昼の呼吸器咥ふ父の口
炎昼の空の標を禽翔る
東京都     二川昌弘
炎昼に一雨ほしやビルの街
炎昼に一雨降って木々緑
炎昼や打ち水涼し日本橋
炎昼にチリンチリンが蘇えり
炎昼にかげろう立ちぬ石の道
千葉県     入部和夫
炎昼の頬に木洩れ日秘密基地
炎昼のゴールは諏訪高島城
炎昼や跳ねたる如きハングル語
炎昼や老いの青春まっしぐら
炎昼や球児に夢の甲子園
北海道     飯沼勇一
炎昼のご褒美遠き溪の音
炎昼の蛇口より漏る富士の水
炎昼は天の竈でありにけり
炎昼を走るや奥歯噛みしめて
炎昼の犬身じろぎもせず眠る
埼玉県     飯塚璋
炎昼の発電風車皆止まる
炎昼や喪服の女すれ違ふ
炎昼のすし屋の親父ぶつきら棒
東京都     尾田 一郎
炎昼の笠なき道の遠かりき
炎昼や地をはうやうに蝶の舞ふ
炎昼や自然にできる社会距離
炎昼の一人稽古や鞍馬山
炎昼の短き影や羅漢像
千葉県     柊二
炎昼の鳥居の底や空は海
群馬県     武藤洋一
炎昼や納豆の糸うなだれて
三重県     平谷富之
炎昼下何するものぞ買物へ
炎昼やぐんぐん背伸び温度計
おかしいな炎昼なのにマスクかけ
東京都     平野 哲斎
海光の滾りて流る夏真昼
炎昼や地獄の輪廻始まりぬ
炎昼に蓋も疼きし地獄門
炎昼や太古の記憶呼び覚まし
炎昼のばさりと月を削りたる
千葉県     峰崎成規
泣き止まぬ嬰に炎昼持て余す
炎昼や人は無口に街もまた
炎昼に負けず気を吐くビル解体
炎昼の隠れ里めく水族館
棺出で泣く炎昼のクラクション
神奈川県     芳賀りおん
炎昼に妻がまた行く酔虎伝
炎昼に恋の便りを投函す
炎昼に妻がまた読む水滸伝
炎昼やビルくろぐろとくずれゆく
炎昼のソプラノサックス蛍啼く
東京都     豊宣光
炎昼に動くものなき静寂かな
炎昼の中に寄り添う影二つ
炎昼や放水はしゃぐ裸の子
巣ごもりの日々炎昼の外知らず
炎昼のライオン飢えて檻の中
兵庫県     檀凛凪
炎昼や銃声響く本の中
炎昼は消せぬ我はただ動けぬ
炎昼にぶら下がる死のことごとく
炎昼や嘘八百を見破らす
炎昼にほぉと味噌汁湯気たてる
三重県     北村英子
炎昼の待ち合はせ場所猫に問ふ
振り切つて炎昼の温湿度計
焼きそばは紅生姜から夏の昼
炎昼のをとこの向かふ角の部屋
炎昼の恋しらきれず視線とか
奈良県     堀ノ内和夫
炎昼に児ら止めぬ三角ベース
東京都     安藤ゆき子
炎昼やベニスの玻璃の壺青く
炎昼に祖母の螺鈿の棗拭く
炎昼や大樹の陰でレモンスカッシュ
炎昼の七里ヶ浜のブルーハワイ
岡山県     名木田純子
炎昼の路面電車をひとり待つ
炎昼や己が重たき影を引き
炎昼の遅れがちなる花時計
愛知県     木下澄枝
改札を出るや炎昼まとひつく
炎昼や地を這ふやうに測量士
長野県     木原登
炎昼や白き炎の立つ大都会
日時計の影も必死や夏真昼
デパ地下へわが影はこぶ夏の昼
炎昼や黒猫プルート壁の中
炎昼の風さやかなり槍ヶ岳
大阪府     木山満
炎昼や街並み静か湯気の中
炎昼や水に音発(た)つ庭の石
炎昼や信楽焼狸目を廻し
炎昼や水風呂立てて瞑想す
炎昼やバスうすうすと嫌がり来(く)
神奈川県     野川喜一郎
炎昼や透析終えて妻帰宅
木陰無き炎昼無人駅に下車
炎昼や垂れ多くして送電線
コロナ禍や客待ち顔のボートかな
神奈川県     矢神輝昭
内輪揉め逃げ場なくして炎昼へ
炎昼や伽藍の内へ入り得ず
山口県     ひろ子
猛暑日に生まれ自分史始まりぬ
焼石に水のごとしや炎天下
寝苦しき夜をぱたぱたと蚊帳の中
疫病を避けてマスクの炎昼下
資源ごみ山のごとしや炎昼下
神奈川県     龍野ひろし
炎昼や白線歪む交差点
炎昼や動き気だるき観覧車
炎昼や船の墓場に錆匂ふ
ブラジル     林とみ代
炎昼やコロナ禍潜む街怖し
炎昼のビルより響く槌の音
炎昼の街走り行く救急車
炎昼や舌長く垂れ喘ぐ犬
炎昼の赤信号に列なせり
宮城県     林田正光
炎昼や欠席届投函す
炎昼や静止画像のワンシーン
炎昼の告別式の長弔辞
炎昼の事件現場やキナ臭し
炎昼に耐えて電柱立ち尽くす
兵庫県     髙見 正樹
炎昼のバス停留所風止まる
神奈川県     矢神輝昭
炎昼や対峙の魚が天蚕糸引く
炎昼や借金男火の車
炎昼に後ろめたさの長居かな