俳句庵

季題 8月「立秋」

  • 立秋や軽き遺骨の妻を抱く
  • 大阪府     杉本 義雄 様
  • 真っ白なシーツ干しあり今朝の秋
  • 広島県     永野 昌人 様
  • 秋立つやもの問ひたげな夢の母
  • 神奈川県     海野 優 様
  • コロナ禍の終熄見えず秋立ちぬ
  • ブラジル     林 とみ代 様
選者詠
  • 秋立つと大仏の顔ゆるびけり
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 今年の立秋は八月七日。例年より長い梅雨が終わると、猛烈な暑さが続き、折からの新型コロナウイルスと共に、厳しい八月でした。今月の題は「立秋」、暑気は去りませんが、日常の生活の中にはどことなく秋の気配を感じる頃となりました。この「立秋」という言葉の響きは善いです。今月は秀句が多く、選も厳しい中にも楽しみがありました。
 優秀賞の杉本義雄さんの句。一読思いを巡らせられる句です。長い間相和して来た奥さんの死は、何よりも厳しいものです。「軽き遺骨の妻を抱く」に、作者の思いの全てが籠められています。しかも言葉に乱れはありません。「軽き」、「抱く」、善い表現です。
 永野昌人さんの句。「真っ白なシーツ」が善いです。「今朝の秋」と響き合っています。更にそのシーツが「干しあり」の言葉で生きて来ます。近所での嘱目でしょう。立秋の陽光を浴びて白く輝く「シーツ」が、「今朝の秋」の季節感を善く導いています。
 海野優さんの句。この「夢の母」は故人となった母堂でしょう。「もの問ひたげな」と「夢の母」は一体です。亡き母は、作者に聞きたいことがあったのでしょう。中七の表現が一句を際立たせています。「夢の母」もまた同じです。
 林とみ代さんの句。「コロナ禍」は、「新型コロナウイルス」。この疫病は、作者の住むブラジルでも猛威をふるい、現在の感染者は米国に次ぐ多さとのこと。まさに、「終熄見えず」です。早い終熄を現実のものとしたい思いが、「秋立ちぬ」に感じられます。
 今月の佳句。<米研ぐや水のすがしき今朝の秋 守田修治>。<思ひ出を運ぶ雲あり秋立ちぬ 西山ひろ子>。<上げ潮に塩の目しるき今朝の秋 西山勝男>。<わだかまり捨つる夫婦や今朝の秋 芳賀順一>。どの句にも、「立秋」が善く詠みこまれています。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。