俳句庵

10月『残る虫』全応募作品

(敬称略)

宮城県     zazi
昼の虫光届かぬ屋敷神
虫のなく忍者の潜む奥の庭
児等去って子供農園虫時雨
虫時雨遠く届いて雨あがる
喧騒の出口の見えぬ虫の闇
愛媛県     アリマノミコ
リモートの仕事にも慣れ残る虫
千葉県     いなだはまち
のこる虫のこれぬ虫の明日をなく
名曲の余韻の中に残る虫
終電の一駅遠く残る虫
残る虫年賀欠礼状届く
埼玉県     いまいやすのり
残る虫終電あとの高架下
残る虫厠の窓に里ごころ
闇降りて磴を下れば残る虫
残る虫為すべき事を忘れゐる
切株のあえかな声や残る虫
福岡県     すがりとおる
袖を引くたつきのゆふべすがれ虫
どの部屋も花の名に負ふすがれ虫
手刀で受く勝名乗りすがれ虫
すがれ虫奏づるヨイトマケの唄
トンバイ塀の色だんだらにすがれ虫
岐阜県     ときめき人
地歌舞伎の仕上げ稽古や残る虫
兵庫県     はなちる
妣の空の木箱に残る虫
残る虫いつかはわかる小さき嘘
残る虫猫の影行く散歩道
山口県     ひろ子
友人の訃報憂うや虫の声
濡れ縁に耳をすませば残る虫
香り蒸すおしろいばなやちちろ聞く
神奈川県     みぃすてぃ
残る虫母もひとつの星となり
虫鳴くや基地で一晩初電車
東京都     よしだ悠
人生は長生き勝負のこる虫
長生きもほどほどにせい残る虫
残る虫ワイングラスの縁に酔ふ
われゆかばおまえはひとり残る虫
われを喚ぶ末期の母や残る虫
神奈川県     安藤真青
残る虫棟の灯見ゆる帰り道
斫りの音の止んだベランダ残る虫
東京都     伊藤訓花
残る虫我とも思ふ夕べかな
夫と飲むワインの隣残る虫
病みといふ闇の深さや残る虫
天上の母と聴き入る残る虫
残る虫厨の窓を恋しがり
千葉県     伊藤順女
残る虫夜半に別れを告げにくる
残る虫別れとなると愛おしく
残る虫おはようと鳴く小さき声
神奈川県     井手浩堂
残る虫先師の句碑の裏あたり
残る虫故郷の土間の広きかな
猫も聴くかそけき声や残る虫
コンサート終えたる広場残る虫
徳島県     井内胡桃
本堂へ長き石段残る虫
残る虫院の廊下の広すぎて
研ぐ米の白き流れや残る虫
一筋の声の力よ残る虫
花殻を摘む庭の隅残る虫
大阪府     佳代
残る虫母と繋いだいつも道
喜寿の姉共に元気に残る虫
残る虫次年をじっと待つ田畑
エコバッグマスクとコーデ残る虫
埼玉県     釜田眞吾
窓際にぽつねんとゐて縋れ虫
耳の奥静寂の声か残る虫
残る虫明日は残れぬかも知れず
残る虫声擦りきれるまで全うす
土壁にひび割れのきて残る虫
神奈川県     亀山酔田
小雨降る暮れ方なれど残る虫
残る虫鳴く都会をば辞するとす
残る虫厨の酒をよくくすね
残る虫遊具が揺れているようだ
残る虫天下国家を憂へる眼
岐阜県     金子加行
疲れ切る声もあるかに残る虫
残る虫手入れ怠る庭の草
残る虫聴きつつ母の逝きし夜や
地の揺るる前に鳴き止む残る虫
ホスピスの母のいのちや残る虫
神奈川県     志保川有
もはや義は色褪せにあせ残る虫
残る虫会話ちぐはぐ老夫婦
隣室の尿瓶ちろちろ残る虫
残る虫ひと鳴きごとに闇の濃く
残る虫「城崎にて」を繙ける
栃木県     鹿沼 湖
残る虫風呂の灯りのゆらめけり
独唱のしんみりと夕残る虫
大阪府     森 佳月
焚口に後悔くべて残る虫
京都から異邦人消え残る虫
飛火野に鹿居らずして残る虫
大過なく過ごして古希や残る虫
残る虫認知の妻と縁に居り
埼玉県     水夢
むらさきに明けゆく筑波残る虫
古寺の軋む廊下に残る虫
巡回のバスを待つ間や残る虫
残る虫湯殿に響く桶の音
鎮まりし坂東太郎残る虫
東京都     勢田清
残る虫小さき草むら声ばかり
日も暮れて残る虫の音頼りなき
残る虫鳴き続け居り昼の庭
残る虫立ち止まりても鳴き止まず
残る虫空き地の草の疎らなる
大阪府     石原由女
おおいなるものの過ぎゆき残る虫
残る虫子の追ふ声にかき消され
のこる虫こゑつぐやうにつぎつぎと
埼玉県     石塚彩楓
川岸に積み上ぐ土嚢残る虫
残る虫なかなか開かぬ壜の蓋
離れ住む友への手紙残る虫
残る虫郵便受けに回覧板
念仏の長き葬列残る虫
埼玉県     川越のしょび
何処からか繰りて耳奥残る虫
突然の訃報を耳に残る虫
畦道といふ花道に残る虫
残る虫翅の湿り気重き闇
残る虫らしく暮らして井戸の隅
東京都     足立智美
公園に昼の昏さや残る虫
音のせぬラジオに残る虫のをり
香川県     辰野
点滴の滴下数えて残る虫
残る虫自問自答のウォーキング
五袋の庭の草捨て残る虫
点滴の滴下に見入る残る虫
東京都     中田ちこう
残る虫オラショの中の風の音
残る虫ホットケーキの卵割る
神奈川県     猪狩仙次郎
雨音や草にかくれて残る虫
思ひ出す旅寝の枕残る虫
酔ひざめの耳に近きや残る虫
残る虫またも振りだす夜半の雨
志ん朝を聴いて眠るや残る虫
千葉県     長谷川ぺぐ
残る虫親父バンドのどさ回り
千葉県     鳥越 暁
残る虫今宵の共に手酌酒
廃校の木立の風や残る虫
祖母見舞ふ実家の土間に残る虫
井戸端の終はりを告ぐる残る虫
でしゃばらずただ一哭きの残る虫
埼玉県     哲庵
すがれ虫癌病棟の闇深し
すがれ虫進級会議深夜まで
閉館の老舗旅館や残る虫
またしても感染の報すがれ虫
残る虫電池の切れし電子辞書
千葉県     渡邉竹庵
残る虫掩体豪の崩れ落つ
漆喰の蔵ひび割れて残る虫
東京都     内藤羊皐
残る虫座敷牢跡と聞きたれば
残る虫義母の年忌を数へる夜
残る虫月待台の影延びて
水抜きし瓢箪池に残る虫
幼児いま反抗期なり残る虫
徳島県     白井百合子
束の間の音色聞かせる残る虫
避難所やバケツの底に残る虫
病窓を覗く気配の残る虫
身を隠す菩薩の足に残る虫
残る虫杖を支えに退院す
東京都     尾田 一郎
残る虫人事苛烈な新首相
色づきし金柑甘し残る虫
墓じまいしせし日の寒さ残る虫
残る虫風に街路樹ただ一葉
残る虫落ち葉静かに澄ます耳
千葉県     柊二
残る虫墓標の影のU字溝
北海道     風花美絵
残る虫隠れ家探す通学路
残る虫あと一品で店じまい
残る虫電池マークがあと一つ
残る虫ぼんやりながむ庭箒
テレワーク回線飛ぶよすがれ虫
千葉県     風泉
・末枯れ虫を避けて打ち出すラフの球
・住めぬ家の土間に日暮れて残る虫
・老いの身を厭え厭えと末枯れ虫
茨城県     風峰
ゐなくともゐても寂しき残る虫
取りの唄響く劇場残る虫
残る虫加齢ですよとクリニック
残る虫ゴーシュのやうにセロを弾く
一時半カラオケ百曲残る虫
奈良県     平松洋子
残る虫夜更けの庭の部屋明かり
人よりも寂しく鳴くや残る虫
月光に身を晒されし残る虫
福島県     弥生日菜子
残る虫お前も此処が死に処
残る虫ここはフクシマ生き残れ
残る虫歯ぎしりと聞く暁闇に
愛媛県     砂山恵子
この土地に生きよ生きよと残る虫
侘び寂びも和歌も知らねど残る虫
パソコンは異教の世界残る虫
残る虫宇宙のはじめ語ろうか
残る虫長き夜勤の始まりぬ
兵庫県     岸下庄二
白壁の古き酒蔵残る虫
夕暮れを待ちて鳴き出す残る虫
残る虫一夜限りの村歌舞伎
残る虫産土神の古鳥居
残る虫今は使はぬ登り窯
愛知県     岩田勇
酔い醒めに風呂に浸れば残る虫
敗将の小さき塚や残る虫
この辺り不破の関跡残る虫
奈良県     堀ノ内和夫
宮跡の礎石の上に残る虫
新潟県     近藤博
盛り過ぎか細く鳴ける残る虫
死に際の鳴き声哀れ残る虫
残る虫一匹捕らえ虫籠に
夜を追い鳴き声かそけし残る虫
生き残り鳴き声哀れ残る虫
埼玉県     飯塚璋
真夜中に水飲む厨残る虫
残る虫銀座の路地に灯が揺れて
牧草の束にまぎれて残る虫
神奈川県     芳賀順一
振り向けばみな消え去りて残り虫
熱燗やひとりことこと残り虫
新調のズボンがゆるむ残り虫
大阪府     木山満
残る虫一人の夜を抱き締めり
残る虫添い寝の母は「お先です」
残る虫互いに秋をおしみけり
独り夜をふわり抱きしむ残る虫
独り寝や励ましと聞く残る虫
長野県     木原登
腰痛に膝痛われも残る虫
るりりりと日向日向に残る虫
閉ざされし牧にひた鳴く残る虫
わが部屋に残る声出す残る虫
さびしさは化石流木残る虫
ブラジル     林とみ代
産土の縁遠退く残る虫
残る虫子孫繁栄見届けぬ
来し方に悔いのあらずや残る虫
人並に生きる幸せ残る虫
残る虫思ひのままに生きしかな
栃木県     垣内孝雄
夕暮れて家路半ばや残る虫
残る虫老いて俳句を詠みにけり
残る虫空地ばかりの分譲地
をちこちに窓の灯や残る虫
残る虫句集開ける文机
東京都     岩崎美範
残る虫猫の温みに癒さるる
ぬる燗の恋しき夜半や残る虫
残る虫ビルの谷間の首塚に
残る虫薄き命の限り鳴く
粗挽きのモカの酸味や残る虫
大阪府     太田省三
月末の退職願残る虫
虫すがれハミングだけのコーラス部
刈入を明日に控えて残る虫
予報士の明日は晴天残る虫
真夜中に危篤の電話残る虫
千葉県     玉井令子
雨音にかき消されたり残る虫
山荘の野天にひとり残る虫
子ら帰り広場は残る虫のもの
心地よき眠りの中へ残る虫
英単語暗唱しをり残る虫
神奈川県     山田知明
残る虫マンション囲む一軒家
残る虫昭和生れのラジオかな
すり切れたカセットテープ残る虫
レコードの針の飛びたる残る虫
中古のカセットデッキ残る虫
茨城県     長洲研志
ひとしれず静寂に住む残る虫
探せども向きもわからず残る虫
目標は二年越しかな残る虫
雨戸しめかすかに気づく残る虫
いまだけはただ耐えるのみ残る虫
埼玉県     北川清
月冴えて 眠れぬ夜の 残る虫
路地裏で 足を止めると 残る虫
残る虫 孫と虫の音 名前あて
病める妻 床に寝かせて 残る虫
老いてきて 残る虫の音 共感す
山口県     山縣敏夫
残る虫頑張れど声細くなり
千年の都大路に残る虫
七十四あとどれくらい残る虫
友人の逝きし日残る虫の声
吟ずれば早くしろよと残る虫
群馬県     堀越浩子
蟋蟀の鳴き声消えぬ秋の暮
夢に入る残る虫さへ鳴きやみぬ
母逝きし夜にか細くちちろ鳴く
やがて止む蟋蟀の声秋深む
残る虫どこかでなほも鳴きとほす
大阪府     藤田康子
わづかなる草むらに棲む残る虫
残る虫置いてきぼり食つた者同士
兵庫県     岸野孝彦
残る虫伊東静雄の詩碑辺り
残る虫森の命や夕茜
キャンパスに人は還らず残る虫
残る虫黄昏の棚田に響く
非力なる我を励ます残る虫
東京都     鈴木はる美
残る虫温泉宿の湯のまろし
残る虫ブロック塀の薄暗がり
曲り家の幽けき灯り残る虫
千葉県     伊藤博康
残る虫デクレッシェンドとなりにけり
残る虫居残り組は僅かなり
凪なれば小さき波音残る虫
放課後の渡り廊下に残る虫
心情をふと重ねたる残る虫
滋賀県     別役昌子
残る虫手にした本は大活字
残る虫還暦祝う届け物
残る虫ラジオを消して黙考す
メサイアの余韻嫋嫋残る虫
残る虫引退決めし好敵手
東京都     林瑞愷
夏の残る虫は寒さを知らない
残る虫の叫びに秋の訪れ
下町の空に残る虫の響き
茨城県     小松崎孝志
正調の茨城弁よ残る虫
独り居の作る肉じゃが残る虫
どこからか深夜のラジオ残る虫
屋根に雨音床下の残る虫
雨音に消されそうなる残る虫
大阪府     津田明美
残る虫夫と過ごせし狭庭かな
残る虫妣は今頃どのあたり
残る虫そそげぬままの汚名抱き
孤独又楽しからずや残る虫
余生てふ一線の涯て残る虫
宮城県     林田正光
残る虫いずれ残らぬ虫となる
残る虫鳴き声日々に静かなり
残る虫耳に馴染みし声となり
ブラジル     玉田千代美
夢の無き齢になりつつ残る虫
生かされて命大事に残る虫
世の隅にわびしさこらへ残る虫
世の為に人の為にと残る虫
残る虫眠れぬ夜は夫の忌に
愛媛県     佐藤めぐみ
残る虫山からころころ落ちて来た
独り居を迎へてくれる残る虫
残る虫あらら山には帰らぬか
残る虫娘はつひに妻となり
三重県     後藤允孝
草叢の最終楽章残る虫
本堂の縁高きかな残る虫
残る虫岸に積まるる醤油甕
残る虫夜を惜しむかにこゑ低く
コンサートの余韻更なる残る虫
千葉県     峰崎成規
残る虫今終電が走り去る
ひと夜ごと闇を深むる残る虫
仕舞湯を落とせば響く残る虫
鳴く間を徐々に広ぐる残る虫
残る虫始発電車に夜の顔
埼玉県     小玉拙郎
境内に残る虫あり朝体操
それぞれが命の声や残る虫
頻尿の夜を鳴き通す残る虫
猫の手を逃れようなき残る虫
浮き沈む線路の下の残る虫
埼玉県     守田修治
残る虫ジャズ聴こゆるは何処より
残る虫セロ弾きゴーシュとすれ違う
残る虫クラーク指差す開拓地
残る虫釧路原野の星の数
華やかな銀座の祠の残る虫
神奈川県     矢神輝昭
残る虫辞世の歌で身を窶す
残る虫入れてくれろと縋りおり
残る虫連れて下りたし山仕舞ひ
残る虫集きしころに思ひ馳せ
残る虫唐櫃の蓋覗きおり
島根県     寺津豪佐
靴濡らす朝となりし残る虫
残る虫旅の荷物の単行本
木片となりし生家や残る虫
抜け路地に雨の名残や残る虫
残る虫雨の匂いが分かると言う
兵庫県     髙見 正樹
残る虫去年と変わらぬ池の端
窓閉じてなお耳にあり残る虫
残る虫夜更けに辿る家路かな
残る虫夜明けの野辺に途切れがち
野に置かる廃車の下に残る虫
北海道     飯沼勇一
残る虫祖父補聴器に手を伸ばし
見上ぐれば満天の星残る虫
銀座にも居る鈴虫ぞ残る虫
残る虫一人は寂し一軒家
すがれ虫黙れ兄いま虫の息
神奈川県     塚本治彦
無住寺の無住寺のまま残る虫
何虫と分からぬ声や残る虫
湯治場の長逗留や残る虫
残る虫残業手当てなき教師
独唱となりてしまひぬ残る虫
千葉県     入部和夫
残る虫酒は二合と決めてをり
待合に亭主を待てば残る虫
父母のありしひと夜や残る虫
病床に残る虫聞く闇夜かな
病床に臥して幾許残る虫
愛知県     岡本圭司
茗荷根を 除きし石の 残り虫
三重県     北村英子
鳴く時を心得てをり残る虫
泣く我にエールの声と残る虫
残る虫決まりごとなり生と死と
ハープ弾く音に寄り添ふ残る虫
残る虫また会へること知つてをり
東京都     松本武雄
残る虫間合い気になる床の中
寝そびれて残る虫聞く夜更けかな
残る虫思い出すがに間を置きぬ
残る虫冴経て眠れぬ通夜帰り
残る虫睡魔と共に遠のきぬ
岡山県     岸野洋介
わが生家無住となりて残る虫
キイ叩く手を止め聞きし残る虫
残る虫今年は妻の七回忌
露天風呂声悲しげに残る虫
四阿は公園の臍残る虫
東京都     石川昇
北向きの宅地は売れず残る虫
残る虫涙腺ふいに緩みだす
静岡県     大澤定男
残る虫無量寿院極楽寺
残残る虫津軽平野に父母祖父母
残る虫息継ぎ法を変えた朝
残る虫落柿舎に夜半遅い客
残る虫脱力感と言ふ癒し
滋賀県     主藤充子
押入の奥へおくへと残る虫
東京都     山本貴士
残る虫娘五歳の灯りかな
残る虫杜の駅舎は建ちにけり
子ら歌うきらきら星や残る虫
残る虫乗せて聴き入る木馬かな
残る虫縦横無尽の寝床かな
愛知県     斉藤浩美
鎮魂の声被災地に残る虫
音色というには小さすぎ残る虫
残る虫孤高深めているのかも
残る虫翅のすべてを使いきる
わずかばかり余力のありて残る虫
東京都     豊宣光
残る虫われと孤独を分かちけり
衰えし声のみ聞こゆ残る虫
掛け布団厚くなりけり残る虫
露天の湯ぬくもりの中残る虫
友らみな逝きてわれのみ残る虫
静岡県     城内幸江
残る虫壊れた如雨露水をやる
慰霊碑に何十万の名残る虫
足の爪小さくなりて残る虫
切れさうな蛍光灯や残る虫
四畳半広くもありて残る虫
神奈川県     龍野ひろし
廃業の宿の暗さよ残る虫
忘られし本丸跡に残る虫
残る虫塾の灯りの煌々と
残る虫組手巧みな指物師
残る虫寺に秘蔵の幽霊図
神奈川県     飯島まゆみ
合唱はもう終楽章残る虫
長編はやっと半分残る虫
残る虫シーズン初のキムチ鍋
神奈川県     原川篤子
バスを待つ硬きベンチや残る虫
残る虫ポンプ錆びつく寺の井戸
酔ひ醒ましに歩く道なり残る虫
残る虫明日には聴けぬ声かとも
残る虫捨てかけし書を読みてをり
滋賀県     船岡房公
終ひ湯のぬるき夜更けや残る虫
読みさしの本また増えし残る虫
三成の戦陣址やすがれ虫
三重県     平谷富之
残る虫 家の近くで ひそひそと
神奈川県     松野勉
ふるさとの風の途切れて残る虫
大阪府     太田紀子
残る虫終バスはるか去り行けり
残る虫山の端の落つ眉の月
残る虫隣家の灯り消されけり
神奈川県     前田恵美
張り紙に閉店とあり残る虫
香の物あれば酌む酒残る虫
羽織るものかろきがよろし残る虫
好きに起き好きに食ふ日々残る虫
残る虫錠さされたる井戸低く
愛媛県     山家志津代
野外フェス果てていつしかすがれ虫
すがれ虫二日ともたぬキスマーク
毀さるる女郎屋の跡や残る虫
積ん読の終活ノート残る虫
銀髪のジャズシンガーやすがれ虫
愛媛県     加島一善
残る虫昨日より声細りけり
残る虫とぎれとぎれに鳴きにけり
残る虫これが最後と鳴きにけり
残る虫風に託して鳴きにけり
残る虫辞世の羽音残しけり
千葉県     山田香津子
古墳の里に遊ぶ一日や残る虫
チバニアンの深淵の黙残る虫
奥能登の時忠の墓残る虫
東京都     岩川容子
やり直しきかぬ齢や残る虫
供花のなき墓に寄り添う残る虫
すがれ虫介護の部屋のうす灯り
ふらついて手のつく先に残る虫
愛知県     匿名
テレビ消し残れる虫の声惜しむ
竣工の工事現場に残る虫
残る虫妊活の子の誕生日
山梨県     森下博史
村に残る虫になってという娘
残る虫サンダル履きがそっとよけ
神奈川県     水野伸一
無人駅見送り終えて残る虫
残る虫補欠選手の帰り道
父母の墓近況を問う残る虫
気を張らず緩めず揉まず残る虫
居残りの稽古と泣くや残る虫
神奈川県     海野優
残る虫俗名となる父母の墓碑
悔ゆることばかり来し方残る虫
残る虫古地図にみゆる生地かな
群馬県     武藤洋一
残る虫迷ひし軽井沢の径
東京都     水野邦彦
葉の裏にまあだだよって残る虫
あきらめと腱鞘炎と残る虫
夕まぐれ冬の虫呼ぶ女坂
冬の虫箒の先で何思ふ
夜もすがら残りの虫のアンコール
東京都     松本佳明
肌寒く気配で感じる残り虫
夕暮れに姿隠して残る虫
帰り道耳をすませば残る虫
残る虫リフレインする藪の中
残る虫ソロでアカペラ寂しげに
東京都     右田俊郎
精いっぱい悔いなく生きて残る虫
残る虫余生になほも未練あり
すだく音に生きる執着残る虫
日を追って鳴き音の細る残る虫
残る虫吾が老境に思い馳す
東京都     豊島 仁
残る虫一声ありてそれっきり
残る虫旅の支度はととのえり
残る虫泣いているのか夜の庭
残る虫口笛吹けど風ばかり
残る虫惜しむ今宵の巡礼歌
神奈川県     髙梨裕
伏す床の闇の底より残る虫
里は老い帰れぬままに残る虫
残る虫夜の竈に声散らす
古井戸の水枯れずして残る虫
熱きお茶汲む静けさや残る虫
京都府     中村万年青
こほろぎも良いタンパクと飼育され
蟲すだく小人になるも悪くなひ
風呂の窓開けるやいなや秋の蚊は