俳句庵

季題 12月「日記買ふ」

  • われのみの静かな時間日記買ふ
  • 東京都     勢田 清 様
  • 土育てまた一年の日記買ふ
  • 神奈川県     髙梨 裕 様
  • 幸ひの多きを祈り日記買ふ
  • 大阪府     八王寺 宇保 様
  • あふれ来る君への想ひ日記買ふ
  • 大阪府     津田 明美 様
選者詠
  • 日記買ふニコライの鐘鳴る中に
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 十二月の題は「日記買ふ」です。師走に入ると書店の売場の一画に、新しい日記がうず高く置かれています。毎年のことですが、見飽きしない景です。日記を買うということは、当人にとって勤しみの思いから来ています。その元は人によって異なりますが、共通するのは、「前向きの思い」です。それぞれの句を頷きながら拝見しました。
 優秀賞の勢田清さんの句。今年はコロナ禍のため、街に出るのは何となく躊躇いがちになります。そういう中で、「われのみの静かな時間」はことに大切です。その大切な時間を日記を買うために使うと言うことは、日記を大事に思うことに通じます。「静かな時間」の中七が善く効いています。
 髙梨裕さんの句。土を育てると言うことは、家庭菜園で野菜を育てるということでしょうか。或いは園芸作物かも知れません。「また一年の日記買ふ」は、そういう農事の記録を今年も続けるという思いに辿りつきます。前向きな思いが「土育て」に出ています。
 八王寺宇保さんの句。日記を書くということは、「幸ひの多きを祈り」をベースにしています。佳い明日であるように、この思いは、日記を書く人皆の思いです。この句は、その思いを一歩前進して、「日記買う」としてあるのが、善く効いています。
 津田明美さんの句。一転、この句には、前三作品とは別の「物語」があります。「あふれ来る君への思ひ」は、文字通り文学です。この日記はその想ひを記すための記録です。日本文学には、「日記文学」があります。この句にはそれに通じるものを見ます。
 今月の佳句。<明日を生くる証三年日記買ふ みちくさ>、<九十の母や十年日記買ふ 金子加行>、<学問の道半ばなり日記買ふ 後藤充孝>、<日記買ふ街行く人は足早に 豊宣光>。夫ぞれ佳句と言えましょう。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。