俳句庵

2月『冴返る』全応募作品

(敬称略)

埼玉県      哲庵
巣籠もりて手酌の酒や冴返る
凍返る家族葬さえ許されず
欄干に著し刀痕寒戻る
冴返る午前三時のテレワーク
凍返る疫病(えやみ)ますます蔓延し
鳥取県     475俳句
冴返る風としぶきの十六島
累代の技極めんや冴返る
冴返る船出に汐の満ち満ちて
冴返る朝の豚汁横に父
冴返る茶漬け啜りて息を延ぶ
宮城県     zazi
冴え返る酸味強めのカレー味
冴え返る白々明くる滑走路
里帰出産控え寒戻る
冴え返る空の明るさ輝けり
川流る冴え返るるも洋々と
静岡県     いたまきし
冴返る俳句づくりは湯の中で
夜明かしの珈琲の香や冴返る
退治した鬼に涙や冴返る
昼休みあけの目薬冴返る
埼玉県     いまいやすのり
ゆつくりと老医の告知冴返る
後ろより速き足音冴返る
自転車の鍵穴さぐり冴返る
ありがとね最後の言葉冴返る
買物のメモ書き忘れ冴返る
福岡県     すがりとおる
トルソーに街の匂ひの冴返る
鉄骨の赤錆ボルト冴返る
福岡県     すがりとおる
冴返る終着駅の転轍機
冴返る頤美しき能登をとめ
モルタルの寮の流しや冴返る
神奈川県     髙梨裕
電車待つ鼻の先から冴返る
冴返る館に静もる日本刀
音のして水門の湖冴返る
冴返る暗がりの朝引戸開け
冴返る秋篠の風伎芸天
岐阜県     ときめき人
一刀の鼓打つ円空冴返る
東京都     豊島 仁
冴返る大聖堂の朝日かな
摩天楼墓標のごとき冴返る
とどめおく昨夜の手紙冴返る
冴返る五重塔の月夜かな
赤ちょうちんひとり飲む酒冴返る
京都府     中村万年青
ここに来て体重減少冴返る
朝夕の行つ戻りつ冴返る
剪定の椿一輪冴返る
兵庫県     はなちる
砂浜の踏む音サクッと冴返る
人災や国会議事堂冴返る
参道を冴返る陽の翳り
仮住まい旅立つ朝の冴返る
神奈川県     みぃすてぃ
冴返る懶惰のままに過ごしおり
友の訃や花ある庭の戻り寒
影の濃き五重塔や寒戻り
愛知県     みねこ
パーの次グーになるごと冴え返る
玄関で献立思案冴え返る
東京都     安藤ゆき子
エリーゼのために爪弾き冴返る
冴返る綺羅星見上ぐ歩道橋
東京都     伊藤訓花
古傷の疼く痛みや冴え返る
冴え返り五臓六腑に白湯沁みる
冴え返る畑の草取り夫の背
癇癪の子の泣き声や冴え返る
冴え返る足跡残る砂場かな
千葉県     伊藤順女
澄みきった空の青さや冴返る
しらじらと夜道のマスク冴返る
七ミリのポリープ一つ冴返る
千葉県     伊藤博康
冴返る硬き湖面を渡る風
冴返る近頃頓に人恋し
冴返る身を寄せあひし道祖神
硝子戸の曇り拭ひて冴返る
冴返る地球相手の気流かな
神奈川県     井手浩堂
月光の中や裸像の冴返る
ふるさとの山やはらかく冴返る
冴返る道路工事の終夜灯
シャッターの増えし街並冴返る
冴返る日本海向く磨崖仏
徳島県     井内胡桃
冴え返る机上の紙と鉛筆と
冴え返る坂を下れば母の住む
勤行を流すCD冴え返る
冴え返るCT画像の白き影
味噌蔵の土間の奥行冴え返る
沖縄県     稲福達也
別れきて街の灯忽と冴返る
冴返るシャッター通り足音なく
心せよことに夜戸出は冴返る
光陰を虚空にとどめ冴返る
「早春賦」流るるラジオ冴返る
東京都     右田俊郎
本堂の雑巾がけや冴返る
終電の去り行く尾灯冴返る
冴返る工房ろくろ廻す音
托鉢に門出る僧ら冴返る
出港を告げる銅鑼の音冴返る
大阪府     永田
親方の指図一声冴返る
広島県     永野昌人
風よりも雨の痛さや冴返る
うかうかと古希も過ぎたり冴返る
相槌に無言の妻や冴へ返る
白墨の折るる板書や冴返る
血の滲む指の逆剥け冴へ返る
群馬県     塩原 香子
冴返る厨にぽとぽと水の音
冴返る水の滴り融けぬまま
冴返る庭に飼を食む対の鳩
冴返る池のほとりの羊歯も枯れ
咳の聞ゆる朝や冴返る
茨城県     岡崎佐紅
冴返り煎茶両手で包んだり
朝焼に森の影繪も冴返る
冴返り硝子に嶺を刻みたり
往く雁哉空冴返り慎ましき
車だに咳込む明けの冴返り
大阪府     佳代
目を合わす写真の母よ冴返る
冴返る紅茶の湯気と白い雲
冴返る夕日眩しく明日も晴
ポケットに繋ぐ手ぎゅっと冴返る
冴返る灰色空に山静か
愛媛県     加島一善
冴返る手びねりの壷底にひび
冴えかへる博多屋台にネオンの灯
愛媛県     加島一善
冴返るゆがみ硝子に松ゆらり
信濃路や夕暮やがて冴えかへり
冴えかへる別子の山の螺灯ゆれ
神奈川県     海野優
歯に衣を着せぬ言葉や冴返る
冴返る使い切つたる筆の先
つなぐ手の不意に解かれ冴返る
早口の言葉つかへて冴返る
埼玉県     釜田眞吾
田に一羽降り立つ鴉冴返る
湧水の透ける質量冴返る
冴返る七彩色のふくろ絵馬
整然の畝の影濃く冴返る
冴返る試験電波の画面かな
兵庫県     岸下庄二
子を送る駅の改札冴返る
本堂のたたみ百畳冴返る
冴返る肩を寄せ合ふ道祖神
単線の無人駅舎の冴返る
病棟の長き廊下の冴返る
埼玉県     岸保宏
冴返る夜の断捨離は果てもなく
冴返る縁側の猫固まれり
経あげし僧侶の息や冴返る
兵庫県     岸野孝彦
冴え返る年金額の通知来る
冴え返る父母亡き家の軋みかな
近づける別れが重く冴え返る
コロナ禍や世界すべてが冴え返る
冴え返る還暦過ぎの職探し
岡山県     岸野洋介
やわらかく日の落ちし後冴え返る
冴え返る辻に昭和の道標
退院も間近となりて冴え返る
岡山県     岸野洋介
町の辻白一色に冴え返る
出張の朝の玄関冴え返る
東京都     岩崎美範
「罪と罰」読み終へし夜の冴返る
あての無き老の旅路や冴返る
とめどなき恋恐ろしや冴返る
鬼気迫る沙翁の舞台冴返る
形見分け終へし仏間の冴返る
東京都     岩川容子
冴え返るシャッター閉める夜の街
公園に子らの声なき冴え返る
冴え返る自粛延長告げる声
冴え返るひとりの夜の冷めた膳 
滞る冴え返る日の家事一般
兵庫県     季凛
退官の父門曲がり冴返る
神奈川県     亀山酔田
山びこを起す男子や冴返る
冴返る甘納豆のニ三粒
山国は坂道多し冴返る
冴返る音してひびの植木鉢
古家の傷の柱の冴返る
石川県     鞠子
冴返る磨崖仏の緋際立てり
冴返る鼠多門の鉛瓦
冴返る子の電話に緩む頬
東京都     吉田悠二郎
行き暮れて原子炉塔の冴返る
かくれんぼ鬼のまんまに冴返る
冴返る星に逢いたく山頂へ
老人の吹く横笛や冴返る
鷹消へて空のせつなく冴返る
千葉県     玉井令子
冴え返るどれにしようか服選び
変えてみるスカートの丈冴え返る
千葉県     玉井令子
天気予報見誤りたり冴え返る
友人の訃報知る朝冴え返る
冴え返る復興進む被災の地
ブラジル     玉田千代美
冴え返る夜の若者叫び声
鶴の飛ぶ白き羽見せ冴え返る
会ふ時は大方喪服冴え返る
新潟県     近藤博
冴返り重ね着またも纏ひけり
冴返る湯浴み温まる朝の風呂
振り返し今日もぞくぞく冴返る
冴返り売り声掠るる朝市女
今朝もまた躰ぞくぞく冴返る
岐阜県     金子加行
エスカレーター長きに独り冴返る
石仏の倒る小峠冴返る
独り居の過ぎし十年冴返る
返信を求むる問ひや冴返る
インク染みへこむ机や冴返る
神奈川県     原川篤子
老犬の引き摺る鎖冴返る
同い年の訃報聞く日や冴返る
冴返る人型青き非常口
冴返る木の家(や)の軋む音大き
冴返る真夜に間違ひ電話鳴り
三重県     後藤允孝
落語家の最後の落ちや冴返る
光年の綺羅ます星や冴返る
腹の虫おさまりきらず冴返る
蔵出しの麹の匂ひ冴返る
長文の問題集や冴返る
長野県     高田由美子
ゆっくりと麹の浮遊冴え反る
森の水やはらかくなり冴え反る
長野県     高田由美子
高原の始発電車や冴え反る
明け方の包丁リズムや冴え反る
大阪府     高木音弥
挨拶の一声出でず冴返る
くちびるのぴりりと切れて冴返る
冴返る癘を告げる数増えて
東京都     佐藤美智子
風騒ぐ根付の鈴や冴返る
警察を騙る犯罪冴返る
母の年近付き箴言冴返る
昨夜の風枝なぎ倒し冴返る
冴返る母も夫婦も凶なりて
東京都     佐藤富幸
冴返る萎れし鉢を家の中
庭の芝一面白き冴返る
枝先の動かぬ雀冴返る
愛媛県     砂山恵子
冴返るうす紫のガラス瓶
冴返る午前三時の犬のこゑ
救急車冴返る音ならしつつ
冴返る古書の栞の一行に
冴返ると見れば我が身の冴返る
東京都     笹木弘
浄め塩我が身に振つて冴返る
町中に監視カメラや冴返る
日本地図の北方領土冴返る
コロナ禍の見えぬ不安に冴返る
歳時記に消えた季語あり冴返る
愛媛県     山家志津代
冴え返る正直者の蹠かな
冴え返る訣れの朝に引くルージュ
冴え返るストロボ光る化学室
冴え返る胸ひとひらのかをり欲る
冴え返る点滅消えぬ手術室
東京都     山本貴士
無事還り長湯の父や冴返る
冴え返る空はせわしき五叉路かな
冴返る窓に書き合ふ名前かな
冴返り老いに抗ふ寝床かな
死生観定む巣籠もり冴返る
山口県     山縣敏夫
病去り新たな病冴え返る
片付けたミスを再び冴え返る
あちこちにコロナ再び冴え返る
亡き犬の動画見るたび冴え返る
腰痛の後に肩こり冴え返る
東京都     山﨑勝久
冴返る通夜の帰りのホームかな
名刀の切先眩し冴返る
黒鍵に指さき触れて冴返る
鉄棒を逆手で握り冴返る
墓石の雲母キラリと冴返る
千葉県     四葩
冴え返る終電に乗る子を待てば
冴え返る温泉街の下駄の音
神奈川県     志保川有
新ボスのホワイトシャツの冴返る
手術終へしベッドへ朝日冴返る
サックスに賭くる十代冴返る
癌切除メスも命も冴返る
胸も尻も十七歳は冴返る
栃木県     鹿沼 湖
山里に校舎の跡地冴返る
右腕へワクチンの針冴返る
薬局の跡地の広し冴返る
滋賀県     主藤充子
冴返る白い陶器のたぬき腹
冴返る井戸端会議の隅っこで
愛すれば削るものあり冴返る
滋賀県     主藤充子
添い歩く白き視線や冴返る
六十路婆深い絵本に冴返る
神奈川県     守安雄介
足裏の痛き板敷冴え返る
冴え返る動物園の虎の吠え
尖りたる犬の遠吠え冴え返る
友送るガン病棟や冴え返る
冴え返る鶯張りや善光寺
埼玉県     守田修治
冴返る朝の味噌汁ありがたき
冴返る然すれば酒の用意かな
冴返る箒持つ僧素足かな
冴返る昨夜の酒の残りおり
冴返る朝や東寺の五重塔
大阪府     酒梨
1㎜の丸刈り頭冴返る
散り散りに隠れゐる鬼冴返る
花束を抱へて家路冴返る
一斉に捲り書く音冴返る
冴返る非常階段あがる音
埼玉県     小玉拙郎
冴返る見えぬ大気に棘があり
冴返る静寂正座茶道部員
冴返る熱く沸かして飲むミルク
放課後の音楽室も冴返る
茨城県     小松崎孝志
水面の真っ青な空冴返る
よろよろの酔い醒めの帰途冴返る
無意識に耳にあてる手冴返る
あの人があの人も逝く冴返る
池の水微動だにせず冴返る
東京都     松本佳明
冴え返る氷再び裏の池
冴え返る遠くに富士山雲もなく
東京都     松本佳明
冴え返る朝の緑茶に生き返る
冴え返る二枚重ね着山男
冴え返る吐く息白くランニング
神奈川県     沼宮内薫
首すくめ水辺の鳥の冴返る
友見舞ふバスの遅れや冴返る
冴返るゆるむ心の箍を締め
冴返るアンパンマンの忘れ物
冴返る独り占めなる昇降機
神奈川県     上田みつき
草花の咲きはじめをり冴返る
冴返る襟元寄せてポストまで
冴返る鳥たち抱きて大樹立つ    
富士山の白の増えをり冴返る
冴返る橋から眺む川の水
静岡県     城内幸江
冴返る日向伝つて散歩道
花の芯また硬くなり冴返る
タクシーを待つ皆猫背冴返る
ポケットに潰れたカイロ冴返る
手首まで伸ばす作業着冴返る
愛知県     新美達夫
倦む勿れなほ慎めと冴返る
韻を踏む五音絶句や冴返る
伊吹嶺も御嶽山も冴返る
東京都     新保徳泰
冴返る最終バスに乗り遅れ
買い物のメモをなくして冴返る
冴えかへる忘れし頃に届く文
冴返る螺子のひとつが見つからず
鉄骨をむき出しのビル冴かへる
大阪府     森 佳月
病床の妻の骨さはり冴返る
もみあげに白髪の目立ち冴返る
大阪府     森 佳月
髭剃りのあと青々と冴返る
冴返る道頓堀は人まばら
こんな世にマスク警察冴返る
埼玉県     水夢
冴返る内陣で聞く法話かな
冴返る銀座路地裏縄のれん
冴返る利根の浅瀬に水の綺羅
冴返る空一筋の飛行機雲
冴返る百選の水ゆたかなり
神奈川県     水野伸一
冴返るため息漏れる夜の街
冴返り寝床から出る機を逃す
冴返るもう飽きたなあ一人鍋
冴返り寄り道無しの家路かな
冴返り未完の編物思い出す
東京都     水野邦彦
白湯飲みて瞬きし朝冴返る
冴返る朝孫生まれたの報に笑む
津軽富士居住まい凛と冴返る
トーストのバターは溶けず冴え返る
夫婦岩つむじ寄せなば冴返り
東京都     勢田清
冴返る夕べ西空星一つ
下の畑人誰も無く冴返る
紅梅の蕾の空の冴返り
富士山の朝薔薇色に冴返り
夜道行く我が下駄の音冴返る
三重県     西井治男
昨日より悴む手足冴返る
午前五時ごろごろゴロと冴返る
ブラジル     西山ひろ子
風軽く流れ行く雲冴返る
聖堂のピエタの聖母冴返る
聖堂のステンドガラス冴返る
ブラジル     西山ひろ子
さりげなく夫の言ひ分冴返る
愛知県     西谷寿
冴返る空に飛行機一直線
冴返る青空鳥が一直線
冴返る青空響く子どもかな
衣出し冴返るためまた仕舞う
冴返る時を楽しみ酒を呑む
愛知県     斉藤浩美
凍返る老人はみな刺刺し
装わぬ潔き木々冴返る
捨つる句は潔く捨て寒戻る
冴返る名札ばかりの植物園
仏間には何も置かれず冴返る
東京都     石井真由美
房総の冴返る日や朝の声
パプリカに嬰パプリカ冴返る
冴返る佃の凪の真つ平
宮城県     石川初子
本年も小さき目標冴返る
埼玉県     石塚彩楓
シャンパンの泡のはじけて冴返る
冴返る棚に置きある展翅板
木の椅子は折り畳まれて冴返る
冴返る菓子屋横丁の大時計
冴返る人居ぬ部屋の鳩時計
宮城県     仙華
二十畳琴の音高く冴え返る
鈍空や半跏思惟像冴え返る
あしひきの山の陰のみ冴え返る
セビリアの一転雲の冴え返る
白妙の清き袂や冴え返る
埼玉県     川越の書評
冴返るオホーツク海青青と
サロベツの原野に獣眼冴返る
シリアスなドラマに冴える脈の音
埼玉県     川越の書評
冴え返る光の刺さる硝子窓
就寝の外耳の闇の冴返り
滋賀県     船岡房公
湖凪ぎし比良連山や冴返る
角栄の太き墨痕冴返る
名刀の刃文の業や冴返る
神奈川県     前田恵美
弔の真珠重たし冴返る
洗ひもの乾きてこはく冴返る
冴返る川や渡船に名前なく
滋賀県     村田紀子
月光に湖面の波も冴返る
若き声夜空に響き冴返る
冴返る月の光に揺らぐ波
冴返る音を求めて山の裾
タオル干す母の手白く冴返る
京都府     村田稔子
冴え返る コートの襟に アゴ埋め
鴉鳴く ゴミ出しの朝 冴え返る  
福岡県     多事
複製のゴッホの触り冴返る
冴返る手延べ硝子の歪みかな
冴返る埋もれかけをる蟻地獄
ホックへとなぞらる背中冴返る
肉まんを割れば雲の仔冴返る
大阪府     太田紀子
氏神様の急階段や冴返る
過疎の村の空き家解体冴返る
暗闇の喘息の咳冴返る
静岡県     大澤定男
冴返る母から代わる針通し
冴返る羽織りて戻るもう一人ひとり
冴返る高く外れし三の糸
冴返る後出しで勝つ孫のグー
冴返る昨日の今日を物忘れ
香川県     辰野
ソロキャンプ夜の物音冴返る
癌治療五年検査に冴返る
ナースコール二人夜勤に冴返る
冴返る庭をガサガサ一人の夜
「過去最多」昨日も今日も冴返る
東京都     中田ちこう
一筋の凍裂みせて冴返る
風休むキリシタン墓地冴返る
和歌山県     中浴智美
人形の白き面差し冴返る
神奈川県     猪狩 千次郎
酔い覚めの一杯の水冴返る
振袖の袂に線香冴返る
陰性といわれて陽気冴返る
東京都     長岡馨子
夜勤明け西に火星や冴返る
東京都     長根芳夫
冴返る記憶をたどる句読点
うずたかき直線の街冴返る
冴返る注ぎ足してゐる除菌液
冴返る考も使った体重計
冴返る天狗の爪を祀る杜
茨城県     長洲研志
冴返る犬くしゃみする猫あくび
冴返るけなげに耐える庭の木々
冴返る手の冷たさや逆上がり
冴返る朝の野菜やキシキシと
冴返る朝讃美歌の声響く
千葉県     長谷川ぺぐ
買ひ出しを明日に延ばすや冴返る
冴返る倒れたままの熊手かな
大阪府     津田明美
終列車去りし駅舎や冴返る
冴返る闇を追い来る靴の音
冴返る無明を照らす星一つ
闇に聞く犬の遠吠え冴返る
大阪府     津田明美
灰寄せの天窓明り冴返る
千葉県     塚田 碧湖
灯り消え魔法も消えて冴返る
冴返る待つはつくづく不得手なり
神奈川県     塚本治彦
酔覚めに立つ外厨冴返る
単身の異動の内示冴返る
冴返る板一枚の外厠
エンジンのかからぬ単車冴返る
冴返る末摘花の紅き鼻
山梨県     天野昭正
月光に我が行く影の冴返る
飾られし名刀の刃冴返る
古民家の梁の音まで冴返る
月光に奥の細道冴返る
日の落ちて待合室の冴返る
三重県     藤田ゆきまち
眼帯の少女のベンチ冴返る
冴返る待合室の肖像画
母さんの気管切開冴返る
冴返る次のバスまで一時間
冴返る受け入れ先のない車
大阪府     藤田康子
小さき音尖りてをりぬ冴返る
冴返る鴉は何か思ふふう
千葉県     徳翁
湯浴みして箱根連山冴返る
造影を診る医師の声冴返る
空真っ青鳶が弧を描く冴返る
冴返る待つ人まばら終電車
非常事態街灯の列冴返る
東京都     内山岱鵬
冴返る天守台の陰武士の夢
冴返る打ち出し太鼓煙る雨
鹿威し竹林を抜け冴え返る
東京都     内山岱鵬
冴返る妻の笑顔や七回忌
校庭の鉄棒鈍く冴え返る
東京都     内藤羊皐
新聞の匂ひ立ちゐて冴返る
冴返る雨の響けるプレハブ舎
冴返る後架に残る週刊誌
剥製の鷲の眼穿ち冴返る
街灯のひとつ灯らず冴返る
東京都     二川昌弘
冴え返る再開発の日本橋
冴え返る夕暮れの街えりを立て
冴え返るオリオン星座澄んだ空
大通り人気少なし冴え返る
江戸通り辛夷の若芽冴え返る
千葉県     入部和夫
かの国の分断深し冴返る
常識の非常識なり冴返る
何気なき妻のひと言冴返る
寒戻る海の此方の波の音
冴返る刺身包丁俎板に
徳島県     白井百合子
思春期の白一色に冴返る
水瓶の藻の縮まりて冴返る
待ちぼうけ雨も降りだし冴返る
縷々と立つ白檀の香や冴返る
家計簿を始めて十日冴返る
大阪府     八王寺宇保
特急の払戻しや冴え返る
宅配の三日遅れや冴え返る
冴え返る足裏にひびく下水管
休診の紙のべた貼り冴え返る
冴え返るデイサービスにクラスター
北海道     飯沼勇一
客二人終電の席冴え返る
北海道     飯沼勇一
冴え返る蛇口の水の刺々し
「ハハキトク」急行電車冴え返る
冴え返る大仏肩を窄めけり
冴え返る大聖堂の鐘の音
埼玉県     飯塚璋
冴返る肌をあらはに武甲山
冴返る着替えて写すレントゲン
冴返る厨の窓の薄くもり
島根県     非掲載
裏木戸の軋む音なり冴返る
名ばかりの役職なりや冴返る
五能線大湊線冴返る
山門に読めぬ扁額冴返る
冴返るお堀の水の硬そうに
埼玉県     飛翔
闇の中足音近く冴返る
廃屋がまた一つ増え冴返る
あの時のすつてんころり冴返る
靱帯の切れる瞬間冴返る
明け方の電話のベルに冴返る
千葉県     柊二
作業着の知事の会見冴返る
東京都     不知酔人
汐冴えて 返る磯船 満ち満ちて
どろ酔いに 冴返りしは 浅き夢
ほろ酔いて めくりめく夜が 冴返る
冴返る つとに残餅(ざんぺい) 磯辺焼き
受け月の 冴返る夜に 願いごと
群馬県     武藤洋一
冴返る宿直室の独り言
敬礼の凛々しき遺影冴返る
時計台見上げるたびに冴返る
終電の行きて駅舎の冴返る
冴返るビル群描きし鉛筆画
北海道     風花美絵
赴任地の変更通知冴返る
冴返り付け襟をまた付け直し
認知症冴返る脳冴返り
薬袋の厚さ膨らみ冴返る
冴返る自粛生活あと少し
千葉県     風泉
・踏んで見る庭のホースや凍て返る
・冴え返り茶柱捜す湯気の奥
・冴え返る宿の廊下の掛け時計
・冴え返る今朝の茶の湯の白きこと
茨城県     風峰
らうめん屋ちゃあしゅう二枚冴え返る
冴え返る人待ち顔の犬の背  背(せな)
坂道のペダルは重し冴え返る
骨折のあばらしくしく冴え返る
風鐸のからからからと冴え返る
奈良県     平松 洋子
冴返る駅舎待合ただ静
共白髪やさしき声に冴返る
冴返る下駄の音高くきつと夫
三重県     平谷富之
冴返る仕舞し服をまた出して
滋賀県     別役昌子
京の路地一万本あり冴返る
意に沿わぬ地への辞令や冴返る
冴返る須鷹町贋作工房
びわ湖路の号砲失せて冴返る
冴返る米子駅霊番のりば
千葉県     峰崎成規
冴返る百のマスクに二百の眼
街底に凝る空車や冴返る
東京ベイ環る青き灯冴返る
千手観音素手に持物の冴返る
冴返る夜更けを弾くピンヒール
東京都     豊宣光
洗顔の水の痛さや冴え返る
冴え返る朝の湯気立つ豆腐汁
生魚冴え返りたる刺身盛
朝焼けのアルプスの嶺冴え返る
冴え返る芽吹く蕾の一休み
埼玉県     北川清
父母の部屋 外は雪降り 冴え返る
面会日 動かぬ友に 冴え返る
鶴帰り 水草氷り 冴え返る
冴え返る 財布の中が あとわずか
大切な 人を見送り 冴え返る
三重県     北村英子
冴返る太陽線の深き手相
冴返る光る緑はキノコなり
肉好きの長老犬も冴返る
鉄板に回すたこ焼き冴返る
冴返る一列青の精油瓶
奈良県     堀ノ内和夫
冴返る雨降り止みし峠道
鳰の湖さざ波立ちて冴返る
埼玉県     堀口房水
冴返る部室に乾く柔道着
冴返る夕べのシャドウピッチング
小手に残る竹刀の固さ冴返る
尻の土払ふ土俵や冴返る
初めてのオウンゴールや冴返る
愛知県     木下澄枝
宿坊の高き天井冴え返る
切通し抜けて波音冴え返る
声明(しょうみよう)の響く本堂冴え返る
冴え返る隠れクルスのマリア像
長野県     木原登
冴返る白馬鹿島や白暟々
クレーンの孤影さだかに冴返る
長野県     木原登
友逝いて早や十年や戻り寒
砲台の跡冴返る日なりけり
冴返る街冴返るハイヒール
大阪府     木山満
冴え返る横断歩道息白し
冴え返る月にむら雲迷う時
トタン屋根霰(あられ)の音や冴え返る
鉄塔が月をふたつに冴え返る
村雨を友と親しみ冴え返る
神奈川県     矢神輝昭
動物園深夜の咆哮冴え返る
ホームラン打たれ九回冴え返る
語部の核心にきて冴返る
危篤報返す時間の冴え返る
時速百キロバイク諸とも冴え返る
神奈川県     龍野ひろし
冴返る機械音せぬ町工場
サイレンの繰返す夜や冴返る
若僧の朝勤行や冴返る
CAのドクターコール冴返る
冴返る人なきコインランドリー
ブラジル     林とみ代
老どちの集ふ公園冴返る
ワクチンの接種始や春寒し
遠く見ゆ山脈蒼く冴返る
遺されし壺を磨けば冴返る
縫物の一段落や冴返る
宮城県     林田正光
無住寺となりて一年冴返る
冴返る茜の空の散歩かな
冴返る灯台の灯や明滅し
旧部下の訃報の知らせ冴返る
離島への単身赴任冴返る
大阪府     鈴木三津
玻璃越しの母のおもざし冴返る
テレワーク居間の空気の冴返る
二月堂痩せし舞台の冴返る
水脈ひかぬ巨船にかぜの冴返る
近くゐて会へぬ日月冴返る
大阪府     鈴木千年
終電車過ぎし鉄路や冴返る
冴返りつつ日もすがら夜もすがら
冴返る本堂を借りテレワーク
弓弦の弾けしこだま冴返る
冴返る特攻兵の置手紙
広島県     老人日記
千体の千手観音冴返る
冴返る老いの背筋の正しけり
盗掘の古墳の穴や冴返る
看護師の夜回りやさし冴返る
冴返り冴返りつつ癌を切る
兵庫県     髙見正樹
冴返る攣ってしまいし脹脛
冴返る河口に潮の満つる音
冴返る真っ直ぐ上る白煙
冴返る半没船を舫う岸
夕景のビルに点灯冴返る