俳句庵

8月『八月』全応募作品

(敬称略)

大阪府     藤田康子
八月や生かされてゐる空を見る
サイレンや八月の折鶴の黙
千葉県     柊二
キャンピングカーの接種や夏の群れ
新潟県     近藤博
八月なほげんなり過ごすこの気温
八月来肌に優しく季は移り
八月は永久なる平和祈る月
玉音の今なほ耳朶に八月来
兵庫県     岸下庄二
八月や二円葉書に父偲ぶ
母と子の八月戦争始まりぬ
戦争を知らぬ八月十五日
年毎に薄る八月十五日
八月や三たび四たびと黙祷す
大阪府     多田由佳里
廃線に紅き花立つ八月や
八月は塩辛ヘアー眠る吾子
八月や真紅の花の直立す
コロナ禍よ葉月の旅を思い切り
八月や漂ふゼリーに毒の針
石川県     めぐみ
八月の 袋小路に カレーの香
八月や 木陰をさがす 繁華街
落陽や 八月の海 燃え尽きて
八月や 宿題かかえ 孫来たる
神奈川県     鴨野箸
八月の頬の白さやマスク跡
八月や青天井の子らの九九
岐阜県     ときめき人
八月や平和囁く遺品あり
埼玉県     岸保宏
八月や障子に映る雲の影
埼玉県     岸保宏
八月や動かなくても水を飲む
八月や遍路の足も道半ば
愛知県     西谷寿
八月の娘色っぽく楽しげに
八月は君生まれた日記念の日
八月や月は輝き星落ちる
八月の東京は湯気立ち上る
八月や夜は長くて眠られず
長野県     木原登
八月の堅田に人を偲びけり
あたたかく冷たく白く八月来
砂時計反す八月十五日
流木を焚く八月の夕渚
八月のその日その日をいつくしむ
奈良県     堀ノ内和夫
八月や浜辺に残る砂の城
東京都     岩崎美範
八月に別れを告ぐる海の色
八月のまさをな海に友逝けり
八月や六日九日十五日
八月や拍手の包む甲子園
八月の刺身豆腐の旨さかな
岐阜県     金子加行
八月の重さ軽さの速きかな
八月の祈り遊びの人の列
八月に見る夢どれも命問ふ
八月の水のコップに満たさるる
正したる姿勢八月十五日
沖縄県     稲福達也
行き行けば八月の海八雲立つ
八月のドキュメンタリー観て黙す
八月尽慰霊の旅に行けぬまま
東京都     長岡馨子
八月や日毎にほどけゆく陽射し
東京都     二川昌弘
八月の黙食可笑し独り言
八月の音楽祭は夢の夢
八月の五輪の元標日本橋
八月のそびえる雲と青い空
八月の瓜と胡瓜西瓜かな
埼玉県     北川清
八月や フォトジエニックな 瀬戸の海
八月や 球児の集う 甲子園
八月や 汗の流れに 蝉の声
八月や 母を想いて 盆踊り
八月や 白糸の滝 暑さとび
兵庫県     えいえい
八月は夜の明かりがきれいだな
兵庫県     多駆呂羽
八月は特に何もありしない
滋賀県     村田紀子
大木に触れ八月の声を聞く
山登り八月の香に深呼吸
八月の鼓動聞こえる雲の中
八月の風とじゃれ合う祖父と孫
青春は八月の山 青い空
三重県     北村英子
八月や滝行のごと読経する
計画と実行違ふ八月へ
八月のシーズーの鼻ツンツンと
誤解され解くこともなく八月へ
八月の譜めくり忙し合唱部
東京都     勢田清
八月は祖父の命日経上げな
八月の淵澄みにけり人も無し
八月の光寂しさ宿しけり
八月の恋遥かなり空の果て
八月の山は一人で登りたし
東京都     よしだ悠
八月は記念日多し結婚も
三重県     平谷富之
東京や 八月五輪で 盛り上がる
八月六日 忘れてならぬ あの悪夢
東京都     内藤羊皐
八月の夜を打ちたる掘削機
八月の空の底ひの月見台
八月の塔へ倣れる琥珀石
八月の猫の咥へるカレーパン
八月の水切石の水沫かな
大阪府     木山満
リハーサルすれど叶わぬ盆踊り
大文字(だいもんじ)京都タワーで 吾子と読み
夾竹桃赤きが悲し昭和行く
八月や吾が生まれ日の空青し
迎え火を焚く慣わしも吾限り
茨城県     長洲研志
八月の駅舎かすかに潮香る
八月や讃美歌響く朝の空
八月の風弾き語りの女子
八月や筋肉痛も癒えにけり
八月や海の香かすか黒髪の娘
神奈川県     沼宮内薫
二刀流わかす八月甲子園
八月や美しきピアスの小さき穴
小さき手で折る八月の千羽鶴
八月や戦争と言ふコロナまた
八月や子規の句詠みて平和かな
大阪府     八王寺宇保
八月のラジオ体操元気なり
八月を背負い続ける令和かな
八月や母の弱音に盆帰省
八月や戦後生まれに身の置き場
大阪府     八王寺宇保
グラビアの水着が笑ふ葉月かな
大阪府     津田明美
砂文字を消す八月の波がしら
八月や雲白くあれ白くなれ
八月や声なき声の充つる川
八月や勢ひあます反射光
八月や防犯灯のノイズ音
東京都     伊藤訓花
母おはす八月の空縹色
八月や淋しさは雑踏の中
八月の風を孕んだ万国旗
奈良墨の匂ふ仏間や八月来
八月のピンボケ写真愛しかり
徳島県     白井百合子
八月の鴨居に残る魚拓かな
八月の寺の寄進やざわめきて
八月のシャッター街に踊りの輪
八月や提灯終う年となる
八月や命日のくる空の椅子
埼玉県     いまいやすのり
すいとんを食うて八月十五日
草のこゑ八月十五の朝
八月や昭和のにほひ残しをり
八月の憤怒の仁王やさしけり
あをあをと八月の空つつがなし
千葉県     峰崎成規
黙祷す八月の覆ひなき空
八月来御霊一気に語り出す
八月の隠れ里めく水族館
八月の祈りの極み十五日
八月の波に去る砂残る砂
千葉県     徳翁
八月や風吹き抜けり侘び住まい
千葉県     徳翁
八月や一家眷属集いおり
八月や麻のジャケット銀座通り
八月や寒さ身に沁む山手線
三重県     後藤允孝
八月や遺骨届かぬ終戦日
八月の里帰りして賑はしく
八月の子らで図書館埋め尽くす
八月のダムは底つき古き村
それぞれの八月十五日正午
宮城県     林田正光
八月の空の記憶は夥し
コロナ禍の校庭静か夏休み
八月の海の想い出水平線
原爆忌日本の昭和変えた日や
八月のパールハーバー人まばら
岡山県     岸野洋介
八月の学び舎巨大廃墟かな
八月や妹訪れて母と居し
八月や蜘蛛の巣ゆれて日は西へ
八月は正門くぐり出入りする
八月や少国民の日は遥か
島根県     はぐれ杤餅
八月の熱り右肩の銃痕
神奈川県     猪狩鳳保
八月や小蟹隠るる磯玉藻
八月のつくばひ小鳥来よ飲めよ
八月の鶯マリア・カラスとも
八月の大波しぶき島見えず
八月や釜音消ゆる四畳半
滋賀県     船岡房公
八月や被爆電車に揺られけり
合唱の「消えた八月」聴く六日
福岡県     深町明
八月の砂丘に立つて見る火星
福岡県     深町明
八月を示して平和祈念像
八月の雲大いなり遠江
九ちやんの星夜八月十二日
八月や何処訪ねても甲子園
東京都     佐藤富幸
八月や長崎の鐘坂の花
終戦の八月想う二重橋
八月の球児の熱気甲子園
八月の鳥居潜りて靖国へ
八月の風の匂いに澤の音
東京都     佐藤美智子
八月の海山遠く菌近し
八月の縦横斜め跳ぶ球児
八月の五輪規制の遅配かな
八月の正午球児と黙とうす
老犬と見る八月の赤き月
神奈川県     塚本治彦
八月やピアス外せし穴に風
八月や背に死者の立つ気配
八月の湘南ボーイ老けにけり
八月や一つ増えたる鼻ピアス
八月や逝きし者らの声聞こゆ
静岡県     川口八重子
八月や白杖の先風蹴りて
愛媛県     砂山恵子
八月のピアス斜めに光りたる
八月の岬どこまで遠くなる
八月のOBの来る合宿所
人声の無き八月の給湯部屋
八月の白き道見る五病棟
埼玉県     宥光
八月の日の斑曼荼羅絵図の中
八月や水の補給の三杯目
埼玉県     宥光
八月や犀の園舎は修理中
八月の鬱に病名つける医師
八月の夜は自由な寝間着色
広島県     老人日記
八月や戦争見ずに終えたきや
八月やCT老いの身輪切りけり
夾竹桃八月六日を待て咲けり
八月の老いの日記の途切れがち
島根県     
八月や秘密の文を焼く煙
島根県     
八月の踏切開かず逃げられぬ
島根県     
八月の日本列島鉄の黒
島根県     
八月のちょっとは動くバンダかな
千葉県     伊藤博康
八月の約束反古になり易し
八月の準備整ふ野球場
八月やいたこ急ぎて隣へと
八月に親子で話す平和とは
何ごとも無き八月のありがたや
大阪府     森 佳月
広島で八月の旅終りけり
八月の電信柱融けず立つ
八月のラッパを吹くや外野席
八月の海たのしめずこの世情
八月の校庭広し砂けむり
兵庫県     髙見正樹
八月の港の夜明錨鎖音
八月の草は手強し野の小道
広島県     永野昌人
八月の自づと垂るる頭(こうべ)かな
父の亡き甥を鍛えん八月に
埼玉県     水夢
八月のビルの狭間に星ひとつ
八月の空へ駆けだす蒼き馬
埼玉県     水夢
八月や長崎の雨やはらかに
八月の献花台には白き花
八月の屋台舟ゆく風の中
東京都     豊宣光
八月の風に過ぎゆく季節かな
八月の休暇をしばし持て余す
八月や平和の鐘をつく少女
八月や祖霊の帰る門あけて
サーファーのいない八月波高し
静岡県     城内幸江
山頂の八月積んで下りをり
心臓の弱音を聞いた八月よ
八月や雲止まるなと空の声
八月や水と頬張る塩にぎり
八月の光もろとも水をかけ
神奈川県     矢神輝昭
八月に思ふても見よ黒い雨
八月の天日への道バットレス
八月や気後れに添ふ風の色
八月の色は伏見の鳥居の朱 
八月の風の荒さや室戸岬
茨城県     小松崎孝志
八月や引退迫る部活の子
八月やいつもの顔の子等来たる
八月や亡き父の歌口遊む
八月や球児の宝できあがり
八月や円陣の声青空へ
東京都     石川昇
八月や翼折れたる紙の鶴
八月の何処へも行かぬ余生かな
奈良県     平松 洋子
八月を待ちて髪切る友と会ふ
八月も音沙汰無きて孫遠し
奈良県     平松 洋子
八月の花嫁ビーチに輝きぬ
大阪府     永田
八月や傷痍軍人墓地無声
ブラジル     林とみ代
八月や原爆投下国敗る
八月のオリンピックや世の平和
八月や同窓会の成り立たず
八月や一期一会の旅なりし
八月や祖先の墓に手を合す
栃木県     鹿沼 湖
八月や伏して聴く真昼のラジオ
大阪府     酒梨
八月は吾ときのこ雲の誕生日
スーパー巡り八月の日課とす
厳かに八月の詩マリア像
吐きしつば八月にひつかかりけり
白砂に移りゆく八月の色
群馬県     塩原香子
吾の生まれし八月三日傘寿入る
八月や父の詩集のなつかしき
息苦し身のおきどころなき八月来
八月や海岸線の波高し
八月や蟾蜍たたずむ畦の傍
東京都     右田俊郎
忌まわしきあの日の記憶八月来
八月の記憶風化をさせるまじ
八月や妻の点前で茶を喫す
めぐりくる八月思い出すあの日
八月の光の中の孤独感
ブラジル     玉田千代美
八月の母の忌日を偲びけり
八月の結婚式や忌み嫌ふ
岐阜県     雅風
黙祷に停まる八月十五日
揃ひたる八月大名国際線
岐阜県     雅風
八月の六日九日十二日
語り継ぐ八月六日キノコ雲
八月は祈りの月や鶴を折る
神奈川県     井手浩堂
早朝の蝉鳴く八月十五日
富士雲に隠れ八月十五日
戦争を恨み八月十五日
京都府     村田稔子
自由研究決まらぬ息子八月や
宿題を枕に寝息の八月か
八月の空 ちいちゃんのかげおくり
東京都     中田ちこう
八月や裸婦微動せぬ無言館
山口県     ひろ子
遠距離の孫へたよりや葉月雲
静岡県     大澤定男
八月の甘えの記憶祖母ふたり
八月の訪う気配路地の奥
八月や迎えて送る居間茶の間
八月の路地に火を焚く慣いかな
八月や世話になったと父母祖父母
兵庫県     岸野孝彦
八月の雨がしみいる忠魂碑
八月の涸沢の日々光る雲
八月の桜若葉の栞かな
八月の空の蒼さや父母想う
八月の万死をのせて笹の舟
神奈川県     亀山酔田
八月尽浜に捨て釘混じる頃
八月や浜は海へと吸い込まれ
八月の田螺ぞろぞろ連なりぬ
八月や一山売りの茄子胡瓜
八月の岸を渡るも孤独なり
埼玉県      哲庵
八月や五大陸の輪交差する
埼玉県      哲庵
八月や鎮魂の海浪高し
八月や逆回転の花時計
疫病神踊る葉月の狂詩曲
八月の行き届きたるお・も・て・な・し
香川県     辰野
八月の湿度亡き人らの密度
八月の日射し陰まで食い尽くす
八月の決意目指すは看護師ぞ
神奈川県     龍野ひろし
八月や旋盤の吐く螺旋屑
八月や潮の香とどくカフェテラス
八月や指に零れし星の砂
静岡県     いたまきし
八月や隣の席の参考書
八月の欄干からの熱伝導
大阪府     鈴木千年
八月や人惜みては祈りては
八月を灯し蠟涙垂れやまず
八月や古老の戦物語
八月や朝な九九算復習へる子
魂の在処八月十五日
大阪府     鈴木三津
八月や一年分を子は育つ
八月の起きぬけの水嗚呼甘露
八月や鴨居の遺影一つ増え
八月や雑草も子も焦げてゐる
空襲に遺体なき魂八月来
大阪府     鈴木千年
魂の在処八月十五日
八月や人惜みては祈りては
八月を灯し蠟涙垂れやまず
八月や古老の戦物語
八月や朝な九九算復習へる子
広島県     Dr.でぶ
じりじりと焦ぐ八月のヒロシマよ
徳島県     井内胡桃
八月の激辛カレー金曜日
八月や空いっぱいの薄き雲
大木に弾丸の跡八月来
八月の街行く人の色褪せて
八月のカピバラ唯に立ち尽くす
富山県     岡野 みつる
自堕落になる八月に活を入れ
八月や想い出も悲喜こもごもに
八月の空がワタシに容赦ない
三重県     藤田ゆきまち
塩むすび八月の雨の激しさ
セントレア立つ八月の留学生
図書館のホチキス八月の語部
八月の時報飲み干したるスープ
福岡県     西山勝男
八月や機銃掃射を耳底に
鎮魂と祈る日つづく八月来
ゲートルをほどく八月十五日
馬でさえ征って還らじ八月忌
祈る日の多き八月来たりけり
埼玉県     守田修治
八月や三四郎池無口なり
八月や牛の長鳴那須ケ原
八月や父の背を真似墓洗う
八月に黒い雨降る記憶あり
八月や聖者の行進口ずさむ
岡山県     名木田純子
八月や電車通りの昼の黙
陽水を聴く八月の風の中
愛知県     香坂泉
八月や「自販機まではまっすぐで」
八月の商店街に犬と居り
愛知県     香坂泉
八月の庭に仮置く温度計
八月の獣の聲のような濤
八月の海に置き去るあたしかな
千葉県     長谷川ぺぐ
八月の水に生かされ悩まされ
埼玉県     釜田眞吾
八月やブースの中を千羽鶴
八月や熟れし果実の口当り
八月の爪痕眼裏に消えづ
北海道     飯沼勇一
八月の夜店冷やかし歩きけり
八月の山に向かって腰伸ばす
大仏は鎮座黙考葉月の夜
八月や首に貼り付く髪10本
八月の牛の瞳の碧きこと
神奈川県     原川篤子
祈ること数多ありけり八月来
疎開せしあの地に今も八月来 
八月や草原尽きて八ヶ岳(やつ)聳ゆ
八月や水面に樹々の黒き影
八月やノルマンディーの海静か
千葉県     伊藤順女
疎開した農家の納屋の八月よ
六畳の奥へ奥へと八月光
木のオブジェ渚に寄する八月尽
神奈川県     立野音思
走れ翔べ泳げ撃て八月五輪
八月よ終の一度か海を聴く
八月は海賊のとき宝島
八月や森の遊びの時間割
きらめきて漂ひて八月の海
神奈川県     安藤 真青
八月や終戦までの本あさる
八月や山頂の我に風とおる
神奈川県     安藤 真青
八月やプール通ひの最後の日
埼玉県     小玉拙郎
八月の港漁網に塩白く
八月や戦さに負けて何年目
八月の秋は俳句の中ばかり
インク漏る文月文机万年筆
愛媛県     加島一善
白色を点し八月となりにけり
八月や久々に行く同窓会
八月の瀬戸に香るや青檸檬
八月の浜辺に届くシーグラス
八月の浜に届くや異国文字
愛知県     いちご一会
八月や正座して読む手記二冊
八月や見上げて通る忠魂碑
東京都     岩川容子
八月の路地の奥よりカレーの香
八月の乱雲とみに形変え
八月六日教会の鐘鳴り響く
八月やシーツ真白く乾きけり
八月やパレットに赤しぼり出す
愛媛県     アリマノミコ
「八月の鯨」みたかとラインくる
八月や鉄棒にぎる同窓会
千葉県     風泉
葉月立ち卯月につづくペンキ塗り
薄れゆく罪の重さや八月十五日
軒の蜘蛛狩り場を移す葉月かな
葉月立ち鍛える脚や浜の熱
愛知県     斉藤浩美
八月のたけなはとなるフラダンス
八月を風に乗せたり紙飛行機
八月の昭和一桁口重し
湯のやうな八月の水手向けたる
愛知県     斉藤浩美
八月の長き黙禱まだ戦後
埼玉県     飛翔
ワクチンを二回終わりて八月尽
八十路まだ夢見る日日や八月尽
八月に待つ事なしや傘寿来る
八十や節目重たし八月尽
銀輪買ふまず八月の風を切る
東京都     笹木弘
八月の昭和が遠くなりにけり
八月は記憶喪失の日本かな
無精髭の伸び過ぎてゐる八月尽
八月の天辺に来る観覧車
日本の国の傷つきし八月かな
神奈川県     池田恵美
八月や文机に供花たやさざる
八月や万年筆で書く手紙
八月や声変はりせし隣家の子
東京都     水野邦彦
八月や遠くで海が鳴っている
八月や郷愁騒ぐ西東
八月も微動だにせず過ぐるかな
八月や平和唱えて幾星霜
八月や大波小波どどんどん
福岡県     多事
八月や知覧の丘の文の海
八月の水出し紅茶子の寝息
八月の星つかみどり駒ヶ岳
八月をやはり造花としてしまふ
八月を嫌ひとなつてゆく躯
神奈川県     重兵衛
八月や忘れたきこと忘れ得ず
八月や楷書の文字の目立つ街
八月やマスクばかりの座談会
神奈川県     重兵衛
八月や難題出づるまたひとつ
福岡県     川崎日知
八月や鉄道唱歌鳴る時計
八月の空に戦闘機は在るか
八月の空へ波濤へ祈り満つ
東京都     猪俣ま悠
八月を折る折鶴の形まで
八月の改札下駄の響きけり
祖父様の語る八月焦げ臭き
姿見の奥八月の空暮るる
貝殻の渦八月の音ありぬ
福岡県     世良日守
八月の砂に生るる有精卵
東京都     山本貴士
子を抱きて入る八月の閨の色
八月の坂登る人九段下
八月や頬のみ焼けて子の笑ふ
八月の子ら持ち帰る植木鉢
サイレンを背に八月のエースかな
滋賀県     別役昌子
球場の銀傘へ八月の雲
八月の風にラジオの声震う
八月の雨烟る浮御堂かな
八月の忌日の墓石其処彼処
八月や細工町より転籍す
東京都     豊島仁
涙する父の八月十五日
八月やいつもピカピカ父の靴
八月の涙は重き日本かな
八月や庭の大石禅の僧
八月や今ぞ手をとれ五大陸
神奈川県     髙梨裕
八月の美ら海の島灯る墓地
八月の影立ち上がる爆心地
神奈川県     髙梨裕
生き延びて祈る八月恥じいる手
騙す八月黙するヤ五輪の火
八月の喉越し玉子かけ御飯