俳句庵

9月『梨』全応募作品

(敬称略)

千葉県     柊二
サファイア婚梨を喰む子の梨を浴ぶ
東京都     岩崎美範
梨をむく余命わづかな愛犬に
梨供ふ六地蔵にもひとつづつ
単身の北の下宿に梨届く
何事も起きぬ幸せ梨をむく
梨むけば必ず母を思ひ出す
新潟県     近藤博
梨一顆地蔵尊にも供へあり
梨剥くに切れぬ包丁研ぎ直す
梨剥くに果汁べったり掌に
山梨の友より宅配梨届く
梨の木の一顆を啄む鳥の居て
長野県     木原登
豊潤な梨てふ水を食うべけり
老いてなほ自前の歯なり梨齧る
東仙丈西は木曽駒梨実る
ドヌーブもベベも懐かしラ・フランス
脳漿に滋養足すべく梨を剥く
山梨県     森下博史
梨礫知っているから書く手紙
ザラザラの梨のジャリジャリ君想う
飲み過ぎた初カロリーの梨を食う
梨篭の娘閃く世界革命
女房のビンタを食らう梨ンガーゼット
大阪府     藤田康子
梨もげば枝のかすかに抗ひて
持ち寄りし茶請けに梨の混ざりをり
富山県     岡野 みつる
箱入りの梨が全国デビューする
この列は何ぞや梨の直売所
富山県     岡野 みつる
梨狩りへ矢印辿る車列かな
岐阜県     金子加行
梨を剥くナイフや土佐の鍛へ物
百寿への母へ小さく梨を割く
だう泣けばよきかの夜に梨を剥く
梨剥きて軽く話を収めたき
なまくらな庖丁の音梨を剥く
東京都     石川昇
有の実や水にゆかりの名も清し
詰め物に地元新聞梨届く
島根県     
大山の泉の如き梨を剥く
愛知県     西谷寿
梨をむく母の手を見て涙でる
さわやかな梨の花びら子の顔に
時たてば梨の子どもは人の親
泣く子ども梨を渡して笑顔かな
テレビみて梨食べたいと子がねだる
大阪府     多田由佳里
もてなしの梨てんこ盛り漁師町
ぬく寿司に梨添えてをり島の昼
広島県     木染湧水
じゃりじゃりと剥いて梨食むじゃりじゃりと
実家より梨の来るころ買はで待つ
梨送る送り状一枚増える
栃木県     鹿沼 湖
うつすらとくちびる濡らす梨の汁
埼玉県     北川清
梨園で 赤白帽子 汁たらし
お茶がわり 出された梨に 長話し
梨食うて すっぱき芯味 人の妻
しゃりしゃりと 梨の皮むき 蜜匂う 
梨むくや 甘き香りに 紅さして
大阪府     多田由佳里
デザートは口どけやはし黄なる梨
黄の梨の光の重さ掌にあふる
大阪府     多田由佳里
汐鳴りを梨もぎながら聴く夕べ
もてなしの梨てんこ盛り漁師町
ぬく寿司に梨添えてをり島の昼
長崎県     入口弘徳
梨ひとつ剥いて闇夜に放り投ぐ
神奈川県     鴨野箸
似ていると曲げし内肘剥いた梨
神奈川県     鳥井原弘
友来たり梨切れ分けて汁光る
梨の皮きれず繋がり風にゆれ
神奈川県     神長誉夫
梨食めば苦き記憶の透きとほる
不安げな無人露店の梨三つ
惑星の如く孤独な梨を捥ぎ
饒舌な幟や梨売り夢の中
梨食みて星降る夜の香知る
東京都     松本征枝
袋掛け自ずと弾け梨仕上ぐ
梨の名に新甘泉あり言い得て妙
青い梨食んだ青春硬き頃
今いずこ昭和の梨の長十郎
梨半分上手に剥いてくれる夫
神奈川県     神長誉夫
饒舌な幟や梨売り夢の中
梨食みて星降る夜の香知る
梨食めば苦き記憶の透きとほる
不安げに露店に残る梨三つ
惑星の如く孤独な梨をもぎ
奈良県     堀ノ内和夫
梨一つ兄弟四人喧嘩せず
あれこれと昔の味の梨探す
神奈川県     猪狩鳳保
山門をくぐる両手に梨抱へ
梨剝いてくれたる指の細さかな
梨剥きつ真旅のみやげ話など
神奈川県     猪狩鳳保
多摩川の渡し場いづこ長十郎
長十郎その名なつかし梨園かな
東京都     伊藤訓花
梨を剥く介護の夜の静寂かな
喧嘩して爪で落書き梨の肌
洋梨や真白き皿のコンポート
南武線稲城の郷の長十郎
夫と子の話の接ぎ穂梨を剥く
大阪府     八王寺宇保
一個ずつ梨を冷やせり老夫婦
園庭の体操服やラフランス
出荷せぬ小粒の梨のジャム作り
万葉のゆかりの地にて梨齧る
梨の実の色に採り入れ計る朝
東京都     内藤羊皐
見舞へとゆけぬ病棟ラ・フランス
梨狩や再び転ぶ老いし母
洋梨やアクアリュウムの水眩し
有の実のすつぱき片を食ふをさな
梨食うて母の小さき嘘逸らす
宮城県     林田正光
梨を食べ水分補給なりにけり
デザートは妻の好物梨五切れ
梨を切る妻の左手白きこと
プレハブの梨直売所人の列
梨を剥く器用不器用皮の量
岡山県     岸野洋介
袋掛けした梨の実をまず探し
梨棚を出てまず腰を伸ばしけり
捥ぎたての梨にがつがつ齧りつき
梨を捥ぎ友と疎開の話など
亡き妻へ初物の梨供えけり
島根県     
赤梨の口内炎に優しくて
早緑の梨の流るる夜の卓
山口県     ひろ子
はらからの梨狩り昔となりにけり
しゃりしゃりと梨食む夜の寡黙かな
いろどりもさやかサラダに梨加え
奈良県     平松 洋子
二切れの小皿の梨をひょいと食ふ
籠り居に梨の歯触りころころと
切る程に梨の香りの満ち満ちて
東京都     佐藤富幸
梨食らひ顎の雫を拭ひけり
たわわなる長十郎の九十九道
干乾びし梨の皮有り門の上
田舎道地蔵様にも梨の籠
孫の手の届かぬ先に梨の籠
東京都     佐藤美智子
梨求む訛なつかし直売所
梨デッサンただ黙々とペンの音
梨むくや酢飯程よく光りおり
梨供え警蹕響く地鎮祭
梨のある絵手紙隅に「梨」とあり
沖縄県     稲福達也
梨園に立ち寄る旅の無計画
手秤で梨を見分ける媼の手
梨を剝く話し上手の剥き上手
梨ひとつ剝いて小昼の老二人
岐阜県     ときめき人
梨の香や土間を抜けたる城下風
徳島県     白井百合子
体重の梨三個分増えてをり
梨が好き甘味と酸味シャリシャリも
梨狩りの園いっぱいにはしゃぐ声
仏壇の団子の前に梨据わる
徳島県     白井百合子
梨狩りの腰屈めたり伸ばしたり
静岡県     いたまきし
梨にさす爪楊枝はや湿りをり
千葉県     徳翁
路に沿い梨園並ぶのぼり旗
母想う皮一枚に梨を剥く
何事ぞ桐箱入りの梨届く
梨食べるシャリシャリッと妻の居る
香川県     辰野 
発熱の夜の冷蔵庫酒と梨
梨かじる甘き光の雫飲む
オンラインツアー土産の梨供ふ
大阪府     木山満
千切れずに剥くを褒めれば梨は無し
雨の夜や梨剥くは夫喰うは妻
独り居や汁零し食ぶ気楽さよ
荒尾梨赤子の頭噛む心地
梨狩りやズボンで擦(こす)りかぶり付く
神奈川県     立野音思
梨食ぶや世紀を跨ぐ懐古談
差し入れの梨の甘さや祝退院
埼玉県     岸保宏
父の梨届き正座で箱を開け
濁流が避けて通るや梨畑
梨をもぎ植田眺めてかぶりつき
千葉県     峰崎成規
葛飾の梨街道の梨御殿
梨の名に水の名多し水の星
廿世紀旨み旧びず吾がどちも
地下鉄で行ける故郷梨熟るる
諍ひの鎮もる卓に夜の梨
大阪府     津田明美
山の端にかかる夕月梨育つ
梨たわわ薄暮をセピア色に染め
世界一 冠たる梨を 持て余す
大阪府     津田明美
凸凹の愛嬌も又梨の味
シャリシャリシャリ リズム正しく 梨を食む 
滋賀県     船岡房公
座りよき洋梨ひとつ表紙絵に
洋梨が動くかダリの静物画
三重県     後藤允孝
穫れたよと妻に二個ほど長十郎
梨狩や高さに合わす肩車
梨四つ祖母の遺影に供えけり
梨食えば餓鬼の記憶の蘇り
梨園の甘い香りのする少女
神奈川県     塚本治彦
酸き顔の梨の芯まで齧りけり
梨の皮齧り捨てつつ丸齧り
パティシエを目差す少女や梨タルト
捥ぎたての日向の匂ふ梨齧る
梨齧る猿のごとく歯を剝きて
静岡県     城内幸江
一日を終えてゆつくり梨を剥く
梨剥いて夫に言われたありがとう
梨一つあげる若手のセールスマン
東京の娘に丁寧に詰める梨
梨の皮けふは疲れて厚くなり
東京都     右田俊郎
熱のある子の枕元梨をむく
梨をむく滴る果汁惜しみつつ
むいてよと重たげな梨差し出す子
梨をむく祖母の手元を見つめる子
シャクといふ音小気味よく梨を割る
広島県     老人日記
梨一つ食べてふくるる老いの腹
梨齧れば自ずと怒り収まりぬ
梨剥くや無口な夫に慣れしとて
広島県     老人日記
梨啜る地球の水の味啜る
茨城県     小松崎孝志
道端の梨の幟や直売所
梨届く一年ぶりの長電話
もぎたての梨の試食や棚の下
山形の洋梨五キロ届くなり
五Lの梨送るひいきの相撲部屋
千葉県     小泉正行
梨園より産地直送千葉の梨
妻剥きて二人で食べる甘き梨
今年又子等に送るや千葉の梨
山梨の梨にぞ勝る千葉の梨
兵庫県     髙見正樹
スーパーに梨の特売選る媼
甦る原風景や梨齧る
剥く梨の滴る果汁丸齧る
神奈川県     沼宮内薫
梨を剥くらせんの皮をしたらせて
梨かじる前歯かわいい一年生
新妻やつまみにさつと梨を出す
掌の俄かの皿や梨食ぶる
梨かじり議論激論沫(あわ)とばし
東京都     よしだ悠
好物の梨を待たずに妻逝けり
大阪府     永田
実、皮、芯ピノキオ梨を喰ひ尽くす
神奈川県     矢神輝昭
「梨」ありの看板見つつ銭湯へ
衝動で買ひたる梨の持て余し
梨売りの小屋の落書き主への字
梨売りの小屋の落書き赤青黄
地場産の触れこみに乗り梨を買ひ
兵庫県     岸下庄二
推敲の気分転換梨を剥く
ややこしき話の前に梨を剥く
兵庫県     岸下庄二
試食して梨を一盛り買ひにけり
梨を剥き話の継ぎ穂探りけり
梨食べて一食抜かす妻の留守
大阪府     森 佳月
梨剥けずかぶりつきたる子供かな
仏壇のお下がりふたつ梨を剥く
二十世紀少し遠のく梨を剥く
福井県     山本晟瑚
水被害‼過ぎて希望の梨甘く❗
その他     西山ひろ子
口にあふ子の悪阻にと梨を剥く
陽のぬくみ袋を通し梨一つ
梨を剥く遠き人ほど懐かしく
梨狩りや昭和は遠くなりにけり
有りのまま生きて行かんと梨を食ぶ
東京都     長岡馨子
籾殻を探る有りの実ずつしりと
神奈川県     井手浩堂
さくさくと梨噛む音やひとりの夜
牛の声風にのり来る梨畑
初梨や薩摩切子の皿に盛り
群馬県     塩原香子
梨園の篭盛りの梨風ゆれる
仏頂面の洋梨鋳物のやうに置かれをる
花もよし実もよしあまき梨かじる
梨食めばあふれる果汁滴りぬ
歯ざわりのちよつと苦手梨を食ぶ
埼玉県     宥光
ほとばしる梨汁甘き皮剥き器
スカートの裾でひと拭き梨屋の子
ラ・フランス白亜な家の令夫人
有りの実の里に嫁いで半世紀
初恋の人の畑の長十郎
東京都     笹木弘
食べたくて自分で剥きし梨一つ
東京都     笹木弘
不細工な梨ほど美味いものは無し
梨買へばおまけの一個歪なり
梨の食べ放題と言ふ困りもの
梨剥いてマニュキアの指に滴れり
岐阜県     雅風
梨剥くや皮切らさずに肥後守
噛むほどに梨のいのちのみづみづし
梨盛りて産地誇示する道の駅
幸の水豊かに含む梨を食ぶ
剥くほどに刃に滴るや梨の水
三重県     藤田ゆきまち
キズありの梨懇ろに剥くゆふべ
愛知県     斉藤浩美
梨園の梨のかたちに千の風
モチーフの洋梨は横座りして
収穫を終え梨園の空碧し
俳人の粋よ有の実と云いかえて
洋梨は画材素描の時間なる
埼玉県     いまいやすのり
梨を捥ぐ青空見ゆる又ひとつ
文机にとろくる香りラフランス
長十郎誰の名前と子に聞かれ
はや十年ここがふるさと梨を捥ぐ
ビール函並べ梨売る裏参道
東京都     勢田清
シャリシャリと梨の歯触り汁多き
奥山に山梨あると昔より
梨の木や金の果実の鈴生りに
運動会の昼は剥き梨重箱に
透明に滴る梨の果汁かな
千葉県     伊藤博康
初めての挑戦梨のコンポート
稼ぎ時車少なき梨街道
千葉県     伊藤博康
梨狩りは矢張り中止と報せあり
梨かじり顎の滴りあつ落ちる
梨剥きて皮の長さを競ひけり
福井県     山本晟瑚
想ひ出や郷里の味の梨畑
梨を食べ金運アップ望む吾子
東京都     豊宣光
梨食らう少年の日のかくれんぼ
皿に盛る梨の素肌のみずみずし
梨加え色が整う静物画
顔見世や梨園の家の御曹司
旬の梨都会へ送るゆうパック
神奈川県     龍野ひろし
蔕を見て尻確かめて梨を買ふ
島根県     杤谷治
梨を食む石の記憶の螺旋めく
山口県     ひろ子
しゃきしゃきと触感満たす梨うれし
愛知県     香坂泉
洋梨とマズル持つ手のやはらかさ
畑の隅梨の木の切り跡平ら
梨の香や居間に犬まで座り込み
分け合つて新高梨の肉食らふ
父見舞ひ梨の半分軽くなり
愛媛県     加島一善
シャリシャリと赤梨食むや紀寿の母
うたた寝の吾子の抱いたる梨ひとつ
梨ひとつ辻の地蔵の手のひらに
青梨やガキ大将の頭に似
梨三つ横一列に実りけり
福岡県     西山 勝男
味聞きて豊水梨を進物に
梨の里発ちて滔天生家訪ふ
献饌の先ずは身近の荒尾梨
梨狩りを旅の順路に加へけり
福岡県     西山 勝男
梨を食み媼の会話限りもなや
徳島県     井内胡桃
軽トラのゆっくり走る梨畑
サリサリと梨を食む子の前歯かな
折り合いをつけて夕餉の梨甘し
梨を食ぶそしてそれぞれ好きなこと
生ぬるき梨の歪を八等分
静岡県     大澤定男
梨ーつ剥いて父母へと祖父母へと
梨ーつ剥いた絵日記釣瓶井戸
もう半分食べ足りぬ梨ーつ剥く
夜半醒めて仏の梨をーつ剥く
鎌研いで梨のーつを試し剥く
千葉県     風泉
・仰ぎ待つ母の笑顔や梨の皮
・梨狩りや両手に蜜の重さかな
・三密を避けて捥ぎ取る梨の蜜
兵庫県     田駆路有
梨たべてしゅわっと口に広がって
大阪府     鈴木千年
さりさりと瑞を奏づる梨を食ぶ
梨食べて今日の一日を締めくくる
梨剝くや瑞の光の滴れり
梨を嚙みゐて福耳となつてゐし
梨剝くや滴る山河思ひをり
大阪府     鈴木三津
ひとまづは仏に供へ巨大梨
いかにせむ二人暮しに巨大梨
梨食ぶる水より淡き老夫婦
豊水・幸水・新水これみんな梨
武骨なる肌したしき長十郎
三重県     平谷富之
夕餉には季節の梨をデザートに
滋賀県     村田紀子
梨を手にマスク下から笑みこぼる
滋賀県     村田紀子
縁台で梨を剥く手に六つの目
梨届く古里の風友の声
半世紀変わらぬ友と梨の味
友を待つ机の上に梨一つ
山梨県     天野昭正
客減りし梨畑に来て星仰ぐ
今生の忘れぬ味や柿熟るる
多摩川の瀬音聞きつつ梨を剥く
丸かじりする手に落つる梨の汁
空腹や疎開地の柿盗みけり
埼玉県     水夢
梨の香や火星に水のあるといふ
梨を剥く独りの夜のセレナーデ
梨を食む夜のしじまに砂時計
梨狩に声の弾みし日曜日
暁のペルシャの風に梨を食む
神奈川県     原川篤子
梨棚の隙間に覗く青き空
上ぐる顔に日の斑受けて梨を捥ぐ
マニキュアの赤濡らして梨を剥く
車より梨を選りをり梨街道
抱き上げて子供に捥がす梨大き
兵庫県     えいえい
梨かじりあとは子供のこおり水
千葉県     伊藤順女
梨をむく今や自分のためだけに
虫食いの梨は旨いと母いへり
神奈川県     亀山酔田
馴れぬ手の弄りまわして梨を剥く
梨を食ぶふっと君いる思いして
月光を含む露なり梨美味し
余生には自分の梨の剥けるよう
眼前に素描の梨の腐りつつ
埼玉県     石塚彩楓
梨をむき夜勤帰りの子の話
梨食めば一人居の母思ほゆよ
もぎたての手に余る梨賜ひけり
セザンヌの画集に青きラ・フランス
老農夫ナイフに刺して梨一片
東京都     山﨑勝久
洋梨や似ている貌と美術館
セザンヌの洋梨の蔕巴里を指し
愛媛県     山家志津代
梨食むや女にもある喉佛
梨買うは今日の言い訳成立す
白き喉こくりと落ちる梨の片
神奈川県     川島欣也
木漏れ日の揺らぐ梨えん昼下がり
むき終えぬ梨に手を出す幼かな
抱き上げる幼もぐ梨手に余る
お持たせの梨や氷に浸されり
梨一つ持て余しており老い一人
愛媛県     砂山恵子
くたびれた季節の記憶梨を剝く
皮剥き派四つ切り派をり梨を切る
ふるさとの水の詰まつた梨を剥く
梨を喰む再び水に還るため
連休の朝や梨でも剥こうかの
埼玉県     守田修治
梨とどく一つ一つに力士顔
御持たせの梨八当分し客前に
旅役者芸売りつくし梨をむく
お経終え老僧にだす地元梨
梨の名は聞き漏らしたがタオルくれ
神奈川県     池田恵美
仲人を訪ふや長十郎抱へ
ラ・フランス香る窓辺に人を待つ
東京都     安藤ゆき子
ラフランス年経るごとに訛る母
徳島県     井内胡桃
生ぬるき梨の歪を八等分
梨を食ぶそして其々好きなこと
平穏な一日の夕餉梨甘し
軽トラの梨の満載発車せり
サリサリと梨を食む子の前歯かな
東京都     山本貴士
白き手や梨もぐおさげ肩の上
梨剥く子二人羽織の母の指
故郷の見慣れた文字と梨届く
子の椅子の下に昨夜の梨の種
閉店の貼り紙に買う梨三つ
埼玉県     小安章代
梨熟す日々知れり朝の近道
今日ひと日何が出来たか梨重し
滋賀県     別役昌子
赤梨も青梨も実りて豊か
前籠に梨重し坂道下る
梨棚へ正午のチャイム腰伸ばす
梨剥くや研ぎ直したる肥後守
梨捥いで梨一つ分青き空
東京都     岩川容子
俎に渦をなしたる梨の皮
梨ひとつ分け合い昔話など
湯上りに冷えた梨出す旅の宿
梨剥けば厨に白き朝の風
茨城県     長洲研志
試合後の差入れの梨負けの味
亡き父の背から見上げし梨の尻
合宿所の梨の差入れ青い空
その他     林とみ代
梨剥けば滴ぽたぽたこぼれけり
梨熟れて出荷準備の真っ最中
その他     林とみ代
梨棚よりちょきちょき聞こゆ鋏音
梨作りの苦労話を聞かさるる
朝市の屋台に香る日本梨
埼玉県     七島
洋梨のとろりとろりと広がりて
こそばゆし梨もぎたての毛に触れて
祖母の手の包丁のあと梨にあり
不揃ひの梨それぞれの味がして
顔ほどの梨切り方を思案して
福岡県     川崎日知
梨三つ下げて舅の筑後弁
父の手のおほきさに在る梨ひとつ
梨食ふて義父の青年期の話
梨を剥く手に梨の香の滴れり
神奈川県     光南
梨冷たし明日は手術といふ夕べ
父母と子等を想ひて梨を剝く
暑き日を振り返る夜や梨を剝く
梨を剝くベッドの上の母無言
フォーク刺す梨透き通り手術前
埼玉県     小玉拙郎
地方紙にくるまれ並ぶ箱の梨
梨の名は激動の世紀丸のまま
やすやすと楊枝の刺さる過熟梨
サリサリと刃と歯に当たる冷えた梨
東京都     田畑整
この楊枝わたしのしるし梨を食う
梨を剥く一人で食べるにゃちと多し
昼寝より梨が剥けたの声きこゆ
梨を剥く糖度12度べたついて
梨をもぐ時々くびをコキコキと
北海道     森野樹
仏壇に剥きたての梨供ふ母
北海道     森野樹
剥きたてを包丁に刺し梨渡す
その中に肥満児も居り長十郎
長十郎百五十歳まだ死なぬ
父違ふきょうだいが捥ぐラ・フランス
大阪府     酒梨
水もらふやうに初梨もらひけり
梨園の土に精出す主かな
食べごろの梨のめり込む梨畑
道すがら梨ほめて梨もらひけり
梨を剥くとりとめのない話して
東京都     中田ちこう
明の鐘夫婦互いに梨かじる
東京都     内山岱鵬
踏んばって老婆やリヤカー梨市場 
箱いっぱい届いた梨に腕を組み
指す楊枝くるりと梨の滑り落つ
下駄の先梨のかけらに蟻並ぶ
客帰り仏壇の梨ひとつ減り
京都府     村田稔子
部活終え 口いっぱいに 梨果汁
東京都     水野邦彦
梨の実の重さ知るごと半生記
梨一片頬張る吾子の成長記
落ちる実は動じもせずや長十郎
剝く梨の実回るごと笑み溢れ
埼玉県     飛翔
梨狩りの陽のぬくみある甘さかな
艶艶の梨が並ぶや無人店
真顔なる肩馬の子や梨を捥ぐ
宅急便梨と一緒に訛り文
梨狩りに名前呼びあい梨かざす
千葉県     長谷川ぺぐ
そばかすの少女時代や梨を剥く
北海道     風花美絵
熱高き子に一切れの梨を剥き
北海道     風花美絵
青空に汁を飛ばして梨を剥く
すれ違う宅配便に梨の絵が
鳥取県     475俳句
梨届く父の内緒の仕送りと
たえきれず滴る白き梨の肌
山水をみな掻き集め梨太る
奥の歯に残る昨夜の梨甘し
梨もぐや枝のまにまに日を宿し
神奈川県     水野伸一
庭仕事梨頬張りて第二幕
しゃくしゃくと梨齧る音笑う孫
床に臥し梨二切れの熱冷まし
福岡県     多事
噛み切れぬ梨の白さよ床の祖父
午後一の部活紹介梨しやりり
しやりと割れさりりと抗す梨ですな
重箱の一段が梨徒競走
梨の香に薄く潰れて母の文
東京都     猪俣ま悠
しゃりしゃりと梨三毛猫のうとうとと
収穫の補助や土産の梨甘し
喜びのぎっしり詰まる梨は朝
送らるる梨添え状の太き文字
福岡県     世良日守
弥栄の一本背負いラ・フランス
東京都     豊島仁
梨食へば風は荒浜九十九里
梨狩りや流るる雲の果てに富士
神奈川県     髙梨裕
恋掴むその手剥かれて君の梨
洋館のロダンの首やラフランス
介護士に剥かれし梨の甘きなり
青き梨摘まむ一片姉の紅
梨剥いて泣く子取り合う子は七人