俳句庵

季題 1月「福寿草」

  • 土の香もふるさとなるや福寿草
  • 神奈川県     井手 浩堂 様
  • 抱く子の未来明るし福寿草
  • 大阪府     津田 明美 様
  • 亡き妻の面影のごと福寿草
  • 岡山県     岸野 洋介 様
  • 路地裏に陽の廻り来し福寿草
  • 埼玉県     釜田 眞吾 様
選者詠
  • 福寿草日影も寛に風を呼ぶ
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 令和四年一月の季題は「福寿草」です。傍題に「元日草」とあるように、縁起の善さと、花の乏しい寒期に咲く黄金色の花が珍重されて、正月の花として用いられてきました。歳時記には薫村、一茶の句も出ています。皆さんの句にも、多様な作品がありました。中でも、家族を詠んだ句に、ふところの深い句がありました。選評に這入ります。
優秀賞の井手浩堂さんの句。正月を迎え、故郷に帰った時の句です。上五に置いた「土の香も」が、善く一句を占めています。庭の一隅に咲く「福寿草」。名詞のみの福寿草が、ふるさとを豊かに表わしています。津田明美さんの句。この福寿草も、「抱く子の未来明るし」を、諸手に受けている表現です。この十二音には、まさに洋々とした未来の明るさがあります。作者の思いは必ず、この抱かれた子を、明るく包むことでしょう。岸野洋介さんの句。この句の福寿草は、一転して、「亡き妻の面影」を見るような、作者にとっては忘れられない花です。作者はそれを、「亡き妻の面影のごと」と、淡々と記していますが、その思いは、深々と忘れられないものとして、作者を包んでいるのです。
釜田眞吾さんの句。こういう景は佳く見ます。「路地裏」という定めがあって、福寿草の位置もはっきりとします。最近の路地裏は、平均して道幅も広くなりました。昼近くなり、福寿草にも日の当る景が浮かんで来ます。
今月の佳句。<しあはせの一家であれと福寿草 金子加行>。<硯海の光しづかや福寿草 鹿沼湖>。<コロナ禍の小さき幸せ福寿草 岸下庄二>。<縁側に針持つ母や福寿草 原川篤子>。
それぞれの家族が、小さな幸せを求めて生きています。それらの許に、福寿草の花が、寛に美しく咲いているのです。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。