俳句庵

3月『燕』全応募作品

(敬称略)

愛媛県     砂山恵子
また来たると燕はつんと澄ましたる
つばくらめ急ぐことなき旅の宿
我が街に知らぬ抜け道初燕
人ゐなき駅前通りつばくらめ
モノクロの空銀の矢のごと燕
兵庫県     岸下庄二
燕来る父の表札そのままに
我が町の子午線過る燕かな
留守電に燕が来たと母の声
初燕来るころ納屋の戸を閉めず
去年より十日遅れの初燕
栃木県     鹿沼 湖
来るたびに嬉しき軒の燕かな
兵庫県     汰
燕の巣帽子にすれば安全や
兵庫県     えいえい
学校で守られている燕の巣
東京都     長岡馨子
つばくろや二組いると仏壇に
岐阜県     金子加行
ビル群を避けつつ都心燕来る
棟上げの唄に呼ばるや燕来る
スマートに都心の空に燕とぶ
新校舎覗きに来しや初燕
初燕村社の鳥居巧く抜け
山梨県     森下博史
そう言えば賢治に燕あったっけ
障子打つ声の勢いある燕
山間の宿の屋号にある燕
二日酔いしない燕としてる俺
みかん箱燕の糞を撒く畑
愛知県     岩田勇
大手門燕と共に入りにけり
暗渠出て用水の底つばめ飛ぶ
県境の谷飛び交ふや里燕
斥候の燕飛来や役所街
燕来る造り酒屋の蔵開き
愛知県     西谷寿
コロナでも燕はとんで激励す
コロナ禍で燕は希望与えとぶ
燕とび希望を与え夢与え
燕見て折れた心も立ち直る
燕とぶ希望上昇がんばるぞ
大阪府     木山満
初燕水面(みなも)に反りて白き腹
廃屋の駅舎に律儀ツバメ来る
子つばめ等同じ口開け餌をねだる
白壁に燕舞い来て夕焼けり
夏燕キビキビと空駆け巡り
滋賀県     東野眞知子
教室の窓から見える燕の巣
抱くとは手で包むこと燕の巣
登校の子の先をゆく燕かな
百年の木造校舎燕来る
燕来て孫来て家の賑々し
大阪府     藤田康子
燕来る教会だつた白き家
燕見て手話の燕を教へけり
東京都     岩崎美範
鈍色の空を切り裂き燕来る
ふるさとは昭和のままや初つばめ
この里の慈愛忘れず燕来る
潮の香の満つる朝市初つばめ
東京都     岩崎美範
大過なくけふも暮れゆく夕燕
長野県     矢島健
水口に水面に映る初燕(みなくちにみなもにうつるは
燕の子顔いっぱいに口開き
大空に飛燕の如く宙返り
口開きて叫び狂いしひな燕
軒下に顎裂けるかな雛燕
宮城県     林田正光
霧雨や低空飛行雨燕
燕飛ぶ合掌造りの屋根越えて
燕来る北前船の港町
静岡県     磯野昭仁
引越しの荷に二つ入れ燕の巣
二拝二拍手大社の燕の巣
燕や茶屋街つづく主計町
畑急ぐ燕低く飛び急ぐ
つちくつてむしくつてつばくらめとぶ
愛知県     飯田 夷佐久
初燕シャッターいつも半開き
燕きて襟を正して歩きけり
つばくろの尾羽根裂きたる夕陽かな
長野県     木原登
夕されば燕飛び交ふ湖の町
姨捨は無人の駅舎燕来る
アルプスの空に燦々一飛燕
火の見櫓に村を見下ろす初つばめ
良寛と芭蕉と燕出雲崎
福岡県     やまぶき
子等の声消えて幾年燕来る
乙鳥の横切る刹那小さき窓
故郷の無人駅舎や燕来る
白杖の音を撫で行くつばくらめ
埼玉県     北川清
江戸燕 伊能忠敬 お供して
巣に帰り 母燕待つ 日暮かな
燕みる 自然学習 車庫の巣
初燕 旅の疲れか 池の水
神宮の 燕旗ふり 優勝す
東京都     勢田清
燕飛ぶ空も水田に映りけり
翻る燕の喉の赤さかな
駅前に燕飛び交う町古し
出張の空広々と初燕
福来ると巣作る燕喜びぬ
静岡県     城内幸江
ギシギシと音鳴る雨戸夕燕
燕来るテトラポットは海沈む
初燕指一本で風をみる
からからと鳴る風見鶏つばくらめ
学校の正しきチャイム燕来る
岡山県     名木田純子
宿場町つばめの空の上にそら
自転車屋パンク修理に燕来る
つばくろの四国三郎遡る
燕来る午前十時の日に乗つて
つばめ来る湾にたぷたぷ舫ひ船
千葉県     四葩
青空を斜めに広げ初燕
一斉に燕見上ぐる顔のあり
徳島県     白井百合子
御蔵洞の燕眺めた土佐の海
夕燕住み処一緒の帰り道
燕来る眠気を誘う宵の口
雛鳴きて目覚める朝の燕かな
徳島県     白井百合子
入試の日答知りたし燕来る
大阪府     津田明美
子育ては人も燕も手抜き無し
彼の国の復興如何に燕来る
子育ては軒の住人つばくらめ
翻へす天地我が物つばくらめ
つばめ滑空温泉街の賑わいに
徳島県     井内胡桃
初つばめ裏通りぬけ街道へ
二冊目のお薬手帳初つばめ
縄文の茅葺屋根や初燕
日を返し天地を返す燕かな
あばら屋に戻り来るかつばくらめ
兵庫県     岸野孝彦
駅長は燕のごとき無人駅
さよならと告げぬ想いの燕かな
息子にも良縁来たる燕かな
かすめ飛ぶ燕の影の速さかな
限界の里を励ます燕かな
大阪府     森 佳月
城址に天守ある如く燕飛ぶ
デイケアから妻と一緒に夕燕
大鳥居くぐりて燕伊勢参り
神奈川県     矢神輝昭
のど赤きネッカチーフやつばくらめ
つばくらめ止め跳ね払い謳歌して
おお燕よくぞ忘れず代々木駅
缶蹴りの缶を掠めてつばくらめ
ハーフパイプ燕と化して"歩夢"舞ふ
高知県     野中泰風
起床にて吾が目覚ましの燕かな
土虫喰らい口渋い燕かな
高知県     野中泰風
軒下や燕の巣あり家の幸
燕から巌流や得る刀の理
燕着る大統領やエストニア
埼玉県     関とし江
宙返り見せる知覧の夏燕
奈良県     堀ノ内和夫
初燕紙飛行機を飛ばしけり
奈良県      平松 洋子
お下げ髪燕まだかと空仰ぐ
静かなる路地に燕はさんざめく
校舎裏は燕のママの集会所
沖縄県     渡嘉敷五福
横雲を行きつ戻りつ朝燕
思ふまま燕ならでの基地の空
つばくろよ渚に春は来ていたか
燕きて千とせふる樹の息吹かな
燕来るいぶせき日々のゆふぐれに
千葉県     峰崎成規
空翔る燕に国の境なし
住古し軒に今年の燕来る
蒼穹に燕尾一筆丸を書く
餌も泥も軒もない街燕飛ぶ
燕の巣老舗とともに代々を
神奈川県     神長誉夫
燕子ゆけヒールの音も軽やかに
燕追い裸足で駆ける土優し
潮の香や南の窓開け燕待つ
初燕発車オーライ高らかに
燕来て祖父の掠れた島の歌
神奈川県     塚本治彦
通勤の水上バスや川燕
つばくらや新橋駅の靴磨き
事件なき村の派出所初燕
神奈川県     塚本治彦
遅刻子を追ひ越してゆく燕かな
つばくらやどぶ板通り抜けて海
埼玉県     関とし江
干し魚掠め金谷のつばくらめ
顔中で子燕餌をせがみをリ
開けておく土間の燕の出入りに
初燕いつもと違ふ朝の駅
三重県     平谷富之
燕来るコロナの良薬持ってこい
茨城県     小松崎孝志
つばくろや急な坂道ペダル漕ぐ
白壁の土蔵が似合う燕かな
それぞれに羽広げたる群燕
直角の羽水平に飛ぶ燕
つばくろや大空を突く避雷針
東京都     内藤羊皐
燕来るビル屋上の赤鳥居
桃園の地名知らざるつばくらめ
つばくらや家に籠れる鬱病む子
静寂れる鶏舎掠める燕かな
つばくろの翳の疾れるアーケイド
愛媛県     加島一善
ワイシャツを薄紅に染め夕燕
燕来るスカイツリーを目印に
メビウスの環のごと飛ぶやつばくらめ
シャッターを三尺上げて燕待つ
つばくらめ銀の足環に「KANKYOSYO」
千葉県     渡辺多美子
ご城下の小さな駅や初燕
燕飛ぶ水の豊かな城下町
つばくらめ鉄路八本跨ぐ橋
つばくらめ城下の酒屋味噌を売る
千葉県     渡辺多美子
久留里駅猫ゐて燕飛んてきて
広島県     老人日記
初燕迷い込んだるビルの谷
つばくろの恋一瞬や宙返る
一閃に燕横切る峡の空
軒先は去年のままや燕来る
神奈川県     井手浩堂
通学の道や燕の通ふ道
燕返し見むと人寄る欄干に
つばくろや燕返しに折り返し
岐阜県     雅風
空を切り地を這ひ燕来たりけり
マラソンの折り返し点つばめ来る
本陣に羽を休むる夕燕
小次郎に秘剣授けしつばくらめ
通り雨楽しむごとく濡れ燕
東京都     佐藤富幸
電線の燕の列に鴉舞ひ
燕舞ふ手裏剣の如空彼方
田の空を行きつ戻りつ燕舞ふ
燕舞ふ小さき鳴き声虫の如
軒燕運べど遅し巣の形
東京都     佐藤美智子
朝礼の社歌にきらりと初燕
両岸に竿とたも網燕来る
日の丸へ風を与へて燕来る
廃業の噂知らぬか夕燕
朝採りの野菜しゃっきり里燕
千葉県     徳翁
いつの間に後期高齢ツバメ来る
今年また花粉と共に燕来る
燕飛ぶ紺一色の入社式
埼玉県     いまいやすのり
貸倉庫つばめ早々巣作りす
アパートの軒下借りる初燕
曇天に低空飛行つばめ来る
ふるさとへ続く青空つばめ来る
真新し並ぶ表札つばめ来る
岡山県     岸野洋介
帰り来た燕さっそく巣繕い
白き胸見せて飛び来る初燕
人通り少なき街路燕飛ぶ
日暮れ時低き飛翔の燕たち
入所したケアハウスにも燕くる
神奈川県     猪狩鳳保
東塔と西塔よぎる燕かな
初燕大名行列斜交ひに
燕とぶむかし港の石堤
腕組んでつばくら仰ぐアスリート
大路小路の鳥居くぐれる燕かな
東京都     秋人
息殺し皆で見守る燕の巣
兵庫県     髙見正樹
信号を待つ交差点初燕
つばくらめ橋をくぐりて宙返り
聳え立つ荷役クレーン燕来る
福岡県     須賀利通
あみだくじ遡るかに路地燕
切っ尖の光りて我へつばくらめ
黒潮へ風力十二初燕
東京都     伊藤訓花
子燕の親待つ声や長屋門
初燕すいーと宙へ急上昇
真つ直ぐに空を切り裂く初燕
生国は駅のホームや燕の子
東京都     伊藤訓花
つばくらめ水に翅打つ急降下
宮城県     林田正光
空海も目にした高野の飛燕かな
汐風に季節はずれの諸燕
東京都     衣川洋子
飛ぶときは いつも直線 つばくらめ
岐阜県     ときめき人
初つばめ逝きたる父は西方へ
東京都     豊宣光
軒先に燕の子らの口開く
古希過ぎてわれは老いたる燕かな
初孫の生まれる佳き日燕来る
空気切る一瞬の風燕飛ぶ
着ぐるみの燕となりて遊びけり
埼玉県     飛翔
若者の居ない村にも燕来る
燕来るいつもの軒に棲み慣れし
受かったとメールあるなり初燕
ジャンケンで負けて泣く子や燕来る
三回目のワクチン接種つばめ来る 
兵庫県     平尾美智男
硬き空鋤き返しつつ燕来る
三重県     後藤允孝
里燕人より多き村の家
つばくらの一声に街動きだす
燕来て街に昭和のよみがえる
つばくろや運び留むる筆の先
今年また世話をかけると燕言ふ
茨城県     長洲研志
姪っこの制服姿燕来る
東京都     たま走哉
燕や余白を落とす裁断機
一億の一分の黙燕来る
本復の刺繍電報つばめ来る
君が代の予行演習燕来る
東京都     たま走哉
燕来る付箋の多き訳詩集
神奈川県     沼宮内薫
バック転ピタリと決めるつばくらめ
町名はハイカラになるつばくらめ
よそ者をガン見しているつばくらめ
地下鉄のホームねぐらのつばくらめ
怪力を秘めたるやうなつばくらめ
埼玉県     水夢
燕来るカーナビ告げる県境
道の駅こんな所に燕の巣
初つばめ昼な暗き土蔵かな
初燕かって練兵場の跡
暮れ残る板東たろう初燕
千葉県     伊藤博康
桃虹の書が眼前につばくらめ
長旅の疲れは無いかつばくらめ
つばくらめ今夜の宿は決まったか
定宿の米屋を探す燕かな
つばくらめあちらの話聞かせてよ
大阪府     古田小春
つばくらめ九回裏のホームラン
軒下に幸せ運ぶつばくらめ
増えてゆく吾子の言葉やつばくらめ
つばくらめ何かいいことありそうな
神奈川県     亀山酔田
絡みつく空の空気を切る燕
三代は続く家なりつばくらめ
耕せば畑真上のつばくらめ
休みいる燕の一羽書架は空
降り止みて素早き燕地を舐めり
埼玉県     小玉拙郎
燕の子サイレン慣れす消防署
埼玉県     小玉拙郎
人消えて燕も帰らぬ町となり
浮子揺れる川面を過ぎる燕かな
逆光を抜けて川面を行く燕
福岡県     西山 勝男
特攻のかつての空をつばくらめ
つばめ来て日増しにつのる農事かな
閘門は遺産の一つつばめ来るつばめ
くっきりと飛燕の空へ薩摩富士
入り舟に出船に燕ひるがへり
愛知県     新美達夫
通り抜け出来ぬ小路を初燕
頬撫でる風青々と燕飛ぶ 
燕飛ぶ銀座本町商店街
燕来と日付とともに書き留む
南吉の童話の里に燕来る
埼玉県     宥光
白き腹見せて吾を越す初燕
羽たたみ雛に餌をやる親燕
燕来て青空広き蔵の町
シャッター街灯のある店に軒燕
嘴にひとつ泥持つ濡燕
北海道     風花美絵
山川に順に挨拶里燕
もしかして過ぎし物体初燕
大阪府     古田 几城
さとちやんの象の薬局つばめの子
東京の空の青さを燕とぶ
電線に並ぶつばめの燕尾服
つばめ来る築百年の無人駅
ワクチンの長き行列つばめ来る
静岡県     大澤定男
初燕はしご句会も若気かな
静岡県     大澤定男
初燕拗ねて泣かない孫娘
初燕国旗掲揚なる名誉
初燕リホームしても妻の愚痴
初燕終活という沖に出て
神奈川県     龍野ひろし
駅舎から通勤したる燕かな
愛媛県     加島一善
ワイシャツを薄紅に染め夕燕
つばくらめ銀の足環に「KANKYOSYO」
メビウスの環のごと飛ぶやつばくらめ
燕来るスカイツリーを目印に
シャッターを三尺上げて燕待つ
京都府     村田稔子
燕来る 丈の短い 学制服
故郷の 川面を滑る 初燕
香川県     辰野
手習の動画投稿燕の巣
新人の業務燕の糞掃除
滋賀県     村田紀子
転居日の新居に燕会いに来る
燕の巣祖母の声する軒の下
無機質な部屋に燕が暖運ぶ
飛翔する燕見上げて背伸びする
埼玉県     七島
正装の燕の父の一直線
子育てや燕夫婦の脛細し
つばめの子ふるさとの空忘るるな
燕飛ぶ一直線の家路かな
横長に結んだ口よ燕の子
大阪府     鈴木千年
白よりも白き胸見せ初燕
燕来て親しきものに農暦
一天に画竜点睛初燕
大阪府     鈴木千年
燕来て茶房に臨時出入口
燕来て春が大きくなつて来し
大阪府     鈴木三津
大空を傾けて飛ぶつばくらめ
改札口出入自由やつばくらめ
大寺の庫裏に燕の通ひ穴
つばめ来て駅が明るくなりにけり
雨切つて光の翔くるつばくらめ
奈良県     彬楽
池めぐりめぐり一面親燕
老会話何度聞いても燕くる
退院のバス待つ今朝の軒燕
空や地についこの頃に逢う燕
千葉県     伊藤順女
古書店を出て眩しき初燕
断崖にぶつかる波や初燕
燕の子難民の子も腹すかせ
千葉県     山田香津子
歯科医院の逆さの傘や燕の子
ランドセルのいつも道草里燕
黄帽子の並ぶ畦道つばくらめ
東京都     中田ちこう
直線の影さし寄せる初燕
埼玉県     ダック
空は青今更気づく初燕
燕の巣残し離るる生家かな
軽トラで駆ける農道燕来る
前回りくるんくるん燕びゅんびゅん
ゐぬ連れを問えばチュピチュピ初燕
千葉県     風泉
・群れ燕十七グラムの渡海かな
・ワルツ舞う若穂の波に燕尾服
・八方へ返して若穂の燕かな
千葉県     風泉
・下顎の切り裂く湖面や川燕
神奈川県     川島欣也
燕尾服脱ぐとき知らずつばくらめ
消防署燕に駐車場をあけ
つばくろに見捨てられてや空屋敷
八の字の凱旋飛行初燕
初燕低く垂れ込む雲の下
大阪府     金成愛
燕来てほれそれらしく直孤紋
神奈川県     海野優
燕来る立ち入り禁止と軒に札
つばくらめ二世帯住居の話かな
つばくらめ嫁ぐ気のなき姉妹
福岡県     須賀利通
つばくろや小路に響くカンツォーネ
つばくらや凱旋飛行は厩橋
埼玉県      哲庵
燕来る帰還困難地域にも
廃線の決まりし駅舎燕来る
燕来る自宅治療の庇にも
赤門をくぐり抜けたり初燕
頭上注意見上げてみれば燕の巣
神奈川県     原川篤子
雨匂ふ街に燕は低く飛び
改築の酒屋の軒に燕来る
今日か明日か燕待ちゐる駅舎かな
江の島や晴れて燕の空となり
つばくらめ一閃空を削ぐごとく
埼玉県     桐野鈴子
子燕の頭が見える道の駅
燕来る尊徳像の肩の上
東京都     山﨑勝久
海峡の武士の空燕来る
ライパチの見上げる空や燕来る
東京都     山﨑勝久
高台に揃ふ家並み燕来る
滋賀県     別役昌子
燕去んで空の巣残る軒の下
燕来てなお空室の会議室
三セントの琉球切手燕一羽
朝燕チュピチュピと鳴く赤き喉
おちこちに紛争地帯燕来ぬ
東京都     松本征枝
寅さんの如く燕の帰り来し
ジュリジュリと宿に燕の告げ来たり
子育ての手本と思しきつばめかな
問ひたきは去年の君かと軒つばめ
燕来て我が家の景色完成す
ブラジル     玉田千代美
諺に燕来る家幸ありて
燕来る家の軒下家族連れ
愛知県     紅紫あやめ
学舎の廊下を走る燕かな
垂直に燕と走る飛行機よ
旋回や別れ匂わす初燕
燕来る新居に招き福来たる
燕の巣弱き者は追い出され
ブラジル     林とみ代
電線に疲れを癒す燕かな
大空にサーカス広ぐつばくろめ
軒下は燕の出入り公に
電線に音符並べて燕曲
我が軒を古里ごとく燕来る
東京都     岩川容子
棟上げの祝いの空に初燕
燕拠る育ちし家の深庇
燕来る駅長だけの無人駅
東京都     岩川容子
雨垂れも物ともせずに軒燕
愛知県     香坂泉
逆上がりの空に燕の白き腹
建具屋のリフォーム見本燕来る
燕来る新築の壁ましろなり
ブラジル     西山ひろ子
良き事のある前触れや燕来る
晴れの国我が故郷や燕来る
久しぶり夫と笑ひて初燕
望郷の胸をつく日の初燕
大阪府     酒梨
一村を一回りして初燕
颯爽と古巣へ戻る軒燕
語らひは電線のうへ群燕
村人は爺と婆のみ燕来る
初つばめ色を濃くして戻りけり
愛知県     いちご一会
燕来る更地となった雑貨屋に
古巣無く更地に燕低く飛ぶ
東京都     内山 岱鵬
改札にフンの貼り紙初ツバメ
東京都     内山 岱鵬
夏燕風に逆らいストップモーション
江戸の町掠めて燕翻し
川面飛ぶ特急つばめや一直線
釣り糸や一閃ニアミス川燕
神奈川県     立野音思
燕来るまた賑やかな暮らしかな
忘れ潮映す燕や浜遊び
波の背に乗りたるごとくつばくらめ
山越へて一直線に初燕
東京都     右田俊郎
何時の間にかつばめ来ている駅舎の巣
宙返りして喜びをつばくらめ
つばめ来て少し元気になれる村
つばめ来て賑わいもどる無人駅
餌をもとめ子育て中のつばくらめ
埼玉県     石塚彩楓
窓多く明るき部屋よ初燕
カーブミラーひかる燕の空である
一刀を抜きし如くに燕飛ぶ
唐門の金の彫刻初燕
めがね橋ぎりぎり潜る初燕
北海道     風花美絵
山河に序列違わぬ里燕
福岡県     多事
つばくらめ白き腹より白き糞
つばさ上ぐる刹那は白しつばくらめ
初燕保母さん二人子ら七人
岩礁をのぼる朱燈やつばくらめ
中学より汽車通学よつばくらめ
兵庫県     ぐずみ
薪背負ふ石像掠めつばくろは
軒燕寐ぬを仕事の猫動く
兵庫県     ぐずみ
立ち止まることの苦手な燕かな
燕来る愚痴も苦情もこぼさずに
弥増さる川の光や初燕
東京都     音羽凜
つばくらめ都会の架線なき空へ
注染の暖簾の白へつばくらめ
神奈川県     髙梨裕
初燕電柱消えた深空より
我にきてつばくろ頭上ひるがえる
子燕とおぼしき燕戻りけり
出会せば羽根振り返す親燕
幾世代去りては来たる里燕