俳句庵

5月『冷奴』全応募作品

(敬称略)

愛知県     岩田勇
冷奴薬味の紫蘇の香るかな
若かりき父の晩酌冷奴
しみじみと家族平穏冷奴
犀の眼に染みる生醤油冷奴
半丁で足りる晩酌冷奴
高知県     野中泰風
たっぷり冷奴喰らう鰹節
土佐の銘酒やいと美味き冷奴
冷奴での相棒よ土佐の美酒
眺め食い五七五や練る冷奴
いごっそや酒飲みて食う冷奴
愛媛県     砂山恵子
割り箸をぱきと割る音冷奴
つづまりは夫婦ふたりか冷奴
冷奴やや崩れたるほうを取る
笑ひつつ意地はるをんな冷奴
病室に箸の後付く冷奴
千葉県     柊ニ
一丁に盛らる餡かけ冷奴
長野県     矢島健
夕焼に笛の呼ぶ声冷やっこ
冷奴のっぺらぼうの澄まし顔
晩酌の宛はとにかく冷や奴
揉み海苔の風味愉しむ冷奴
神奈川県     神長誉夫
冷奴ツーダン満塁箸の先
冷奴我の優しさ如何ばかり
冷奴生臭坊主の箸震ふ
神奈川県     神長誉夫
喉の奥崩るる命冷奴
神奈川県     神長誉夫
夜警終へずるり飲み込む冷奴
新潟県     近藤博
真四角に切りて薬味を冷奴
妻は臥せ慣れぬ厨に冷奴
冷奴好みの薬味振りかける
乱れなく四角に捌く冷奴
冷奴これに及くなしガラス皿 
大阪府     藤田康子
冷奴絹も木綿もカゴに入れ
岐阜県     ときめき人
角崩し城攻め如し冷奴
長野県     木原登
言葉要らぬ老の夕餉や冷奴
康成の「古都」読み返す冷奴
赤道の旅よりもどり冷奴
繁よりも簡こそよけれ冷奴
冷奴四角四面に生きてきし
東京都     江田聖岳
冷奴飲んで騒いて冷めしかな
豆十勝水は蝦夷富士冷奴
観光の客も集ひぬ冷奴
通夜の酒肴にしたる冷奴
蝦夷富士の湧水使用冷奴
大阪府     木山満
冷奴あれば爺様は上機嫌
反抗する娘憎らし冷奴
平穏に生きる贅沢冷奴
健食と奉(たてまつ)られて冷奴
ケアハウス3分の1冷奴
兵庫県     岸野孝彦
黄昏の風に吹かれて冷奴
父母在りて兄は東京冷奴
冷奴懐かしき人全て星
兵庫県     岸野孝彦
天川で登山帰りの冷奴
ふるさとの家も逝きたる冷奴
東京都     長岡馨子
冷奴ワクチンの熱下がりし夜
土地柄や辛子醤油の冷奴
埼玉県     岸保宏
移築した民家で食べし冷奴
言わずとも足を崩して冷奴
どの客にも愛想振りまく冷奴
東京都     岩崎美範
万馬券当てしその夜の冷奴
男には男の矜恃冷奴
この国に生くる幸せ冷奴
職辞せる父の泪目冷奴
病癒え舌にとろける冷奴
兵庫県     岸下庄二
崩さずに品よく食べる冷奴
邂逅の友と一献冷奴
連れ添ふて五十年なる冷奴
あれそれで通ずる仲の冷奴
余生とはこんなものよと冷奴
愛知県     斉藤浩美
才色などもともとなくて冷奴
富士の水なれど所詮冷奴
冷奴きれいに食べることむずかし
上司とは同郷の仲冷奴
いまだけを生きて今宵の冷奴
愛知県     飯田 夷佐久
みどりごの前歯前掛け冷奴
神奈川県     川島欣也
冷奴化学反応から生まる
冷奴引き立て役の薬味五種
良く似合う柄の小鉢や冷奴
神奈川県     川島欣也
角取れた親父米寿や冷奴
名刹や名水の冷奴あり
静岡県     いたまきし
かつ節の削り加減や冷奴
仲直りするきっかけの冷奴
埼玉県     いまいやすのり
冷奴静かに暮れて誕生日
夕風にクロスを替へて冷奴
冷奴青空残す夕餉かな
冷奴手作り買うて急ぎ足
ふるさとの水は変はらず冷奴
兵庫県     みんみん
ご飯の上に冷奴おきおかわりす
東京都     勢田清
冷奴あり満足の夕べかな
冷奴薬味は茗荷微塵切り
冷奴陶器の皿につやつやと
冷奴猪口と徳利夜の帳
冷奴妻にも猪口を渡しけり
奈良県     平松 洋子
冷奴の一丁分けし日も遠く
今は只時の流れて冷奴
冷奴プリンの様に食う夫
神奈川県     猪狩鳳保
光琳の溜込かな冷奴
退院の晩餐の華冷奴
水明りしのばせてゐる冷奴
赤富士の伏流水や冷奴
神奈川県     猪狩鳳保
血に染むる話ばかりや冷奴
ブラジル     林とみ代
絹こしてふ舌にとろける冷奴
祖国偲ぶ余生となりて冷奴
いびつなる陶器に盛らる冷奴
ブラジル     林とみ代
難題を丸く治めて冷奴
ありあはせの薬味を添えて冷奴
埼玉県     武田知佳
素つ気なき相槌を打つ冷奴
あれこれと薬味揃える冷奴
持ち方の正しき箸に冷奴
大阪府     関根ちよみ
冷奴だけに箸付け夜勤明け
ヘアカラー明るめに変え冷奴
今日からは一人夕餉の冷奴
じじ薬味まごはスプーン冷奴
病床の夕餉五分粥冷奴
神奈川県     堀内宗隆
紫陽花の花弁が誘う冷奴
沖縄県     渡嘉敷五福
冷奴食べては話す父のこと
冷奴おかかおかかと催促す
民藝の本読みおへて冷奴
仮の世をたのしと思ふ冷奴
奈良県     彬楽
冷奴記憶うすれし三味の音に
冷奴隠れメニューやジャズ喫茶
風呂上りただ冷奴頷きて
義父とならこれまで通り冷奴
埼玉県     宥光
晒す水きれいに切れて冷奴
夕さりの風の一吹冷奴
埼玉県     宥光
冷奴箸に触るるは優し振れ
冷奴似たもの夫婦かたはらず
能書きは要らぬ喉越し冷奴
大阪府     森 佳月
卓袱台に冷奴だけ置かれけり
切り口の淋しく光る冷奴
大阪府     森 佳月
冷奴匙で食べたる奴の居て
ブラジル     玉田千代美
冷奴心通じる友と食ぶ
冷奴食べてすつきり美容食
老同志愚痴も交じりて冷奴
千葉県     徳翁
ともかくも一病息災冷奴
風通る隣家の笑い冷奴
寛解と云われ夕餉の冷奴
閑日や薬味たっぷり冷奴
東京都     衣川洋子
竹箸の添へられ嵯峨の冷奴
東京都     内藤羊皐
冷奴甥の婚礼欠席と
婿どの箸の忙しき冷奴
三代の女並びて冷奴
湯浴み後のをさなに頒る冷奴
頓挫せる語学講座や冷奴
岡山県     岸野洋介
老い鰥夫二日続きの冷奴
老い鰥夫夕餉寂しき冷奴
割箸の杉の香匂う冷奴
朝は粥昼抜き夜は冷奴
冷奴一献添える古き友
千葉県     伊藤博康
冷奴津軽の人の造る箸
千葉県     伊藤博康
冷奴次の料理の出せるまで
器には織部風なる冷奴
冷奴木綿と絹に分かれけり
幼きにわからずじまひ冷奴
滋賀県     村田紀子
ホームラン父の笑顔と冷奴
冷奴子等の会話が弾けだす
滋賀県     村田紀子
冷奴ネギが出番を待っている
鯛を煮る側で静かに冷奴
祖母の声聞こえてくるよ冷奴
埼玉県     守田修治
ミロ展の帰りに一息冷奴
こんな夜は彼ならきっと冷奴
江ノ島に帽子忘れし冷奴
振り向けば昭和アパート冷奴
訃報くる彼を偲んで冷奴
神奈川県     矢神輝昭
とつおいつ箸でつつくは冷奴
縄のれん財布のしょぼく冷奴
とりあえず寄れば酒盛り冷奴
機嫌取り亭主操る冷奴
留学生突くばかりの冷奴
三重県     後藤允孝
怒るより笑顔が苦手冷奴
戯言のひとつやふたつ冷奴
あれそれと言葉は入らぬ冷奴
メモ書いてメモを忘れて冷奴
子どもたち皆巣立ちゆき冷奴
神奈川県     山田ひろ志
冷奴薬味たつぷり載せてくる
神奈川県     山田ひろ志
崩るるも冷奴なり冷奴
今日一人夕餉の卓の冷奴
ひと言ですまぬ蘊蓄ひややつこ
一丁を四等分して冷奴
千葉県     峰崎進
崩るるな角が矜持の冷奴
富栄誉縁なき暮らし冷奴
冷奴試されてゐる箸使ひ
千葉県     峰崎進
冷奴歯に衣着せぬ酒どちと
来し方は絹より木綿冷奴
神奈川県     井手浩堂
大山の師の句碑たずね冷奴
城崩すごとく箸入れ冷奴
青き海望む窓辺や冷奴
坂のぼり来て大山の冷奴
父がせしやうにつまみの冷奴
兵庫県     髙見正樹
スーパーの棚に好みの冷奴
和定食先ず箸の出る冷奴
ときめきて掬う一箸冷奴
大阪府     津田明美
好々爺の父に一品冷奴
食細き二人の夕餉冷奴
冷奴吾(あ)は諦観の好々爺
放たれし水も名水冷奴
箸使ひやはらかにして冷奴
神奈川県     塚本治彦
風呂上がり酒一合と冷奴
長生きの老の粗食や冷奴
昼酒の滅法効きぬ冷奴
神奈川県     塚本治彦
適塾の村田蔵六冷奴
器ごと冷やされてをり冷奴
ブラジル     西山ひろ子
掬ひ取るスプーンの中の冷奴
喉越しに苦汁少々冷奴
冷奴狭庭で摘みし薬味かな
ひと手間を一手間掛けし冷奴
埼玉県     ダック
伏せる妻小匙でそっと冷奴
怒る妻手足も出せぬ冷奴
埼玉県     ダック
しゃべる妻右から崩す冷奴
あっさりと生きて独りや冷奴
笑う妻馬鹿する夫に冷奴
宮城県     林田正光
冷奴時には酒のつまみかな
体感を幾度か下げる冷奴
箸よりもスプーン似合ふ冷奴
冷奴味を左右の薬味かな
清流のせせらぎ聞こゆ冷奴
静岡県     城内幸江
水を切るやうにてのひら冷奴
家族減るごとに大きな冷奴
良好な心とからだ冷奴
冷奴母の手馴染む木のスプーン
礼服の重さを吊るし冷奴
広島県     老人日記
軽口もほら吹く癖も冷奴
出世などなき者どうし冷奴
プリン食べるよに児のスプーン冷奴
抗癌剤治療半ばや冷奴
東京都     佐藤美智子
夕されの子ども食堂冷奴
白衣脱ぎ急ぐカートに冷奴
宿坊の朝の静謐冷奴
降り立ちし庭にあしらい冷奴
ジェノサイド箸とまりける冷奴
大阪府     永田
一人居の薬味皆無の冷奴
埼玉県     水夢
冷奴ふたりの会話すれ違ふ
冷奴とほき山並み眺めつつ
藍匂ふランチョンマット冷奴
埼玉県     水夢
冷奴そら蒼きまま夜に入る
泡盛や独り暮らしに冷奴
徳島県     長楽健司
去年より酸味の強き冷奴
初めてのヘアドネーション冷奴
一両の汽車の音かすか冷奴
侵攻の記事へぽとりと冷奴
踊る阿呆四日目終えし冷奴
滋賀県     別役昌子
行平に買うた二丁を冷奴
朝の膳木匙に掬う冷奴
冷奴溢るるほどに盛る薬味
山形のだしを薬味に冷奴
手のひらに四つに切り分く冷奴
埼玉県     北川清
冷奴 ビール一口 妻笑顔
風鈴と ほどよき距離の 冷奴
冷奴 心は日本 機内食
暑き日の 気持ち安らぐ 冷奴
埼玉県     北川清
居酒屋で チヨット一杯 冷奴
神奈川県     沼宮内薫
箸持つ手スプーンに変へて冷奴
フレイルの予防に追加冷奴
介護食一匙づつの冷奴
ママの店高級さうな冷奴
冷奴減塩醤油ちと悲し
滋賀県     東野了
水旨し酒なほ旨し冷奴
冷奴四角四面を押し通す
冷奴つつき政局論じ合ふ
吾絹派妻は木綿派冷奴
滋賀県     東野了
遠来の友に地酒と冷奴
東京都     豊宣光
たましいを呑み込むように冷奴
割り箸の小山崩しや冷奴
冷奴赤児の肌のなめらかさ
冷奴さいころ切りに整列す
酒飲みの父の愛せし冷奴
東京都     たま走哉
冷奴痛いところを突かれをり
とりあえずの一品といふ冷奴
老いらくの単身赴任冷奴
冷奴肩書のなき名刺かな
退職の宴に残る冷奴
千葉県     脇野香代
だみ声で飲兵衛の父冷奴
山梨県     森下博史
学生は葱を大盛り冷奴
冷奴二つに切って朝と夕
一丁は途中で飽きる冷奴
山梨県     森下博史
味噌をなめ奴を切ってざるはまだ
院生の買い物籠の冷奴
神奈川県     亀山酔田
病状を聞く声のして冷奴
コンビニのバイトイケメン冷奴
民宿に銘水の湧き冷奴
冷奴頭のなかの哲学論
炎吐く饒舌冷奴ぽつり
埼玉県     鈴子
今日の暮らし明日からこと冷奴
千葉県     伊藤順女
ふるさとの名水仕立て冷奴
口開けの客まばらなる冷奴
よき風の吹き抜ける部屋冷奴
埼玉県      哲庵
給料日前に続くや冷奴
冷奴年金族の味方かな
獺祭忌修しあんかけ冷奴
妻木綿夫は絹の冷奴
たっぷりの削り節舞う冷奴
静岡県     磯野昭仁
冷奴手桶の中を揺れてをり
激流に架かる橋たれ冷奴
刻み葱生姜に大葉冷奴
討ち入りの後をゆるりと冷奴
東京都     佐藤富幸
待つ友に酒の肴の冷奴
喉通る冷奴こそ酒の友
伝来の紅き小鉢の冷奴
清き水豆こそ命冷奴
冷奴鼻に広がる豆の香や
兵庫県     えいえい
冷奴父のしょうがは皿のまま
茨城県     小松崎孝志
ちょっとだけ木綿肌出す冷奴
冷奴酒のあてなら四個まで
おふくろの十七年忌冷奴
カウンターと粋な女将と冷奴
必ずや隅で見栄はる冷奴
ブラジル     佐藤けい子
冷奴たべたくなると来るあいつ
お豆腐も葱も自家製冷奴
弁当箱で作るいつちょう冷奴
冷奴老々介護を明るうす
冷奴大事なことは食べてから
千葉県     風泉
・一丁をドデンと手鍋の冷奴
千葉県     風泉
・絹木綿日ごとの膳に冷奴
・森蒼く大山詣でや冷奴
・湯上りの縁に小風や冷奴
神奈川県     原川篤子
杉箸に薬味香るや冷奴
冷奴父のいつもの話聞き
手焼きなる藍の小鉢に冷奴
フランスより帰りて先づは冷奴
裏高尾の水が命と冷奴
神奈川県     飯島まゆみ
竹笊にふはりと盛られ冷奴
とりあえず酒の肴に冷奴
竹箸をスパッと割りて冷奴
里山に名水のあり冷奴
神奈川県     龍野ひろし
四号瓶友にやもめの冷奴
大阪府     鈴木千年
相槌が素直に打てて冷奴
帰国してひと風呂浴びて冷奴
手抜きには見せぬ薬味や冷奴
箸休めには贅沢な冷奴
借景の山紫水明冷奴
大阪府     鈴木三津
ひややつこ奢り妬みは昔かな
何よりも素朴が良けれ冷奴
水のごと寡黙な夫婦ひややつこ
飽きもせず今日も二人の冷奴
庭の風入れて手酌の冷奴
東京都     中田ちこう
染料を残す右手に冷奴
釣果なく赤提灯の冷奴
愛媛県     加島一善
聳え立つ丸亀城も冷奴
愛媛県     加島一善
冷奴六面体のスクリーン
冷奴尖る角より崩れけり
冷奴妻の吐息に崩れけり
冷奴今日も明日も明後日も
東京都     安西信之
マンションに和む和室や冷奴
冷奴愚痴や不平もなし崩し
稀に見し考の笑顔や冷奴
化粧より素顔がよろし冷奴
冷奴おかかにしやうゆなじみけり
神奈川県     海野優
お生まれはどちらでなどと冷奴
冷奴昔語りのついと出て
冷奴きり出しにくき話かな
東京都     山﨑勝久
少しだけ我儘言ひて冷奴
突き出しは雨の匂ひの冷奴
独り居の夕餉はさらり冷奴
兵庫県     汰久鷺羽
冷奴しょうが皿つけ知らぬふり
愛知県     新美達夫
忽せにできぬ性分冷奴
愛知県     新美達夫
清濁を併せ呑めずに冷奴
あれ、それで通ずる会話冷奴
生還の後の十年冷奴
十年はあっという間や冷奴
埼玉県     小玉拙郎
冷奴美しく喰う昭和じじぃ
歳月が深める滋味や冷奴
老い猫とかつ節分けて冷奴
神奈川県     立野音思
寅さんの昭和食堂冷奴
脱ぎ捨てる紺の背広や冷奴
神奈川県     立野音思
感想戦省き帰宅や冷奴
噴煙や赤の切子の冷奴
埼玉県     石塚彩楓
冷奴一人の暮らし始まれり
いいお湯でしたねと旅の冷奴
片膝を立てて縁側冷奴
取り立てて何も無き日の冷奴
新しき杉箸の香よ冷奴
徳島県     井内胡桃
一番に手を付けており冷奴
ほどほどの暮らしがよろし冷奴
冷奴まずは一献いただきぬ
蘊蓄を語る夫いて冷奴
徳島県     井内胡桃
丁寧に暮らす夕餉の冷奴
東京都     岩川容子
人前は亭主関白冷奴
箸置きはガラス細工や冷奴
この国の誇りは不戦冷奴
老い方に法則はなし冷奴
埼玉県     釜田眞吾
あの話ここではタブー冷奴
痛風とレモンサワーと冷奴
香川県     辰野
病院は冷奴さえ味気なし
子の嫁した夜薬味なき冷奴
愛知県     いちご一会
冷奴箸で十字に切ってから
冷奴スプーンですくう離乳食
福岡県     西山勝男
大阿蘇の水に研がれし冷奴
独酌のつまには絹の冷奴
冷奴つまに政局談議かな
老いぬれば妻にしたがふ冷奴
福岡県     西山勝男
凡庸に生きて卒寿や冷奴
茨城県     長洲研志
完投し震える手先冷奴
おふくろにおしゃじで喰わす冷奴
亡き父の箸を使って冷奴
静岡県     大澤定男
卓袱台の頃まで祖母と冷奴
古稀と喜寿箸の上手や冷奴
筒井筒手土産二丁の冷奴
井戸の水父の汲み置き冷奴
白和えはお袋の味冷奴
大阪府     酒梨
醤油にも拘りにけり冷奴
大阪府     酒梨
熊笹の器仕立てや冷奴
口中に唾の溢るる冷奴
テレビではうつちやり相撲冷奴
仏壇の父に好物冷奴
神奈川県     横山かの子
自転車の補助輪外れ冷奴
冷奴クールガイだねソイソース
江戸っ子の喉で味わう冷奴
キムチ載せバイリンガルの冷奴
秋田県     高橋曲尾
この柄の皿は一枚冷奴
玄関の靴は一足冷奴
星を観る時折部屋で冷奴
福島県     原田尚知
冷奴酒と俳句をつまとして
冷奴ときおり測る体重計
冷奴お客一人の縄のれん
あげつらふ誰かの馬鹿を冷奴
冷奴持つ手と包丁いれこんで
愛知県     香坂泉
豆腐屋のブリキ缶から冷奴
単純に生きよと父の冷奴
病床に背筋伸ばして冷奴
冷奴つまらなさうにぬるくなる
愛知県     紅紫あやめ
冷奴ふもとにみずは溜まりけり
冷奴半分にして明日の分
スプレーのしょうゆひと押し冷奴
福岡県     多事
硝子器の猪口の青さよ冷奴
戻り来しいつもの処ひややつこ
福岡県     多事
エジプト展見終へて白し冷奴
水を剥ぐ時の重さよ冷奴
吹き掛ける醤油いまいち冷奴
東京都     右田俊郎
酒すすみ食もすすむや冷奴
妻の留守男の昼餉冷奴
蘊蓄はもう聞き飽きた冷奴
ねぎしょうが薬味に工夫冷奴
醤油にもこだわりのある冷奴
中国     加良太知
落日の音なく染めて冷奴
冷奴一人暮らしの快さ
母とわれのみ知る唄や冷奴
神奈川県     髙梨裕
霊山の名水口に冷奴
風止んで通夜に明かりの冷奴
御通しは紬の瑠璃皿冷奴
冷奴旨いと被爆の手
百歳の喉越し添える冷奴