俳句庵

8月『送火』全応募作品

(敬称略)

送り火のその先にゐる母のこゑ
送り火に生まれ変はりを願ひをり
送り火を跨いで願ふ命かな
亡き父に話しかけたる送り火も
送り火や一歩一歩の足の跡
対岸の人と挨拶魂送り
送り火の消えて繋がる黄泉の国
流木を集め明るく魂送り
送り火や足跡消ゆる草の径
西国の浄土合掌魂送り
送り火の海に魂漂へり
送り火の消へて後には闇残る
送火の煙に咽る涙かな
家家の人ら来てゐし魂送り
送火の空に一条飛行雲
送り火の消えて無口に門に佇つ
我利我利と音立て京の送り火よ
送り火や父母より貰ふ一命を
原発の火は滅亡の送り火か
送り火の消えて真闇にうずくまる
送り火の煙過ぎゆくデモの列
送り火の照らす姉妹の母似かな
防波堤崩れしままに魂送
送火を焚く家中の灯を消して
潮枯れの松焚きあげし門火かな
送火の途中に風の向き変わる
すぐ会いに行くと呟き苧殻焚く
送火に一陣の風ひとり発つ
送火の後の座敷の広さかな
送火に合掌生きてゆきますと
送火やまだかなしみのさめやらず
送火や来年つづきを話します
送り火や大団円の酒静か
もう誰もゐない送火ふつと消ゆ
送り火や辞儀深くして母帰る
送火や 琴連弾の 厳島
送り火は西に一途に流れけり
香木をきけば送り火懐かしき
送り火やさみしさつのる写真帳
送火やセシュームの殻剥いであり
送り火や化粧を落とす老妓かな
送火の香り濃きかな仮住まい
震災は昨日の如し霊送
送火や海へ去りゆく万の魂
風に揺れ送火らしくなりにけり
送火や津波被災の町は下
傾きし家に送火焚きにけり
送火や遥かカナダへ帰る魂
送火の消ゆる刹那のしじまかな
送火や空路を辿る魂多し
節電の送火我慢してもらふ
迎火を焚き送火を焚きにけり
しゃがみても伸びゆく背筋霊送
送り火のかたむく方に母のくに
送り火や回覧板を背戸の縁
送火の真白き灰も風に乗る
送り火や五十回忌の父偲ぶ
齢一つ加へて魂を送りけり
送り火を終へて兄弟皆帰り
焚き跡のかなしく残る樺火かな
送り火や京の夜空の鳥居形
送火をいつまで焚ける余生かな
魂送りの法や妙字や京の空
送火や母振り向くやうに風の来る
送り火や燐寸取り合ふ兄弟
送り火や庭へ埋めやる熱帯魚
男傘さしかけ雨の魂送
送り火の白き煙の美しく
ひとひらの雲流れ来て霊送
送り火を焚くや小さき母の背な
送火や北信五山仰ぎ見て
送り火や京を出で立つ幾柱
送り火や父の残せし陶硯
送り火や故郷はすでに家もなし
送り火やわが母そこでも自由人
送り火や先祖のおらぬ者はなし
送り火や初恋の夜の闇の濃さ
送り火やいずれ死にゆく者ばかり
強き掌は旧き友なり門火焚く
送り火や帰る息子の慌し
送り火や年齢を確かむ早見表
背中引く母の影ある送り火や
魂迎小さき声に微熱あり
送り火や走馬灯とはいくまいぞ
送火を囲む我らの息静か
送り火や子等と競争坂の道
送火やそこから先は日本海
送火や酒豪の父を懐かしむ
送火を妣と思えばあたたかき
送火や痕も哀しき道標
送火の跡黒々と濡れてをり
つかの間の明かり灯さば去ぬという
送火や家に向かいてふとゆらぎ
送火にいずくともなく道のあり
送火の受け皿アルミ缶の蓋
送り火の消えていよいよ深き闇
送火のあたりに想う父の背
送り火や鴨居に並ぶ父と母
里の家誰も継がずや魂送
送り火や寡婦の人生しみじみと
門火焚き終へて互ひに口きかず
送り火を囲む兄弟みな長寿
送り火や黄泉路のたびの無事祈る
送火や見るのは神の目仏の目
風上に子らを座らせ門火焚く
送火に照らされている君の顔
路地は出て電柱のかげ門火焚
送火の祖母と触れ合う時間かな
送り火や 我が身も連れよ 黄泉の川
ひとびとの生けるいとなみ送火よ
[お迎え」を 託して送る 門火焚き
送火や人とは小さきものである
停まりつつ 振り返りつつ 盆の舟
送火のひかりの中にいる仏
送り火や般若の面の赤き口
しばらくは一人たたずむ魂送り
送り火や魂白き花の宴
送火に添えて置かれる父の杖
送り火や心の闇の果ての果て
送火に軍靴遠退く音がする
送り火や古都の晩鐘胸揺らす
送火の炎の淡き生き方よ
送り火や瞼に残る島の影
送火や送ったあとの心地よさ
送り火に潮騒響き風強し
送火の風の気配に耳澄ます
吸殻を揃へ置く父魂送り
海に沿い送火の跡やるせなく
送り火や回る提灯欲して泣き
送火や原発廃炉いつの日か
魂送り芥飛び来る軒の下
送火の由来聞かせて孫と焚き
蝋燭に送り火とりて帯締める
御仏へ手向け千年五山の火
送火を済ませた息子送りけり
送火を父母の在りし日偲び焚く
送火で送られる人送る人
送火を済ませ夕餉は夫婦酒
山の墓地百の送火燈りけり
亡き人の手を振る如し送り火や
送火を燈す母の背小さくなり
送火の消えさるまでは立ち尽くす
送火や父の馴染みの店に寄る
送火や昔の景色あぶり出す
送火に送られ明日は上り汽車
送火や元の四人に戻りたる
送火の故郷へ戻るようにかな
送火の行方をふっと尋ねたり
送火の生きてる顔を照らしけり
送り火の流れ出したるスケジュール
送火や先に行く人残る人
送火の流れに沿うてとまる足
送火の消えて闇へと戻りけり
送火をそっと見送る被爆川
送火の行きたる人の多さかな
送火に燐寸幾本風の向き
向こうにも送火の火の灯りけり
送火や父の庭には草の丈
送り火や指折り数える仏たち
送火やたましひののる風動く
送り火や一陣の風通り過ぎ
送火の煙はいまだ門を出ず
ただ一人送り火焚いていたりけり
送火の作法は知らず独り焚く
門火たき先祖旅立つ牛歩かな
送火の煙を父の森が吸ふ
送り火といふも提灯下げてゆく
送火や砂がひんやり土踏まず
画面にて京の都の送り火を
送火を囲いて風を通させぬ
関門を照らす送り火赤々と
送火を焚けば来世が近くなる
心には送り火焚きて魂送る
送火や名残りは尽きぬ在りし母
灯明の一途に燃ゆる魂送り
送火や心に亡母(はは)の灯を点す
戒名に戻る時間や霊送り
魂送るしまし流れに添ひ歩く
送り火の消えて五山の深き闇
山小屋で山で送り火山男
魂送り黄泉つ比良坂まで行けり
送り火はロケット花火子ら点火
送り火にありがとうなど言つてみる
花火好き人の送り火花火かな
送り火にまた会おうねとささやきぬ
メールにて五山送り火届きけり
送り火の夜に手をつなぐ夜となる
送り火や流木焚きぬ天焦がす
京都での思ひ出にあり送り火も
送り火の始末海岸掃除かな