俳句庵

6月『籐椅子』全応募作品

(敬称略)

埼玉県     哲庵
手術台めきて危うし寝籐椅子
籐椅子を二つ並べて遠筑波
句集有り荷風旧居の籐椅子に
籐椅子や回復遅き五十肩
籐椅子を揺らし持病をなだめたり
愛知県     野村 修三
団欒の家族憩えり籐寝椅子
籐寝椅子静に母を休ませる
籐椅子に深々と掛け碁を競う
籐椅子に団欒家族親密に
籐椅子に憩える父を懐かしむ
東京都     安西 信之
籐椅子や竜頭蛇尾の旅日記
籐椅子に追われて床を延べらるる
愛知県     山渓
八ヶ岳籐椅子揺らし見てをりぬ
籐椅子や雲ひとつ無き八ヶ岳
湯上りの媼ながなが藤寝椅子
湯の宿の籐椅子かすか軋みけり
せせらぎや山の湯宿の藤寝椅子
山口県     ひろ子
吹き抜けの風座らせて籐の椅子
籐椅子の置かれしままに亡父おわす
埼玉県     小玉拙郎
籐椅子にきしむ音あり昭和より
籐椅子の写真に残る対の卓
籐椅子やどれにも少し修理あと
大阪府     太田 紀子
籐椅子に老い猫眠りゐたりけり
主なき籐椅子のあり夕日射す
籐椅子や塒に鴉帰りをり
神奈川県     守安 雄介
籐椅子を吊して拭う盧舎那仏
籐椅子の映る広縁黒光り
籐椅子に掛けて戦前語りけり
宴席の半ばを占める籐の椅子
飴色に光る肘掛け籐の椅子
東京都     さちこ
籐椅子の揺れ残りたる日暮れかな
主なきデッキに小揺れ藤の椅子
網目褪せ祖父愛用の籐の椅子
網目褪せ祖父愛用の籐の椅子
籐椅子に飽かず眺める遠き山
神奈川県     佐々木僥祉
雨降りて籐椅子冷える昼下がり
籐椅子や義弟静かに立つて居り
蒸す息に硬く寄り添う籐寝椅子
北海道     飯沼 勇一
籐椅子の網目を抜けて風海へ
籐椅子を南西に向けショパン聴く
主なき籐椅子眠る書斎かな
東京都     鈴木 眞由美
籐椅子や習ひたてなる仏蘭西語
孫うつら籐寝椅子脚のはみ出でし
じつちやんの香る納戸の籐寝椅子
銀幕の籐椅子吾を挑発す
埼玉県     守田 修治
老妻は猫侍らせて籐寝椅子
「笑点」てふ番組が好き籐寝椅子
日は西に傾きかけて籐寝椅子
たまかなの午後は紅茶の籐寝椅子
籐椅子や煙のように過ぎる日々
北海道     高橋 まりえ
籐椅子や父母なきあとの夕の風
籐椅子に父の影見る昼下がり
籐椅子や時には演歌など聴ひて
籐椅子や昭和彩る女優たち
岡山県     信安 淳子
籐椅子や父は淋しきものならむ
籐椅子に伏せ置かれたるサリンジャー
千葉県     横井 隆和
籐椅子の 午後を読書の 夕餉まで
籐椅子の 夫人の姿態も セピア色
籐椅子に 爆睡の証 頬にあり
東京都     笹木 弘
籐椅子に狸寝入りの日曜日
籐寝椅子昨日の夢の続きかな
物置にまだ眠り居し籐寝椅子
籐椅子に親子の猫が占領す
籐椅子の正面に置く富岳かな
大阪府     瀬戸 順治
籐椅子に残る窪みと思い出と
籐椅子や斯くも小さくなりし母
東京都     紫酔
籐椅子に 一期一会の 憂えあり
投手戦 籐椅子軋む あと一球
籐椅子や ワイシャツ鈕 2ケ外す
東京都     とれびの
籐椅子や 日光の染む 髪を梳く
籐椅子の 軋みが絆す 去年今年
籐椅子で ケータイ踊る 午前二時
東京都     紫ょん
籐椅子の 網目が纏う 夜想曲(ノクターン)
籐椅子で 父のブレザー ロダンなる
数独を 解く籐椅子の 撓む音
山口県     山縣 敏夫
籐椅子にハイジーが呼ぶ夢の中
籐椅子に犬が優しく眠りをり
昼下がり居間に佇む藤寝椅子
払暁の部屋に御座(おわ)すは藤寝椅子
読み止(さ)しの本が静かに藤寝椅子
三重県     平谷 富之
籐椅子に座れば祖父を思ひ出す
栃木県     長浜 良
体形の父に似てきし藤寝椅子
籐椅子や青天へ吹くハーモニカ
埼玉県     岸 保宏
旅帰り妻と取り合う籐の椅子
昼下がり夢と語りし籐寝椅子
蔵座敷巨匠のにほひ籐の椅子
宮城県     桃光
籐椅子と扇風機出しエコな夏
籐椅子でうたた寝る母背丸し
兵庫県     山地 美智子
新聞を胸に寝ている籐寝椅子
籐椅子や年金暮らし恙無し
東京都     岩川 容子
籐椅子に戻らぬ日々のへこみかな
籐椅子も家族写真も古るばかり
湯治場の籐椅子みんな海に向く
東京都     吉田かずや
藤椅子の前に真砂女の海を置く
神奈川県     佐藤 博一
籐椅子に志ん生を聴き眠られず
籐椅子に岩波文庫置かれあり
父あるは昨日の如く籐寝椅子
籐椅子や家に離島を置く如く
籐椅子に父の重みの残りけり
埼玉県     一斗
籐椅子の影あざやかな夜明けかな
籐椅子の少し揺れたり一人なり
倒れたる籐椅子立てる力なく
籐椅子の毀れしままに座りをり
籐椅子の一日を終える薄茶かな
埼玉県     大野 美波
籐椅子に座りし母の写真かな
大きいな祖父の使った藤寝椅子
籐椅子や花びら一つ落ちており
母のため買いし籐椅子娘子よ
籐椅子に色をつけたいペンキで色を
東京都     兎
籐椅子の腰のあたりの軋みかな
籐椅子も我家も四十路超えにけり
すてきれず籐椅子ニ回修繕す
籐椅子のほころび亡父の老眼鏡
籐椅子や妻の好みの昼寝床
大阪府     ―
籐の椅子紬の人はまっすぐに
東京都     岩崎 美範
夕刊を楽しみに待つ籐寝椅子
横たはり体温測る籐寝椅子
神奈川県     川島 欣也
籐椅子に残す主の背の凹み
垂乳根の懐深き寝籐椅子
飴色の月日篭るや籐の椅子
籐椅子や山家の宿の古時計
籐椅子や鬼籍となりし主(ひと)知らず
神奈川県     村上 芳子
籐椅子の明治の祖父やよく馴染み
籐椅子のほどよき反りや星を追い子
籐椅子や明治の祖父の定めの座
木の下の籐椅子誘う木陰かな
籐椅子の祖父のまねする子の得意
愛媛県     宇都宮 千瑞子
安楽を 望みて座る 籐椅子に
手招きで 子らが集いし 籐椅子に
あれこれと めぐらす思考 藤の椅子
夫婦して 藤を語りて 椅子作り
まだ逝けぬ 藤の匂いの 椅子ありて
東京都     田中 勝
籐椅子に 笑む亡父偲ぶ 郷の盆
籐椅子や 亡父物語る 郷の夏 
郷の夏 亡父物語る 籐の椅子
千葉県     柳 蛙
読みさしの本滑り落つ籐寝椅子
籐椅子や慣れし凹みの肌触り
籐椅子に遊ぶ天国別世界
籐椅子を包みて流るシンフォニー
岩手県     高橋 優木
祖母の香の籐椅子は動かせぬまま
籐椅子や亭主関白七十年
静岡県     鈴木 玲子
学童の長き手足や籐寝椅子
窓際にえくぼが笑う籐寝椅子
故郷はいつ来てもよし籐寝椅子
籐寝椅子漫画読んでる笑い声
籐寝椅子囁くように風過ぎて
大阪府     横山 泰典
籐椅子の窪み軋みの古りにけり
籐椅子の窪み軋みの古りにけり
転た寝やすつぽりくるむ籐寝椅子
千葉県     平井 覚
心地よい風日に吹かれて篠椅子に
篠椅子に腰をかけたり夢多く
広島県     安冨 正則
富士見るは日々の糧なり籐寝椅子
富山県     岡野 満
籐椅子の猫の欠伸を貰いけり
兵庫県     紫水
籐椅子や和服美人の裾ぴしゃり
ベランダの白き籐椅子飛行船
さよならと籐椅子揺らし恋も去り
籐椅子やその影もただ薄白き
籐椅子や昼寝の君の顔に風
北海道     江田三峰
籐椅子を新調せしや客を待つ
定宿の三点セット籐寝椅子
飴色の親子三代籐寝椅子
長野県     木原 登
籐椅子に掛けてペイネとなりにけり
母在らば母置きたきよ籐寝椅子
海は海色空は空色古籐椅子
今年又この籐椅子のこの宿に
這松に寝しこと憶ふ籐寝椅子
熊本県     貝田 ひでを
籐寝椅子母に抱かれゐる心地
籐椅子に父の整髪料匂ふ
籐椅子にうかうか午睡小半時
埼玉県     ―
籐椅子は老いぼれチワワの指定席
戦無き國でくつろぐ籐寝椅子
父母逝きて廊下に一つ籐寝椅子
ささくれに父の記憶の籐寝椅子
籐椅子に昭和の窪みあるじ無し
東京都     ―
籐椅子の緩き窪みを撫でにけり
千葉県     飯島 史朗
籐椅子にトランポリンのごと孫跳ねる
雨音を籐椅子で聞く昼下がり
ほの青い素足が2本籐の椅子
栃木県     久保田 晋一
籐椅子で眺める庭に風渡る
籐椅子や誕生の花抱き眠る
籐椅子や過去も未来も連れて来る
大阪府     津田 明美
籐椅子の飴色にある余生かな
籐椅子の母に抱かれてもらい猫
新潟県     近藤 博
籐椅子や編み目は風の通り道
偕老や籐椅子向き合ふ宵のほど
籐椅子の置き場選べり落ち縁に
東京都     杉本 とらを
アルバムの若き父母籐寝椅子
籐椅子の寝た子を起す叔母の声
岐阜県     ときめき人
ゆらゆらと籐椅子揺るる御眠かな
岐阜県     金子加行
籐椅子の母に抱かれし写真館
籐椅子で読みたき書ある定年日
結末は籐椅子で読むミステリー
海に向く古籐椅子の古旅館
籐椅子は父の背中のまま残る
宮城県     石川 初子
籐椅子や主おるごと軋みけり