俳句庵
季題 7月「虫干」

- 虫干の単衣ひろげて旅をまつ
- 千葉県 本間 順子 様

- どの家にも物語ある土用干
- 埼玉県 守田 修治 様
- 虫干や潮騒響く瀬戸の里
- 兵庫県 岸野 孝彦 様
- 虫干の夜は樟脳の香に眠る
- 栃木県 長浜 良 様
選者詠
- 曝書すやわが青春のヘッセ集
- 安立 公彦
安立公先生コメント
例年梅雨明けになると、社寺の宝物の虫干しが放映されています。それは市井の生活の中にも見られ、土用の晴天の日を選んで行うことが多いので「土用干」とも言われます。書籍の虫払いは「曝書」です。
優秀賞の本間さんの句は、その虫干しをした単衣を衣桁に掛け、旅を待っているという景。「ひろげて」に、これから訪れる旅先の地への思いが良く出ています。「単衣」も夏の季語ですが、「虫干の単衣」という表現で、「虫干」の主季語性は動きません。また、本間さんの原句は5、7、5の間を1字づつ空けていますが、空けなくて良いです。
守田さんの句は、まさにその通り。土用干はその家の来歴の見出しのようなもの。作者はその物語を愛し、これからも虫干しを続けていくことでしょう。また、原句は「どの家も」ですが、「家」を「や」と読み、「どの家にも」としました。
岸野さんの句、瀬戸内に沿った里。虫干しをしながらその潮騒に聞き入る景がよく表現されています。また、原句は「虫干しや」とありましたが、季題の通り「虫干や」としました。
長浜さんの句、樟脳は防虫剤に使用されています。虫干しの終わった夜、樟脳の香に昔を思い出しながら眠る姿が浮かびます。
今月から鈴木榮子先生に替わり「俳句庵」を担当することになりました。俳句は季節の中に織りこまれた詩(うた)です。その詩ごころはどなたの心にもあります。ただそれを引き出す為には、詠むべき対象を愛情を持って見守ることが大切です。
◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。