俳句庵

11月『初時雨』全応募作品

(敬称略)

千葉県     犬槇庵 光晴
初しぐれ波立ち騒ぐ上総の海
神奈川県     佐々木 僥祉
待つ指の冷たくなりぬ初時雨
駅までは傘を相差す初時雨
朝庭に一人歩けり初時雨
広島県     安冨 正則
池の面に艶広がりぬ初時雨
埼玉県     哲庵
芭蕉庵句会終へれば初時雨
初時雨スカイツリーの裾濡らす
初時雨潤みて立てる供養塔
初時雨文豪の石濡らし過ぐ
落柿舎に至る畦道初時雨
埼玉県     小玉 節郎
初時雨まずは豆腐を買いに出る
街の色かき消して過ぐ初時雨
街びとの孤独募らせ初時雨
黒土をなお黒くして初時雨
京都府     昴弥
初しぐれ気比松原の波しずか
流木の割れ目の萌芽初しぐれ
初しぐれ馬籠の宿の下駄の音
染め上ぐる京友禅や初しぐれ
黒髪の乱るるままに初しぐれ
東京都     安西 信之
杉玉や緑滴る初時雨
拍手せし手のひら傘に初時雨
釉薬の指にしたたる初時雨
走り根を覆う枝振り初時雨
路線夫の叩く鉄路や初時雨
東京都     紫雨
初時雨 富士の冠雪 落ち着かせ
初時雨 都市の雑踏 封印す
東京都     紫狂
初時雨 シャッター通りに 艶を出す
初時雨 妻の小息も はんなりす
東京都     紫柊
初時雨 路上の木の葉 糊付けす
初時雨 街が潤い 取り戻す
北海道     澤野まひる
分校の屋根は赤色初時雨
あらと言いほうと応えし初時雨
東京都     辻 翠
詩を庭を愛でしもののふ初時雨
東京都     丸山清子
面談の校舎出づるや初時雨
初時雨昼の香炉は冷めてゐし
佐賀県     平吉 俊郁
窓辺より犬と見つめし初時雨
岐阜県     ときめき人
初時雨もうすぐそこは白い街
東京都     石見 光夫
大谷廟に父母詣でけり初時雨
大政奉還決めし書院や初時雨
埼玉県     守田 修治
初しぐれ泉岳寺へと向かうべし
出稽古の力士を濡らす初しぐれ
初しぐれ猫は無言で膝の上
碁会所に猫ちんまりと初しぐれ
「待つ」という伝言板や初時雨
神奈川県     相模太郎
新刊書繰る音しめり初時雨
初時雨命ゆだねし峡のバス
初時雨古本祭始まりぬ
部屋隅に猫うづくまり初時雨
初時雨橋の下より人の声
ブラジル     林 とみ代
しめやかに追善供養初時雨
夕暮れて帰宅急げば初時雨
初時雨街路商人店仕舞ひ
初時雨ネオンのけぶる街夕べ
初時雨赤旗の列通せんぼ
東京都     岩川 容子
初時雨ビルの谷間に夜なき蕎麦
散りゆく葉色づく葉あり初しぐれ
初時雨逃れたきこと多くなり
閉山のロープを揺らす初時雨
東京都     森 清
義仲寺の苔うるほひて初時雨
辛崎の松のくろさや初しぐれ
初しぐれ谷の深さにおちにけり
はつしぐれ深山木曽路のはしにをり
駅地下を行きつ戻りつ初時雨
岡山県     信安 淳子
母の靴そろへて帰る初時雨
初時雨読経かすかに長廊下
裏藪に猫の声する初時雨
東京都     鈴木 眞由美
初時雨かあさんと呼ぶ父の声
初時雨ひと待ち顔の揃ひけり
晩飯の手抜き算段初時雨
しわしわの甲を擦るや初時雨
北海道     飯沼 勇一
大仏の肩震えるや初時雨
初時雨手持無沙汰の露天商
定年の父迎え来し初時雨
初時雨イベント会場閑散と
障害者寄り添い往くや初時雨
北海道     江田三峰
初時雨過客札幌大通
知床の峠に羆初時雨
野曝しの中古車市の初時雨
初時雨芸妓舞妓の蛇の目傘
楽しみの乗馬中止の初時雨
千葉県     横井 隆和
夢うつつ床の温もり初時雨
振り向けば傘屋の軒の初時雨
初時雨仰げば軒の古巣かな
朝刊の見出しに滲みる初時雨
広島県     永野 昌人
曲屋の土間の暗さや初時雨
曲屋の藁の厚さや初時雨
信号は字に三つや初しぐれ
初しぐれ見ゆる信号すべて赤
句会みな窓辺に寄るや初しぐれ
東京都     北川 美枝子
ジェット機を吸い込んでゆく初時雨
栃木県     長浜 良
無人駅三つ続きて初時雨
赤々と地蔵の頭巾初時雨
単線の赤き信号初時雨
参道の明り早々初時雨
群馬県     クズウジュンイチ
杉の葉を洗へば黒し初時雨
白壁に蛾の事切れて初時雨
姿見に小さき庭や初時雨
初時雨運河の岸を隠しけり
ボクサーの坂駆け抜けて初時雨
神奈川県     梅野 光博
風向きの明日はあすなり初時雨
言い掛けて止めるがごとし初時雨
初時雨空はため息ついてをり
故郷の歌の聞こえて初時雨
一斉にドレミの歌の初時雨
千葉県     藤原 純夫
物の怪も息をひそめる初時雨
忘れよと影をも奪う初時雨
初時雨ビルの窓窓闇陰る
神奈川県     井手浩堂
小鳥らは木々に潜みて初時雨
嵯峨野路の笹の音する初時雨
黒塀に沿ひて曳売り初時雨
柏槇の木肌のしめり初時雨
埼玉県     米田 哲
初時雨帯締の赤通り過ぎ
初時雨濡れて佇むはせお句碑
初時雨ゆくりなく濡れはせお句碑
往還の風のうしろに初時雨
初時雨佇つ磴の下しづもりて
千葉県     大隅隼人
人混みにひとり佇み初しぐれ
駅ナカの立ちそば啜る初しぐれ
在りし日を訪ねて旅に初しぐれ
山口県     山縣 敏夫
消費税論議横目に初時雨
初孫の笑顔弾ける初時雨
連れ合いと相合傘の初時雨
丘にある父の墓前に初時雨
初時雨妻の家路を早めるか
大阪府     津田 明美
モノクロの過去に残され初時雨
肩に落つ清水坂の初時雨
相輪に眠りいざなふ初時雨
福島県     小野 和宏
水墨の絵筆重たや初時雨
まんまるの犬の頭や初時雨
初時雨ビルの谷間のラーメン屋
初時雨すぐに逢いたし人の居る
初時雨メトロノームの狂いたる
千葉県     二階堂 脩一朗
初時雨涙止まらず兵の遺書
初時雨魅惑の光実むらさき
奥の院参道さみし初時雨
廃校の更地に犬の初時雨
久々の墓参のさ中初時雨
兵庫県     山地 美智子
初時雨南大門でやり過ごす
ショルダーで歩く信濃路初時雨
みな入る広き山門初時雨
音立てて我が町に来し初時雨
音止めば止む我が庭の初時雨
大阪府     弗椿
初時雨窓をたたきつ幾筋も
打つ葉なく初時雨落つ並木道
見えぬ月見上げ慕うて初時雨
東京都     蘭丸
初時雨離れし坂の香の立ちぬ
勘定を終へて迎ふる初時雨
置き去りの沈黙に過ぐ初時雨
東京都     若木
携帯にわめく外人初時雨
かぐや姫潜む竹林初時雨
走り切りうつむく孫に初時雨
初時雨車窓のわれ泣き崩れ
ほろ酔いの出会いがしらに初時雨
石川県     藤谷 幸恵
旅鞄抱へて小走り初時雨
最終便待つ街角に初時雨
塾帰り軒先借るる初時雨
僧坊や朝の説法初時雨
音もなく城下の路地に初時雨
兵庫県     岸野 孝彦
病なる母の窓辺や初時雨
母眠る夢の続きや初時雨
初時雨病気平癒や段葛
初時雨蛇の目の傘を探しけり
さよならと囁くような初時雨
愛知県     石川 順一
初時雨海鮮丼を食べました
列並び初時雨予報は外れけり
初時雨カンチュウハイの効果かな
可児市から帰る途中の初時雨
不動産「井上」不意に初時雨
東京都     かつこ
夕飯の献立きまり初時雨
絵手紙の紫色や初時雨
東京都     林 たかし
初しぐれ紺屋の軒を借りにけり
初しぐれ轍の著るき塗師の里
木場はまだ屋号の町や初しぐれ
初時雨母の忌近くなりにけり
東京都     水野 二三夫
つつゐづつ鄙も都も初しぐれ
幕間の頃より四條初時雨
喪帰りの川風頬に初時雨
初しぐれ訪ふ人少な紺屋町
叢雲の色濃うなりて初時雨
東京都     今吉 里佳
コーラスの野外練習初時雨
武蔵野に山鳩啼いて初時雨
つかの間のコーヒーブレイク初時雨
初時雨明日にはあすの空のあり
足音を消し去り今朝の初時雨
神奈川県     川島 欣也
初時雨くぐる馴染みの縄のれん
朝市の曇りのち晴れ初時雨
雲走る湖心波立つ初時雨
仲見世の客を走らす初時雨
内視鏡検査する間の初時雨
大阪府     太田 紀子
ピザを焼く窯の炎や初時雨
山頂に日差しありけり初時雨
街灯の自動点灯初時雨
愛知県     れいこ
初時雨近江の湖は一枚に
観音の里巡りゆき初時雨
初時雨傘をたたみて御仏へ
東京都     村上 ヤチ代
初時雨少し明りて軒を出づ
東京都     蒼野蘭介
初時雨差しかけられてバスを待つ
橋に立つ望郷独り初時雨
ベロ藍の川の深さや初時雨
縄のれん出しなに来たり初時雨
『武蔵野』といふ文庫手に初時雨
岡山県     八木五十三
鈍空を背負ひし鳥に初時雨
借り傘の手に馴染まざる初時雨
初時雨長居の腰を上げにけり
神奈川県     佐藤 博一
遠山に日の当たり来る初時雨
山頭火宿得し頃か初時雨
落柿舎の蓑も古りたり初時雨
初時雨一枚重ねて外へ出る
気がつけば飛び石伝い初時雨
山梨県     天野 昭正
一筋に学ぶこの道初時雨
白髪の年月思ふ初時雨
きらきらと肩を濡らすや初時雨
旅先で軒を借りるや初時雨
反故燃やす煙り地を這ふ初時雨
千葉県     長谷川 公二
端正な文字の手紙や初しぐれ
初時雨出棺のとき来たりけり
初しぐれ古本市の初版本
友からの句集届きぬ初時雨
初時雨新歌舞伎座の上に降る
兵庫県     たちばなかおる
初時雨分水嶺を越えられず
大阪府     黄山木
錦絵の瞬時に墨絵初時雨
錦絵の墨絵錦絵初時雨
初時雨京都洛北茶屋遊び
初時雨駅に朽ちたる伝言板
長野県     木原 登
初しぐれ翁の旅は徒歩なりけり
金沢の甍つやめく初しぐれ
山毛欅林の山毛欅を眠らす初時雨
康成の『古都』なつかしむ初しぐれ
塩の道牛方宿の初時雨
山口県     -
下校の児カタカタ走る初時雨
千葉県     飯島 史朗
ランドセル帰路小走りに初時雨
電線に滴も昏き初時雨
マーラーの響く世界か初時雨
福岡県     幻草
初時雨傘も持たずにポストまで
襟立てて雲やり過ごす初時雨
伊賀上野遠くにありし初時雨
俳聖殿近くに仰ぐ初時雨
神奈川県     矢神 輝昭
小屋仕舞ひ今年の山山初時雨
出稼ぎに旅立つ朝や初時雨
月曜日始発電車や初時雨
旅立ちのわずかに緊張初時雨 
叱られて母を見詰めて時雨かな
埼玉県     沼崎 和子
百年の生家跡なり初時雨
今はなき豆腐屋の角初時雨
東京都     岩崎 美範
この町は一茶ゐた町初時雨
初時雨こんと狐が鳴きさうな
ふるさとの匂ひ幽かに初時雨
夢を追ひ掴みし街や初時雨
早々と街の灯ともる初時雨
東京都     星多
空蝉をたたいて流る初時雨
秋を追う冬の足音初時雨
ブラジル     富岡 絹子
古稀と言ふ齢かみ締め初時雨
血圧の気になる朝の初時雨
初時雨今日は言ふまいあの事を
親もなく傘持たぬ子よ初時雨
空港を出れば日本の初時雨
埼玉県     岸 保宏
初しぐれ鐘楼を背に宿る雨
不用品かたづける背に初しぐれ
こけしまで首をすくめる初時雨
滋賀県     村田 紀子
初しぐれ跳ねて喜ぶ赤い傘
六人の再会祝う初時雨
初時雨小さな傷が癒える朝
山を背に近づく人あり初時雨
鷺一羽姿勢を正す初時雨
埼玉県     飯塚 璋
みそ味の夕餉のほうとう初時雨
初時雨防寒帽を求めたる
囲炉裏開け鉄瓶掛ける初時雨
初時雨炬燵ぶとんの出番かな
何となく故郷思ふ初時雨
大阪府     高塚 政宜
子はあやす母のふところ初時雨
初時雨海の匂いの中にゐる
神奈川県     守安 雄介
初時雨中洲のカモの蹲る
初時雨庭の轍の水溜り
初時雨待針となる松葉かな
初時雨草履の滑るタイル道
初時雨山越えの雲襲い来て
兵庫県     岸下 庄二
雲水の黒染濡らす初時雨
初時雨宿番傘で外湯まで
露天風呂湯気に紛れて初時雨
岐阜県     金子加行
山城の角度険しき初時雨
順に人逝く記事濡らす初時雨
初時雨止むまで母と喫茶室
単線の険しき位置や初時雨
初時雨君を寂しく待たす駅
新潟県     近藤 博
相傘に寄り添ひ濡れゆく初時雨
金閣寺なほ華やかに初時雨
初時雨心さめざめ季は移り
初時雨傘さす人のうら悲し
野良小屋の屋根を叩くや初時雨
東京都     直木 葉子
初しぐれ他人の空似といふことも
抽斗の琴爪旧りし初時雨
はろばろと七曲坂初時雨
愛知県     斉藤 浩美
日銭にもならぬ商い初時雨
金次郎のみの校庭初時雨
田舎にも銀座ありけり初時雨
初時雨淑女になりきり銀座行く
初時雨降らせて終わる村歌舞伎
熊本県     貝田 ひでを
釣果無く帰り支度や初時雨
空仰ぎ香具師の舌打ち初しぐれ
居酒屋へ駆け込む二人初時雨
初しぐれ止むまで遊ぶパチンコ屋
吟行を突如邪魔する初しぐれ
京都府     中村 万年青
甲斐の国百倉山に初時雨
初時雨嵯峨の踏切額を打つ
宇治橋の渡り半ばや初時雨
日暮れてや瀬田の唐橋初時雨
行き暮れて逢坂の関初時雨