俳句庵

季題 2月「白魚」

  • 白魚や佃に残るみをつくし
  • 神奈川県     猪狩 千次郎 様
  • 魚を言葉少なにすすりけり
  • 神奈川県     井手 浩堂 様
  • 白魚のいのち眩しく掬はるる
  • 岐阜県     金子 加行 様
  • 床上げの本日大安白魚汁
  • 埼玉県     守田 修治 様
選者詠
  • 食すにはあはれに美しき白魚なり
  • 安立 公彦

安立公先生コメント

白魚という魚は、江戸時代から、俳人にはことに愛されて来た姿の美しい小魚です。それは、〈美しや春は白魚かひわり菜 白雄〉と詠まれているのを見ても分ります。芭蕉も、〈明ぼのやしら魚しろきこと一寸〉というよく知られた句を残しています。
 優秀賞の猪狩さんの句。魚類事典などを見ると、隅田川の佃島は、古くは白魚のよく捕れた地として名が残っています。みをつくし(澪標)は、通行する船に、水脈を知らせるために立てた杭。この句、白魚とともに、佃島の史実を良く表わしています。
 井手さんの句。作者の具体的な思いは分りませんが、「言葉少なにすすりけり」が全てを表現しています。対座している相手との複雑な思いを、多くを語らずに居る作者の姿勢から知ることが出来ます。心境俳句です。
 金子さんの句。先述の魚類事典に、「江戸期は白魚は高価な上に繊細な魚で(略)何尾といわず、一条(すじ)と数えた」、とあります。確かに白魚を一条皿に乗せて眺めていると、その姿の可憐さに、造形の妙を感じます。「いのち眩しく」は良く言い得ています。なお、原句は「掬はれる」でしたが「掬はるる」が良いでしょう。
 守田さんの句。長い病いの床から快癒されたのでしょう。「本日大安」に続く、「白魚汁」が、快癒の思いを良く伝えています。
 今回も佳句が多いでした。〈白魚の百の鼓動を目で追ひぬ 蘭丸〉、〈白魚網さばく漁師の若からず 岩川容子〉、〈惜別の膳にのりたる白魚汁 哲庵〉、〈白魚の透ける命をいただきぬ 岸下庄二〉など、注目しつつ拝見しました。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。