俳句庵

2月『白魚』全応募作品

(敬称略)

愛媛県     清水星凜
白魚のするりと喉を通りけり
水底に棹さし進む白魚舟
白魚の黒目ばかりが動きたる
胎内をすっかり見せて白魚かな
彼の人と来しこともあり白魚膳
神奈川県     佐々木 僥祉
白魚や夜景に霞むクリスタル
白魚の空に隠るる氷粒
白魚や婆が好物の揚がりたる
白魚や久方振りの千葉の叔父
白魚や勲章小さき祝賀会
神奈川県     猪狩 千次郎
むつかしきこというなかれ白魚鍋
白魚や佃に残るみをつくし
白魚や今じや聞かれぬべらんめえ
両の手をこすり合すや白魚鍋
追憶や奥歯に沁むる白魚和
東京都     安西 信之
一寸に目玉三分のしらをかな
満々と杓にあふるるしらをかな
白魚の一寸の身に七分の尾
舟底に雑魚寝の親子白魚漁
白魚汁椀のなかにも群れてをり
東京都     石見 光夫
かき揚げに白魚の目の犇めきぬ
白魚の網高高と白い雲
岐阜県     ときめき人
白魚や生まれ変われる人生ぞ
埼玉県     小玉拙郎
白魚という命群れくる夜明け前
白魚はいくら獲れても市の隅
黒々と白魚ありと書く亭主
朝の海掬えばそれが白魚に
東京都     蘭丸
白魚の百の鼓動を目で追ひぬ
目の合ひし距離まで待ちぬ白魚網
千葉県     鈴木麗門
白刃のごとき白魚南無阿弥陀
白魚や売り物じやねえと漁師言ふ
白魚や粋な女将の困り顔
江戸切子跳ねて白魚口の中
千葉県     江里口 泰一
白山や白魚漁の四つ手網
民宿の美味白魚の卵とじ
白魚や片足杭に名ぜりふ
大阪府     永田
縁談の首尾上々や白魚汁
神奈川県     小賀 勲
白魚や今日も長崎晴れ渡る
白魚や大吟醸にグラス酒
白魚のおどり食いとは殺生や
北海道     飯沼 勇一
白魚汲み老は退院したばかり
待つことは慣れてをるなり白魚漁
白魚を透かして染めし網走湖
白魚の指が白魚掬いけり
白魚の眼の奥に脳あるらしき
大阪府     太田 紀子
塩を振り白魚さらに白くなり
白魚の黒き瞳に見つめらる
四手網掬ふ白魚みずみずし
東京都     鈴木 眞由美
白魚や下駄の焼印章々と
許せよと醤油たらせるしらおかな
白魚の何百といふ心の蔵
栃木県     長浜 良
両の手に掬ひ在所の白魚汁
三匹の白魚明らか朱塗椀
東京都     岩川 容子
名台詞いざなう夜の白魚漁
白魚網さばく漁師の若からず
白魚の舌をくすぐるおどり食い
白魚を炊いて佃の名を残す
埼玉県     守田 修治
引退の力士見送る白魚めし
接待の力士は無口白魚めし
しゃべくりも口べたもいて白魚めし
床上げの本日大安白魚汁
白魚のかき揚げ待つ間 赤児抱く
東京都     北川 京子
故郷の 河畔で食す 白魚や
白魚を 青磁の鉢に 泳がせり
白魚の 一尾一尾を 味わえり
白魚を 揚げてサクサク 軽やかに
神奈川県     塚本 治彦
白魚や京の舞妓のおちよぼ口
舟でゆく湖畔の宿や白魚飯
舟桶に白魚の目の泳ぎけり
茹で上がりしらうを白き魚となり
上げ潮の満ちて瞬く白魚火
群馬県     クズウ ジュンイチ
川水を飲んで白魚透けにけり
眼を残し白魚水に溶けにけり
白魚や籠へ盃盛られをり
神奈川県     長瀬 正之
葉三つ葉の散らす陰あり白魚汁
白魚の通り過ぎ行く喉仏
目瞑りて白魚一匹おちょぼ口
白魚やビニールの笹緑濃し
東京都     水野 二三夫
海神の与ふ色なり白魚汲む
白魚を透くまさびしき海の色
白魚のまなこに深き海の青
海の碧超え此の世へと白魚来
白魚の黒きまなこをあはれとも
東京都     森 清
白魚の命ひかれり桝の内
白魚の桝一杯の命かな
白魚に白魚走る網の中
湖の草をまとひ汲まれし白魚かな
白魚や汲まれて川を離れたる
大阪府     津田 明美
水底の影が影呼ぶ白魚かな
無骨なる掌を無垢にして白魚汲む
東京都     村上 ヤチ代
白魚や吉三の歯切れ良き台詞
東京都     丸山清子
澄む水に白魚の命洗ひけり
白魚や青き海見た目のふたつ
埼玉県     哲庵
葦立野の川に白魚戻りけり
惜別の膳にのりたる白魚汁
白魚網金剛石を撒き散らす
白魚船赤水門をくぐり行く
仏前に父好物の白魚飯
東京都     三浦 靖男
どんぶりを埋める白魚いい素顔
白魚や金目を供に泳ぐ夢
白魚の舟くしゃみして浜で待つ
白魚を喰いに江ノ電夫婦旅
白魚やどこに潜むか隅田川
埼玉県     長澤 千鶴子
白魚の腸透けて川の旅
白魚に黒目に映える夕日かな
白魚や奥の細道宿の膳
白魚や素直に泳ぎ続けをり
兵庫県     山地 美智子
白魚の一匹づつの黒目かな
白魚を水ごと足して魚市場
白魚の稚魚の如くに群れいたり
神奈川県     矢神 輝昭
白魚や秘め事持てぬ身の定め
白魚や殺生詫びて喉仏
白魚の群れに引かれて打瀬船
西浦や白魚群游雲の映え 
優顔で白魚危む踊り食い
埼玉県     米田 哲
白魚や東雲の海まなかひに
白魚や人無き河岸の舫綱
白魚や糴人溢る築地河岸
白魚や普き日射す船溜り
福岡県     幻草
白魚の目玉ばかりの泳ぎけり
白魚の命まるごと啜りけり
埼玉県     柏木 晃
網の上跳ねる白魚掬う網
白魚の心の透けるような味
白魚の喉で味わう食文化
どんぶりの白魚水に同化する
広島県     永野 昌人
白魚舟萩雁島の橋の下
白魚や河口の先は日本海
白魚に目あれば我が子泣くばかり
ひらがなの散らばつてをり白魚汁
白魚の生きて過ぎたる喉仏
埼玉県     玄次郎
跳ね逃ぐる白魚丼を掻つ込むる
白魚を飲み干す椀にあと一尾
釜揚げの白魚食ふや苦味あり
千葉県     隼人
白魚の瑞々しきや皿の上
石川県     浅妻 明徳
冬の海 白魚泳ぎ 朝日かな
酒の友 白魚食べて ほろ酔いで
白魚は 生き生き泳ぎ 冬の朝
網の中 白魚跳ねて 豊漁
白魚を 天ぷら揚げて 酒の友
神奈川県     野川 喜一郎
手ですくい小皿に盛れる白魚汲む
刺網で眼だけ確り白魚汲む
白魚を買うて食べおり陽だまりで
白魚を織に袋に詰めてお土産に
白魚を買うて今宵の晩酌に
山口県     山縣 敏夫
白魚やジタバタするな踊り食い
白魚の舟が揺れるや里の堰
白魚の澄まし汁吸う今朝の膳
白魚漁舟頭歌う訛り良し
白魚のかき揚げ食うて杯交わす
神奈川県     井手浩堂
黒々とそびらの山や白魚網
白魚を光もろとも掬ひけり
白魚の数かぞへるに黒目玉
お通しの小皿にすする白魚よ
白魚を言葉少なにすすりけり
兵庫県     岸下 庄二
白魚のひくひく動く心の蔵
白魚のひと際目立つ黒眼哉
白魚の透ける命をいただきぬ
神奈川県     佐藤 博一
白魚漁見張る眼も透き通る
四手網四隅に集め白魚漁
白魚に喉三寸の奈落かな
白魚やいのち透かせて身一寸
水よりも水になりたる白魚かな
埼玉県     岸 保宏
白魚を離したくなる凪の海
児の指にさえもかからぬ白魚や
白魚や桶を宇宙に泳ぎけり
東京都     岩崎 美範
白魚や椀にほのかな湖水の香
白魚の眼に宿る湖の色
白魚網春の息吹を掬ひけり
透くる身の黒眼愛しき白魚かな
てのひらに掬へば踊る白魚かな
愛媛県     近藤 秀美
踊り食い白魚舌で踊ってる
東京都     直木 葉子
四手網の大きくしなふ白魚舟
白魚の右往左往のしづまりぬ
神奈川県     川島 欣也
白魚の群れ細波に見失い
掬われて白魚影を見せにけり
一滴の醤油白魚を染にけり
白魚の目と目と合うや一気飲み
水質の改善進み白魚くる
愛知県     岩田 勇
白魚や舟津屋までは海七里
白魚のはらりと崩る椀の汁
白魚にうぶてふ文字を重ねけり
白魚の大山盛りの鮮魚店
白魚や魚類世界のヘゲモニー
山梨県     天野 昭正
白魚や水に紛れて仕舞けり
白魚の群れて微塵の光りかな
漣を掬ふが如し白魚漁
白魚の水より澄て掬われる
白魚の命を啜り酒を汲む
静岡県     池ヶ谷 しょうご
白魚をすくう漁師の手は優し
白魚や喉の澱を払いけり
白魚を骨まで飲んで透き通る
清らかに白魚泳ぐ小皿かな
釣り銭を白魚の手にお買徳
長野県     木原 登
白魚は徹頭徹尾透けりけり
白魚の切なく大き目なりけり
白魚にしかと腸ありにけり
白魚の夢のごときを啜りけり
白魚を啜りかなしさふやしけり
東京都     石井 真由美
白魚を五感で味のオノマトぺ
白魚の黒目を皿に汲まれをり
一寸の白魚透かすガラス椀
白魚の器であわれ黒目なり
ぐい飲みに白魚放ち吟醸酒
兵庫県     岸野 孝彦
大川や芭蕉は一人白魚飯
幾万の命は軽し白魚舟
白魚の命は澄みし光る海
白魚の命弾けて日も昏れて
白魚や赤い器で海想う
山口県      ―
四方網乾され白魚すくわれし
北海道     江田三峰
白魚の躍り喰ひまで喰はずとも
白魚の頃に思ひぬ疎開先
白魚や父母のふるさと千種川
白魚や歌舞伎踊りの阿国かな
白魚や枡で量られ売られけり
新潟県     近藤 博
寄せ鍋や白魚えらむ夫婦箸
椀に浮き透ける白魚可憐なる
白魚や湯がけば白によく名づけ
白魚の透け透けたるを酢味噌和へ
白魚の酢味噌肴に酒杯とす
岐阜県     金子加行
白魚のいのち眩しく掬はれる
白魚のはらわたの朱も透き通る
水汲みにあらず白魚掬はれる
いけにへの白魚呑みて宴始む
上品に白魚鮨に三四匹
熊本県     貝田 ひでを
ひかりより風よりかろき白魚汲む
ワシワシと白魚丼喰ふ漁師
白魚汲む河口は風の寄るところ
いらうおの目玉ばかりを呑み込みぬ
奈良県     和田 康
白魚や楔のごとくゐたりけり
白魚の透かしの先に尖り口
白魚の九腸の肌輝けり
白魚や覇者家康も嗜めり
白魚の八方睨み目と目と目
神奈川県     守安 雄介
白魚の命転がる舌の上
白魚の目玉の睨む卵とじ
白魚や煮られ「し」の字に品作る
白魚や神の忘れし色衣
白魚の汁に三つ葉の香りけり
茨城県     山縣 孝子
白魚や影かとも見し水明り
また一つ灯点しごろの白魚舟
白魚の生きて胃の腑へ躍り行く
初物の白魚ぞ酒まだ来ぬか
白魚やバリの土産の塩散らす
北海道     藤林 正則
白魚の黒目を凝視する黒目
省略の極み白魚ありにけり
校長は自称江戸つ子白魚汁
白魚を啜る真赤なルージュかな
白魚の華奢を丸ごと掬ひけり
京都府     中村 万年青
白魚や透けたる色の美しき
白魚や海より出し素のままに
白魚の踊り食ひとや浅ましき
白魚や吊皮つかむ白き指
白魚や海の中こそ我が住処
大阪府     堀之内 古潭
ひかる海分厚き海苔の干してあり
妻在りて主夫忙しや海苔の飯