俳句庵

季題 5月「麦秋」

  • 刈取り機整備の音や麦の秋
  • 神奈川県     井手 浩堂 様
  • 麦秋のふるさと後に半世紀 
  • ブラジル     林 とみ代 様
  • 麦秋や近づいてくる浅間山
  • 兵庫県     山地 美智子 様
  • 後ろ手の弔問多き麦の秋
  • 栃木県     長浜 良 様
選者詠
  • 麦秋やどの家も昼のしづけさに
  • 安立 公彦

安立公先生コメント

麦秋、麦の秋は、陰暦四月の異称であり、麦の刈り入れ時となる初夏の季節を言います。以前はこの季節に旅に出ると、車窓に広がる麦畑を良く見たものでした。今は麦作の農家も少なくなりました。しかし麦秋という季語は今も俳人に親しく用いられています。
 優秀賞の井手さんの句。刈取り機は稲や麦などを刈る機械。刈り取ったものを一束ずつまとめる装置がついています。麦刈りを前に、刈取り機の整備をする農家。その乾いた音が初夏の季節とよく調和しています。季語に対する視点の新しさが効果的です。
 林さんの句。作者はブラジルにお住いです。それを知ると、「麦秋のふるさと」に籠められた思いがよく分かります。この句の「麦秋」は、「ふるさと」をしっかり支えています。その郷里を出て半世紀。これからも変らず佳句をお出し下さい。
 山地さんの句。待望の信濃路(再訪のでしょうか)。信州はいつ訪れても懐かしい。その円心にあるのが浅間山です。この句の良さは、その浅間山が「近づいてくる」という表現にあります。近づくのは作者ですが、アップの用法を用いたのが成功の因でした。
 長浜さんの句。一転してこの句は葬送の景です。多くの弔問客に交じる高齢者。人は老いとともに、日常の立ち居に変化が生じます。「後ろ手」もその一つ。作者はそういう弔問客を、むしろ親しみをこめて詠っています。逝く人も高齢者なのでしょう。
 今月も佳句が多いでした。〈麦秋や老いては過去を振り向かず 佐藤博一〉、〈延命を母は望まず麦の秋 二階堂脩一朗〉、〈麦秋や夫のつまびくビートルズ 秋山直子〉、その他愉しく拝見しました。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。