俳句庵

季題 8月「終戦日」

  • 玉音の今なほ耳朶に終戦日
  • 新潟県     近藤 博 様
  • 野仏に野の花手向け終戦日
  • 栃木県     長浜 良 様
  • 正午打つ終戦の日の古時計
  • 東京都     岩川 容子 様
  • からつぽの父の骨壺終戦日
  • 東京都     直木 葉子 様
選者詠
  • 海やまにうみ山のこゑ終戦忌
  • 安立 公彦

安立公先生コメント

八月十五日を終戦記念日として、逸速く歳時記に取り上げた先人の意向を、高く評価します。以降七十年、この季語は幾多の俳人の共鳴を得て、年月とともに作品の数を増して来ました。私たちの「俳句庵」にも多くの佳句が出句されました。
 優秀賞の近藤さんの句。あの日の「玉音」、即ち詔勅を読む天皇の放送は、大戦の終結を広く知らしめることになりました。あの抑揚のある陛下の玉音は、生涯忘れ得ないもの。作者も「今なほ耳朶に」刻印されています。これは万人の思いです。
 長浜さんの句。いつもこの日には、野中の路傍に建つ仏像に、花を手向けている作者です。その花も野に咲く花、野菊でしょうか、葛でしょうか。「手向け」に戦火に逝った故人たちへの、深い思いが感じられます。
 岩川さんの句。この「古時計」は、作者の家に長く掛けられている時計です。その古時計が正午を知らせた。今日は終戦日。「正午打つ」に作者の心の動きが感じられます。
 直木さんの句。戦争末期にはこういうことが良くあったと聞いています。送られて来た骨壺に遺骨はなく、ただ名前のみ記されているのです。それが戦争の一面です。「からつぽ」という平易な言葉が、この場合「終戦日」と良く合っています。
 今月も作者の年齢を問わず、「終戦日」という季語にふさわしい句が多くありました。〈叔父の遺影若くなり行く終戦日 安西信之〉。〈軍服の父の写し絵終戦日 藤林正則〉。〈戦争を知らぬ我等の終戦日 渡辺牛二〉。共に戦後のお生まれです。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。