俳句庵

8月『終戦日』全応募作品

(敬称略)

東京都     直木 葉子
からつぽの父の骨壺終戦日
終戦日ぱちりぱちりと夜の爪
神奈川県     守安 雄介
色褪せたアルバム捲る終戦日
富士明くる七十回の終戦日
終戦日朝日を過る大型機
七十回黙祷捧ぐ終戦日 
海苔巻きの日の丸握り終戦日
石川県     森田 香津美
蔓絡む森より出でよ終戦日
終戦日セピアの祖父は胸を張り
特攻の飛跡彼方へ終戦日
赤紙は涙でちぎれ終戦日
終戦日こころの灯りひとつずつ
新潟県     近藤 博
大君に玉と砕けし敗戦忌
玉音は今なほ耳朶に終戦日
偕老のともに想起す終戦日
海ゆかば水浸く屍敗戦忌
真空管ラジオ噎せびし終戦日
福岡県     紙田幻草
平和ぼけ始まってゐる終戦日
終戦日不戦の誓ひ新たにす
平和なる七十回の終戦日
群馬県     asamin
生きる意味 投げかけられし 終戦日
重き口 祖父語らひし 終戦日
灰の空 仰ぎて想う 終戦日
終戦日 世界の平和 未だ来ず
海月出で 御霊導き 終戦日
東京都     斎藤 洋伸
疎開から解放うれし終戦日
今日からは自由なんだね終戦日
泣き顔の砂利道埋めし終戦日
終戦日巡り巡りて古希の年
疎開止み妙に嬉しい終戦日
広島県     安冨 正則
高感度ショップのフロア終戦日
北海道     江田三峰
胆嚢の救急搬送終戦日
ガード下死体累々終戦日
終戦日奉安殿の破壊かな
終戦日屈辱の日や忘れじや
終戦の日竹槍燃やし風呂沸かす
長野県     木原 登
その時のわれは五歳や終戦日
終戦記念日すなはち平和祈念の日
笹舟を流し敗戦忌を修す
蟻今も松の幹攀づ終戦日
人はみな無力八月十五日
兵庫県     岸下 庄二
黙祷のサイレン轟く終戦日
投球を止めて黙祷終戦日
終戦日新聞で知る平和かな
戦争を知らず合掌終戦日
終戦日今も昔も蝉時雨
岐阜県     金子加行
終戦日物のあふるる中の職
終戦日記憶も物も朽ちてゆく
ラジオのみ聴きゐる昼や終戦日
戦ひの語にて球児や終戦日
終戦日髭を剃らせる理容椅子
神奈川県     川島 欣也
水団を美味といふ子や終戦日
終戦日町に明りの戻りけり
新たなる波押し寄せし終戦日
空焼き尽くす夕映えの終戦日
詔勅と闇米重き終戦日
千葉県     柊二
終戦日おぶい紐手に母に来る
無防備の列島浮かべ終戦日
雪かぶる髪の色濃く終戦日
終戦日父戦争に生きており
ポマードの指あと太き終戦日
静岡県     柳谷 益弘
三歳の防空頭巾終戦日
終戦日涙で惜しむ隣保班
静岡県     池ヶ谷 しょうご
敗戦を記念日として誓いけり
敗戦や電波にのって知らされり
神奈川県     佐藤 博一
いつまでもいつも八月十五日
小国民飢えしか知らず終戦日
終戦日一銭五厘のいのちかな
語るより語らぬ重さ終戦日
終戦日止まったままの古時計
愛知県     矢浦詠正
羽あらば島を訪ひたき終戦日
郭公や朝餉主食にパンの耳
防空壕閉ざせし侭に蔦青葉
特攻の基地にカンナの赤き花
戦後とは句の始点とも雲の峰
東京都     安西 信之
終戦日戦争怨む日なりけり
終戦日石を兄とも我が子とも
供出に鐘の無き寺や終戦日
叔父の遺影若くなり行く終戦日
ブラジル     富岡 絹子
終戦日世界の平和祈れども
外つ国に祈る平和や終戦日
神奈川県     鹿毛 里美
終戦日なおこつこつと古時計
青空はあすへとつづく終戦日
わすれものまだ見つからず終戦日
東京都     三浦 靖男
疎開っ児年金暮らし終戦日
今年こそ孫に話さん終戦日
この先も平和守らん終戦日
靖国の名語ることなき終戦日
亡き父母に在世を御礼終戦日
埼玉県     山崎 彰
日盛りをなにも食えずに終戦日
電球に被せずにすむ終戦日
終戦日これからなにを食えばいい
終戦日減ることもなし蚤しらみ
疎開から解放されて終戦日
愛知県     岩田  勇
どこまでも国の足かせ終戦日
すうどんをかたじけなくも終戦日
独り居のひるねの覚めて終戦日
終戦日どこか遠くで街宣車
塵漁る烏軍団終戦日
神奈川県     猪狩 千次郎
終戦日大路小路の陰日向
わが影を踏みつ潰しつ終戦日
お天道さま灼くだけ灼いて終戦日
終戦日そもやそもそも開戦日
桐の葉を揺らす雨粒終戦日
長崎県     内野 悠
新駅はデジタル時計終戦日
子の土地に妻すぐ慣れて終戦日
コンビニにおにぎりを買ふ終戦日
七十年六日九日終戦日
終戦日埋めし梵鐘引き上げぬ
東京都     岩崎 美範
きな臭さ漂ふ国の終戦日
わだつみの声とこしへに終戦日
戦争を知らぬ幸せ終戦日
妻と子の笑顔愛しき終戦日
過ちは二度と起こさぬ終戦日 
埼玉県     佐藤 茂
終戦日父は塹壕掘つてをり
大阪府     高塚 政宜
終戦日参道上りゆく妊婦
参道を上る妊婦や終戦日
東京都     勢田清
青空に雲むくむくと終戦日
死者生者焦土原爆終戦日
蒼穹に不戦誓いし終戦日
新しい日本の門出終戦日
終戦日歩調揃えて我も古希
岡山県     岸野 洋介
皇国の学徒も老いし終戦日
いも粥を啜ってしのぶ終戦日
疎開地はダム底にあり終戦日
ハンチング脱いで黙祷終戦日
生き抜くは語るためなり終戦日
愛媛県     浅野 利貞
日没の血の色となり終戦日
終戦日兄の戸籍の「戦病死」
山口県     ひろ子
折り鶴の数だけ祈り終戦日
東京都     花桃
終戦日 語り部 宿る 使命感
終戦日 サイダー供え 空見上げ
晴天や 涙の雨ふる 終戦日
風受けて 歴史感じる 終戦日
ふるさとへ 想いを馳せる 終戦日
神奈川県     永井 良和
終戦日父との写真一つだけ
玉音を原盤で聴く終戦日
朝刊と熱きコーヒー終戦日
恙なく生きて紫蘇摘む終戦日
終戦日この平安をいつまでも
三重県     平谷 富之
終戦日 二度と起こすな あの悪夢
あの空が 悲劇を知るや 終戦日
水飲める 喜び知るや 終戦日
終戦日 今日も他国で あの悲劇
兵庫県     吉祥寺友子
終戦日考に似てきし夫の背な
ナイターに夢中の夫終戦日
年寄りが今も中心終戦日
笛鳴って湯の沸く薬缶終戦日
終戦日メールで届く子の便り
神奈川県     井手浩堂
沖縄のわけて思ほゆ終戦日
終戦日灯火管制終はりし日
父戦地母疎開地で終戦日
疎開地に一日遅れの終戦日
子や孫にしかと伝へむ終戦日
山形県     真木 純子
黙祷の声高し老母終戦日
レシピ見て作る水団終戦日
地を這ひて逃げる夢見ゆ終戦日
終戦日遺影の叔父の初々し
終戦日逃げ水消えて空高し
大阪府     永田
父歌ふ麦と兵隊終戦日
敗戦も忘れし父の軍歌かな
小野田氏も横井氏も居た敗戦日
埼玉県     櫻井 玄次郎
海底の武蔵浮かばぬ敗戦日
千葉県     二階堂 脩一朗
あの時と同じ鳴声敗戦日
爆音のぴたりと止みし終戦日
原爆の落ちて大戦終りけり
戦争へ傾く議論終戦日
グラマンの墜ちたる海や終戦日
神奈川県     塚本 治彦
終戦日軍歌ばらまく街宣車
終戦日神武綏靖安寧と
終戦日ハンバーガーにコカコーラ
終戦日SP盤の軍歌かな
腹一杯食ふて寝にけり終戦日
岡山県     純子
折り鶴の羽根を広げて終戦日
たうたうと大河は海へ終戦日
愛媛県     野間 竹香
終戦を 迎えた我は 八十路すぎ
終戦日 重ねる日々に 兄想う
兄想う 軍歌で送り 今なみだ
戦中を 生き抜いた空 なお変わらず
旗を背に 消え逝く兄の 笑み燃えゆ
兵庫県     岸野 孝彦
終戦日比島戦死の墓の群れ
終戦日サイレン高き甲子園
遺骨箱石がからころ終戦日
終戦日古希の平和の蒼き空
終戦日華やかなりし忠魂碑
東京都     中田地溝 
無言館黙して立てり終戦日
僧ひとり花街をゆく終戦日
岐阜県     森 茂 寿
終戦日一人テレビに黙祷す
古稀となる忘れてならぬ終戦日
富士山は今も変らぬ終戦日
語り合ひまだ足りずして終戦日
偲ぶことしみじみ多し終戦日
埼玉県     米田 哲
終戦日 ラジオの御声に 正す吾
終戦日 九段の杜の しずもりて
終戦日 三権見やる 時計塔
終戦日 いなくなりたり 艦載機
終戦日 原子の前に 来たりなば
岡山県     渡辺牛二
戦争を知らぬ我等の終戦日
廃校の屋根のサイレン終戦日
捨つる物だらけの暮し終戦日
埼玉県     ふみ
青春の 夢なく終えて 終戦日
山口県     山縣 敏夫
平成の空にサイレン終戦日
反安保叫ぶ各地の敗戦日
忘れ得ぬラジオ聞く絵の敗戦日
愛犬と一緒に過ごす終戦日
七十度メディアを飾る終戦日
千葉県     飯島 史朗
6日過ぎ9日過ぎて終戦日
終戦日ここまでなるか焼け野原
東京都     右田 俊郎
語り部となりて伝へむ終戦日
終戦日国のゆくすえ翳りみゆ
七十年なほ鮮明な終戦日
戦争を知らぬ世代の終戦日
終戦日千鳥ヶ淵に香を焚く
大阪府     津田 明美
百合一本私なりの終戦日
集へども皆無口なり終戦日
終戦日親の無い子と子無き母
終戦日球児の肩に正午かな
東京都     豊 宣光
終戦日海に眠れる遺骨かな
終戦日いつもと同じ朝餉食ふ
終戦日とは何の日と問ふ子かな
この日より国変はりたる終戦日
新しき軍靴の音や終戦日
東京都     かつこ
過去帳の名前を撫ぜる終戦日
ひとりでにともる灯りや終戦日
埼玉県     長澤 千鶴子
幼き日でぬ乳すつて敗戦日
終戦や命からがら川歩く
終戦や泣く子リュツクに背負われて
忘れてはならぬと秘める敗戦日
母に聞いた終戦語り懐かしく
岐阜県     ときめき人
薄れゆく戦禍の記憶終戦日
戦争を知らない世代終戦日
終戦日「はだしのゲン」を朗読す
沖縄の終わっていない終戦日
終戦日安保法案成立す
滋賀県     濱本 勝美
終戦日輪廻応報凛とする
英霊を弥想いけり終戦日
佳き時代70年の終戦日
空青く海山レジャー終戦日
終戦日黙祷も熱き甲子園
栃木県     長浜 良
野仏に野の花手向け終戦日
飛行機の音のくぐもり終戦日
公園に人ひとりなき終戦日
女子校は往時の名前終戦日
神奈川県     長瀬 遊頭
終戦日分校さえもなき村に
終戦日皇居の砂利の白さかな
神棚を拭き清めたる終戦日
終戦日皇宮巡査不動挙手
福岡県     西山 勝男
終戦日敢へて茶粥を所望せり
見送りし馬も還らじ終戦忌
堪へしのぶ事も覚えし終戦日
終戦日「月光の夏」読破せり
特番に釘付けとな終戦日
神奈川県     竹秋
アルバムを壕より出だす終戦日
ブラウスにアイロン当てる終戦日
終戦日空の空まで占領下
神奈川県     矢神 輝昭
終戦日考が歌ふた子守唄
芋蔓も安堵の美食終戦日
生前に考は語らず終戦日
終戦日記憶の疎く祈るのみ
継ぎ接ぎのズボンを思ふ終戦日
東京都     辻 翠
疎開した四十万冊終戦日
大阪府     太田 紀子
どこまでも続く青空終戦日
午前五時空白み初む終戦日
午後零時球児も黙祷終戦日
東京都     鈴木 眞由美
終戦日なれば一献酌み交わす
靖国の麦茶八月十五日
敗戦忌不明を恥じる人もなし
終戦日語らぬ祖父と父逝けり
愛知県     川俣 周二
終戦日父の好みの蕎麦を食む
この先の道は何処に終戦日
軍票を残せし祖母や終戦日
刻まれし享年二十歳終戦日
祖父を知らず育ちし父や終戦日
東京都     藤紫ゆふ
終戦日裏地に貴石縫いはじめ
終戦日グレースケールで知る景色
東京都     石井 まゆみ
卒寿来てひとり身かな終戦日
終戦日色もきりりと千羽鶴
赤い風千羽鶴揺る終戦日
ちぐはぐの母にうなずく終戦日
今はもうたして195歳終戦日
東京都     岩川 容子
正午打つ終戦の日の古時計
終戦日不戦の文字の重さかな
終戦日70年後に知りしこと
男の子ばかり育てて終戦日
神奈川県     相模太郎
敗戦忌掃射に伏せし鼓動思ほゆ
真さをなる空の深さや終戦日
父母よりも寿(いのちなが)得し終戦日
戦争を知らぬ子の子の終戦日
欲しきもの今更ないと終戦日
北海道     伊藤 哲
どこまでも空は水色終戦日
終戦日時計の針は右回り
終戦忌未だ英語を聞き取れず
埼玉県     哲庵
黙祷のサイレン哀し終戦日
終戦と生涯言わず敗戦日
終戦日とは新たなる開戦日
レコードで聞く玉音や終戦日
終戦日昔全校登校日
埼玉県     守田 修治
早暁に二分の祈り終戦日
終戦日絵具にはなき空の色
終戦日湯治の宿の将棋かな
終戦日ことしも日記白いまま
小麦粉にバター特売終戦日
神奈川県     佐々木 僥祉
分かつべき事や在りしか終戦日
濃き影を落とす花咲く終戦日
稚き陽の燦々たりや終戦日
終戦日言葉も霊もありてこそ
七十路の父も知らざり終戦日
東京都     村上 ヤチ代
抱く孫の瞳清らか終戦日
東京都     蘭丸
終戦日黄昏の島先立ちぬ
残し置く清き出で立ち終戦日
北海道     飯沼 勇一
終戦日寡黙の父のより寡黙
祖父の忌と聞かされている終戦日
終戦の日が誕生日古稀になる
終戦日祖父する主張する敗戦日
広島県     有馬 未知
子どもらの何を願うか終戦日
大阪府     石英
終戦日語りをせずや老いし父
終戦日犬連れ歩く木陰かな
終戦日老いし人診る聴診器
終戦日介護施設の広き窓
ふと空を見上げたりしや終戦日
東京都     石見 光夫
真青なる空よ山河よ終戦日
北海道     藤林 正則
こんこんと湧き出る泉終戦日
終戦日村の一戸に日の丸が
軍服の父の写し絵終戦日
終戦日かの日の熱さ蝉の声
すめらみことの人間宣言終戦日
京都府     中村 万年青
空蝉の夏や巡りて終戦日
終戦日生まれし赤子早翁
勝負で立場違えり終戦日
仏壇の前で母哭く終戦日
終戦日戦争知らぬ人数多