俳句庵

10月『後の月』全応募作品

(敬称略)

山口県     ひろ子
城山の琴の音うれし後の月
月光の旋律に酔う後の月
遠回りして待つ雲間後の月
境内に尺八の音や後の月
埼玉県     守田 修治
老い猫が姿を消した後の月 
徘徊をさがす小声や後の月
二次会へおおかた参加後の月
天才はみんな夭逝後の月
「帰ったぞ」声の背中に後の月
神奈川県     佐々木 僥祉
今生の別れも易し後の月 
水溜を避けて帰る後の月
果たされぬ約束数ふ後の月
兵庫県     山崎ぐずみ
会ひ目見ゆ富士五合目を後の月 
笊碁とて尽す手順や後の月
波うさぎフェリーを追ふ後の月
後の月線路すうつと息をする
後の月ひとよ二万の翁かな
東京都     蘭丸
名画座を途中で出でぬ後の月
大阪府     樽見 拓
後の月 街の足音(あおと)を 清めつつ
大阪府     太田 紀子
後の月浮かぶ車窓や旅の果て 
刻まれし後の月あり瀬戸の海
松風の響く岬や後の月
千葉県     土井探花
ざたはたと揺るる卒塔婆や後の月
埼玉県     小玉 拙郎
ふたりして名残の月を名残とし 
終電車車庫まで共に後の月
十三夜砂漠の民に意味問わる
東京都     かつら
雲がゆき 遠き富士あり 後の月 
風船の 枝に揺れてる 十三夜
杖を手に 奥の細道 後の月
千葉県     横井 隆和
清む風に無双の光十三夜 
軒に会い野に消ゆるまで名残り月
肩越しに自撮るスマホや名残り月
惜しみ来て野はあけぼのに十三夜
神奈川県     相模太郎
晩節を汚さず行かむ後の月 
繋がるるボートの揺れて後の月
更けてなほ残る青空後の月
なかなかに決まらぬ話後の月
二次会の果てて一人や後の月
大阪府     椋本望生
依代のさざれの石や後の月 
後の月人抱くやうにセロを弾く
母の声父の声かも後の月
後の月君の手のひら脈打ちて
肩越しの視線鋭き後の月
愛知県     古賀 敦子
旅のものみな詰め終へし十三夜 
枕辺に旅の鞄を十三夜
母を恋ひ父を思ひし十三夜
在りし日の師のことをふと十三夜
子に送る荷にあれこれと十三夜
東京都     笹木 弘
縁談の決まらぬままに後の月 
中天を少しずらして後の月
後の月海に浮かべて漂へり
盃に浮かべ飲み干す後の月
東京を遍く照らす後の月
東京都     岩川 容子
後の月母の文箱に父の文 
後の月ひとりに余る広き部屋
三味の音のひびく黒塀十三夜
後の月名のみ残りし月見坂
ブラジル     林 とみ代
覚めやらぬリオ五輪なり後の月 
祝ぎ事の終へて静かや後の月
祖国去る心のゆれや十三夜
影踏みの子等遠ざかる後の月
供物して独りこもれる豆名月
神奈川県     田中 由起
終バスの赤遠のゐて後の月
大阪府     永田
院生を連れて屋台へ十三夜
千葉県     藤原 純夫
宛も無く硯に微笑後の月 
病棟の窓ごし見上ぐ後の月
濡縁に映り込みたる後の月
君の影独り見あぐる後の月
あとの月くもにガス燈ともしおり
東京都     中田ちこう
ふと白む心の居間に後の月
北海道     飯沼 勇一
在米の娘ら愛でたるや後の月 
己が影踏んでは帰るトラクター
終電の車窓へ射し込む後の月
後の月湖面一切宴の音
後の月警笛幽か森の奥
神奈川県     重兵衛
宴果てて外に出づれば後の月 
後の月三回入る露天の湯
被災地の友を偲びつ後の月
後の月万年筆で書く手紙
後の月ひとりの旅の露天の湯
神奈川県     龍野 ひろし
約束の逢瀬の夜よ後の月
愛知県     寺尾 啓一
病室を抜け出し見上ぐ後の月 
まだ癒へぬ子等の笑ふや後の月
後の月書架に色褪すブラッドベリ
たんぽぽのお酒に酔ふや後の月
十月の旅人の背や後の月
三重県     竹田茶人
青白きコンビナートや後の月 
麦城の美髯公はも後の月
三重県     後藤 允孝
奈良町の路地をぬけゆく後の月 
本焼きの窯の火落とし後の月
金襖松に懸かりし後の月
試し書き墨の香こもり後の月
凛として近寄り難き後の月
栃木県     長浜 良
終点は妻のふるさと後の月 
山里に一際は大き後の月
徐に正座を崩す後の月
潮鳴の岬に籠り後の月
岡山県     渡辺 牛二
酒切れて終はる寄合後の月
埼玉県     櫻井 玄次郎
復興の足場に昇る後の月
愛媛県     アリマノミコ
ダイエットまたスタートの十三夜 
嘘つきな夫かたわらに後の月
来ぬ人の会合おえて後の月
岐阜県     ときめき人
モンゴルの草原駆ける後の月
埼玉県     哲庵
ホスピスの窓へ差し込む後の月 
刳り抜きの文机照らす後の月 
闘病の窓辺を照らす後の月 
十三夜昔なじみと交わす酒 
後の月木歩の句碑を温めをり
香川県     紅緒
振り返る君の横顔後の月 
一抹の淋しさ残し後の月
後の月ないものねだりの子猫かな
後の月夫の机上に筆ひとつ
神奈川県     劔物劔二
つひに書く延命拒否や後の月 
被曝地の黒き袋よ後の月
塾帰りの赤き自転車後の月
北の幸五キロも届く後の月
被災地の仮設住宅後の月
東京都     紫獅子
失せ物が 矢庭に光る 後の月 
後の月 冷やで始まり 燗で終え
里の酒 亡父と酌むや 後の月
東京都     紫蟹
意地っ張り ホームシックや 後の月 
後の月 グレンミラーの セレナーデ
後の月 望との違い 知らぬまま
東京都     紫兎
後の月 リオ甦る 金メダル 
里言葉 ラジコで愛でる 後の月
後の月 里と都会で 写メ交わす
福島県     いらくさ
招かざる呑兵衛楽し十三夜 
四度目のではではそろそろ後の月
後の月下戸の息子が迎えに来
姥月の指痺るるや栗剥けば
叔母と観し二夜の月を叔母忘る
神奈川県     矢神 輝昭
見送りし妹の背にあり後の月
肩車父子の背丈に後の月
湯上りに遅れ毛吹かれ後の月
一尾跳ね波紋の揺れて後の月
客帰り宴の膳に後の月 
神奈川県     成田あつ子
ベネチアの路地の靴音後の月 
ゴンドラの揺らす灯のあり後の月
上棟の棟木香るや後の月
王朝の古筆模写する後の月
高層の肩に寄り添ふ後の月
宮城県     石川 初子
子のくれしガラスの指輪後の月
三重県     平谷 富之
車椅子 公園で見し 後の月 
公園の 川面に映る 後の月
滋賀県     村田 紀子
後の月猫と並んで笛を吹く 
部屋の香が外に漂う後の月
畳背に一人静かに後の月
水音と草の香のみの後の月
岡山県     岸野 洋介
降り立ちて一人は侘し後の月 
縄暖簾でれば待ちおり後の月
子の家に口を預けて後の月
天窓にぬっと顔出す後の月
先行きし教え子の顔後の月
東京都     豊 宣光
さすらひの旅寝の枕後の月 
後の月めでずに帰る無粋者
豆一つ箸より転げ後の月
草むらに鈴鳴る声や後の月
老いてなほ輝く人や後の月
東京都     岩崎 美範
老妻も薄く紅ひく十三夜 
戦なき平和噛みしむ十三夜
機首上ぐる最終便や後の月
お手玉を握りしむ母後の月
見上ぐればビルの隙間に後の月
福岡県     西山 勝男
刎頸の友と酌み交う十三夜 
早逝の母を偲はゆ後の月
墨絵めく三十六峰後の月
後の月阿蘇の山巓きらやかに
千葉県     隼人
仏塔の静かに御坐す後の月 
阿弥陀仏虚空に坐せり後の月
己が影追はるる如く十三夜
縁側にふたつの坐椅子後の月
とぎれなく寄するさざ波十三夜
東京都     石井 まゆみ
後の月慕ふ人の来ぬ夫の音 
ぐい呑にじいんと沁みる後の月
雨零り雲が覆ふや後の月
ノスタルジ手延べガラスに後の月
神奈川県     守安 雄介
陸奥の一本松や後の月 
温暖化名残の月の心地よし
栗ほどの歪を愛でる後の月 
後の月平均寿命また延びる
後の月眼鏡外せば真ん丸に
奈良県     平松洋子
太陽と言った子のあり後の月 
一条の光窓辺に後の月
一歩二歩夜の足元後の月
福岡県     紙田幻草
教育の話も少々後の月 
芝刈って空美しき後の月
岡山県     名木田 純子
しろがねに浮かびし湖や後の月 
一行で足る詩を編みぬ後の月
熊本県     貝田 ひでを
夜の伴に広辞苑あり後の月 
旅に来て句心動く十三夜
湯のタオル軒端に干して後の月
日誌書く夜勤の詰め所後の月
出迎えの妻が指さす十三夜
埼玉県     琴吹痴庵
煌々とタワーマンション後の月 
宮島の鳥居の裏の後の月
山口県     山縣 敏夫
白兎ぴょこんと跳ねる十三夜 
名優の演技に唸る十三夜
十三夜犬に家路を急かしけり
妻は旅独り手酌の十三夜
十三夜独り静かに句を捻る
埼玉県     彩楓(さいふう)
廃船に上げ潮寄する後の月 
陸奥の棚田に天降る(あもる)後の月
後の月キリンの首に骨七つ
武蔵野の丘陵団地後の月
後の月舞妓の帯の遠ざかる
京都府     真本 笙
川渡る風を纏うや後の月 
山影の傾ぎより出る後の月
水鏡天井に観る後の月
神奈川県     塚本 治彦
目薬のこぼるる頬や後の月 
小走りの銭湯帰り後の月
ひつそりと妻の仕舞湯後の月
山家にも客のありけり後の月
不寝番残る帳場や後の月
愛知県     岩田 勇
幼子のむずかる声や後の月 
旧道の閉じし旅籠や後の月
影黒き出舟入船十三夜
ハワイへの飛行機離陸後の月
車駆る知らない町や後の月
神奈川県     川島 欣也
案ずるやいたちの道の十三夜 
中天の孤高楽しむ後の月
朋輩へ心じくれる十三夜
侘びさびの心働く後の月
山路きて湯ぶねに映える後の月
大阪府     津田 明美
魚鳥木汀に眠り後の月 
影法師二つ寄り添い後の月
母の里近づく列車後の月
後の月波一枚に漂へり
仮の世の仮の姿や後の月
奈良県     堀ノ内 和夫
亡き友も愛でてゐるらん後の月 
斑鳩の塔に隠るる後の月
大和路の古墳に澄める後の月
愛知県     佐藤 三郎
暑すぎて夏になりけり後の月 
手伝いし団子作りや後の月
シベリアの凍りし空に後の月
神奈川県     井手浩堂
ふるさとの山みな低し後の月 
この松の枝ありてこそ後の月
残業の灯を消し去るや後の月
子どもには栗名月と教へけり
早足に芸妓路地ゆく十三夜
東京都     石川 昇
検診を明日に控えて後の月 
十三夜だっこだっこと娘の子
亡き犬の面影探し十三夜
東京都     西谷まさる
後の月ラジオを消した四畳半 
おでん鍋一枚はいだ後の月
露天風呂後の月釣る葉ずれかな
後の月逃げる魚あり柿田川
ポケモンや孫の手引いて後の月
茨城県     天海木都里
後の月ビールの香より赤ワイン
京都府     北谷 匠
有明の のりがいいいと 後の月 
山本の 十重二十重海苔 後の月
ブラジル     西山 ひろ子
リオ五輪会場つつむ十三夜 
妣に語る今日の失敗後の月
崩れ行く雲の流れて後の月
髪を梳く風の敏しや後の月
東京都     直木 葉子
片見月咎めし妣よ十三夜
後の月山葵きかせる泪巻き
神奈川県     白銀
朧月 見える最中 後の月 
後の月 空にたなびく  斑雲  
寺の鐘 鳴り響いては 後の月
金銀の 世界包まれ 後の月
雨上がり 夕暮れ時の  後の月
神奈川県     佐藤 博一
逢ひたきは亡き人ばかり後の月
丹念に栗むく妻や十三夜
あの時の母の一言後の月
墨すれば父の声する十三夜
補陀落の海を鎮めて十三夜
岐阜県     蛙田 環
奥飛騨のせせらぎ光る後の月 
廃屋の庭も自然へ後の月
東屋の古き長椅子後の月
愛媛県     渡邊 國夫
禅院の鶴亀の島十三夜 
名刹の悟りの窓に後の月
十三夜瀬戸の早潮渦巻きて
後の月水軍島の舟かくし
古井戸の竹簀の覆ひ後の月
宮城県     林田  正光
山の宿旅路の途中後の月 
みちのくの空にくっきり後の月
最期かな母と見上げる後の月
後の月出会いの頃がよみがえる
後の月酒の肴になりにけり
兵庫県     岸下 庄二
左舷から右舷に移る後の月 
開け放つ座敷に後の月明り
幼児を抱き上げ見せる後の月
病室の窓開け仰ぐ後の月
愚図る児を抱いて外に出る後の月
神奈川県     原川 泉水
後の月羽織を纏う酒の宴 
後の月燗酒掲げ客まどう
十三夜栗の肌にも光映え
後の月老爺の話今日もまた
十三夜雲無き空に菩薩像
東京都     内藤羊皐
後の月親蟹食らふ仔蟹かな 
後の月葬列尽きぬ地蔵橋
後の月ヒマラヤ杉は風抱く
影坊の追ひつ追はれつ後の月
後の月鶴の折紙標とす
三重県     阪倉 弘一
能衣装 衣桁に派手や 十三夜 
独り占め 池に映りし 後の月
ピアノの音 きらきら光る 十三夜
十三夜や 友との距離 近くなる
曖昧な 気持ち整ふ 十三夜
滋賀県     了庵
汀より沖の明るし後の月 
祀ることなくて一人の後の月
猫呼べばにゃあと応へる後の月
見納めといふ母と見る後の月
刈り込みし杉垣匂ふ後の月
神奈川県     河野 肇
倒れ伏す大道芸人後の月 
後の月脳の形の石一つ
後の月一湾まるく母に似て
後の月脳梗塞の師の微笑
後の月ひとり旅行く母の背
宮城県     片平 奈美
独り夜に 一つ灯して 後の月 
後の月 背を向けた人 悲しませ
ぬばたまの闇に命の 後の月
恋心 後の月夜に 残しつつ
後の月 重ねる 手と手 影長し
長野県     木原  登
姥岩に翁をおもふ後の月 
音消して千曲川は海へ十三夜
後の月ホーム違へて別れけり
シ-スルーエレベーターより後の月
塩の道百体観音十三夜
神奈川県     変哲庵
涙満つ瞳に映る後の月 
漆黒の空を穿つや後の月
湯船から溢れるお湯に後の月
影深く松柏照らす後の月
篠笛や響く湖畔に後の月
兵庫県     岸野 孝彦
根岸庵明治は蒼き後の月 
白亜なる天守仰げば後の月
信濃路の風を集めて後の月
早逝の作家の生家や後の月
後の月ふるさとは今夢の底
岐阜県     金子加行
残業のパソコン閉じて後の月 
一村の盆地照らすや後の月
雨洗い終へたる空に後の月
メール待つのみの一夜や後の月
マンションの窓の気づかぬ後の月
京都府     欲句歩
町痕に影ぽつぽつと後の月 
巡り湯の影カラコロと十三夜
十三夜潮騒と入る露天風呂
千葉県     伊藤 博康
意図せずに溜息出づる後の月 
コンビニの屋根に顔出す後の月
ほろ酔ひを助けるごとく後の月
待合せ時間が過ぎて後の月
後の月さよなら言へず立ちにけり
千葉県     柊二
抜ひて買ふ農夫の豆や後の月
新潟県     近藤 ひろし
高層のビルのあはひに後の月 
祀ることせずに酒酌む後の月
雲がくれしつつ明るし後の月
千鳥足よろよろ家路に後の月
縁に座し則天去私や後の月
静岡県     平野 宏
坂道を辿れば母校後の月 
リオ五輪月をメダルに十三夜
活断層人に深層後の月
後の月歩き残した城ケ島
東京都     飯塚 佳代
居てほしき人の帰りぬ後の月 
猫の鈴音きはだちて後の月
神奈川県     髙梨 裕
庭池やはや古希なりと後の月
病室の窓ひとつにも後の月
埋葬の我が子眠るや後の月
老死して空き家となりし後の月
後の月母ひとり居る佐渡の空
京都府     中村 万年青
ふたたびの名残の秋や後の月
東京都     ゆり
電線に輪形がありて後の月
十三夜宮は古書市明るけり
後の月ビルの笑窪に懸かりけり
ハイハイの転げて見あぐ後の月