俳句庵

季題 2月「梅」

  • 白梅の闇にふくらみありにけり
  • 神奈川県     佐藤 博一 様
  • 絵馬百に百の願ひや梅ひらく
  • 東京都     岩川 容子 様
  • 一本の梅の香りの中に入る
  • 神奈川県     井手 浩堂 様
  • 探梅の列に加はる一日かな
  • ブラジル     林 とみ代 様
選者詠
  • 姉妹らし紅梅仰ぐ顔寄せて
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

春の歳時記の植物の項目を開くと、殆どの歳時記の巻頭は「梅」となっています。辞書によると、「梅はバラ科サクラ属の落葉高木、中国原産」とあります。そういうこと以前に、梅ほど私たちに馴染みの深い木はありません。立春に先駈けて咲く梅花、またその香気。私たちの先人は、その「梅」を和歌に詠い、文芸に取入れて来ました。もとより俳句においても同様です。その「梅」を、皆さんは多面にわたり詠まれています。選句という、限りある紙面で紹介出来なかった句の数々が惜しまれます。
優秀賞の佐藤さんの句。「闇にふくらみありにけり」が、良く梅の姿を捉えています。「闇」と言っても、まだ夕闇の過ぎた頃でしょう。この「ふくらみ」には梅の香りも含まれています。如何にも早春の景です。原句の「梅の花」は「白梅の」としました。
岩川さんの句。神社や寺に奉納された絵馬の多くは祈願です。また報謝の思いをこめた絵馬もあります。その絵馬に、「百の願ひ」が切実に感じられます。この句、「梅ひらく」が明るい結果を予想しています。多分祈願は花ひらいたことでしょう。
  井手さんの句。この「一本」は、「ひともと」と読みましょう。「梅の香り」が、「一本」とよく結ばれています。下五はそれを受けて、梅の香りの「中に入る」という動作が一句を良く支えています。感情を一切控えていますが、思いの深い句です。
 林さんの句。「探梅」は「梅」と異なり、晩冬の季語です。咲き始めた早咲きの梅を探す、という句です。この句「列に加はる」が表現としては淡々としていますが、良く「探梅」の思いを出しています。「一日かな」にはそれを諾う思いも感じられます。
今月の佳句。〈真青なる湖北の空や梅二月 中村光汰朗〉。多分琵琶湖の景でしょう。のびやかな作品です。〈梅一輪絵馬に母校の名を読みぬ 佐藤博重〉。母校の名、が一篇の物語りを為しています。〈理科室のフラスコに挿す梅一輪 採風〉。原句二輪は、一輪としました。フラスコが良く活かされ、梅一輪、が新鮮です。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。