俳句庵

季題 9月「秋彼岸」

  • 広縁に雨のこゑ聴く秋彼岸
  • 東京都     佐藤 博重 様
  • 割腹の将の碑に供花秋彼岸
  • 千葉県     宇都宮 正 様
  • 散骨の船や出でゆく秋彼岸
  • 神奈川県     川島 欣也 様
  • おひがんねと臥す妻ぽつり秋彼岸
  • 神奈川県     髙梨 裕 様
選者詠
  • まれびとに村道ゆづる秋彼岸
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 秋分の日(今年は九月二十三日)を中日とし、その前後七日間を秋の彼岸と称します。春の彼岸は単に彼岸とするのが、俳句の慣わしです。「暑さ寒さも彼岸まで」は、自然の現象をよく言い留めている言葉と言えましょう。春の彼岸と同様に、先祖の墓に詣で、また法要を行うことは周知の通りです。今月も佳句が揃いました。「秋彼岸」に添う幾つかの作品の中から選びました。
 優秀賞の佐藤博重さんの句。この「広縁」は自宅の縁側でしょう。朝夕はもとより、日中の気温も日に見えて涼しくなりました。独り広縁の椅子に坐っていると、折柄の雨の、庇を打つ音が静けさを深めます。「秋彼岸」がよく活かされています。
 宇都宮さんの句。「割腹の将」がどういう立場の人か分かりませんが、その地方に残る史実の人と推測します。その墓に花を供える作者。その将への思いがよく出ています。有名な人の墓は眺めることだけが多い現在、作者の墓参はまさに親和に基づくものです。
 川島さんの句。最近は亡くなった人を送る葬式にも、幾つかの在り方が出て来ています。この「散骨」もその一つです。死者の遺骨を粉にして、この句の場合はそれを海中に撒布するという葬礼です。その船を岸辺で見送る人たちの姿が見えて来るようです。
 髙梨さんの句。昨年七月、「妻看取り縁に独りの遠花火」の句がありました。病床にある「妻」です。その妻が「おひがんね」と、独り言のように口にされる。病の床の妻の言葉は切ないものです。そういう場面が、作者の思いと共によく表現されています。
 今月の佳句。〈門柱に残る父の名秋彼岸 石川昇〉。〈故郷に帰る家なし秋彼岸 岩崎美範〉。〈仮の世に長居許され秋彼岸 貝田ひでを〉。〈いづこにも妻の影あり秋彼岸 岸野洋介〉。秋彼岸が多面的に詠まれています。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。