俳句庵

季題 11月「短日」

  • 臥す妻へ夕餉の支度暮早し
  • 愛媛県     渡邊 國夫 様
  • 短日や浜辺に残る赤い靴
  • 滋賀県     村田 紀子 様
  • 短日の返り詣でやいそいそと
  • 福岡県     西山 勝男 様
  • 短日や欠けたるままの認印
  • 千葉県     下総 真里 様
選者詠
  • 短日のうしろ暮れゆく机辺かな
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 今月の題の「短日」は、数多ある季語の中でも、四季の季節感を示す基本的な季語の一つです。春の日永、夏の短夜、秋の夜長、そして冬の短日。それぞれが移りゆく季節を良く表しています。ご承知の通り、一年中で最も昼の短いのは冬至です。今年の冬至は十二月二十二日。冬の季節は年末年始の諸々の行事を抱えています。「短日」の季題は、冬を象徴する奥深いものを蔵しています。
 優秀賞の渡邊國夫さんの句。上五の伏すは臥すとしました。病臥の妻に夕餉の支度をする作者。冬の日は既に暮れています。自分の思いは一切出していませんが、「暮早し」に作者の思いが深く感じられます。季語の扱いが良く活かされている句です。
 村田紀子さんの句。夕暮れ刻の浜辺の景。洋上遥か夕日は沈もうとしています。ふと見ると暮れゆく浜辺に子供用の赤い靴があります。遊びに来た女の子が、母に負さって帰る途中落したものでしょうか。短日、浜辺、赤い靴、言葉の取合せが善いですね。
 西山勝男さんの句。「返り詣で」は、願い事が叶ったお礼参りです。何事か神仏に願いをかけていたのが目出度く叶った作者。そのお礼参りの道々、いつしか悦びに包まれてくるのです。いそいそが効いています。尚中七の「も」は「や」としました。
 下総真里さんの句。普段使っている印鑑の縁が欠けることは良くあります。気にしつつも使っているのは、認印だからです。「欠けたるままの認印」、いい表現です。「短日や」とよく呼応しています。中七の「なる」は「の」としました。
 今月の佳句。〈短日や埴輪の馬のやさしき目 河野肇〉。〈短日の背より暮れゆく下校の子 津田明美〉。〈短日や体育館の電気点く 飯沼勇一〉。〈短日や隣家の廚はや灯り 成田あつ子〉。善く出来ている作品です。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。