俳句庵

季題 2月「立春」

  • 立春や階登る朱の袴
  • 神奈川県     守安 雄介 様
  • 保育器の欠伸小さく春立てリ
  • 神奈川県     佐藤 博一 様
  • 立春の夜明を告ぐる鳩時計
  • 東京都     岩崎 美範 様
  • 立春や父母亡き里の夕まぐれ
  • 兵庫県     岸野 孝彦 様
選者詠
  • 立春の夕映えのなかに歩み入る
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 春の歳時記を開くと、「寒明」に続いて「立春」が出て来ます。長い厳しい冬の季節を過ぎて訪れる「立春」です。この「立春」の季語は、見る人の心を明るくし、活力を与えてくれます。「立春」は二月四日頃、現実には寒さの底ですが、「立春」の句には皆さんの希望と明るさが宿っています。どの句もその思いがベースとなっています。ではじっくりと鑑賞して参りましょう。
 優秀賞の守安雄介さんの句。(赤袴は朱の袴としました)。一読風景が浮かびます。清新な景です。澄み切った神域、その石のきざはしを登る一人の巫女の姿。その朱の袴と上衣の白のコントラストが、如何にも「早春」の風景を醸し出している句です。
 佐藤博一さんの句。(小さしは小さく)。誕生間もなくのお子さん。出生が早く未熟児として保育器の中で育てられています。しかし体力も付き、欠伸をするまでになりました。この「欠伸小さく」が善いですね。句を見る人も安堵します。まさに立春の句です。
 岩崎美範さんの句。立春の頃の東京の日の出は六時四〇分頃です。まだうす暗い窓辺に、時を告げる鳩時計の音が、明るく際やかにひびきます。「夜明けを告ぐる鳩時計」が優れています。時計という機械に生命を吹き込んだ表現と言えましょう。
 岸野孝彦さんの句。誰にも故郷があります。そこには両親が居て、馴染の山河があります。しかし年を経ると「父母亡き里」となるのは誰しもが辿る人生の過程です。今、そういう思いに立つ作者。「立春」と「里」の取り合わせが懐かしく句を纏めています。
 今月の佳句。〈弾み来るナースの靴音春立ちぬ 紙田幻草〉。〈立春の心和ます言葉かな 林とみ代〉。〈立春や静かに暮るる西大寺 中村万年青〉。春立つ悦びの思いが、「弾み」、「和み」、「静かに」に出ています。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。