俳句庵

季題 4月「遅日」

  • 平成の残り日惜しむ遅日かな
  • 大阪府     津田 明美 様
  • テトラポッドに入り日色濃き遅日かな
  • 東京都     佐藤 博重 様
  • 己が影打つ耕人や夕永し
  • 三重県     後藤 允孝 様
  • 理科室に残る人影遅日かな
  • 埼玉県     小玉 拙郎 様
選者詠
  • 松多き葛飾みちの遅日かな
  • 安立 公彦

安立 公彦 先生 コメント

 四月の題は「遅日」です。遅き日、暮遅し、夕永し、などの傍題もあります。歳時記を開くと、〈遅き日のつもりて遠きむかしかな 蕪村〉という良く知られた例句も出ています。冬期の「短日」を過ぎた伸びやかな「遅日」は、草木鳥類を甦らせ私たちの気持を前向きにさせてくれます。皆さん方の作品にも、先人の句に捕われない、多様な「遅日」があり、選句にも励みがつきました。
 優秀賞の津田明美さんの句。去る四月一日昼前の、新元号発表の瞬間は、正に襟を正してテレビに注目しました。その日からの三旬は束の間に過ぎてゆきます。「残り日惜しむ」には、「平成」という暦日への、作者の懐古の思いが良く表現されています。
 佐藤博重さんの句。「テトラポッド」は、防波堤や堤防などの保護のため積み上げられている、四本足のコンクリートの保護材です。西向きの堤防。四本足のテトラポッドは、互いに重なり合い、入り日を色濃く見せています。難しい対象を良く表現しています。尚、テトラポッドは商標名です。
 後藤允孝さんの句。畑を耕している農夫。良く見ると畑に自分の影が写り、打ち下ろす鍬先がその影に掛かっています。こういう景は良く見ることですが、「己が影打つ耕人や」が、「夕永し」と巧みに釣り合っています。中七の「に」は「や」としました。
 小玉拙郎さんの句。中七の「まだ人の影」は、「残る人影」としました。この理科室は中学校でしょうか。授業の終わった教室に、三、四人ほどの生徒の姿が見えます。教材の実験をしているのでしょうか。「理科室」の据りが新鮮で、「遅日」を良く納めています。
 今月の佳句。〈遅き日の机上に父の丸眼鏡 垣内孝雄〉。〈サンバの音絶えざる街の遅日かな ブラジル 林とみ代〉。〈遅き日をしづかに回る観覧車 新美達夫〉。それぞれ対象を良く見て表現しています。

◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。