俳句庵

4月『遅日』全応募作品

(敬称略)

愛知県     岩田遊泉
ライオンの声聞こえ来る遅日かな
縁日の人の進まぬ遅日かな
起重機のゆるりと回る遅日かな
鉄骨を渡る職人暮れ遅し
嘶きの止まぬ馬房の遅日かな
島根県     GONZA
ハムスター昼寝続ける遅日かな
昼の蕎麦こなれて木曽路暮れ遅し
お迎えは我が子が最後夕長し
遅き日やシュート十本まだ打てる
餌食うて鯛の生簀も遅日かな
千葉県     唯我独善
おもむろに遅日の腹をさすりけり
仕事終えて街の遅日に紛れこむ
今日からは五時のセールを待つ遅日
はや五時となりぬる遅日の掛時計
余命など考へている遅日かな
愛媛県     砂山恵子
テーブルに遅日の夕陽あたりけり
川落とす文いつまでも追ふ遅日
ビル街に街路樹の影遅日かな
遅き日や二十回目のアンコール
石鎚のべにふじいろに染む遅日
兵庫県     岸下庄二
病室に遅日の夕日差し込みぬ
手を打って鯉に餌遣る遅日かな
子どもらの遊びに耽る遅日かな
工場の終業サイレン暮遅し
鐘の音の早聞こえ来る遅日かな
宮城県     石川初子
一畝をもう一畝の遅日かな
神奈川県     守安雄介
夕刊をもう読み終えし遅日かな
ロボットの指導厳しき遅日かな
図書館の新聞梯子遅日なり
ルー買えとメールの入る遅日かな
ロボットに仕事取られて遅日カフェ
栃木県     垣内孝雄
やうやくに遅日の山の暮れゆきぬ
遅日や床屋の廻るブラケット
かもめ飛ぶ港を歩く遅日かな
遅き日の机上の父の丸眼鏡
遅日かないつもの道をゆつくりと
大阪府     藤田康子
想ひにも影あるごとし遅日かな
野ざらしに住まふ仏の遅日かな
祝賀葉書の出欠迷ふ遅日
神奈川県     月のうさぎ
競馬からせんべろ向かう暮遅し
平日のひとり銭湯遅日かな
新潟県     近藤博
山の端に落暉のゆたり暮かぬる
挨拶は「日が伸びましたね」暮遅し
暮遅し散歩の歩数ちと伸ばし
夕支度厨音なく遅日かな
街の灯はすでに点れど暮遅し
岐阜県     金子加行
迷ひたる旅人歩く遅日かな
掘り出せし石器に光る遅日かな
子の巣立つあとの遅日を持て余す
遅日なる大工時間を無駄とせず
駅前のみなシャッターの遅日かな
東京都     笹木弘
陽を返す水の流れの遅日かな
点滴の ・ ・ ・ と遅日かな
子規庵の入口狭き遅日かな
錻力屋の硝子の歪む遅日かな
渦巻の芯に遅日の吸ひ込まる
長野県     木原登
同級会遅日の駅で別れけり
一人づつ一つベンチを占む遅日
翡翠原石渚にさがす遅日かな
日時計の影ありありと夕長し
暮れなづむ湖に亡き師の見ゆるなり
栃木県     鹿沼 湖
遅き日のゆつたりとする立ち話
鳩時計ぽろんぽろんと遅日かな
長々と牛の涎や暮遅し
東京都     岩崎美範
ままごとの果つることなき遅日かな
遅き日やまたも手にする庭箒
啄木の虜となりし遅日かな
来し方に思ひを馳する遅日かな
延長戦尽くることなき遅日かな
神奈川県     松岡悦朗
遅き日や明日の約束あれこれと
遅き日やゆるんだ光肩をもむ
商店街殺到うすめる遅日かな
昨日よりゆっくり歩く遅日かな
遅き日や汗拭かずして釘咥え
東京都     石川昇
老いの身の溶けゆく心地暮遅し
千葉県     伊藤博康
遅日なりやめて帰るか外遊び
遅日なり夕食準備慌し
ちらちらと時計見て居る遅日かな
宿題が増へた気がする遅日かな
五羽六羽鴉の帰る遅日かな
滋賀県     了庵
畑仕事終えて遅日を持て余す
遅き日や塒に帰る鳥の声
夕永し仕事帰りに人に会ふ
汀より沖の明るき遅日かな
ゆつくりと回る遅日の観覧車
奈良県     堀ノ内和夫
田の神の遅日の風を愛しむ
愛媛県     渡邊國夫
月一の産土詣で暮遅し
永き日の会話少なき老二人
縁日の打鼓の稽古や夕永し
五右衛門の見得切る門の遅日かな
自転車を漕ぐリハビリの日永かな
大阪府     津田明美
寺町に鐘の追い来る遅日かな
平成の残り日惜しむ遅日かな
振り返り友帰り行く遅日かな
靴蹴って明日を占う遅日の子
砂文字を浚う遅日の波がしら
東京都     石井真由美
ホーム越し手話で返す遅日かな
復興のランタン千個夕永し
との墓も花や供物の遅日かな
富士山の孤峰の遅日バンカーへ
手から手の移動販売花辛夷
兵庫県     髙見 正樹
粛々と遅日となりし窓景色
山口県     山縣敏夫
遅き日や庭に佇むタヌキ象
反り橋を渡る遊子に遅日光
遅き日にじゃれ合う犬と孫二人
遅き日に友と語らう夕餉時
遅き日の夕餉未だかと妻を呼ぶ
神奈川県     川島欣也
残り少ない余生遅日や増やす
学生の集ふ食堂遅日かな
吟行の遅日疲れ残しけり
旅疲れ抜けぬ遅日や露天風呂
掛け声の続くグランド遅日かな
茨城県     風峰
言の葉の二つ三つ落つ遅日かな
放課後の分針かたと遅日かな
猿山の子ら毛繕いする遅日
のつたりと波たたみくる遅日かな
背伸びして大あくびする猫遅日
神奈川県     佐藤博一
逆上がりやっと出来たる遅日かな
遅き日や古レコードに竹の針
銀座通り手ぶらで歩く遅日かな
ままごとの客をつとめる遅日かな
神保町一書を探す遅日かな
青森県     竹浪誠也
野に遊ぶ子等と遅日を分け合ひて
玄関の戸を開けてある遅日かな
語らひて遅日の人となりにけり
読みさしの太宰をひらく遅日かな
嵯峨野路の一日遅日の宿に着く
兵庫県     はなちる
二年坂軽き手を引く遅日なり
石畳杖の響いて遅日かな
ブロックのロボット潰し遅日なり
待ち合わせ裾ひるがえし遅日かな
君想い枝先香る遅日かな
愛媛県     加島一善
遅き日や西に窓在る写経部屋
影踏みて遊ぶ吾子らの夕永し
ひかり降る遅日の街へ会社出づ
見渡せばいづこも同じ遅日かな
もうひとつ畝を耕す遅日かな
宮城県     林田正光
暮遅し三々五々の集会所
物思ふ海を見ている遅日かな
喜寿間近友逝きし日の遅日光
遅日光浮かぶ無言の核災地
遅き日や進まぬ時間午後六時
東京都     内藤羊皐
遅き日の癌病む父の闘病誌
猿島を岸に眺むる遅日かな
乳呑子の胸に眠れる遅日かな
木登りの童更に木登る夕永し
回旋塔童競へる遅日かな
大阪府     杉本義雄
遅日差す老人ホームの夫婦部屋
狛犬の口の日溜まり遅日かな
峡の宿下駄音響き遅日差す
湯気煙る秘湯満喫遅日差す
遅き日や緩むボタンの付け直し
神奈川県     神田央子
チェンソーの音いつまでも遅日光
介護棟夕食終えてより遅日
宮城県     武田悟
遅日かなさりとて宙(そら)と海のゴミ
神奈川県     塚本治彦
駄菓子屋に屯する子の遅日かな
思ひ立つもう一仕事遅日かな
駅頭に探す遅日の喫煙所
遅日なほ回り続ける観覧車
駅頭の遅日立ち寄るスタンドバー
東京都     伊藤はな
杖の足日は大空に暮遅し
遅き日の猫の背伸びに声のあり
句作りや時計疑ふ遅日かな
花屋より色の飛び出す遅日光
漏れ日揺れ厨に当たる遅日光
東京都     伊藤之忠
裏木戸の柵を照らすや暮れ遅し
綴り穴通すこよりに遅日光
高齢の免許更新夕長し
鶏の土を蹴散らす遅日かな
遅き日や合格したる認知症
岐阜県     ときめき人
遅き日のグリーン上の伸びし影
滋賀県     船岡房公
光秀の一族の墓遅日かな
搭乗の機窓眩しき遅日空
バス釣りのボートの水尾や湖遅日
飛機雲の西へ伸びゆく遅日かな
子らの声まだ響きをる遅日かな
静岡県     池ヶ谷章吾
便りだけの友を弔ふ遅日かな
水面の浮きに語らふ夕永し
遅き日やレシピ通りに二、三品
煙突の具合確かむ遅日かな
逆立ちの中の景色や暮遅し
徳島県     白井百合子
眼鏡かけ糸通しする遅日かな
持て余す退職からの遅日かな
身に付いた手先仕事の遅日かな
旅の空やっと出掛けて遅日かな
釣竿や遅日の浜に夫ありて
ブラジル     西山ひろ子
まだ六時何度見上げし今日遅日
和語のみの遅日たっぷり喋りけり
妻遅日多忙な日日を遠くして
移民寺六時の鐘や暮れ遅し
神奈川県     井手浩堂
墨堤を行くひと増ゆる遅日かな
湖のさざ波白し遅日光
繋留の船に波寄せ暮遅し
三重県     平谷富之
散歩道 足を延ばして 遅日かな
広島県     永野昌人
放課後のあとの寄り道暮遅し
浜に出て遅日の波を見てをりぬ
手間暇のかかる夕飯暮れ遅し
日の射してまた降る雨の遅日かな
予定無き本も購う遅日かな
福岡県     紙田幻草
明日と云ふ未来に続く遅日かな
東に半月白き遅日かな
風呂使ふ時刻気になる遅日かな
神奈川県     矢神輝昭
遅日なり夕飯待てぬ大欠伸
寺の鐘遅日を惜しむ子ら急かせ
鼻唄や遅日の風呂に酒うまし
チゴ蟹の遅日惜しみてダンスかな
逡巡の遅日の中の大夕日
神奈川県     金剛
夕陽受け透ける耳たぶ暮遅し
遅き日の夕影のまだ眩しけり
暮遅し改札口の待ち合わせ
桟橋に足投げだして夕長し
路地裏のビー玉ひとつ遅日光
岡山県     きしの洋介
柵に足かけて山羊なく遅日かな
妻の墓人待ち顔の遅日かな
露天風呂遅日の中の長湯かな
入相の鐘は遅日に鳴りわたる
廃校に立つ金次郎遅日あび
愛知県     斉藤浩美
遅き日や鬼交代のおにごつこ
あと一品卓に増やして遅日かな
連結の車輌ごとりと遅日かな
立ち上がることなき撫で牛暮遅し
遅き日や盲導犬の大あくび
東京都     海月
みほとけの影のうつろふ遅日かな
遅き日の時計の音のまぎれけり
遅き日や通夜までの時持て余し
遅き日の洗濯物の白さかな
遅き日や夕餉支度の音軽し
静岡県     城内幸江
電線の鳥羽ばたかず遅日かな
自転車の影ついてくる遅日かな
手甲の油染みこむ遅日かな
石蹴って遅日の方へ向かいけり
東京都     紫蜆
打ち上がる 打球両手で 捕る遅日
遅日なり 夕日は未だ 目の高さ
終バスや 遅日薄暮に 乗り遅れ
東京都     紫鰆
鍵穴へ 楽に鍵差し 込む遅日
遅日池 鯉の尾鰭の 水飛沫
句碑の文字 はっきり読めし 寺遅日
東京都     紫筍
遅日なり 捻る句すべて 季重なり
花粉症 止まらぬくしゃみ 街遅日
遅日呑み 肩組み唄う 千鳥足
ブラジル     林とみ代
河遅日遊覧船の行き交ひて
サンバの音絶えざる街の遅日かな
大相撲の勝敗競ふ遅日かな
永き日の厨にケーキ焼きにけり
旅遅日ケーブルカーを乗り継ぎて
大阪府     木山滿
書を伏せて眼鏡も取りて遅日かな
ボケ防止マージャン習う遅日かな
独り居の部屋に灯も無く遅日かな
幼稚園居残りの子の遅日かな
池の鴨何をきょろきょろ遅日かな
埼玉県     櫻井俊治
「ごはんよ」と子等を呼ぶ声遅日かな
駄菓子屋の引戸開けおく遅日かな
奈良県     平松洋子
音高くミシン掛けする遅日かな
長々と犬にお愛想遅日かな
遅日来ておしゃべり弾む生徒達
埼玉県     いまいやすのり
川向うあまた人影遅日かな
歳時記を開いて繰つて読む遅日
やうやうに遅日の夕日消えをりぬ
暮遅し確と歩みぬ山下り
校庭に子らの動きのある遅日
東京都     勢田清
池の端一廻りしてなお遅日
街灯の点り遅日の暮れ初むる
香ほのか遅日の便り読み返す
坂道の街や遅日の丘に立つ
書を置きて遅日の窓に目を休む
山口県     ひろ子
グランドの野球少年日脚伸ぶ
万歩計日ごと記録の伸ぶ遅日
東京都     佐藤博重
船影の徐々に大きくなる遅日
暮れかねてただ海猫の鳴くばかり
貨物船沖遥けきをゆく遅日
テトラポットに入り日色濃き遅日かな
ひたぶるに耳かゆくなる遅日かな
三重県     後藤允孝
遅き日や隣の犬のよく吠えて
遅き日や錆びた門扉の軋む音
個室とは孤独で自由暮遅し
己が影打つ耕人に夕永し
由緒ある寺の秘仏の堂遅日
神奈川県     亀山酔田
目礼をされて遅日のすれ違い
他人事愚痴のごとくに聞く遅日
帰ってこい子取りが出るぞ春日遅々
ブラウスのじっわとぼやけ遅日かな
部屋の影薄く残りし遅日かな
東京都     豊宣光
思い立ち遅日の駅に途中下車
遅き日や水平線の暮れ残る
犬連れて遅日の刻を楽しまん
街の灯のゆっくりともる遅日かな
遊園地閉門のびる遅日かな
兵庫県     岸野孝彦
紅に白亜の城の遅日かな
昏れなずむ瀬戸に遍路の遅日かな
父母偲ぶ里に帳の遅日かな
遠き日の離別をなずむ遅日かな
杖と笠影長きたる遅日かな
埼玉県     水夢
制服のプリーツ揺るる遅日かな
日本橋雨匂ひだす遅日かな
ものの怪の目覚む遅日となりにけり
路地裏にカレーの匂ふ遅日かな
碁敵の一手を待ちて遅日なり
大阪府     椋本望生
サキソホン吹いて遅日をもてあます
ヘッドホン遅日の土手を折り返す
夕長し残る畝にも鍬を入れ
長き影鍬に落とせしこゑ遅日
夕長し遊ぶ子に告ぐ鐘の声
神奈川県     志保川有
スーパーの値引時間や暮遅し
暮遅しさらに一体捜すべし
夕永ししばし蕪村と語りたし
遅き日やレンズを磨く哲学者――スピノザ
遅き日や猫大悟せる大あくび
神奈川県     龍野ひろし
釣人を遅日の夕日染めにけり
遅き日の砂場に残る移植ごて
三重県     倉田 伊都子
遅日照り にわか庭師に なりにけり
いつまでも 余韻となりし 遅日光
神奈川県     猪狩 千次郎
灯ともしてかはらぬ門辺暮れかぬる
餌を欲る雀また来る遅日かな
さざ波の浪にのまれて暮遅き
暮遅や燈台今しともされて
遅き日や鉛筆なむる癖ぬけず
神奈川県     原川篤子
マチネ果てスペイン坂の遅日かな
暮れかぬるホテルの窓の灯のひとつ
ランドセル放り出されて暮遅し
下校児の声高にゆく遅日かな
庭園灯ともり遅日のうすみどり
千葉県     長谷川ぺぐ
暮れかぬる畳の猫の大あくび
浜風やひとり遅日のハーモニカ
見舞ひ後の坂を下りて暮遅し
足ひろげ街まで散歩遅日かな
東京都     中田ちこう
ランニングシューズを選ぶ夕長し
埼玉県     哲庵
縄のれん黄金に光る遅日かな
ジジジジとネオン鳴きたる遅日かな
つきそうでつかぬ街灯暮遅し
遅き日や進級会議あと一人
スーパーの値引き表示や暮遅し
愛知県     新美達夫
船底の牡蠣殻刮ぐ遅日かな
遅き日をしづかに回る観覧車
子の逃ぐる方に波来て暮遅し
神奈川県     皆空眞而
遅き日の河口の広さ鯔跳ねる
西を向く窓は古びて暮遅し
鯔の国艀行き交う遅日かな
遅き日の回廊清(すが)し修行僧
埼玉県     岸保宏
古墳見てその影長し遅日かな
秩父路の遅日の歩み村に入る
ケアハウス長き散歩の遅日かな
東京都     岩川容子
山頂に遅日の名城浮き上がる
銭湯の一番風呂の遅日かな
別れ際手をふる余裕遅日かな
花時計五時を差したる遅日かな
神奈川県     海野優
友久しつもる話にゆく遅日
独り言この頃多き遅日かな
長尻の客厭はれし遅日かな
待つことの長き医院の遅日かな
繰り返しつづく話の遅日かな
千葉県     山田香津子
暮遅し庭の手入れに余念なく
暮遅し時間の失せし立ち話
暮遅し掛け声続く草野球
千葉県     横井隆和
・河川敷に煌めくシャフトや遅日光
・遅き日や家路にスパの巡り癖
・ハミングに一品増えし遅日かな
・遅日光浮き立つ笑みや園児の渡る
三重県     西井治男
遅日夕ピカソ顔負けシネマ展
電線に列なる野鳥遅日かな
東京都     田中史子
弾みたるヨットの帆影遅日かな
東京都     かつこ
宝くじ当たって急ぐ遅日かな
お喋りに手抜きの食事遅日かな
買い物に寄り道するは遅日かな
東京都     遠山比々き
DVD止めて遅日のシャツ畳む
埼玉県     小玉拙郎
推敲を重ね遅日を使い切る
遅き日をもて余したり多肉類
理科室にまだ人の影遅日かな
湿球の水乾ききる遅日かな
千葉県     入部和夫
今日の日の過日の如き遅日かな
埼玉県     守田修治
客降ろし循環バスの遅日かな
もう一寺参らんとする遅日かな
歌舞伎座は「弁天小僧」の遅日かな
地下鉄を上がれば銀座の遅日かな
老二人杖つき帰る遅日かな
福岡県     紅さやか
選挙カー連呼のつづく遅日かな
東京都     安西信之
宅配の路地に迷える遅日かな
千葉県     四葩
筆談の仮名の大きな遅日かな
熱の子とその母を待つ遅日かな
埼玉県     彩楓(さいふう)
ゆったりと水は流れて暮れ遅し
桜島噴煙を上げ遅日かな
スケボーのジャンプ百回遅日かな
福岡県     多事
立ち飲みのいまいち酔へず暮遅し
暮れてなほ青味がかれる遅日かな
愛犬と潮騒だけの遅日かな
八百屋いま精気欠く小屋夕永し
鬼子母神やはり鬼なり遅日に立つ
神奈川県     後藤真子
暮遅く子のない夫婦ゆるゆると
遅き日の外人墓地の影深し
羊蹄の翠めきたる遅日かな
暮遅く人待ち顔のブランコや
遅き日のまどろむ祖母の風車
神奈川県     三枝侑子
遅き日やおかず一品増やし待つ
水槽に動くものなし遅日かな
鈍行の静かに進む遅日かな
千葉県     みやこまる
紙芝居は黄金バット暮遅し
将来を語り尽くせぬ遅日かな
チェロ背負ふ影やはらかき遅日かな
神奈川県     三好康子
娘(こ)の家に長居をしたる遅日かな
句会後お茶に繰り出す遅日かな
藍瓶の音に聞き入る遅日かな
遅き日や千代紙買ひに団子坂
声出して読むや遅日の「宇治十帖」
京都府     中村万年青
遅き日の鳥の声も澄にけり
足冷えて雹の降り来遅日かな
零度から十五度までの遅日かな
神奈川県     髙梨 裕
母待てば遅日ひとりの逆上り
遅き日の杖の歩みや盲導犬
遅き日の遊ぶシャンシャン楽しかり
砲丸を投げて日残る遅日かな
遅き日の姑帰ってくれないか
東京都     豊島 仁
妻も子も猫まで留守の遅日かな
招かざる客動かざる遅日かな
お見合いの結果まだ来ぬ遅日かな
世辞言わぬ猫とたわむる遅日かな
夕刊のもう届きたる遅日かな