俳句庵
季題 5月「更衣」

- 衣更へてひとりの居間に風を呼ぶ
- 神奈川県 髙梨 裕 様

- 衣更へて令和楽しむ余生かな
- ブラジル 林 とみ代 様
- 傘寿には傘寿の矜持更衣
- 三重県 後藤 允孝 様
- 更衣水仕も軽くなりしかな
- 東京都 岩川 容子 様
- 衣更へて夜は路地の灯の瑞みづし
- 安立 公彦
安立 公彦 先生 コメント
五月の題は「更衣」。季節の移り変りに応じて衣服を着替えることです。昔は陰暦四月の朔日を「更衣」とする風習がありましたが、現在は初夏の頃思い思いに衣服を替えることを更衣と呼んでいます。今は衣服も多様化しています。それでも、五月に入ると道行く人の服に、如何にも初夏という感じを受けます。皆さんの出句も多様でした。それぞれの「更衣」の世界を尋ねて参りましょう。
優秀賞の髙梨裕さんの句。家族の皆さんが出払い一人となった居間です。朝方衣服を着替えた作者。読んでいた本を伏せてふと庭を見ると、開けてある窓から涼風が吹いて来ます。「ひとりの居間」が効いています。「風招く」は、「風を呼ぶ」としました。
林とみ代さんの句。五月一日から元号は令和となりました。善い名ですね。夏服に替えた作者は、元号を何気なく口にし、改めて、自身の年齢を思い、余生という言葉を思うのでした。「余生楽しむ」は、万人に通じる思いです。作者の余生の幸を祈念します。
後藤允孝さんの句。この句は「更衣」に託して、傘寿となったわが身への思いを述べたものです。「傘寿には傘寿の矜持」、まさにその通りです。歳時記にこういう句があります。〈身ぎれいに老いゆく衣更へにけり 西島麦南〉。傘寿の矜持を保って下さい。
岩川容子さんの句。「水仕」は台所の仕事です。更衣をして、こざっぱりした感じの作者。この「水仕も軽くなりしかな」は、台所仕事の多い女性の思いを善く表現しています。原句下五の、「なりにけり」は、「なりしかな」の方が気持が通います。
今月の佳句。〈衣更へて歩幅大きくなりにけり 了庵〉。〈セーラー服の肘の白さよ更衣 太田紀子〉。〈髪切れば風も新し更衣 原川篤子〉。〈回廊をわたる僧侶や更衣 大野昭彦〉。それぞれ「的を射た」句です。
◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。