俳句庵
季題 7月「虹」

- 虹立つや明日退院の大窓に
- 神奈川県 井手 浩堂 様

- 虹消えてなほ幻影に佇めり
- 大阪府 津田 明美 様
- スカイツリー虹を束の間光背に
- 千葉県 峰崎 成規 様
- 虹を見て手を休めゐる測量士
- 埼玉県 守田 修治 様
- 敦忌や雲居はるかに朝の虹
- 安立 公彦
安立 公彦 先生 コメント
七月の題は「虹」です。『日本大歳時記』は、基本季語と一般季語に分けていますが、「虹」は基本季語に分類されています。「虹」は古今を問わず人びとに親しまれ愛されて来た自然現象です。句作の場合、七色の光のスペクトルは、見る人の思いにより、さまざまな表現を為します。朝の虹は雨の前兆、夕虹は晴れの前兆と言われているのも、表現に関わって来ます。「虹」の季語は、主観的にも、客観的にも表現されるのです。今回の皆さんの句にも、それが善く出ていました。
優秀賞の井手浩堂さんの句。客観的な表現の中に、自身の有り様を明瞭に示しています。「明日退院の」には、心の弾みが善く感じられ、更に、「大窓に」がそれを補足しています。この句の「虹立つや」は、夕虹と見られますから、晴れの前兆です。「明日退院の大窓に」が、虹をしっかりと支えています。
津田明美さんの句。この句の問題は「幻影」です。何の幻影か。一つは今まで架かっていた虹の幻影。しかしそれでは「佇めり」に思いの深さが感じられます。それを補足するのが「なほ」です。虹を見つつ胸中の思いを対象としていた「幻影」なのです。自ずと対象となる「人」の面影が感じられて来ます。
峰崎成規さんの句。「スカイツリー」は良く知られた浅草の塔です。634米の高さがあります。そのスカイツリーを擬人化、いや擬仏化した作品です。スカイツリーの彼方に起つ虹、その虹は「束の間」ではありますが、スカイツリーの「光背」を為している。壮大な天空の一瞬の景を善く詠んだ句です。
守田修治さんの句。測量士の計測しているのは広大な土地でしょうか。今までその測量に当たっていた測量士が、ふと前方の虹を見つけ、測量器のトランシットから、しばし手を放した。という景です。測量士の、傍目には些事とも見える場景も、当人にとっては、虹を見る絶好の機会だったのです。
今月の佳句。〈夕虹や真つ直ぐ帰る家がある 松野勉〉。〈幸せや旅の行く手に虹を見て 玉田千代美〉。〈ダム工事殉職者の碑や虹の中 太田紀子〉。〈天と地に架くる令和の虹の橋 豊島仁〉。善く見て作った句です。
◎ 優秀賞、入賞に選ばれた方には、山本海苔店より粗品を進呈いたします。