俳句庵

8月『鰯雲』全応募作品

(敬称略)

愛媛県     砂山恵子
また明日と言うて指さす鰯雲
退院の花渡されて鰯雲
弟と違ふふるさと鰯雲
鰯雲を突き抜け飛行機雲西へ
鰯雲九段構への脚立かな
東京都     五十嵐顕人
鰯雲羽田の海の先に安房
鰯雲羽田の先に安房の里
鰯雲羽田は空と海の街
新潟県     近藤博
鰯雲引き網支度す漁師村
天空に玉石のやう鰯雲
釣果なく嫉み見上ぐや鰯雲
空蒼くさざ波のやう鰯雲
空と海逆なるやうに鰯雲
岐阜県     金子加行
高層の住居に泳ぐ鰯雲
宿場町電柱のなき鰯雲
鰯雲吾れも一匹旅の空
終着駅吾れ独りなり鰯雲
母校なる古き木造鰯雲
愛知県     遊泉(ゆうせん)
誰彼も平和乱すな鰯雲
金山の二つに割れて鰯雲
間歩出でて視界一面鰯雲
逆転のゴール決まるや鰯雲
自ずから南無阿弥陀仏いわしぐも
宮城県     西條光観
鰯雲北へ向かうは失意あり
病窓に流るる鰯雲早し
幼子の股から覗く鰯雲
葬送の銅鑼の余韻や鰯雲
病窓に鰯雲湧く日を迎え
千葉県     柊二
耕運機夫婦を揺らす鰯雲
栃木県     垣内孝雄
鰯雲白河関に半里ほど
陵に至る大路や鰯雲
鰯雲自刃の少年眠る山
鰯雲京の町家の杉手桶
鰯雲石庭ながむ花頭窓
千葉県     いなだ君二年生
鳥山へ棚へ棚へと鰯雲
本籍へ時間駐車や鰯雲
これよりは馴れぬ自転車いわし雲
いわし雲散骨といふ選択肢
鰯雲一糸乱れぬ北の兵
神奈川県     松野勉
白墨のとめはねはらい鰯雲
家庭科のあの日のソテー鰯雲
千葉県     渡邉竹庵
鰯雲凭るる母校跡の椅子
畔道の果ては手賀沼鰯雲
鰯雲かつて干鰯場なる岬
千葉県     伊藤博康
いじめられ親には言へず鰯雲
鰯雲下界は急ぐ人ばかり
鰯雲隙間に足をとられけり
先急ぐことなど無くて鰯雲
鰯雲別れ話は先送り
大阪府     藤田康子
帰り道途切れてしまひ鰯雲
まだ登る坂のありけり鰯雲
赤電話かけつつ泣きし鰯雲
東京都     岩崎美範
払暁の産声ふたつ鰯雲
行商の女が見上ぐ鰯雲
ふるさとへ線路は続く鰯雲
野生馬の嘶き清し鰯雲
雨来るぞと呟く古老鰯雲
東京都     長岡馨子
父拵えし竹とんぼ高く鰯雲
鰯雲眠る親子は相似形
「信濃路にて」松枯れの山々増えて鰯雲
鰯雲眠る親子も相似形
岡山県     渡辺 牛二
独房の窓の小さし鰯雲
鰯雲地球まはると知りし日の
長野県     木原登
喜寿過ぎの五十肩なり鰯雲
一舟を湖心に全天いわし雲
鰯雲故友減りゆくばかりなり
アルプスゆ日本海へと鰯雲
はるかまで馬柵つづきをり鰯雲
愛知県     西村愛美
夕食の献立迷う鰯雲
断捨離の終わりが見えず鰯雲
無人駅の夕暮れ時や鰯雲
子育ての後悔ばかり鰯雲
父母も祖父母も兄も鰯雲
埼玉県     飯塚璋
鰯雲沖の釣船帆を降ろし
鰯雲猫の屯す船溜り
鰯雲弛む纜魚見えて
千葉県     玉井令子
口笛の吸い込まれしや鰯雲
勇ましや落下傘隊いわし雲
口笛の吸い込まれゆく鰯雲
広がりし落下傘群いわし雲
パラシュート降下始まる鰯雲
兵庫県     岸下庄二
鰯雲飛行機雲が貫きぬ
大群でどっと押し寄す鰯雲
離陸機を群れに取り込む鰯雲
大漁の前触れといふ鰯雲
寝転んで鰯雲観る日曜日
東京都     内藤羊皐
工厰の昨日の空を鰯雲
赤錆し梯子の涯の鰯雲
鰯雲勧進帳の芝居跳ね
梵唄の鼓猛きや鰯雲
鰯雲眼見開く毘沙門天
千葉県     円
買い物についてお出でよ鰯雲
水溜まり犬がなめてる鰯雲
鰯雲来年は古希時止めて
姉様は八十路越えたよ鰯雲
梯子かけ手でつかみたい鰯雲
静岡県     杉村有紀
鰯雲山の向かうに太平洋
あそこにも見上ぐる人や鰯雲
ちりりんと自転車のベル鰯雲
静岡県     城内幸江
老犬のペースで歩く鰯雲
鰯雲迷路へ向かふ鳥一羽
鉄塔に絡まりさうな鰯雲
偶然と必然となる鰯雲
父とする短き会話鰯雲
三重県     平谷富之
パレードの前後にありし鰯雲
仙人もたまには食べたい鰯雲
大阪府     木山満
鰯雲着飾りて墓参らせり
鰯雲空に錦の夢拡ぐ
鰯雲まだまだ刻む鱗あり
鰯雲流れの先は亡母(はは)の事
鰯雲「ばぁばぁ」と呼ばれ全て○(まる)
青森県     竹浪誠也
君逝くやあまりに高き鰯雲
いわし雲生真面目に生き無位無冠
山抜けるごとふるさとの鰯雲
登り来てなほ高きまま鰯雲
いわし雲遠回りして帰らばや
山口県     ひろ子
鰯雲映える川面や渡し舟
飛行機の騒音激し鰯雲
奈良県     堀ノ内和夫
サーブすれば少し眩しき鰯雲
大の字になり数へたり鰯雲
神奈川県     塚本治彦
鰯雲鰯三匹零れけり
峡の空収まり切れぬ鰯雲
献血の間も広ごりぬ鰯雲
クレーンの魚釣りのごと鰯雲
鰯雲広がり切つて崩れけり
京都府     村田稔子
肩車 のばす手の先 鰯雲
小走りに 父追う幼な子 鰯雲
いわし雲 渡欧娘の 帰り待つ
鰯雲 あぜ道を行く 母と娘と
愛知県     斉藤浩美
大漁は天空にあり鰯雲
鰯雲商談ひとつまとめけり
エルニーニョ去りようやくの鰯雲
鰯雲山城へどっとなだれ込む
天空の大風呂敷や鰯雲
神奈川県     佐藤博一
アイデアの浮かびサウナる鰯雲
青空をキャンバスとして鰯雲
画用紙に収まりきれぬ鰯雲
鰯雲そらに言葉を置くやうに
鰯雲旅の誘ひの来る頃か
北海道     加藤廣子
声出さばビブラートかな鰯雲
鰯雲言い訳ありそうに消えました
鰯雲道連れにして帰路急ぐ
内緒事今も下手くそ鰯雲
 鰯雲伸びて縮んで自己主張
千葉県     長谷川ぺぐ
終戦のあの日の空や鰯雲
感謝するこの命かな鰯雲
読書する野のうたた寝や鰯雲
寝そべつて無心となりぬ鰯雲
しみじみと見る鰯雲生かされて
愛知県     寿春
鰯雲水族館と子が叫ぶ
鰯雲思わずよだれ垂れ落ちる
群れをなしどこに行くのか鰯雲
鰯雲今日のおかずは魚かな
鰯雲光当たりてこがね色
神奈川県     金剛正史
鰯雲多摩の横山抱きをり
鰯雲浮かべる朝の手水鉢
鐘の鳴る丘のチャペルや鰯雲
思い出す亡き妻のこと鰯雲
廃線のうねる鉄路や鰯雲
島根県     GONZA
なんでもないセンターフライ鰯雲
鯱鉾に繋がれている鰯雲
一片の鰯雲浮く中国茶
尾は渤海頭は隠岐に鰯雲
右向きと私は思う鰯雲
東京都     勢田清
鰯雲海の上まで果てし無く
鰯雲日輪の傍虹色に
空すべて夕やけ色に鰯雲
音もなく流れておりぬ鰯雲
人生は夢のごとくや鰯雲
神奈川県     野川喜一郎
森抜けて尾根に立ちたり鰯雲
疎開の里尋ね人居ず鰯雲
膨らんで行き交うケーブル鰯雲
五連梯子萱葺く連やいわし雲
鰯雲奥穂をそっと包みおり
岐阜県     ときめき人
登校す空の学校鰯雲
徳島県     白井百合子
団子虫転がされたり鰯雲
団子虫転がるさきの鰯雲
大漁の予感や今日の鰯雲
独り言誰か聞いてよ鰯雲
大漁を今日も喜ぶ鰯雲
大阪府     津田明美
風待ちの岬に描くいわし雲
鰯雲青春切符握りしめ
振り向けば古刹の甍いわし雲
東経は日本全国鰯雲
鰯雲ちょっとお茶でもしませんか
神奈川県     立野音思子
伴連れは鰯雲なり峠越え
寝転んで土手で見上げる鰯雲
鰯雲追いて戻りし大漁旗
夕暮れに花咲くごとし鰯雲
父の影消えては浮かぶ鰯雲
栃木県     鹿沼 湖
分校のジャングルジムや鰯雲
鰯雲形見となりし硯箱
鰯雲隠しの奥の薄荷飴
鰯雲母と唄ひし七つの子
鰯雲こどものやうな妻と浜
福岡県     紙田幻草
鰯雲地球に水のある限り
鰯雲汚れを知らぬ白はなりし
何事も知らぬ存ぜぬ鱗雲
兵庫県     髙見 正樹
開ける窓しばし見惚れる鰯雲
ブラジル     西山ひろ子
鰯雲神の作りしアートかな
あまのじやくいわし雲にも有るらしき
鰯雲西の彼方へ流れそむ
いわし雲遊子の如く流れ行く
いわし雲ただなんと無く哀しくて
千葉県     峰崎成規
鰯雲仰ぐ目いつも少年に
天網はやはり疎にして鰯雲
瞑るまで夢は果て無し鰯雲
さすらひは片恋のまま鰯雲
鰯雲旅に出でずも旅心
千葉県     伊藤順女
野の道の小さき窪みや鰯雲
藍染のワンピース欲し鰯雲
愛媛県     渡邊國夫
鰯雲明日は町内清掃日
テロップの地震情報鰯雲
晩酌の準備万端鰯雲
取組は小兵と巨漢鰯雲
牛の声遠くにありて鰯雲
神奈川県     龍野ひろし
旅立ちへ機首を上ぐるや鰯雲
足場組む鳶の掛け声鰯雲
鰯雲小銭を握り駄菓子屋へ
いつの日かこの鰯雲見たやうな
山口県     山縣敏夫
そんなこと気にかけるなと鰯雲
愛犬に家路を急かす鰯雲
木造の校舎の上に鰯雲
下校急く子等の背中に鰯雲
振り向けば棚田の嶺に鰯雲
神奈川県     矢神輝昭
鰯雲吾大海に孤舟かな
鳰の海舳先の先の鰯雲 
玉入れの玉に紛らふ鰯雲
沢登り足に絡まる鰯雲
涸沢にテント千張り鰯雲
奈良県     平松 洋子
マンホールの中にここよと鰯雲
ノンちゃんを乗せてやりたい鰯雲
草原を斑らに囲む鰯雲
東京都     石井真由美
千畳の万畳の画布鰯雲
大漁は東京湾の鰯雲
東京都     かつこ
夕暮れの路地に広がる鰯雲
真心と笑いの介護鰯雲
病院の帰りの風に鰯雲  
茨城県     風峰
七段目飛び越す勇気鰯雲
校庭に全校生徒鰯雲
焦げてゆくうろこの色や鰯雲
鰯雲メタセコイアの網の上
サヨナラの真白き打球鰯雲
三重県     後藤允孝
屋台での子供歌舞伎や鰯雲
鰯雲撫でれば老いの深き皺
対岸を繋ぐつり橋鰯雲
逆上がりやつと出来たよ鰯雲
古希はまだ鼻たれ小僧鱗雲
東京都     隣安
いわし雲過去と未来を繋ぐごと
箱根から白河迄を鰯雲
幼年の記憶と同じ鰯雲
東北に吾が姓多し鰯雲
こころざし無きまま老いて鰯雲
岡山県     名木田純子
森を抜け標高千の鰯雲
一湾を残して鰯雲流る
いわし雲水平線を出発す
東京都     中田ちこう
いわし雲子ら駆け上がるくじら山
反照の浦舟泊す鰯雲
埼玉県     いまいやすのり
いわし雲白熱戦の草野球
一駅を二人で歩く鰯雲
ベランダの竿の先より鰯雲
鰯雲逆上がり出来拍手かな
少女らのキャチボールや鰯雲
福岡県     西山勝男
札所打ち終えて車窓へ鰯雲
バンコより寝転び見たる鰯雲
職を辞すその日のごとき鰯雲
南冥を墓場となすやいわし雲
漢江にふくれんばかりいわし雲
東京都     伊藤はな
母を負ふ夫の背や鰯雲
オカリナの音は伸びゆく鰯雲
一万歩目指す一日の鰯雲
銀色の旅行鞄や鰯雲
母送る心の隙間鰯雲
東京都     伊藤之忠
献血の後の牛乳鰯雲
鰯雲在来線の昼間酒
故郷の海の青さや鰯雲
後悔に心は揺らぐ鰯雲
神奈川県     井手浩堂
沖までも夕日のいろを鰯雲
桟橋に仰ぐ客船いわし雲
落つる日の明るさとどめ鰯雲
銭湯の煙突のこる鰯雲
兵庫県     はなちる
電話から浮き立つ声や鰯雲
伸ばす手の掴み損ねて鰯雲
ビル街のランチメニューや鰯雲
群れをなし稜線豊か鰯雲
帰り道ひも靴軽く鰯雲
大阪府     室谷早霞
ポケットに鰯雲一つつかみ入れ
鰯雲自分探しの旅にをる
鰯雲後ろの正面だあーーれ
寮食の今夜はトンカツ鰯雲
鰯雲組体操はしんがりに
東京都     佐藤博重
鰯雲積みし墓石の塔なせり
鰯雲積みし墓石のピラミッド
愛知県     新美達夫
あの彼が会社の柱鰯雲
今更に恋と気づきぬ鰯雲
老人とて気遣ひ無用鰯雲
気持ちだけ頂戴します鰯雲
東京都     遠藤弘子
ビルいくつ四角つみ上げ鱗雲
旅人とベンチに語るうろこ雲
千葉県     横井隆和
忍び寄る無音の軍靴か鰯雲
丸む背の母へ掛けたや羊雲
富士筑波渡る茜や鱗雲
もふもふと父の背中や羊雲
神奈川県     亀山酔田
立体に色づく樹木鰯雲
三越の正面ガラス鰯雲
岩の間に捨て雑魚日反り鰯雲
鰯雲あっけらかんと淋しいの
あんぱんは小振りが良いと鰯雲
岡山県     岸野洋介
山彦が谺する峰鰯雲
孫らみな道草ばかり鰯雲
放牧の牛の眼写す鰯雲
豪雨禍の家の修理や鰯雲
天空の城の真上に鰯雲
三重県     倉田 伊都子
遠浅の 沖より見ゆる 鰯雲
夕暮や 鱗は黄金 鰯雲
東京都     右田俊郎
鰯雲棒高跳びのバー上がる
黙々と槍投げる者鰯雲
遊牧の民の集落鰯雲
大の字に寝ころんで見る鰯雲
水郷の手漕ぎの舟や鰯雲
神奈川県     志保川有
なにがしか変化の予感鰯雲
鰯雲ゲバラ三十九年の生
死亡欄よき人の名や鰯雲
マンザナの熱き砂地や鰯雲
少年の褌のふくらみ鰯雲
千葉県     四葩
鰯雲這ひ這ひ上手といふ便り
学校へ曲がる坂道鰯雲
高齢に前期と後期鰯雲
ブラジル     林とみ代
鳴き砂に足を取られて鰯雲
高原のロープウエイや鰯雲
クルーズを楽しむ余生鰯雲
望郷の紀伊の海辺や鰯雲
女神像の砂芸術や鰯雲
埼玉県     小玉拙郎
火口湖にまるく流れる鰯雲
釣り堀に倦んで背伸びや鰯雲
山系の上で乱れる鰯雲
夜を待つ天文部の空鰯雲
神奈川県     原川篤子
クレーン伸び釣竿めけり鰯雲
紙飛行機目指す彼方の鰯雲
鉄棒の空さかしまや鰯雲
校庭の白き躍動鰯雲
鰯雲今飛び立たんグライダー
愛媛県     加島一善
ひろがつてひろがつてあの鰯雲
鰯雲千切れるひとつまたひとつ
鰯雲少し遅れて二つ三つ
東京へ送る青空鰯雲
北斎の赤富士包む鰯雲
宮城県     林田正光
陽の落ちて海に飛び込む鰯雲
鰯雲海なし県の空泳ぐ
離別して見上げる空の鰯雲
東京都     岩川 容子
いわし雲波音届く旅の宿
泣くだけの力まだあり鰯雲
鰯雲都電ゆっくり遠ざかる
母逝きて生家は遠し鰯雲
のら猫の遠くを見る目鰯雲
千葉県     みやこまる
思ひ出をぽつぽつ語る鰯雲
嫁ぐ子の父の代理や鰯雲
いわし雲まず末っ子の嫁ぎたる
釣り堀の父子ひねもすいわし雲
鰯雲おもむろに出す将棋盤
千葉県     入部和夫
鱗雲はるかかなたに宇宙基地
突然の嬉しき知らせ鰯雲
生きていることの幸せ鰯雲
クラス対抗リレーの日鰯雲
鱗雲記憶のなかの少年期
広島県     永野昌人
いわし雲わが産土は日本海
列島に背骨あるかに鰯雲
海よりも空は深くていわし雲
故郷はあの尾の向う鰯雲
埼玉県     哲庵
肩車して数へたり鱗雲
兵馬俑見上ぐる空に鰯雲
ふるさとへ流れ行くなり鰯雲
職失いし日や全天鰯雲
ことごとく逆鱗なりしうろこ雲
東京都     入梅紫
鰯雲 願いましては ご明算
トンネルを 抜けても未だ 鰯雲
蜘蛛の巣の 投網にかかる 鰯雲
東京都     潤目紫
鰯雲 子等はタモ網 持ち出して
鰯雲 スカイツリーの 真上まで
鰯雲 魚嫌いの 子も仰ぐ
東京都     大羽紫
夕日浴び 食べ頃なりし 鰯雲
上・下ル 東・西入ル 鰯雲
鰯雲 方程式の 途中式
兵庫県     岸野孝彦
潮騒や流るるばかり鰯雲
鰯雲仰いで友の墓探す
鰯雲同行二人沈下橋
鰯雲茜に染まる里の夢
鰯雲風林火山西上す
大阪府     太田紀子
鰯雲琵琶湖一周バスの旅
鰯雲墓地におはせる大師像
余命告ぐ医師はさらりと鰯雲
東京都     田中史子
鰯雲白に影あることを知る
福岡県     多事
三度目の呼び出しの路鰯雲
鰯雲摺り出て白し鬼の洗濯板
この街のどこかに鳩舎鰯雲
野辺めぐる六灯籠や鰯雲
右横のネクタイ無口鰯雲
神奈川県     重兵衛
鰯雲ふるさと列車延着す
鈍色の霞ヶ浦や鰯雲
渋滞はどこまで続く鰯雲
神奈川県     三好康子
山懐のぴんころ寺やいわし雲
瀬戸の海はみ出してゆく鰯雲
鰯雲谷中寺町猫天下
断ちがたき遊行の念や鰯雲
板塀に猫の入り口鰯雲
神奈川県     髙梨 裕
父の畑鰯雲ゆく野辺送り
ビルの屋根ふるさとの山鰯雲
クレーン立つ仮設道路や鰯雲
鰯雲娘はシングルの母となり
鰯雲高きに鉄塔光る山
京都府     中村 万年青
中空を鱗で覆ふ鰯雲
天空に大魚一匹鰯雲
上空に秋の気配や羊雲
東京都     飯田 哲司
空見つめ数へきれない鰯雲
鰯雲町並みこへてどこまでも
行儀よくせりはまだかと鰯雲
これぞアート空をはみ出す鰯雲
東京都     豊島 仁
望郷や無念の酒と鰯雲
いざさらば杜の都の鰯雲
五重塔烏とまりて鰯雲
マーラーの余韻残して鰯雲
鰯雲望郷煽るコップ酒